ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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綾小路清隆VS橘茜

1学期の期末テストが近づいてきた。

Dクラス内では須藤、池、山内の三バカをはじめ

学力に自信のない生徒の悲鳴が聞こえる。

 

前回の中間テストは過去問を3年生から購入する裏技で乗り切ったが

今回同じ手は通じないだろう。

例年問題が全て同じなのは『初回の中間テストまで』でなければ

テストの意味がなくなるからな。

思えば茶柱先生がテスト範囲の変更を教えなかったのは

オレたちをあえて窮地に落とし

抜け道がある可能性を示唆したということかもしれない。

 

今回も勉強会を実施するようで、放課後になると堀北が三バカを捕まえていた。

 

オレも生徒会へ向かうかというところで、平田から声を掛けられる。

平田も櫛田と協力して勉強会を実施すると

朝礼で話していたからそのお誘いか?

平田たちと交流できる機会は貴重だが

テスト勉強は無意味だから断らせてもらおう。

 

「綾小路くん、生徒会に入ったんだってね」

 

「あぁ。雑用係だけどな……誰に聞いたんだ?」

 

想定外の質問だっただけに、情報源の確認は必須だ。

櫛田あたりだろうか。いや、みーちゃんの可能性もあるか。

なぜかよく平田を見てるしな。

 

「昨日、部活前に南雲先輩に話しかけられて、綾小路くんについて聞かれたんだ」

 

あの金髪自称副会長か。また想定外だ。

平田の話だと、生徒会に入る前はサッカー部だったらしく

今でも時々顔を出すらしい。なるほど、生徒会室にいない日が多いわけだ。

 

「それでなんて答えたんだ?」

 

なぜ南雲がオレの探りを入れてきたかは置いておいて

クラス一の人気者で人格者の平田からどう思われているのか、少し興味があった。

 

「えーと、返答に困っちゃって………『特に目立ったところのないクラスメイトです』って答えたよ。」

 

「……そうか」

 

ちょっとショックだった。

いや、平田は事実を伝えただけだから何も悪くない。

 

「あっ、そういう困ったじゃなくて……南雲先輩、サッカーも上手くて普段は良い人なんだけど、時々良くない噂も聞くから、下手に綾小路くんのことを伝えない方がいいのかもしれないと思って」

 

オレが気落ちしていたのを察してか、慌てて補足する平田。

気配りの天才だな、疑って悪かったと反省する。

 

「良くない噂?」

 

「……うん。あくまで噂なんだけど、南雲先輩に逆らった人はみんな退学になってるって話があるんだ」

 

「穏やかじゃないな」

 

生徒会副会長って、他人の退学権も握ってるのか?

そんなはずはないと思うが、今度堀北兄に聞いてみるか。

 

「にわかには信じられないけどね。念のために綾小路くんに伝えておこうと思って」

 

「そうだったのか。わざわざすまないな」

 

「それにしても生徒会なんてすごいね。クラスメイトとして誇らしいよ」

 

それはそれは見事なスマイルで

イケメンの参考書があるなら間違いなく掲載されているだろう。

 

だが、目立ちすぎだ、平田。

周りのクラスメイトにも聞こえていたようで

「え、あんなのが生徒会に?」といった奇怪なものを見る視線が集まっている。

 

「人手不足で困っていたようだからな。誰でも良かったんだと思うぞ」

 

これ以上長居は無用だな。平田に別れを告げ、生徒会室へ逃げ込む。

こっちの部屋の方が落ち着く、なんて日が来るとは思わなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

明日からテスト期間のスケジュールで部活動は休み、生徒会も休みになる。

しばらく活動がない分、その前に必要な仕事を片付けなくてはならなかった。

それなりの量があり、終わった頃にはオレと橘書記だけになっていた。

 

「ところで綾小路くん、テスト勉強はしっかりしていますか」

 

帰り支度をしていると橘書記から話しかけてくる。

 

「ぼちぼちですね」

 

「仮にも生徒会の一員です。恥ずかしい点数をとってもらっては困りますよ」

 

「前回も平均点ぐらいだったので大丈夫かと思います」

 

「えぇっ!?」

 

橘書記のリアクションに何事だろうと、首をかしげる。

彼女のリアクション芸にはある程度慣れたが

そんなに驚かれる部分はあっただろうか。

 

「あなたには今日からテスト期間中、私と勉強してもらいます」

 

