綾隆オープン、2日目。
ひよりとみーちゃんがダウンして参加できなくなっため、急遽助っ人を依頼することとなった。
その人物に連絡すると、案の定2つ返事でOKを貰えた。
寮の入り口で待ち合わせして、2人で特別水泳施設へと向かう。
「ね、綾小路くん。貴重な夏休みを割いて、急なお願いを聞いてあげるんだから、もちろん、堀北を退学に――」
「しない」
助っ人に選んだのは櫛田だ。
1年では一之瀬並みに人気があり、コミュニケーションの達人である櫛田なら接客で大いに活躍してくれるだろう。
「なら、帰っちゃおうかなー」
「これは生徒会の綾小路ではなく、Dクラスの綾小路からのお願いだ。クラスメイトがとても困っているのに見捨てるのは櫛田らしくないんじゃないか?」
「アンタよく言うわね、都合が良すぎると思わないの?」
周りに人がいないと最近は気軽にブラックな櫛田さんが登場するようになってきたな。
「それもそうだな。だが、もちろん労働分の報酬は払うし、クラスメイトとしてできる範囲ならお返しもする」
「クラスメイトの綾小路くんには何も期待してないんだけど」
「それはやり方次第だ。例えば、オレが勉強を教えれば、テストで櫛田にもっと高得点をとらせる自信がある。少なくともオール満点のオレの次ぐらいの結果にはなるだろう」
「……それで?」
「堀北や幸村を超えればクラスメイト達から絶賛されるし、堀北のプライドを折れるかもしれない。条件が整えば、退学を賭けて堀北にテストでの勝負を持ちかけて、あっさり勝てるかもな」
「うんうん。それは確かに魅力的だね!綾小路くんに貸しを作るのは悪くないかも。今日は精一杯協力させてもらうよ」
「それは助かる。櫛田ほど、この仕事に適任はいないからな」
裏の顔を知ってから櫛田が何のために人に優しくしているのか考えていたが、おおよそ予想通りらしいな。
「それで、さすがに私たち2人だけってわけじゃないよね?」
「ああ。もう一人は最近連絡がつかないが、確実に会場にいるから安心して欲しい」
何のことだろうと疑問が浮かんでいる様子だが、それも無理はないか……。
櫛田の情報網にも引っかからないあたり、外には出さず自分の中だけで戦っている証拠なのかもしれない。
会場に到着し、今日は最初から水着作戦を実施するために出店前に集合ということで別行動になる。
サッと着替えを済ませ、オレは目的の人物を探したところ、プールサイドでひとり、ひたすら水面を眺めている姿を見つけた。
「おはよう、平田」
「おはよう綾小路くん。今日も出店かな?」
「ああ。そのことについてなんだが……実はみーちゃんたちが寝込んでしまって人手が足りないんだ。平田、気分転換にもなるかもしれない、一緒に出店やらないか?」
「それは大変だね。僕でよければ喜んで協力させてもらうよ」
「平田も大変な時に済まないな」
「いいんだよ。綾小路くんの言う通り、気分転換にもなるし、誘ってもらえて嬉しいよ」
こうして平田を確保することにも成功した。
櫛田と平田、Dクラスが誇る、他クラスでも人気の高い2人が組めば鬼に金棒だな。
だが、それだけでなくこの2人を選んだのには理由がある。
最初は「人数が増える=取り分が減ってしまう」と考え必要最低限の人員で構成したが、交代なら問題ない。
そしてこの出店の本来の目的は、借金返済ではなく、体育祭に向けてポイントを増やす事。
それならばDクラスの生徒で固めてしまった方が良いだろう。
特にこの2人なら、無駄遣いをすることはないだろうし
来月になって体育祭のルールを聞けば、オレがポイントにこだわっていた理由を察することができるだけの力もある。
こうして、綾隆は2日目メンバーでスタートすることとなった。
「こんにちは、綾隆のアイス抹茶ラテいかがですかー?」
