ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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兄妹の在り方

「堀北さんのやり方にはついていけない」

 

散々な言われようだったが、結論はその一言に集約される。

もちろん、堀北のスパルタ指導は問題だったが、前提としてクラスメイトは詳細も聞かずその方針で同意していたため、どっちもどっちではないかと思う。

口下手の言葉足らずな堀北と安易な考えですぐ自己判断するクラスメイト、まだお互いのことを理解できていないために起こってしまった事件だろう。

 

「あなたたちはどこまで愚かなの。今回は難解な特別試験ではないし、どんな問題が出るかわからない筆記試験とも違う。ただ体を鍛えれば活躍できる可能性が高まる。ここで頑張れないようなら、いつ頑張るのかしら」

 

「お前ら、鈴音の言う通りだ。明日からやるの精神じゃダメだろ」

 

須藤も堀北を助けようと懸命だ。

こんな状況でも堀北のために声を上げられるのは、すごいことではある。

ただ、日頃の行いからこの発言はまったく意味をなさないだろう。

 

「健、お前も勉強後回しにして全然やんないじゃん」

「須藤君、人のこと言えないよね、ホントさ」

「自分が運動できるからって調子乗りすぎ。これまで私たちがどれだけ迷惑かけられたと思ってんの」

 

火に油を注ぐとはこのことか……。火力が上がり、須藤にも飛び火している。

 

「無駄話は止めてくれないかしら。あなたたちは口ばかり動かして、そんなに元気なら腕立ての1回や100回できると思うわ」

 

決して須藤を庇ったわけではないのだろうが、さらに油を注ぐことで、再び標的は堀北になる。

 

「あ~ぁ、もうやってらんない、向こうで休んでるから1人でやってれば?」

「オレもそうすっかな」

「マジムリー」

「堀北さん、もっといい人だと思ってたのにー」

「ま、どうせAクラスが頑張って赤組は勝つっしょ」

 

少しも折れる気配がないどころか嫌味まで返してくる堀北の態度に教室に戻ろうとしたり、その場で座り込んだりとクラスメイト達は完全にやる気をなくしてしまった。

 

平田もなんとか止めようとしてはいるが、どうにもならない様子。

 

「みんな待って!こんなの悲しすぎるよ」

 

田の悲痛な叫びに一同はぎょっとして注目する。

 

「ちょっと頑張り過ぎちゃっただけなんだよね、堀北さん。みんなに謝ろ。それでトレーニングメニューを見なおせば、みんなも許してくれるよ。ね、みんな」

 

「まぁ桔梗ちゃんがそういうなら……」

 

このタイミングを狙っていたとしか思えない、まさにトドメのキラーパスが放たれた。

自分の株を上げつつ、堀北を追い込む絶妙なコントロール加減。

もちろん、こんなパスが来ても堀北は華麗にトラップし、シュートをすることはない。

 

「ふざけないで。私が謝る理由はないわ。ここまで愚かな人たちだとは私も思わなかった。これなら1人で戦った方が……いくらかマシよ」

 

そういって堀北はグラウンドから去っていった。

 

「ったく、せっかく桔梗ちゃんが救いの手を差し伸べてくれたのにさ」

「馬鹿だよねー」

「ツンデレもデレがなければただの暴虐女でござる」

 

そんな堀北を誰も止めることはなかった。

 

「お前らそれでいいのかよ。俺は鈴音は間違っちゃいなかったと思う。ちょっと行ってくる」

 

須藤を除いてだが。

 

「待てよ、鈴音。お前は正しいことを言っていたんだ。あんな連中、殴るなりなんなりして黙らせればいいんだよ」

 

「気安く下の名前で呼ばないでくれる?……あなたは結局暴力ばかり。それで解決するわけないでしょ」

 

「わりぃ、いまのは勢いで言っただけっつーか、実際は殴ったりしねえって」

 

「……もういいわ、1人にさせて。あなたと話していると余計疲れるの」

 

「でもよ、堀北……」

 

