ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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意外な救世主

夕方6時。

学校から一斉メールが届いた。

学校からメールが来るのは船上試験以来だったため、まさか特別試験か?と思ったが、そんなことはなく、水道局のトラブルで寮全体の水がでなくなってしまっているとのこと。

 

遅ければ明日の朝まで工事がかかるらしいが……寮だけピンポイントに水が使えなくなるって水道局は何をやらかしたんだ?

 

そういうわけで断水状態ではあったものの、特に問題なく過ごせていたのだが……。

 

夜9時を回ったあたり、手に水筒がはまって取れなくなった堀北を救ってきた。

色々あったが、水を佐倉から分けてもらって、水筒に洗剤を流し込むことで事なきを得た。

 

にしても水筒が腕から抜けなくなるなんてあり得るのか?

 

試しにオレも水筒を取り出し左手を入れてみる。

すると思った以上にギリギリのサイズで、しっかりと腕が固定される。

 

「堀北よ、サイコガンは心で撃つもんなんだぜ、なんてな」

 

だとすると、オレは撃てないかもしれないな。

と、自分自身を皮肉っていたら、一瞬でバカバカしくなり腕から水筒を外すことにした、が……。

 

「ぬ、抜けない!?」

 

これはマズいことになった。

 

このまま水が出るようになるのを待つか?

その時、再び学校からメールが来る。

残された右手を使い確認すると

 

『水道復旧の目安:明日午前9時頃を予定』

 

不便と迷惑をかけることへの謝罪と共に記載されていた絶望的な情報。

 

オレは水筒と一晩を共にしなくてはならないのか。

こういう時に限って手がかゆくなって掻きたくなるのが不思議だ。

それに、このまま放置すると睡眠時に下手をすれば腕を痛めるか、家具がへこむなんてこともあるかもしれない。

 

ダメだ、なんとかして外さなくては。

 

堀北の様に誰かを頼るしかないが……。

さすがに堀北には頼れない。人の事を言えない状況になってしまったのを知られたくはないし、馬鹿にされるのが目に見えている。

 

だが、オレは堀北とは違い、ここ最近交友関係は広がっている。

きっと誰か頼りになる人がいるはずだ。

 

 

【ケース1 堀北兄の場合】

 

「フッ、綾小路、お前もこんな鈴音みたいに馬鹿なことをするんだな。ちょっと待っていろ、最近瓦割りの要領でステンレスも破壊できないか挑戦しててな。ちょうどよかった」

 

ダメだ。堀北兄に依頼した場合、水筒ごと腕を持っていかれる可能性がある。

 

 

【ケース2 橘の場合】

 

「た、大変です。大丈夫ですか、今助けますね!!」

 

お、良い感じだ。橘に助けてもらうか……。

 

「ふぅ、無事に取れました。……ということはここからは何を言っても大丈夫ですね」

 

ん?

 

「いやー、誤って水筒を手につけちゃうなんて……取る工事作業大変でしたよ、もう私に足を向けて寝れませんね、誤の工事(あやのこうじ)くん」

 

……橘が卒業するまでいじられそうだな、やめておこう。

 

【ケース3 南雲の場合】

 

「おいおい、綾小路、その間抜けな姿は何だ。写真撮って帆波に送るからなんかポーズ決めろよ」

 

……却下。

 

【ケース4 桐山の場合】

 

「水筒が手についていても利き腕が無事なんだ。それより生徒会の仕事をしてもらう」

 

…却下。

 

 

【ケース5 一之瀬の場合】

 

「あ、綾小路くん!?ど、どうしよう、救急車、そうだ、救急車呼ばなくちゃ!え、恥ずかしい?わかった、なら私も水筒をはめるから一緒に搬送されよう!」

 

却下。

 

 

生徒会が全滅した。

2年生に至っては助けることすらしなさそうだ。

なら友人関係で考えよう。

 

【ケース6 ひよりの場合】

 

「あら、綾小路くん、最近は水筒を手に付けるのにはまっていらっしゃるんですか?フフ、でしたら私もしてみますね。これで一緒です。あ、悪くないですね、このフィット感……でも弱りました。この手では読書ができません」

 

犠牲者が増えるだけだな。

 

【ケース7 田の場合】

 

「よし、これで取れたね!大事に至らなくてよかったよ。……んで、水筒取ってあげたんだから、堀北退学にしてくれるんでしょうね?え、しない?なら、右手にも水筒入れてあげようか?」

 

堀北の価値は水筒以下か……。

 

【ケース8 佐倉の場合】

 

「お水ならまだあるから遠慮なく持って行ってね……って、その手どうしたの、綾小路くん、あわわわ、大事故だ、どうしよう、どうしよう、きゅぅぅぅぅ~」

 

気絶した佐倉をオレが助けに回ることになるな。この手では苦労しそうだ。

 

