ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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ポイントは退学よりも重い

「あーポイントが欲しい……」

 

夏休みも残り数日。

生徒会室で業務後、ポイントの残高を確認して、ポロっと心の声が漏れてしまった。

 

今度の体育祭、いざとなればポイントの有無が勝敗を大きく分けることになる。

体育祭の推薦競技と呼ばれる種目は出場者の変更が可能だ。

しかし、それには1人につき10万プライベートポイントという高額の出費が伴う。

 

これまでの貯えがある(はずの)2、3年生と違い、1年生が不利にも思えるが、前回の干支試験で露骨に高額のポイントをゲットする機会があった。

学校なりの配慮、もしくは勝ち残るためのチャンスを作っていたということ。

無人島でクラスの結束を高め、干支試験でポイントを入手し、体育祭に挑める。

一見バラバラのようで、次に繋がっている構成。

思いの外、カリキュラムはちゃんと考えられているな。

体育祭の経験もその後の試験に何か役に立つ可能性は大いにある。

 

だが、学校側も誤算だったであろうことは、干支試験のAクラス圧勝。

その結果、BとDクラスは50万ポイントしか得ることができていない。

そして元々なぜか資金力のあるBクラスと違い、Dクラスは漏れなく全員金欠状態。

しかも肝心の50万ポイントは高円寺の懐に入るため、決してクラスのために使用されることはないだろう……。

 

唯一希望があるとすれば、9、10月に振り込まれる予定のプライベートポイントが4万を超えること。

これをクラスメイト全員で貯金して予算とすれば、十分戦えるだろう。

しかし、そんなことは机上の空論で、実現は不可能だ。

5月にポイントが消失して以来、ずっと節制を余儀なくされていた生徒がいきなり大金を手に入れたらどうなるか……。

平田と田、ついでに軽井沢が呼びかければ、クラスメイトの半分以上は貯金に賛成してくれるかもしれない。

しかし、全員ではない。そうなると貯金した人間としなかった人間で衝突し、チームワークは崩壊。最悪の形で体育祭を迎えることとなる。

 

やはり、個人で大量のポイントを保有しておくことが体育祭のみならず、今後の試験の安心へと繋がっていく。

いずれにせよ、ポイントは必要になるので、この辺りでしっかりと金策を考えておきたいところだ。

 

ちなみにこの前のバスケの活躍の報酬で2万ポイントほど振り込まれたのだが

占いに行ったり、スイーツビュッフェに行ったりと夏休みを満喫していたら、いつの間にかなくなっていた。

先ほどの予想は実体験に基づくものだ、説得力が違うな。

 

……反省はしているが、人付き合いが増えると出費も増えるというのは良い発見だったと思う。

 

「綾小路くん、おつかれっ!」

 

「ああ、お疲れ一之瀬」

 

7月時点で、どうやったのかは不明だが200万ポイント以上を保有していた大富豪一之瀬先生にはこんな悩みはないんだろうな。

 

「それで、今回は何ポイント貸せばいいのかな?遠慮なく言ってね!」

 

「ん?」

 

「え、さっきポイントが欲しいって……綾小路くんにポイントを貢――貸すって言ったら私の出番かにゃっと」

 

ニコニコしながらとんでもないことを言っている一之瀬。

こちらは、いまだに監視カメラ代も船上で借りた10万ポイントも返済していない。

 

「一之瀬からこれ以上は借りることはできない」

 

「ええ!?そんな……私が綾小路くんにしてあげられることってこのぐらいしかないのに」

 

「そもそも一之瀬に返済したくてポイントが欲しい面もある」

 

「嬉しい。綾小路くんが私のために頑張ってくれてる!」

 

一之瀬さん、戻ってきてください。

どうしてこんなことになっているのかは不明だが、一之瀬はポイントを貸すことに喜びを覚えてしまったようだ。

だが、一之瀬のためにも、ここは甘えることなく釘をさしておく方がいいだろう。

 

「一之瀬、これからの試験ではポイントが重要になってくる。自分の事を棚に上げて言うが、いくら大金を持っていたとしてもホイホイ貸すのはよくない、とオレは思うぞ」

 

「今のところ貸しているの綾小路くんだけだからね?」

 

「すみません」

 

「……やっぱりあの時、私のポイント見えちゃってたんだ?」

 

「盗み見るつもりはなかった、すまない」

 

「見えちゃったものは仕方ないけど、詳細は秘密だよ。ただ、貸せる範囲で貸してるだけだからそこは安心して欲しいかな」

 