「あなたがいても何の解決にもならないと言っているの!」

 

「……俺は戻ってくるって信じてるからな」

 

結局、放課後の練習時間も堀北がやってくることはなかった。

代理で平田が指揮を執り、とりあえず、身体の調子を整えることを優先しようという話になり、ストレッチを行って解散となる。

その間、須藤は堀北を探しに行ったようだったが、無駄骨だろう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ストレッチ後に着替えを終えると、生徒会室に来るように堀北兄から連絡が入った。

久々の呼び出しだが……考えられる要件はひとつか。

生徒会室に入ると中には堀北兄だけで、生徒会長の椅子に座りながら外の景色を眺め何かを考えている様子だった。

 

「わざわざすまないな、綾小路」

 

「いや、今日は丁度スケジュールが空いたところだった」

 

「そうか。ここに来てもらったのは……予想はついているだろうが、生徒会選挙に関することだ。お前は会長に立候補する気はないか?」

 

「正直なところ、これっぽっちもないな」

 

「だろうな。お前がそう判断したのであれば、それでいいのだろう」

 

てっきり南雲を倒すために無理にでも生徒会長になれと勧めてくるものだと考えていたのだが、様子が違った。

 

「お前が生徒会に入ってからもう2ヶ月が過ぎたが……学校生活は楽しめているか?」

 

「ああ。あんたの言っていたことはあながち間違いじゃなかったみたいだ」

 

「それなら良かった。どうやら俺はこの学校のために一つの仕事をやり遂げることができたようだ」

 

「言っておくが――」

 

「楽しんでいることと、南雲から学校を守ることはイコールではない、だろ?」

 

「……そうだ。必ずしもオレが学校のために動くとは限らないぞ?」

 

「それでいい。どうするかはお前が決めることだからな。だが、人には守りたいと思う理由が必要だ。楽しくない学校と楽しい学校では心の持ち様が変わってくる」

 

一方的に押し付け強制することに意味がないと堀北兄は考えている。

もちろん、権力を使って無理やり約束させることもできたはずだが、その場合、そこまで尽力もしない上、堀北兄が卒業しいなくなったら反故にしていただろう。

 

あくまでオレの自主性を重んじ、そのための土俵づくりに徹してきたということ。

確かに今の生活はある程度気に入ってきていることも事実。

南雲がこの状況を180度変えようとするのであれば、オレも対応を考えるだろう。

仮の話に意味はないが、これまで過ごした時間がなければ、この学校がどうなろうとこちらに害がない限りは傍観していたと思う。

 

こういったやり方をぜひ妹の方にも伝授しておいて欲しかったし、妹ももっと兄のやり方を見て学んでおいて欲しかった。

憧れは理解から最も遠い感情、というのも本当かもしれない。

 

「そういうことなら、オレも自由にさせてもらう。どうなったかは……そうだな、2年半後にあんたの妹からでも聞いてくれ」

 

「ああ。その時を楽しみにしていよう。……俺ももうすぐ引退だ。最後に少し仕事を見ていかないか?」

 

「そういえば、たまに生徒会室にいない時もあったな。何をしているのかは気になっていた」

 

「すぐにわかる。隣の生徒会相談室に移動しよう」

 

堀北兄に促されて隣の部屋に移動する。

以前ひよりたちがやってきたときの様に、相談事がある生徒との面会に使用している部屋なのだが……

 

「間取りが全然違うな」

 

「そうだろう。この部屋は真ん中に間仕切りの壁を設置することができる。その際、お互い声は聞こえるが向こうの部屋の様子はわからなくなる。時には、ここで生徒の抱える悩みを聞くのも俺の仕事だ。匿名性を守りつつ、ここで聞いた内容は絶対口外しないことを約束することで、生徒たちも安心して相談することができる」

 