 

なぜか誰に頼っても明るい未来が見えてこない。

交友の広さは関係なかったか。

堀北、お前にはオレがいて良かったな……。

 

無駄な想像をしてしまったが

こういう時に一番頼れるのは平田だ。

 

堀北を助ける時に連絡したが気づいてもらえなかったため、部屋で寝ていたか、外出していたか、そんなところだろう。

 

すでに夜の10時だ。

もう在宅している時間だろう。迷惑をかけることになるが、直接部屋を訪ねて助けてもらうことにしよう。

 

周囲を警戒しながら、平田の部屋の前までやってきてチャイムを鳴らす。

が、いつまで経っても部屋から出てくる気配がない。

というより、人のいる気配がないのだが……。

 

あまり長時間部屋の前にいるとこの間抜けな姿をさらし続けることとなる。

誰かが通ったら一発アウトだ。一度部屋に戻るか。

 

と思った時、ふっと廊下の奥の死角部分から人影が見えた。

 

誰かが近づいてくる。

ここは左手を見られる前に撤退だ。

 

「ちょっと待ちなさいよ!平田くんちの前で何してんの?」

 

声の主は……軽井沢だった。

 

思わぬ人物の登場に一瞬足を止めてしまう。

 

「ん?綾小路くんじゃん……って、その手、大丈夫?」

 

終わった。Dクラスの女子カースト上位に位置する軽井沢。

写真を撮られて女子グループのチャットに流されて笑いものにされる。

そんな未来が見えた。

 

「ちょっと来なさいよ」

 

軽井沢に手を引かれ、連行される。

写真ではなく、みんなの前に連れていき直接晒し者にするのだろうか。

それは避けなくてはならない。ひとまず逃げよう。

 

「いや、その……」

 

「困ってるんでしょ、助けてあげるって言ってんの」

 

助けるとは言ってなかったと思うが……。

とにかく晒し者にするつもりはないようで安心した。

このままじゃ解決しない上、この姿を見られた以上、大人しく従うことにする。

 

「ちょっと待ってて」

 

軽井沢の部屋の前に来ると、先に中に入り、なにやらごそごそと音を立てている。

 

「お待たせ、入っていいわよ」

 

「……お邪魔します」

 

部屋の中は意外にもキレイにしてあり、物も少ない。

もっとショッキングピンクとかで彩られたギャルギャルしい部屋なのかと思っていたのだが……。さっき入った堀北の部屋よりもシンプルかもしれない。

 

「準備があるから、テキトーに座ってて。水筒がはまっちゃうと慣れないうちはなかなか取れないのよね」

 

そう言うと軽井沢はキッチンに移動しペットボトルから水を鍋に出す。

どうやら温めている様子。

 

「うん、こんなもんね。ちょっと一緒にお風呂場まで来てもらえる?」

 

そういって風呂場に移動し、人肌ぐらいに温めたお湯にボディソープをいれて泡立てる。

そうしてできた泡をオレの左手の水筒に上手く注いでいく。

その後、水筒を両手でしっかりと持つ。

 

「中で上手くなじませたあと、手首を回しながら引いてみて」

 

「わかった」

 

言われた通りにしてみると、驚くぐらい簡単に水筒が手から抜けた。

堀北の時は、水を入手した後も、洗剤をつけてあれやこれやと時間がかかったのだが……。

 

「ありがとう、助かった」

 

「別にいいわよ、このぐらい。気にしないで」

 

なんだろう、この大人しく優しい軽井沢は。

普段とのギャップに驚かされる。こっちが素なのだろうか。

 

「随分手馴れてるんだな」

 

「平田くんから聞いてるでしょ、私の過去の話」

 

「ああ」

 

軽井沢は小学校から中学の9年間ずっといじめにあっていたと平田は言っていた。

 

「あの頃は……水筒を手にはめられるなんて日常茶飯事だったからさ。何が楽しかったんだか。まぁそれもまだマシな方だったけどね」

 

「……」

 

「あの時は誰も助けてくれなかったから。自分で何とかしてるうちに外すのが上手くなっちゃった……。まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけど」

 

「その……嫌なこと思い出させちゃったな、すまない」

 

「別に同情してもらいたいわけじゃないし。ただ、さっきのあんたの姿見たら、助けなきゃって思っただけよ。……アンタのためじゃない、自分のためにやったこと」

 

「軽井沢は強いんだな」

 

「そんなわけないじゃん、この高校生活だって、結局イジメられない様に精一杯やってるだけ。それだけなんだから……」

 

傲慢なギャルの姿は仮初で、本当の軽井沢はいつも怯えている。

学校生活を楽しむ余裕がないから、部屋も質素なのか。

 

「あーあ。高校生活ってもっと楽しいものになると思ってたのにうまく行かないんだから。いや、平田くんのおかげでうまく行ってるはずなのに全然楽しくないっていうか、なんでだろうね」