「えっと、じゃあもらおうかな」
それはそれは天使のようなスマイルで声掛けを行う櫛田。
今のところ成約率100%と驚異的だ。
「お買い上げありがとうございました。またよろしくお願いします」
「は、はい。また来ます!」
爽やかイケメン平田も負けてはいない。
女性客のリピーターは増えそうだ。
そして2人ともテキパキと動いてくれるため、列ができ始めてからもお客さんを長時間待たせずに済んでいる。
回転率は4人いた昨日以上かもしれない。
心強い助っ人の活躍に感動していると、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「すまない、4つほどいただけるか?」
「葛城くん、いらっしゃい……って、それは突っ込んだ方がいいの、か、な?」
珍しい櫛田の動揺した反応に何事かと調理スペースから顔を出して確認する。
「お、綾小路か。この前は世話になった。今回も生徒会案件か?面白そうなことをしているな」
「いや、今回は個人的なことなんだが……。それはどういう状況だ?」
「おはようございます。Dクラスの皆さん。とても美味しそうな飲み物を販売していらっしゃるのですね」
坂柳の声が普段より高い位置から聞こえる。
それもそのはずで、坂柳は、葛城の右肩にちょこんと座っていた。
葛城も坂柳が座りやすい様に右腕をあげて、右肩から上腕二頭筋までスペースを作っている。
「ふふふ、驚いていらっしゃるようですね。私もです。こうして移動した方が普段の何倍もの速さで、遠くまでも行き放題なんですから」
「綾小路、俺は生徒会に相応しい実力をつけるために、坂柳から学ぶことにした。不思議だな、これまで守りの姿勢を貫いてきたオレだが、今ではとても解放された気分だ」
なにか変な方向に解放されていないか。
生徒会の(変な)空気にあてられて、常識人の葛城が見る影もなくなってしまったのか。
本人が満足そうなので、これ以上は何も言わないが……。
「これは美味しいですね。神室さんも橋本くんもぜひどうぞ」
日頃、坂柳のお付きとして行動している2人だが、ここまで他人のフリを貫こうとしていた。
心中お察しいたします。
だが、もちろん、坂柳は逃してくれない。
「確かに美味しいわね。こんな状況じゃなければもっと味わえたかも」
「ああ。俺は神室の意見に全面的に賛成するぜ」
「では、クラスの皆さん分とお代わりを買って帰りましょう。40ほど追加お願いいたします」
「ありがとうございます」
大急ぎで40杯作ると、葛城が30、橋本が10に分けて持って帰っていった……。
葛城の肩に乗る坂柳が遠くシルエットになってゆく。オレたちは何を見せられたのか。
「内部での派閥争いが激しかったAクラスが一枚岩になったみたいだね。2学期はより盤石な体制になったんじゃないかな」
「そうだね、ただでさえ強敵だったのに……。これから私たちDクラスも、もっと頑張らなきゃだね」
……2人とも、一部の奇行は見なかったことにしたようだ。
そんな珍客もあったが基本的には順調に販売をしていく。
2人は顔見知りも多いようで、ところどころお客さんとの会話も弾んでいた。
「綾小路王子、一杯ください」
オレも知っている客――諸藤や真鍋たちがやってきた。
と、その時、少し強めの風が吹き、容器のフタが一つ、転がっていく。
それを止めようとしたところで、同じく反応していた平田と手が重なる。
「あ、悪い」
「僕の方こそ」
「……綾×平、尊い」
「リカーッ!!!……って倒れない?」
「2人が作り上げたこのドリンクを飲むまでは倒れるわけにはいかないの」
「り、リカ!?」
「うん、美味しかったです、王子たち。私の生涯に一片の悔いもありません。バタッ」
「リカーッ!!!」