「……ん?」

 

「平均点付近なんて有り得ません。生徒会役員たるもの全教科最低90点は取ってもらいます」

 

「嘘だろ……」

 

90点以上を取ることはたやすい。

だが、前回の中間テスト、過去問ありで平均点ラインだった生徒が

いきなり全教科90点も取れるものだろうか。

ちょっと勉強頑張ったんだ、とかいうレベルでは済まない。

悪目立ちすることは間違いないだろう。

 

「不安な気持ちはわかります。でも大丈夫です。学力は学年で5本指に入る私が教えれば、90点ぐらい楽勝ですから」

 

「えっへん」と張り切る橘書記が、小動物のような愛らしい笑顔を向けてくる。

だが、こちらの懸念とはズレた心配なんだ、それ。

 

「あ、でも油断は禁物ですよ。いくら指導者が優秀でも本人にやる気がなければ結果はついてきませんから」

 

いつの間にか勉強することで話が進んでいるな。

考えようによっては

「先輩から勉強を教えてもらったから良い点が取れた」というのは

もっともらしい理由ではある。

 

さて、どうするか。

 

「あ、堀北生徒会長、お疲れ様です」

 

「えっ、会長!?お疲れ様です」

 

オレの挨拶に釣られて、慌てて振り返る橘書記。

もちろん嘘だ。

そもそもそっち側にドアはないため、本当にいたらホラーだろう。

いや、堀北兄なら……さすがにないか。

だが、橘書記にしてみれば

『今日は別件対応で顔を出さない』と聞いていたから、さぞ驚いたはず。

その一瞬の隙に残りの荷物をまとめ、生徒会室から脱出した。

 

目立つ云々の前に、テストで高得点を取ってしまうと

今後クラスの勉強会で教師役を任されるなど面倒事に巻き込まれる可能性が高い。

ここは逃げの一手に限る。

 

「待ちなさーい!」

 

遠くからそんな声が聞こえたが、気づかないふりだ。

 

「こらー、綾小路くーん。今ならまだ許してあげますからー!」

 

振り向いたら負けだ。オレは勉強せずに平均点を取るんだ。

うん、これ、かなり情けない発言だな……

ともかく橘書記を振り切ることには成功した。

 

これで、こちらのやる気のなさが伝わっただろう。

自分の勉強も必要な時期、面倒な1年など放っておくはずだ。

お互い無駄なことに時間を費やす必要はないからな。

 

さて、予期せぬ形で時間ができてしまったが、これからどうするか。

そういえば、この前ひよりからオススメされた本がいくつかあったな。

せっかくだし図書館にでも行ってみるか。

 

そうして図書館で目当ての本を探していると

入口付近に見慣れたお団子頭が現れる。

 

「マジか……」

 

こちらを追ってきたのかと思ったが、テスト前だ。

図書館で勉強する生徒は多い。

運悪くバッティングしてしまったのだろう。

 

席を探しているのかキョロキョロしている橘書記に見つからないよう

棚の死角に隠れてやりすごし図書館を後にする。

 

少し驚いたが、これで橘書記の居場所が確定した。

もうどこに行っても安全だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

先ほどの緊張感からか、のどが渇いたのでケヤキモールのカフェに行くことにした。

ここでも勉強目的の生徒が増えたのか、少し混み合っており、列に並ぶことに。

渡されたメニューに一通り目を通し、なんとなく外を眺めた時だった。

 

た、橘書記がこちらにやってくるのが見えた。

 

「なん……だと……」

 

急いで店を出る。

今日はエクストラホイップに、ショットの追加、ソース変更などを

試してみたかったのに……残念だ。

 

それにしても明らかにこちらの動きを読んで追ってきているな。

何かしら対策をしないと、この追いかけっこは続くだろう。

橘書記がこちらを追跡できる理由をいくつか考えてみるか。

 

①オレの思考パターンを読み切っている頭脳明晰っ子説

②いつの間にか仕込んだ発信機で動きを把握しているストーカー説

③街中の監視カメラをハッキングできる凄腕ハッカー説

④オレたちが赤い糸で結ばれている運命の相手説……はないな

 

くだらないアイディアしかでなくなったところで冷静に分析する。

 

