ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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誤解

「ふむ、なるほど。確かにこれは一度味わうだけの価値はある」

 

差し出されたアイス抹茶ラテを味わい、なにやら吟味しながら鬼龍院は満足そうな表情を浮かべる。

 

「抹茶については非の打ち所がないだけに、惜しむらくは牛乳の質だな。機会があれば乳脂肪率の高いものに替えてみるといい。抹茶と牛乳のバランスが良くなるはずだ」

 

そんなアドバイスをくれる。

言われてみれば、学校で入手できた牛乳を使用していただけなので、そのあたりのこだわりは特になかったな。

 

「なかなか面白い1年がいることもわかった。このあたりでおいとますることにしよう。なに、長時間滞在して邪魔するつもりはないさ」

 

突然やってきて目的を果たすなり唐突に去っていった鬼龍院先輩。

まさに嵐のような人だった。

 

「いやー、びっくりしたね。彼女がこんなところに来るなんて、あり得ない……とも言えない、か。あり得ないことをするのが彼女なわけだし」

 

同学年である朝比奈も、彼女の行動に少なからず動揺していたようだ。

鬼龍院は2年Bクラスに所属している、桐山と同じクラスか。

データ上の成績では、学力、身体能力ともにトップクラスの生徒。

そんな生徒がいながら、生徒会では、桐山の口からはもちろん聞いたことはないし、強者との勝負大好きっこ南雲も一度も名前を口にしていない。

 

「どういった方なんですか?」

 

「うーん、表現するのが難しいんだけど、超優秀なのに、超残念というか……自由奔放すぎて、特別試験とか興味がなければ真面目に取り組まないというか……ここだけの話、彼女が、この学校の仕組みに対して積極的だったら、雅もここまで簡単に2年のトップにはなってなかっただろうなって」

 

「……そんなにすごい人なんですね」

 

どこかのだれかと被るような人物像だな。

南雲もそれなりの実力は持っている。それに対抗できる人物、か。

南雲が今の地位を築けたのは同学年に他に強者がいなかったためだと思っていたのだが、いないわけでもないのか。

 

桐山は鬼龍院という武器を上手く扱えなかったのだろう。

とはいえ、オレも高円寺を前面に出して他クラスと戦えと言われたら苦戦を強いられると思うので、桐山のことをどうこう言う資格はない。

 

だが、先ほどの感じだと話が全く通じない相手とも思えなかった。対高円寺のシミュレーションという意味でも少し興味が出た。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

翌日、Dクラスでは出場種目決めの話し合いが行われた。

 

「推薦競技も全部俺が出場して、全部1位を獲る。それでクラスも優勝する、簡単な話だぜ!」

 

「そのとおりね。運動能力に優れた人を前面に押し出して点数を稼ぎましょう。その他の人は残り1か月で鍛え上げ、手堅い順位を獲れるようにする。これが最善よ」

 

須藤の意見に堀北が賛同する。正攻法で行くつもりのようだ。

 

「皆に行ってもらうトレーニングメニューも考えてきたわ。これをこなせば、例え池君でも4位前後は狙える。相手次第じゃ、上位にも入れると思うの」

 

「マジかよ、堀北。俺も賛成する~」

 

「俺はどうなんだよ、堀北」

 

「あなたも一緒よ、山内君。元々体格はいいんだから、鍛えた後は上位に入れる可能性が高いわ」

 

「すげーぜ!な、みんなもそれでいいよな」

 

クラスメイトも賛同する。運動ができない人間に対し、入賞ができるかもしれないなんて言われたら、そうなるだろう。だが、そんな甘い話はない。正確には堀北が作ったメニューをこなせば、本当にそれだけの実力がつくかもしれない。

問題は、そのメニューがこれまで運動を苦手としてきた人間がこなせるようなものになっていないのではないか、という点だ。嫌な予感しかしない。

 

「では、方針はそれで決まりね。推薦競技に参加する生徒を決めていきましょう」

 