さながら懺悔室のようだった。

この学校はその特性故に、下手に弱みとなるような話を他者にすることはできない。

いくら信頼している友人でも、話してしまったが最後で、いつ裏切られるかわからない、そんな恐怖に今度は頭を悩ませることになるかもしれない。

だが、この学校で一番信頼できるであろう生徒会長が匿名性を保証してくれるのであれば、これ以上の安心はないだろう。

 

「以前も話したが、特別試験や筆記試験の結果で退学者が出ることは否定しない。それだけの覚悟を持って取り組み、戦うことで生徒の成長を促しているのだからな。ポイントによる救済措置もあり、よほどのことがなければ不幸は起きない。だが、それとは違うところで退学になる生徒も一定数存在する。学校に馴染めなかったもの、暴力行為・犯罪に手を染めてしまったもの、友人関係で上手くいかなかったもの、誰かに陥れられたもの……様々だが、俺はそういった生徒の力になりたいと、この2年半もの間、生徒会で活動してきた」

 

そう話す堀北兄はこれまでここで出会ってきた生徒たちのことを思い出していたのか、少し寂しげな顔をしていた。

 

「特にこの1年間は多くの相談があってな。中には救えなかったものもいた」

 

誰とは言わないが、どこかの金髪のせいだろう。

恐らく情報の統制をしていた南雲の手口を詳しく把握していたのは、ここで被害者から相談を受けていたからだったのか。

 

そして、秘密にしなければならないそれを話したということは、その悩みを持った生徒たちはこの学校にいなくなっていることを意味する。

 

「今日も1名予約が入ってな。そろそろ来る頃だ。もちろん、俺の他に信頼できる立ち会い人がいることも了承済みだ」

 

「それで急に呼び出したのか」

 

「お前はそこで聞いているだけでいい。俺からの我がままだと思って付き合ってくれ」

 

そう話す堀北兄は優しい表情をしていた。

 

「失礼します。今日は急にすみません」

 

ゆっくりと扉が開く音の後、男子生徒の声が仕切りの向こうから聞こえてきた。

 

「気にしなくていい。そこにある椅子にでも座って、自分のタイミングで話し始めてもらって構わない」

 

「ありがとうございます。……実は、人間関係で悩んでまして、僕には、彼女、いえ、わけあって彼氏のフリをしている女性がいるのですが……」

 

どこかで聞いた声に、どこかで聞いた内容だ。

少し冷や汗が出てきそうだ。

 

「元々彼女を助けるために始めたことだったのに、なんだか最近は彼女の束縛が激しくなって、四六時中監視されてるように感じてしまうというか……情けないことにそれが苦しく思うことがたまにあって。彼女としてもそんな状態でいるのは良くないと思うんですが、どうすることもできず……悩みに悩んでいるんですが、答えが出ずここに足を運んでしまいました。僕は……一体どうすればいいんでしょうか」

 

こちらの想像以上にマズい状態になっていたのか。

頼む、堀北兄、その人徳でこの匿名生徒H君を救ってくれ。

 

「自分に対する重度の依存か……。その気持ちは痛いほどわかる。彼女の目にはお前は輝いて見えて、お前しかいないような気持になっているはずだ」

 

「恐らくそうだと思います」

 

「だが、それは本来の彼女の良さを制限してしまうことになっている。お前がその子のことを思う気持ちもよくわかるが、時にはあえて突き放すことも必要だと俺は考える。最初はお互いきついだろう。だが、それが彼女の成長となり変わるきっかけになるのではないだろうか。そうして這い上がってきたときに、お前が受け入れるのか、もしくはお互いに別の道を選ぶことになるのか、初めて選択できるようになる、俺はそう思う」

 

「優しくするだけが相手のためになるわけではない……。でも、それはどうしても怖いんです。もしかしたら自分の中の違う自分が出てきてしまうのではないか、そんな気がして……」

 

「お前が何を恐れているかはわからない。だがな、この話を聞いているだけでもお前の優しい人柄は十分に伝わった。その想いがある限り、違う自分とやらと向き合うこともできるはずだ。恐れるだけでは前に進むことはできない」

 

「……生徒会長、ありがとうございました。少し希望が見えてきました」

 