諸藤が医務室に運ばれていった。
これがちょっと傾向を変えたお約束ってやつか。
こうした小さいハプニングはあったものの極めて順調に売り上げて、この日の出店時間は終了した。
売り上げは50万ポイントと当初の目標100万ポイントは達成したようなもの。
明日もこのメンバーなら2学期からの懐事情も変わってきそうだ。
「平田くん、みーつけた」
「か、軽井沢さん!?どうしてここに?」
「えー、クラスのチャットで噂になってたよ。平田くんがここで出店やってるって。忙しいなら言ってくれればよかったのに」
「そうだね、連絡もできてなくてごめんね」
「ううん、大丈夫。今日はこれで終わりなんでしょ。ごはん行こうよー」
そうして平田は軽井沢に連れていかれた。
ごめん、明日はここに来れない……そんな目でこちらを見つめながら遠ざかっていく平田。
「あの2人、あんなに熱々だったんだね」
「そうだな……」
平田が参加できない以上、櫛田に期待するしかない。
「櫛田、明日もお願いできるか?」
「えーと、どうしようかな。私も忙しいし、予定とか入っちゃってるかも」
「まじかー」
「……でも、綾小路くんがどうしてもってお願いするなら――って聞いてる?」
櫛田もダメなのか、となると再びメンバー探しをする必要がある。
一之瀬は明日来てくれると言っていたし、あと一人見つければ大丈夫だろう。
……こうなってくると、アイツにお願いするしかないか。
「櫛田、今日はありがとう。かなり助かった。すまないが、オレは一足先に帰るな」
早く人員を確保しなくてはいけないため、オレは急いで着替えを済まし、寮に戻った。
お願いする人物の部屋のチャイムを鳴らす。
コイツは電話に出ない可能性が高いから直接交渉だ。
「突然なにかしら、綾小路くん。くだらない用事で訪ねて来ないでもらえる?」
「水筒を外す手伝いよりはくだらなくないと思うぞ?」
堀北の小言に思わず余計なことを言ってしまった。
有無を言わさずドアを閉めようとする堀北を慌てて制して話を続ける。
「お前の兄貴に認めてもらえるかもしれない話があるんだが、聞かなくていいのか?」
「……お茶でも飲んでいきなさい」
「できればコーヒーでお願いしたい」
堀北の部屋に案内され、コーヒーが出てきたところで話を続ける。
「実は特別水泳施設で出店をしててな。その販売を手伝って欲しい」
「兄さんと関係は?」
「今回堀北会長にお願いして無理に出店させてもらった。そこで売上なりで成果を出せばもちろん注目してもらえる。それに……」
「それに?」
「生徒会の仕事で見回りをしているんだが、恐らく明日出店の見回りチェックもするだろうから、うちの店で働いていれば会えること間違いなしだ。そこで懸命に働くお前の姿を見た会長はどう思うだろうな」
「その話、乗ったわ。やるからには徹底的にやるわよ。詳細を教えてもらえるかしら」
嘘は言っていないが、より堀北兄が関わっているかのように伝えた。
こうすれば、コイツが断る可能性はなくなるからな。
こうして明日は堀北も手伝ってくれることとなった。
その夜、突然、電話がかかってきた。
『あ、あの綾小路くん、こ、こんばん、は。……急にゴメンね?』
「気にしなくていい。どうしたんだ、佐倉?」
『実は、綾小路くんたちが出店をしてるって聞いて……その、迷惑じゃなければ、わ、私も、手伝わせてくれないかな?』
「手伝ってくれるならありがたい。よろしく頼む」
想定以上の売上の見込みだ。佐倉分の報酬も問題ないだろう。
それに佐倉なら最悪立っているだけでも集客に繋がることは、この2日間でよくわかった。
『あ、ありがとう!こちらこそよろしくね』
電話の向こうから、微かに歓声が聞こえる。
どうやら軽井沢のように、出店の情報を掴んだ篠原たちが背中を押したのかもしれない。