堀北が指揮をしてスムーズに話が進んでいく、そのこと自体は非常に喜ばしい出来事だ。1学期では考えられない光景だ。

堀北兄から声を掛けられて、驚くほどに変化を見せている堀北。

夏の特別試験を経て意識が変わってきたDクラス。

何も変わらないよりはいいのかもしれないが、この変化がどう影響するのか……まだ時間はある。ここは堀北に一度任せてもいいかもしれない。

 

「では推薦競技のメンバーはこんな感じでいいわね」

 

須藤とオレはフル出場が決まった。

須藤はともかく、オレが出場することにも反対意見がでなかったのは意外だった。

 

「すまないが、出場順はオレに決めさせてもらえないか。Aクラスとの連携にも関わってくる部分だ。最適な組み合わせを考えたい」

 

戦略上、譲れない部分だけはしっかりと主張をさせてもらう。

 

「私はサンセー。綾小路くん、頭いいし、絶対私たちがあれこれ考えるよりいいよね」

 

「僕もそう思うよ。Aクラスとの交渉も上手くやってくれるんじゃないかな」

 

「だね。出場表は他クラスに漏れると危険だから、綾小路くんがギリギリまで管理すれば安全だと思うし」

 

軽井沢、平田、田からの支援もあり、こちらもすんなりと承認された。

これまでのDクラスなら、不平不満も出てきただろうが、これまでの経験でクラスに協調性が生まれ始めている。

また、あまり認めたくはない部分ではあるが、副会長という肩書も大きいのかもしれない。

 

あとは他クラスとの連携だな。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「それで龍園さん、体育祭はどんな方針で行くんですか?」

 

石崎が尋ねてくる。コイツに限らず、同じ組のBクラスとの対話を断ったことが少なからず気になっているのだろう。

 

今回の体育祭。1位を狙う意味はほぼない。

Cクラスは脳筋どもばかりだ。体育祭は有利だが、汗水流しても必死こいても大したクラスポイントにならない。

だったら、この機会を利用してプライベートポイントを増やすなり、上位クラスを潰すなりの方向にシフトした方がいいだろう。

 

「クク、むかつくBのやつらとは同じ組だからな。今回は奴らの駒、Dクラスを潰す。駒が潰されるのを何もできないで見ているだけのBの奴らを想像してみろ、楽しい体育祭になりそうだろ」

 

「うっす」

 

Dクラスに攻撃することで、Bの奴らがどれほど駒としてDを重要視しているかがわかる。捨て駒なのか、そうではないのかで、こちらも打つ手が変わるからな。それの確認だ。

 

ま、Dクラスのやつらの弱点はしれている。ポイントがない以上、推薦競技にでるやつを中心に競技中に事故を装い痛めつけて出場できなくすればいい。これだけで代役を出せないため、奴らの敗退は決定する。もしこちらが把握していないような資金を出して代役を立ててくるなら儲けものだ。

Bクラスの資金を間接的に減らせる上、Bは雑魚を守る甘ちゃんだと弱点を晒してくれる。守りの堅いBではなく、Dを狙えば隙も出てくるだろう。

 

気がかりがあるとすれば2つ。

 

ひとつは無人島試験で金田たちを嵌めた存在。

そもそも、なぜやつらが点呼をスルーできたのかの確証も得ることができていない。つまり、なんらかの裏のルールを知りえた人物がいる。それが、一之瀬や神崎なのかはたまた別の人間なのか。糸を引く黒幕がいるように思える。

 

もう一つはDクラスの綾小路の存在。

鈴音や一之瀬の金魚のフンかと思ったら、そうとも言えない。

だが、いくら様子を探らせても、あいつはただただ学校生活を謳歌しているような情報しか入ってこねえ。

成績優秀な副会長だからとすんなり黒幕と決めつけるには違和感がある。

いつの間にか、真鍋たちやひよりたちと交流を持っているのも気に入らねえ部分で、あいつらが間者になっている可能性も疑う必要が出てくる。

今回の出場表は、真鍋たち、そしてひよりには、それぞれ偽の情報を渡す。もし、その表を参考にしたような形跡があればそいつは黒だ。

それに引っかかれば綾小路も一気にきな臭くなるぜ。

 

だが、綾小路の恐ろしい点はそんなところじゃない。

ただの女好きかと思ったら、諸藤曰く男もいけるらしいからな。

 