 

入学当初、高校生活――外の世界の生活に期待をしてやってきた自分の姿と重ねる。

 

「たくさんの友達と青春っぽいことして、イケメンと恋愛とかもしちゃって、勉強は面倒臭いけどたまには頑張ったりして……」

 

現実との違いに虚しくなったのか、声が尻すぼみになっていく。

 

「結局私は偽りだらけ。あの頃と本質は変わっていないのかもね。ま、イジメられてないだけで、それだけで十分なんだけどさ……。てか、なんでアンタにこんな事話してるんだろ」

 

「もっと打ち明けられる相手を増やしてもいいんじゃないか」

 

オレは少し踏み込んでみることにした。

 

「馬鹿じゃないの。そんなことしたら、私の今までの努力がパーになるかもじゃん!アンタだって成り行きで知っちゃってるから仕方なく割り切ってるけど、本当は平田くん以外には秘密にしておきたかったんだから」

 

「でも、本当は今のままじゃ嫌だって思ってるんだろ?」

 

「そんなの当り前でしょ!でもね……でも、でも、でも、でもッ!そんな簡単に昔の傷は癒えないし、ついた傷も一生消えないの!私は自分の身を守るためなら、他には何もいらない。平田くんもアンタも、この学校も全部、全部利用してやる!それでいいの!」

 

「軽井沢。オレはこの学校に来て、思ったよりも楽しくやれている。自分でも信じられないぐらい充実してる。でも、それはオレ一人じゃ無理だったってことが最近わかってきた」

 

「……だから?」

 

「オレは、たまたま楽しさを教えてくれる人たちに出会えたんだと思う。オレとお前の違いはそこだけだ。だから軽井沢にもそんな相手が必要なんじゃないか?」

 

「それができないって言ってるんじゃん」

 

「だから、最初の1人としてオレが手を貸してもいい」

 

「え?」

 

「もうお前の事情はわかってるしな、助けてもらった恩もある。いざとなれば、生徒会権力で助けてやることもできる」

 

「……」

 

「だから、もっと楽しんでみたらいいんじゃないか。この学校も捨てたもんじゃないぞ」

 

「……ホントにいいの?」

 

「楽しむ権利は誰にでもあるからな」

 

「わかった、アンタを信じることにする」

 

軽井沢は少しだけ表情が明るくなったように見えた。

今後、Dクラス女子のまとめ役としての力を利用するため、そんな打算的な考えももちろんある。

だが、軽井沢の話を聞いて、ふと生徒会に入っていなかった自分を想像した。

恐らく、今の様に純粋に学生生活を楽しんでいなかったのではないだろうか……。

そう考えた時に、なんとなくだが、手を差し伸べたくなった。それだけだ。

 

「やっぱりいいことはするもんだね。あとは平田くんと連絡がつけば最高なんだけど」

 

「オレも平田に連絡したんだが全然反応がなかった。何かあったのか?」

 

「いやさ、最近の平田くん、よく浮気するじゃない?」

 

「ん?」

 

「この前の船上でのCクラスとのナイトプールは作戦だからまだ許すけど?でもさ、別の女の子の誕生会とかに参加するってどうなわけ?」

 

あ、この前のみーちゃんの誕生会のことバレたのか。

 

「それで心配になったから、部活の時も部屋にいる時もずっと一緒にいて、もし離れていなきゃいけなくなったらメールとか電話とかたくさんしてたら、ここ数日ケータイは繋がらなくなるし、部屋にも帰ってこないしで、心配してるんだ。まさか浮気相手のところにいるんじゃないわよね」

 

……それで平田の部屋を見張っていて、怪しい人物がやってきたから声を掛けたらオレだったと。

や、ヤバい方向に軽井沢が進んでいっている。

 

さすがの平田も限界がきて、どこかに逃げたようだ……。

Dクラスは足がつきそうだから、柴田あたりの部屋に泊めてもらっているのかもしれない。

 

「それはないとは思うが……二人は一応、偽のカップルだから、平田が他の女性とどうこうしてても問題はないんじゃないか?」

 

「大アリよ!……綾小路くんは私を裏切らないのよね?」

 

オレも前言撤回したくなってきた。

こんなことなら大人しく水筒と一晩を共にすべきだったかもしれない。

まさかこんなことになっているとは……。

 

オレのためにも、平田のためにも、この軽井沢をどうにかしないとまずいことになりそうだ。

いや、そんな規模の話じゃないのかもな。平田が刺され、軽井沢が退学などになったら、Dクラスは崩壊する。本当に人騒がせなカップルだ。

 

この日、左手にはまっていた水筒の感覚を懐かしみながら、軽井沢をなんとかするしかないと誓ったのだった。

 

 

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