接客経験は佐倉を成長させてくれるだろう、篠原たちもわかっているじゃないか。
佐倉の事を安心して任せられるな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3日目、集合場所の寮のロビーで待っていると、程なくして堀北、そして佐倉がやってきた。
あとは一之瀬だけか……。そう考えているとエレベーターから櫛田が出てきた。
「綾小路くん、今日も来てあげたよ、嬉しい?」
「いいのか、櫛田。ありがとう。もちろんうれしいぞ」
「……って、なんで堀北さんがいるのかな?私じゃ頼りないってこと?」
昨日の話じゃ来れないと思っていたのだが、都合を合わせてくれたのか。
堀北、いらなかったかもしれない。
「櫛田の仕事ぶりを見せつけることができるんじゃないかと思ってな」
「綾小路くんも人が悪いなあ。でもそう言うことならよろしくね、堀北さん。佐倉さんも」
目が笑っていない櫛田。
「櫛田さん、私は私の目的のために頑張るだけよ」
最終日にして一番危険な状況に……。
「みんなおはよー!よろしくねー」
そんな空気を変えてくれる一之瀬の明るい挨拶。
そして一之瀬の後ろには、網倉、小橋、白波がついてきている。
「3人も手伝ってくれるって。人数が多い方が楽しいし助かると思うんだけど大丈夫かな?」
「もちろんだ」
スポンサーの意向には逆らえないからな。
水着美女が増えるのであれば、売り上げも伸びるだろう。
思わぬ大所帯となったが、やることは変わらない。
人数が増えたことで、こちらも楽になったし、やはり集客力が3日間で一番伸びている印象だ。
「い、いらっしゃいませ……抹茶ラテ、いかがですか」
佐倉も佐倉なりに頑張ってくれていて、成長を感じる。
このままいけば、そのうち化けるかもしれない。
「だいぶ繁盛しているようだな、綾小路」
「綾小路くん、調子はどうですかー?」
昼すぎ、堀北兄と橘が見回りの途中で寄ってくれた。
「ご覧の通り大盛況です。先輩方にも今お持ちしますね」
そう言って堀北に目配せする。
「兄さん、こちらをどうぞ」
恐る恐るではあるものの、しっかりとアイス抹茶ラテを渡す堀北妹。
堀北兄はそれを受け取り、ゆっくりと口に運ぶ。
「……美味いな」
「兄さん!」
「鈴音、まさかお前が誰かと協力する姿を見れる日が来るとはな……これからも仲間たちと共に励むことだ」
「はい!!」
決してすべてのわだかまりが解けたわけではないだろうが、兄妹関係が少し前進したことは明らかだった。
「美味しかったです。ありがとうございました。私たちは見回りの仕事に戻りますが……綾小路くん、たくさんの女の子に囲まれてるからって、調子に乗らないようにしてくださいね」
「ええ。大丈夫ですよ」
そう言って2人は仕事に戻っていった。
「さあ兄さんもああいってくれたことだし、もっと売り上げを伸ばすわよ、綾小路くん。私にいい考えがあるの。任せてもらえるかしら?」
もっと褒めてもらいたいのかやる気に満ち溢れている堀北。
十分収益は見込める現状、コイツがどこまでやれるのか試してみるのもいいかもしれない。
「ああ。堀北に任せる。思う存分やってくれ」
「もちろん、そのつもりだわ」
「綾小路くん、そろそろ休憩してきたら?今日はたくさん人もいるし、ちょっとぐらいゆっくりしてきなよ」
櫛田から提案されて、確かにここに来てほぼ出店しかしないのももったいないような気がした。幸い、オレがいなくても店は回るようになっている。
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらう」
「帆波ちゃんも休憩しておいでよー」
小橋がそう提案する。
「う、うん。せっかくだから一緒にどうかな」