安心も何も、なんだかよろしくない方向に一之瀬の思考が向かおうとしている。

これは、早く返済した方がいいな。

 

長居するとポイントを貸し付けてきそうな勢いだったので部活の指導があるからと足早に立ち去った。

一之瀬のポイントで体育祭を乗り切ったとしても、それはお互いのためにはならないだろう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

茶道部でお茶を点てながら、なにかポイントを得る手段はないものかと考えていた。

 

「清隆くん、今日は何だか難しいお顔をされていますね?」

 

「ああ。実は悩み事があって……顔に出していたつもりはなかったんだが、不快にさせてしまったのなら申し訳ない」

 

「え、私は全然わからなかったです」

 

ひよりからの指摘に謝罪するとみーちゃんがフォロー?してくれた。

 

「私も何となくそんな気がしただけですので。よろしければ私たちでご相談に乗りましょうか?」

 

「清隆くんにはいつもお世話になっています。遠慮なく言ってください」

 

「それは助かる。実は……というほどでもないが、Dクラスは金欠だろ。何かポイントを獲得する方法はないかと考えていたんだ」

 

三人寄れば文殊の知恵、何かヒントでも掴めればと思い、2人に相談することにした。

 

「なるほど……これからポイントはたくさん必要になりそうですしね」

 

「さすがひより、わかるのか」

 

相変わらずの鋭い洞察力で今後の試験について考えて……待てよ、この流れ、前に一度あったな。

 

「もちろんです。9月からは読書の秋、新刊がたくさん出ますからね」

 

やっぱり、ただの読書好きだった。

図書館で取り寄せることも可能にもかかわらずわざわざ購入するのは本に対する愛情を感じさせる。

 

「ひよりは季節に関係なく読書してるけどな」

 

「あら、冬は冬眠するので本は読みませんよ?」

 

「え!?ひよりちゃんと春まで会えなくなるのは悲しいです」

 

「冗談です、2人と本を置いて眠ったりはしません」

 

ひよりなら、何日も徹夜で読書した結果、眠ってしまい、目が覚めたらうっかり春だった経験があっても……なんて想像してしまった。人体の構造上、冬眠は不可能だからな。

 

3人寄ってはみたが、中々いいアイディアは浮かばない。と、そんな時だった。

 

「失礼しまーす。幽霊部員、朝比奈なずな、美味しいお茶が飲めると聞いてただいま参上しました」

 

「あ、先輩。ご無沙汰してます」

 

「1年生のみんな久しぶりー。茶道部が再開してるって全然知らなくって、色々ごめんねー」

 

朝比奈なずな。2年のAクラスに所属する生徒だ。

乱れているという噂の2年生か……1年女子と比較しても心なしか大人な感じがするな。

 

「あ、きみが噂の綾小路くんだね!」

 

噂?オレは乱れてないぞ?

 

「雅から聞いてるよー。クソ生意気な後輩ができたんだって」

 

「あー、なるほど。親愛なる南雲先輩がそんなことを」

 

「あはははは、気にしない気にしない。雅がそんなこと言うのって珍しいんだから、気に入られちゃったんじゃない?」

 

「それはなんとも言えない情報ですね」

 

「うんうん。さすが生意気な後輩くんだ。雅相手に臆することないなんてすごいと思う」

 

……生徒会で見ている南雲に臆する要素が皆無なだけに認識のずれが否めない。もしかして南雲は同じ名前の別人がいたりするのか?

 

「とりあえず、せっかくお越しいただいたんです。おもてなししますよ」

 

「やったー。ありがとー!」

 

南雲の事はともかく、2年生の事情は気になる部分ではある。

少しでも情報を引き出すきっかけにできればと思う。

やましい気持ちは少しも、ほんのちょっとも、微塵も、ない。

 

「何これ、メッチャ美味しい」

 

「ありがとうございます」

 

朝比奈は見た目が王道のギャルなので、お茶なんて飲むのか?なんて考えていたが杞憂だった。軽井沢といい、ギャルっぽい人間のことがよくわからなくなってきた。

 

よほど気に入ったのか、あっという間に飲み上げてお代わりを要求してくる。

 

「そうだ、清隆くん。先輩なら何かご存じかもしれませんよ?」

 

「ん?なになに、何でも聞いてー?お茶のお礼に知ってることなら教えてあげるよー」

 

「実はポイントに困っていまして、毎月の振込や試験以外で入手する方法はないかなと……」

 

