「えー、干支の動物の順番と割り振られた生徒の名前順が、優待者の法則だったってこと?シンプル過ぎない?」
夏休み明けの初日、混雑するカフェ「パレット」で
堀北、平田、軽井沢、オレの4人は、昼食をとりながら干支試験の答え合わせを行っていた。
夏休み中まで試験の事を考えたくなかったのか、他のクラスメイトと会う気にならなかったのか、今更感が強いが、堀北の声掛けにより開催することとなった。
ちなみにオレは法則の答え合わせを干支試験翌日に一之瀬と済ませているため不要なのだが、クラスの結束という意味では必要な話し合いの場であるため、見守ることにした。
「軽井沢さんの言うとおりね。でも、それに気づけても確証を得ることができなければ告発は難しい、と普通なら考えるわ」
「外した時のデメリットが大きいから、だね。Aクラスはあの時、法則を読み間違っていたらマイナス350クラスポイント、さらに残った自分のクラスの優待者も当てられると、合計マイナス500クラスポイント……最悪の場合、一気にDクラスに落ちていたかもしれないんだ」
「へえー。メチャクチャギャンブルじゃん。それだけAクラスを維持したかったってこと?」
「そうかもしれないわ。ただ、坂柳さんにとってはギャンブルではなかった。正解だと確信しての告発――その度胸と自信はそれだけで脅威だわ」
「それに加えて、今のAクラスは派閥争いも収まって、まとまったみたいなんだ。もう隙のないクラスだと思うよ」
各々の考えが飛び交う。
堀北の予想は概ね正しい。坂柳は自分の答えが間違っているとは微塵も疑わなかったはずだ。
ただ、万が一間違っていても坂柳は気にしなかっただろう。
アイツはクラス順位もクラスでの立場、信用にもさほど興味がない。
むしろ、自分の考えを上回った試験を学校が用意できたことに喜びを感じ、次の試験を心待ちにしそうだ。
クラス順位にこだわるものからすると理解できず、たどり着けない思考。それが盲点となり、どこかで決定的な判断ミスに繋がらないといいのだが……。
「つまり兄さんも仲間と共に励めとおっしゃってくれたことだし、Dクラスも団結する時が来たわ。今日の会はその第一歩よ」
堀北が急に話し合いをし始めるといった理由がはっきりわかった。
コイツの中での兄貴パワーは、オレが想像していたよりもずっと高いのかもしれない。
いざとなれば堀北兄に頼んでこちらの戦略を堀北妹に命じてもらうのが、最も楽なコントロール方法かもな。もちろん嫌味だ。
「うん。僕も堀北さんたちと話し合う場が持てて嬉しいよ。これからクラスの団結を目指して頑張ろう」
「私も協力するよー、洋介くんっ」
上目遣いで微笑みながら平田の腕に、ぎゅっと抱きつく軽井沢。笑顔で返す平田。
いつの間にか名前呼びになって、はたから見たら偽装カップルには見えない熱々っぷり。
これで何もないというのだから、ある意味一番恐ろしいのは平田の自制心なのではないかと思う。先日のプールで途中離脱に至った際は、どうなったかと気にはなっていたのだが、今のところ目に見えた問題はなさそうだ。
「ところでさっきから黙っている副会長さんは何か意見はないのかしら?」
「……団結は大事だな、応援してるぞ」
「まるで他人事のようね。あなたもAクラスに上がるための貴重な戦力なのだから、それだけは忘れないでいて欲しいわ」
他人事か……言い得て妙だな。
結局のところ、オレも坂柳とあまり変わらない。
何に重きを置いているかの違いでしかないのだから。
「清隆らしいけどねー。ま、いざとなったら頑張ってくれるでしょ」
「僕もそう思うよ。綾小路くんは何だかんだいつもクラスの事を考えてくれてるって」
「過分な評価に恐れ多いな。……ってなんでオレまで名前呼びなんだ」
しれっと軽井沢が名前で呼んできた。オレはレンタル彼氏をやってないぞ。
「清隆も大事な友だちだからに決まってんじゃん。平田くん並みにイケてる男子って、私も認めてんのよ」
嬉しいような嬉しくないような何とも言えない返事が返ってくる。
先日の水筒事件以来、少しは心を開いてくれたようだ。
平田の状況を見るに手放しでは喜べないが、これで平田の負担が2~3割でも減るのであれば……。
「あなたもいつの間にか交友関係を広げていて楽しそうね」
ジトっとした目でこちらを睨む堀北。
置いて行かれているようで寂しいのだろうか。
軽井沢でよければいつでもあげるから言って欲しい。
誰かに依存するタイプという意味で気が合うんじゃないか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後からの授業はホームルームが2時間とってあった。
2学期初日ということで今後の話、差し当たっては1か月後の体育祭についてだろうな。
ところがそれだけではなかった。
「まずは配布資料に目を通してもらおう。2学期の大きなイベントは、10月の体育祭、そしてその後に行われる生徒会選挙だ」
体育祭が10月上旬、選挙が中旬か。
そういえば、生徒会に所属している割にこの話題が全然上がってこなかったが……。
「体育祭後一週間が選挙活動となる。すでに所属しているものは、特に活動せずとも信任投票の結果で来期も在籍するかどうか決まる。ただし、生徒会長に立候補するなら話は別だ。公約、演説等の活動が必要になってくるため、9月中に申請する必要がある」
そういう仕組みなのか。
生徒会役員だが裏口入学みたいなものだったので、初めて知る情報だった。