「別に構わないぞ」
そうして2人で施設を回っていると、スポーツ用プールが何やら賑わっていたので近づいてみる……そこでは南雲が水中バレーをしていた。
「よう、帆波……と綾小路も一緒か」
「こんにちは、南雲先輩」
「あー、綾小路くん。出店上手く行ってるみたいだね」
「朝比奈先輩のおかげです」
南雲の応援をしていたのか、朝比奈もその場にいた。
「そうだ、せっかくだから、バレーしようぜ?」
「お断りしてもいいですか?」
「まぁそういうな。そろそろお前とはどっちが上かはっきりさせとこうと思ってたところだ。なずなから聞いたが、出店やってるんだろ、俺に勝てたら、2年生全員……えっと140人ぐらいに奢ってやることにするぜ」
「南雲先輩が勝ったら?」
「そうだな、堀北先輩との勝負の橋渡しを頼む。占いでは後輩を頼ると良いって言ってたからな。お前も後輩には違いないだろ」
「わかりました。受けて立ちますよ」
140杯売れることが確定したようなもの。
南雲の実力はバスケでおおよそ把握している。
そこまで力を出さなくても勝てる、お得な勝負だ。
「そうこなくっちゃな。ルールはペア対決で21点先取の一本勝負。こっちはなずなと組む。お前は帆波と出ろよ」
「え、わたしですか!?」
「それで構わない」
「あ、綾小路くん。その……私そこまで運動できないからね?」
「大丈夫だ。どんな状況になっても勝ってみせる」
「にゃはは、それは頼もしいね」
さすがの南雲も一之瀬を狙い撃ちにはしないだろう。
スポーツマンシップ云々の話以前に、そんなことをすれば一之瀬から嫌われるのが目に見えている。
形式上バレーは1人でできないためペアにしたが、向こうもパートナーに朝比奈を指名したことから、実質1対1で戦いたいという意図が見える。
だが、一之瀬をこちらにつけたのは失敗だったな。
「今日の俺は負けないぜ。なぜなら朝の占いのラッキーアイテム、この星型グラサンを装着するからだ」
「雅、それ、全然カッコよくないよ?」
「なずな、これはそういうんじゃないって言ったろ。これをつけることが勝利に繋がるんだ。見てろって」
星型のグラサンを装着する南雲。
見た目はともかく馬鹿にできない点はある。
それは――
「これで俺の視線は読みにくくなったはずだぜ、綾小路」
「そのようですね」
「俺がお前のとびっきりの必殺技、アンクルブレイク対策をしてこないと思ったのか?恐らくあの技はお前のこれまでの人生をかけて磨いてきた技だったんだろう。それだけの精度、そして脅威であることは認めてやる。だが、バスケの試合で土壇場まで出し渋るわけだぜ。ネタが割れちまえばこの通りさ。どうだ、唯一の必殺技を封じられた気分は?」
「笑えない状況ではありますね」
色んな意味で、だが。
そうして試合は朝比奈のサーブから始まる。
「えい」っと放たれたボールは、無難なコースで可もなく不可もない強さで飛んでくる。
この手のバレーは船上のナイトプールで経験済みだ。
なんなくボールを上げて、一之瀬にトスをしてもらう。
その間、オレの動きに注目しているであろう南雲。
そこに、軽く動き、フェイントを入れてやれば……。
「うおっ」
こちらの動きに反応したことで、足がもつれて水中に沈む南雲。
「ぷはっ。視線を読まなくても使えるだと?アンクルブレイク対策対策はできているってことかよ」
一之瀬からのトスがあがり、スパイクを決めるべく飛び上がる。
「だがな、ここは水中だ。転んだところですぐに起き上がれるのさ。そしてジャンプ中じゃ、小賢しいフェイントもできないだろ。アンクルブレイク対策対策対策も抜かりないんだぜ?」
南雲なりに徹底的に対策を考えてきた様子だな。
だが南雲、いつからオレのスパイクを受け止められると錯覚していた?