ある日アルベルトが興奮しながら、『Mr.Ayanokoji』『play』『together』 『exciting』とかなんとか言ってきやがったときは、さすがに戦慄したぜ。

ひよりから詳細を聞くまで、アルベルトとも距離をとっちまったじゃねえか。

俺もターゲットにされないように注意するさ。

冗談がすぎたな、アルベルトが注目するほどの運動能力の持ち主が、体育の授業の成績は平凡。生徒会に入って鍛えなおしたのか?そんな馬鹿なことはないだろ。

こいつは実力を隠していると考えた方が自然だ。本当に得体のしれないやつだぜ。

今回どう動くかで、コイツへの対応も決める必要がありそうだ。

 

「龍園さん、どちらに行くんすか」

 

「クク、呼び出しをくらっちまってな。おもしれえ話を聞けると良いんだがな」

 

アイツがオレに何の用かはわからねえが、このタイミングで声を掛けてきたからには体育祭関連だろう。精々興味のそそられる話だと良いんだが。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

放課後、生徒会に顔を出すと桐山と一之瀬という珍しい組み合わせで話し合っている。

 

「それで他に2年白組に戦力になる先輩はいらっしゃらないんですか?」

 

「いるにはいるが、いないような者ならいる」

 

「……とんちか何かですか?あ!綾小路くん、お疲れー」

 

どうやら体育祭の白組同士、対策を考えていたようだ。

こちらに気付くと、元気に挨拶をしてくれた。

 

「ああ、お疲れ。邪魔になりそうなら出ていくが……」

 

「あ、ううん。全然大丈夫だよ」

 

赤組のオレが聞くのはマズいかと思ったがそうでもない様子。

 

「聞かれたところで大差ないからな。それだけ、赤組との戦力差は問題だ」

 

「まだ諦めるのは早いですよ、桐山先輩。先ほどのいるようないないような人は何なんですか?」

 

「2年Bクラスには鬼龍院という生徒がいてな……アイツさえ本気になってくれれば、少なくとも2年白組の女子は負けないだろうな」

 

とてもタイムリーな話題が出てきた。

鬼龍院についてはオレも気になっていたところだ。

 

「そんなにすごい方なんですか。でしたら協力をお願いしに行きましょうよ」

 

「無理だな。それができていれば、俺たちはまだAクラスだったはずだ。アイツの気まぐれに振り回されて、チームワークは乱れ、南雲にそこを突かれた」

 

桐山は普段生徒会では見せない辛酸をなめたような表情をしている。

 

「逆に言えば、鬼龍院先輩さえ頑張ってくだされば、まだAクラスを目指せるんですか?」

 

「綾小路も気になるのか。いま俺たちと南雲のクラスのクラスポイント差は700に近い。だが、それでもあと1年半で巻き返せるかもしれないと思えるほどの力を持っている。単純な力の戦いじゃ、南雲も勝てない、かもしれないな」

 

「そ、そんなにすごい先輩がいたなんて……」

 

「ああ。それだけに悔しい限りだ。アイツさえ、真面目に取り組んでくれれば……」

 

「ちなみにどんな説得をなさってきたんですか?」

 

「そうだな、プライベートポイントでの交渉、クラス内での立場、あらゆる娯楽……中には代わりに宿題をすべてやってやるとか、おおよそ思いつく限りの材料で説得したが……まるで聞く耳を持たなかった。あいつは個人としての成績は保とうとするが、その他は興味がなければノータッチだ。ちなみに去年の体育祭も走るだけ走って、団体競技や重要な競技は欠場した」

 

「それは中々厄介ですね」

 

「何に興味を持たれるのかがわかればいいのかな、って思うんですけど難しいですよね」

 

「強いて言うなら友人がいないだとか、自分の魅力を引き出せる殿方がいないだとか、そんなことを嘆いていたが、論外だな」

 

「……青春をしたいのかも?」

 

「それこそ滑稽な話だな」

 

結局答えは出ないまま話は終わってしまった。

しかし、これは高円寺攻略のきっかけになるのではないだろうか、そんな予感もした。

 

 

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