「とはいっても立候補できる条件を満たしているものは限られているが……そのつもりがあるなら、担任に申し出るように」
明らかにこちらを見て話す茶柱先生。
どうやら立候補の条件としてすでに生徒会に在籍していることが必須なのかもしれない。未経験者が面白半分で立候補して、何かの間違いで会長にでもなった日には一大事だろう。
茶柱先生のせいでクラスメイト達の視線が集まってきた。
立候補するのだろうかという好奇心。
何かを期待されても困るため首を振っておく。
茶柱先生からは生徒会長になることを期待されているようだが、今のところそのつもりはない。というよりも今年は立候補するだけ無駄だ。
テストや殴り合いで決めるならともかく、投票制では、対抗馬である南雲が2年の票をすべて集められるのに対し、こちらは学年の票をすべて取ることはできないだろう。
Bクラス、Dクラス、そして坂柳との交渉次第ではAクラスの票を獲得することができても、Cクラスの全員からは不可能だ。それこそ大量にポイントがあれば龍園と交渉できたかもしれないが、経済力の戦いになれば南雲に分がある。そしてそこまでして会長になりたいとも思えない。
「まぁあと1か月あるからな。落ち着いて考えることだ。それで、体育祭についてだが――」
茶柱先生から体育祭についてのルール説明が入る。
「今回の体育祭は全学年を2つの組に分けて競い合う方式だ。お前たちDクラスは赤組に配属が決まった。そして同じ赤組はAクラスだ」
「うぉまじかよ」「赤組最強じゃね?」「Bクラスじゃなくて残念だけど、Cよりマシだよねー」
Aクラスが味方になったことに前向きな感想が飛び交う。
Aクラスか……また勝負できなかったと坂柳は悔しがっている頃だろうか、いや、どちらにせよ体育祭では坂柳が直接戦うことはできないため、特に気にもしないか。
気がかりなのは龍園たちと組むことになった一之瀬たちだな。
生徒会で言っても
赤組:堀北兄、橘、オレ、南雲、南雲フレンズたち
白組:桐山、一之瀬
とかなり気の毒な戦力差を感じる。
その他のルールを要約すると
競技は全部で13種目(男のみ、女子のみの競技含む)
全員参加の競技
クラスの代表を選出し出場する推薦競技
に分けられており、それぞれの順位に応じた点数が組とクラスに加算されていき
その合計点で競うというもの。
全体では総合点で敗北した組はマイナス50クラスポイント、勝った組は特に報酬なし。
学年別では、1位のクラスに50クラスポイント、2位は変動なし、3位はマイナス50、
4位はマイナス100だ。
何の嫌がらせかと言いたくなるぐらいにはポイントが下がる確率の高いルール。
組で勝利し、クラスも1位になって初めてプラスになる。
だが、個人にはそれなりの報酬があり、例えば、各個人競技の1位には5,000プライベートポイントか次の筆記試験での3点追加などだ。
二人三脚が個人競技か怪しいが、それを含めれば最大35,000ポイント獲得のチャンスだ。
そして全学年の最優秀生徒へは10万ポイント、学年別最優秀生徒には1万ポイント。
つまり最大145,000ポイント獲得できるかもしれない。
最下位にはデメリットもあるがオレには関係のないことなので割愛させてもらう。
また推薦競技への参加者はもちろん、すべての競技で、誰がどの順番で走るのかなどの出走表も自分たちで作ることとなる。
一度提出した出走表は変更不可能であるため注意が必要だ。
「先生、質問よろしいですか?」
「なんだ堀北?」
「もし当日の体調不良やケガなどで急遽出場できなくなった場合はどうなるのでしょうか?」
「その場合、欠場とみなし点数は入らない。だが、体育祭の花形である推薦競技は1人につき10万ポイントを払うことで代役への変更が可能だ。替え玉を用意するクラスもいるかもしれないため、そういった措置をしている」
「わかりました。ありがとうございます」
堀北、ポイントを獲得しておくことの大切さがわかったか?と様子を見てみるが、特に変化はみられない。……変更については問題視していないのかもしれないな。こちらが戦略として使用しないから、不要というわけではないのだが……。
いずれにせよ、この体育祭はみーちゃんの誕生日の時に交わした茶柱先生との約束を守るために、勝ちに行かねばならない。
正直、組としては、2年、3年のAクラスがいるのでほぼ勝てるのではないかと思っているが、学年別では話が変わってくる。
体育祭のルール、種目を生徒会で確認したのちに、現状把握している各クラスの生徒のデータであらゆる想定をしてみたが、Dクラスは余程の運に恵まれないと勝つことができない。
男子を例に挙げると、まともな勝ち星が、須藤、平田、オレぐらいであとは三宅がいい勝負をできるかどうかぐらいなもの。
Dクラスの運動能力は平均すると他クラスと比べはるかに劣る。須藤の様に学年を代表する運動能力の持ち主がいくら1着を取り続けても、その差は埋まらない。
そしてこの1か月練習したところで、元々運動ができない人間が個人競技で入賞できるほどの強化は見込めない。
つまりパワーアップを狙うよりも、手持ちの戦力で効率よく戦うしかないということ。
出走順が大事になってくるな。
あらゆる不安要素を取り除き、確実な勝利を手にするのは骨が折れそうだ。
だが、そういった策を巡らせても一手足りない計算となる。
これを覆すのは、ケガなどで相手を陥れる邪道しかない……わけではない。
唯一の正攻法が残されている。
体育祭で『高円寺』が真面目に取り組めば、Dクラスの勝利は可能だからだ。
純度100%の説明回に……