思いっきりボールを叩きつける。
南雲も一瞬何が起きたのかわからなかっただろう。
目でとらえきれないボールが自分の真下に衝突し、着水の衝撃で舞い上がる強烈な水しぶきが南雲を襲った。
「み、みやびー!!!」
朝比奈が真鍋たちのような叫び芸を披露してくれている。
「げほ、げほっ。……ったく、死ぬかと思ったぜ。やってくれるな、綾小路。必殺技が効かないと判断して、パワープレイに切り替えやがるとは」
「さすが綾小路くん。すべてを吹き飛ばす豪快さ!」
一之瀬もノリノリだな。
そんな一之瀬からのサーブとなり、今度は南雲の攻撃となる。
南雲が拾って、朝比奈がトスを上げる。
跳躍した南雲のアタック。
ボールは中々のスピードでコートの隅のギリギリに着水した。
2年トップは伊達ではなく、運動面においても他との違いを感じさせる。
水中バレーは、こちらの機動力が大きく制限される都合上、こちらの位置を確認し、コースを的確に狙われると、どうしても対応できない場所が出てくる。
多少無理をすれば拾えるだろうが、大勢のギャラリーの前で、素の身体能力の高さをわざわざ披露しようとは思えない。あくまでトンデモ技に頼るやつ、ぐらいでおさえておきたいところだ。
そうして一進一退の攻防は、ラリーが全く続かず、お互い一撃必殺のまま、20対20のマッチポイントとなった。
20回もの水しぶきを耐え抜いた南雲の根性は認めたいと思う。
「このゲーム、デュースはないぜ。これがラストプレーだ」
そういって朝比奈にサインを出す南雲。
何か仕掛けてくるのか?
「えいや」っと朝比奈が放ったサーブはこれまでと違い、回転がかかっていないように思える。
そして急にコースが変化して一之瀬の前ですとんと落下し始めた。
「えへへ。わたしこの変化球だけは得意なんだ」
ここ一番まで温存していたということか。
何とか反応して飛び込んでボールに触れた一之瀬だったが、ボールは明後日の方向へ。
そのボールに、オレも何とか追いつき高く上げる。
その間に起き上がった一之瀬だったが、向こうのコートに返すので精いっぱいだった、
「この勝負もらったぜ!」
朝比奈がトスしやすい場所にボールを上げる南雲。
朝比奈からのトスもキレイに上がった。
「一之瀬、跳んでブロックだ」
「え!?うん」
オレの指示で南雲よりもワンテンポはやく跳躍する一之瀬。
「血迷ったか、綾小路。意味の……ないことを。これで終わりだ!!ってどこにもいねぇ!?」
ミスディレクション。
前回のバスケのあと、面白い技ではあったため橘にお願いして漫画を全巻読み込み、何かに活かせないかと考えていた。
あの技は、強い存在感を持つパートナーがいてこそ初めて完成する。
そのため、一之瀬にブロックで跳んでもらい、何とは言わないが揺れる強い存在感に南雲が目を奪われた隙に、南雲の死角へと移動させてもらった。
コート上から姿を消したオレに動揺した隙、どこにいるかわからない相手に対して的確なコースを狙い打つことはできない。
これまでとは違い精彩を欠いたスパイクとなる。
それをすかさず拾いあげ、一之瀬のトスから、21回目の水しぶきをお見舞いする。
波にさらわれた南雲は、ぷかぷか浮いて天井をみつめたまましばらく動かなかった。
「やった、綾小路くん!私たち、あの、あの南雲先輩に勝ったよ!」
興奮冷めやまない一之瀬とハイタッチを交わす。
南雲との勝負に勝っただけだが、ここまで喜んでくれるなら悪い気はしない。
「いやぁーホントに雅を倒しちゃうなんて、すごいね、きみ~」
朝比奈先輩がわき腹を小突いてきた。
健闘を称え盛り上がるギャラリー。
「それは違うぜ、なずな」
いつの間にか立ち上がった南雲がいつものしたり顔でそんなことを言う。
「何が違うの?立派に負けちゃったじゃん」