「あー、Dクラスってどの学年も大変だもんね。うーん……あ、そうだ!このお茶、販売しなよ。明日から3日間解放される『特別水泳施設』で出店を出せるんだ。2、3年生のポイントがない生徒たちへの救済処置らしいけど、私の名前貸すからさ、代理で出てみたら?」

 

なるほど、体育祭に向けた救済措置は他学年にもあったのか。

だが、他学年向けのイベントに1年生が参加してもいいものか。

 

「そんなことできるんですか?」

 

「できますよね、茶柱先生?」

 

と、朝比奈は茶柱先生に確認する。

 

……一度お茶を振る舞って以来、「顧問なのだから立ち会うのは当然だろ」と毎回飲みに来ていたので、すっかり他の学生と馴染んでしまい認識が薄れていた。この人、教師だったな。

 

「可能か不可能かで言えば、可能だな。ただし――」

 

「ただし?」

 

「書類の申請、出品物の許可、物の準備等が明日までに間に合うかどうかは別問題だ」

 

「あーそれもそうか」

 

「申請や許可するところってどこですか?」

 

「生徒会だな」

 

なら8割問題が解消したようなもんだな。

だが、出店しても売れるかどうかは怪しい。

 

「申請類はともかく、問題は真夏の暑い中、お茶が売れるか、じゃないか?」

 

「それなら、アイス抹茶ラテを作ってみるのはどうですか?」

 

「それ最高だね。飲みたーい」

 

みーちゃんからの提案に、朝比奈が食いつく。

 

「試しに作ってみましょうか!材料を持ってくるので、清隆くんはお茶を点てててください」

 

「ああ」

 

ビックリするほど話が進んでいく。

程なくして牛乳とシュガーシロップ、氷を持ってみーちゃんが帰ってくる

 

「牛乳と氷を入れたグラスにシロップを溶かし、お茶を入れて完成です」

 

「見た目もかわいいですね」

 

「うんうん、映えるよ、これ!」

 

全員分作ったところで、試飲してみる。

 

抹茶の苦みとミルクの甘さほどよくマッチして絶品だった。

 

「何これ美味しい!」「いいですねー」「これは美味いな」と周囲の反応も良好だ。

 

「ちょっと待っててくれ」

 

新しく作ったアイス抹茶ラテを両手に生徒会室へ向かう。

 

「会長、橘先輩、これ差し入れです」

 

「わぁー美味しそうですね!頂きますねー」

 

「綾小路、珍しいな。どういった風の吹き回しだ?」

 

「そんな気分の時もありますよ。どうぞどうぞ」

 

そうして2人はラテを口にする。

 

「おいしいです!疲れた体に染みます」

 

「ああ。そうだな。これは美味い」

 

「良かったです。ところで、これを明日からの特別水泳施設で出品したいですが、許可いただけますよね?」

 

「……そういうことか。このクオリティーだ。衛生面もお前が管理するなら問題ないだろう」

 

「これ書類です!生徒会からのハンコは押しておきました。私たちも見回りに行く予定だったので、かならず立ち寄りますね」

 

いざとなれば、堀北方式で脅すつもりだったのだが、その必要はなかったか。

というか、仕事早いな橘。

 

オレは書類を持って茶道部に戻る。

 

「茶柱先生からの印もいただいたので、これで出店できますね。あ、店の名前はどうします?」

 

「何でもいいんじゃないか?」

 

「いえ、インパクトは大事ですよ」

 

いくつかの候補を全員で絞り出し、投票で決めることとなった。

 

「選ばれたのは……『綾隆』でした」

 

「ひより、それ言いたかっただけじゃないか?」

 

「綾小路清隆くんの作るお茶なんですから、これ以上の表現はないと思いますよ?」

 

「それならいいんだが……」

 

この辺りの感性はオレにはよくわからない部分なのでひよりたちを信じることにする。

 

こうして、俺たち茶道部によるアイス抹茶ラテ店「綾隆」のオープンが決定した。

 

 

 

 

「盛り上がっているところ悪いが、材料費はもちろん、カップやストローなどの資材費、もちろん出店料もかかるが、お前たち持ち合わせはあるのか?」

 

「「……」」

 

茶柱先生からの指摘に沈黙する一同。

ポイントがないから出店するのにポイントがかかると……。

解決手段はひとつしか思いつかなかった。

 

 

「一之瀬、悪い。やっぱりポイント貸して欲しい」

 

『喜んで!』

 

電話越しでも伝わってくる嬉しそうな一之瀬。

主に金銭面で頼りにし続けてしまった弊害だろう。

この問題を解決するために、明日から荒稼ぎして、一之瀬への借金を一括返済することを誓ったのだった。

 

 

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