「俺でよければいつでも話ぐらいは聞く。また辛くなったら来るといい」

 

「はい!」

 

そういって匿名生徒H君は退出した。

とてもいい話をしていたように思えたが、堀北兄の言ったような行動をとった結果、堀北妹が誕生していることを忘れてはいけない。

第二の堀北妹が誕生しないことを祈るばかりだ……。

 

だが、こうやって悩める生徒一人一人と向き合ってきたのか。

オレは先ほどの相談だけですでに気疲れしてしまった。

これを何人、何十人、あるいは何百人、長い間相談を受けてきた堀北兄の負担は相当なものだったと想像できる。

 

先ほどの彼の様に救われた生徒も多くいるのだろう。

 

「なあ、今日はまだ相談の受付はできるか?」

 

「ああ、可能だ」

 

「ちょっと一人呼んでくる。待っていてくれ」

 

そうしてオレは今回の事件を解決するためのキーパーソンへと連絡をした。

丁度いいタイミングだったのか、程なくしてその生徒はやってくる。

 

「……どうしても助けたいやつがいるんだ。そいつ、口下手というか、俺もあんま人のことは言えないけどよ、ちょっとやる気が空回りしちゃって、クラスの連中から嫌われちまってんだ。でもそいつは強いやつだから、それでもかまわねえって突っ走って……でもよ、バスケもだけどよ、1人じゃ限界ってもんがあると思うんだ。そいつを助けつつ、クラスの連中とも上手くやってもらいたい……説得しようと思ったんだけどよ、俺、馬鹿だから、全然話を聞いてもらえなくって、何の役にもたてねえんだ……」

 

匿名生徒S君が、普段の荒々しい態度からは考えられないような、しおらしく、真剣に悩んでいる想いを吐露する。

なるほど、この部屋はオレが思っている以上に効果的なのかもしれない。

 

「そうか……お前の悩みはよくわかった。だが、話を聞いてもらえないのはお前が馬鹿だからではないだろう。お前のその想いを、もっと素直に相手にぶつけることが大事だな。そのうえで、解決を目指すのであれば空回りしている部分の解決、それが必要だ。恐らくその相手も心のどこかでは自分にも非があると感じている。大切なのはきっかけだろう。そしてお前はそのきっかけになれる」

 

「おお。なんか一人で考えてたのがバカバカしくなるぐらいなんかできそうな気がしてきたぜ。俺行ってくるわ!」

 

「フッ、せっかちなやつだ。具体策を何も聞かずに出ていくとは。……まあその辺はお前がカバーするんだろ、綾小路」

 

「そうかもな。余計な仕事を増やして悪かったな」

 

「気にするな。どうしてなかなか鈴音も良い学校生活を送れているようだ」

 

「……なあ、体育祭、最後のリレー、オレと勝負しないか?」

 

南雲との取引もあったが、この出来事を通して純粋に堀北兄と走ってみたくなった。

 

「お前にしては珍しい提案だ。……だが、いいだろう。その時は全力でお前と走ることを約束する」

 

「ああ。楽しみにしておく。それじゃ、オレはあの馬鹿を追いかける必要があるからこれで」

 

「付き合ってもらってすまなかった。お前にはどうしても見ておいて欲しかった」

 

堀北兄がこれまで守ってきたもの、それを引退前にオレに知ってもらいたかったのだろう。

これからオレがどう判断するにしても南雲政権との比較材料は必要だ。

 

不用な退学者を出す事を防ぎながら、クラスで協力して学校生活に挑んでいく学の方針をオレは深く胸に刻み込むことにした。

 

 




堀北兄、生徒会で一体何をしていたのか問題。

原作であまり何かをしていた様子がないわりに、卒業式の後、多くの生徒、1年生からもとても慕われ感謝されていた堀北兄。きっとこんな活動をしていたのではないかと、解釈してみました。

体育祭、そっちのけになってしまい申し訳ないです。タイミング的にここしかなく……。
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