「俺は負けちゃいないさ。この沸いているギャラリーを見ろよ。これまで、完璧な生徒会長だった堀北先輩が引退することを不安に思う生徒もいただろう。だが、この場で次世代の生徒会の力も誇示できた。試合結果は綾小路の勝ちだろうが、俺は何も失っちゃいない。むしろ、新生徒会をアピールできた。これのどこが負けなんだ?」
「相変わらず、あー言えばこう言うんだから」
「ま、性分ってやつだな。ただ、結果は結果だ。約束通り140人分の代金を払う。この後2年が店に来たらタダで配ってやれ」
「わかりました」
「んで、1人いくらだ?」
「1,500ポイントですね」
「いい商売してやがんな、ほらよ。21万ポイント振り込んだぜ」
「ありがとうございました」
「次は勝つからな」
「お手柔らかに」
南雲から手を差し出されたので、握手して応じた。
ギャラリーからは新生徒会の応援や期待の声がたくさん飛んできた。
南雲の負け惜しみかとも思ったが、あながち間違いではなかったようだ。
南雲としても負けるつもりはなかったろうが、どちらに転んでも良かったのだろう。
うまい具合に自分の代のPRに使われてしまったようだ。
「綾小路くん、ありがとね!残り時間も頑張って」
朝比奈からなぜかお礼を言われて、オレたちは店に戻ることにした。
しれっと500ポイント水増し請求したが気づかれなかったな。
PRへの出演料ということでありがたく頂戴する。
「今日もすごかったね、綾小路くん。やっぱり何でもできちゃうんだ」
「そんなことはない。朝比奈先輩の最後のサーブ、一之瀬がとってくれなかったら負けていた」
「私、役に立てたのかな?」
「もちろんだ。一之瀬がどう思っているかはわからないが、この販売でも、さっきの試合でも本当に助けられている」
「そっか、それならよかったよ」
「頼りにしているんだ。ポイントを貸すだけが……みたいな淋しいことは言わないで欲しい」
「う……うん、そうだね、そう言ってくれるなら、私も嬉しい」
「これからも力を貸してくれ。オレにも予想できないことはたくさんある、ほら、こんな感じで……」
「……なんか、大変なことになっちゃってる?」
出店に戻ってみると、長蛇どころではない列、ここは200人はくだらないであろう行列ができていた。
そこには、学生だけでなく、大人も混じっている。
人混みを避けて何とか店の前まで戻ってきた。
そこには様変わりした出店の姿。
『あの完璧超人生徒会長堀北学も選んだのは綾隆でした』という大きな看板
巨大なスピーカーから流れる、あのCMソング
いつの間にかドリンク容器にラベルが貼られており、そのパッケージもどこか既視感がある
「こんなことして大丈夫なのか……」
「あら、遅かったわね、綾小路くん」
「堀北、これは版権問題というか色々ヤバいぞ」
「もちろん、許可は取ってあるわ。ケヤキモールに商品を卸している方に仲介してもらってメーカーさんと交渉したの。その時に、池君とか山内君とか暇そうな人たちにがいたからビラ配りをしてもらって、外村君はポスターをつけたドローンを飛ばして宣伝してもらってるわ」
「まじか……」
まさかここまでとは。オレは学生に売ることしか考えていなかったが
堀北はこの学校の施設を運営するために滞在している大人たちも販売対象にしていた。
兄貴パワーをもらった堀北は計り知れないな。
「鈴音、足りなくなった来た食材をたくさん買ってきたぜ」
「須藤君、下の名前で呼ぶのは私の機嫌がいい今日だけよ」
「おうよ、鈴音。なんでも言ってくれ」
いつのまにかBクラス男子の柴田や神崎たちも手伝ってくれている。
今までにないほどの一体感。
やればできるじゃないか、堀北。
こうしてオレたちは堀北の大活躍もあり、この1日だけで100万ポイントもの売上を達成した。
協力してくれたみんなも達成感でお互いを称え合っている。
体育祭を前に良い傾向だ。
「やったな堀北。正直ここまでとは思わなかった」
「兄さんに認めてもらうためだから当然ね。ところで――」
「ところで?」
「売上の半分をメーカーに払うことになっているの、50万ポイントほどいただくわね」
「はい?」
「さすが大企業、なかなか許可をくれなかったのだけど、金額と政府管轄の高校っていうのが決め手になったわ。あと、スピーカーやドローン等の機材レンタル料に音楽使用料、印刷物の印刷代などなど、丁度50万に収めることができたから、そっちは払っておいて頂戴」
「お前は何を言っているんだ?」
「不思議なことを言うのね、綾小路くん。兄さんが見るのは売上だけなんでしょ?なら利益は度外視よ。私たちが本気を出せば100万ポイント1日で売れる実力がある、この証明ができれば兄さんも満足なはずだわ」
……そういえば、堀北を勧誘した時は成功率を優先して、兄貴の事だけを誇張して伝えていたんだった。
まだ、体育祭ルールも発表されていない中、オレの意図に気づくことも難しい。
堀北は色んな意味でオレの想像を超えてきたということ。
だが、それはそれ、これはこれ。
堀北をひとまずプールに投げ込んでおいた。
「な、いきなり何するのかしらっ」
足を掴まれオレもプールの中に引きずり込まれる。
遠くで様子を見ていた櫛田が笑っているような気がする。
今なら櫛田と仲良く話せるかもしれないな。
いや待て、昨日からいた櫛田はオレの金欠も知っていたはず……。
こうなることを予測してあえて止めなかったのかもしれない。
「俺も飛び込むぜ、鈴音」
「んじゃ、俺も」
「私もー」
皆でじゃれ合い遊び始めるクラスメイトたち。
2日目までの90万ポイントから、人件費や材料費なども引いて、一之瀬に出店の際に借りた分を返済すると、手元に残るのは5万ポイントほどになる計算。借金は返しきれなかった。
こっそりプールから上がり、一之瀬のもとに向かう。
「一之瀬、すまないが、完済はもう少し待っててくれると助かる」
「あははは、最後の最後でトンデモナイことになっちゃったね。まぁ元々卒業までにって言ってたんだし大丈夫だよ」
「なるべく早く返済できるようにする。体育祭の種目は上位入賞者にポイントが出るからな、次はそこで稼ごうと思う」
「体育祭……Dクラスはポイントが少ないだろうから心配……かな」
「何とかして見せるさ」
「余計なお世話かもしれないけど、困ったときはいつでも相談してね」
「ああ。その時は頼りにさせてもらう。だが、一之瀬も気をつけて欲しい」
「それって……龍園君のこと?」
「無人島では恨みを買ってしまったみたいだったからな。組の発表はまだだが、何をしてくるかわからない。今回の体育祭、ポイントを増やすことが難しい以上、勝つこと以外を考えてくる可能性がある」
「無人島で教えてもらったように、あらゆる可能性を考えて備えるようにするね」
「わかっているなら安心した。一之瀬も困ったときは相談してくれ」
「うん。ありがとう。それにしても、生徒会同士ならこうやって試験前でも色々意見交換できるのはいいね」
「そうだな……。惜しむらくは同じクラスじゃないってことだが」
「それはそうだね。協力できない部分も出てきちゃう以上どうしても……ね」
こうやって楽しくお互いに協力しているが
クラスが分かれている以上、いつかは退学を賭けて争うこともあるかもしれない。
そんな日が来ないならそれに越したことはないなと、夕日色に染まったプールを眺めながら、手を取り合う未来を想像した。
更新遅れてしまい申し訳ないです。
大人しく、中編、後編に分けるべきでした……