以前佐倉を助けた際に利用したように

学校から支給された携帯端末には

『連絡先を交換した相手の位置情報がわかる』なんていう

プライバシーへの配慮が一切ない恐ろしい追跡機能が標準設定されていた。

だが、そんな機能があると周知されて以来、ほぼすべての生徒が追跡オフにしている。

オレもオフにしているので、その線は恐らくないだろう。

 

しかし、携帯にそんな機能がついていることを知らなかったように

特定の人物の居場所を把握できる、未知の方法があってもおかしくない。

そこはこの学校での生活が長い上級生の特権ということか。

上級生を相手にすることのディスアドバンテージはこういう情報差にある。

 

今の手持ちの情報だけでは正解へはたどり着けない。

未知への対策はどれだけ想像力を働かせられるかどうかだ。

つまり赤い糸説以外を想定し、動かなくてはならなくなる。

 

安全と思われるのは

 

普段行かないところで

電波の届かない

監視カメラのない場所

 

……ないな。

 

ひとまず発信機の類がないかチェックしたのち

念のため携帯の電源を切っておいた。

 

一通り思案してみたが、監視カメラを掻い潜るのがなかなか難しい。

カラオケや銭湯の男湯など、個室や女性禁制でカメラのない場所はあっても

そう言った場所には道中より多くの監視カメラが設置されている。

 

 

こうなると大人しく寮に戻るしかないだろう。

そう思って夕飯をコンビニで購入し帰路についたのだが

なぜか寮の前に橘書記がいる。

 

「嘘だろ……」

 

完全に先回りされた。

向こうに気づかれる前にそっと踵を返す。

 

夕飯を買ってしまったので

寮から少し離れた海沿いの道にあるベンチで食べることにした。

以前、櫛田がストレス発散でフェンスを遠慮なく蹴り飛ばしていたように

ここなら監視カメラはない。櫛田の情報様様だ。

 

「それにしても中々諦めないな」

 

なぜ、こんなに追いかけてくるのか理解できない。

そんなことを考えながら、袋からメロンパンを取り出して口に運ぶ。

程よく口に甘さが広がったところでパサパサになった口に

コンビニで入れたアイスコーヒーを流し込む。

抹茶もいいが、動いた後にはこれだなと

ひと息ついたところで後ろに気配を感じる。

 

「まさか」と思って振り向くと草むらからひょこっと橘書記が顔を出す。

さながらプレーリードッグのようだ。

立ち上がって逃げようにも、鞄はベンチの上で、手にはメロンパンとコーヒー。

コイツらを置いていくのは忍びない。

 

「ハァハァ……やっと捕まえましたよ、綾小路くん」

 

出来る限り対策をしたのだが、どうしてここがわかったのか。

 

「どうしてここがわかったのか?って顔をしてますね」

 

ふふん、とドヤ顔をする橘書記。

汗だくでヘトヘトでなければ少しは様になっていたかもしれない。

 

「私と勉強会を真面目に取り組むと約束するなら教えてあげます」

 

上手いな、こちらの探究心を突いての交渉か。

伊達に堀北兄と共に居るわけではないようだ。

 

ここまで追ってきたことへの敬意を込めて、ここは折れるとしよう。

 

「わかりました。先輩と勉強して90点以上目指します」

 

「もぉ、はじめから素直にそう言ってくれればよかったんです」

 

そういって種明かしをはじめる。

 

「まず、図書館とカフェですが……これを使いました」

 

見せてきたのは、オレも一度は可能性に入れた位置情報サービス画面。

 

「でもオレは位置情報の追跡をオフにしていますよ」

 

「ふふふ、実は生徒会役員に限り、特定の条件でオフ状態の相手でも位置を確認できるんです」

 

「それって色々マズいんじゃないですか?」

 

「本来、生徒がトラブルに巻き込まれたときなど緊急時に使用するものです。信頼のおける生徒会役員だからこその特例とも言えますが、使用には生徒会長からの許可がいりますし、使用履歴も残ります。悪いことには使えません」

 

と言いながら堀北兄とのチャット画面を見せてくる。

 

『会長、綾小路くんの位置を追跡していいですか』

 

『構わない』

 

と、ゆるい確認と雑に許可が降りていたことを証明する。

私用でオレを追うのは悪いことではないのかなど

色々ツッコミたいことはあったのだが、

個人的にはその文の前のチャットでの

 

『今日は堀北君がいなくて寂しいけど、頑張るね』

 

『あぁ。だが、無理はするな』

 

という、やりとりも見えてしまい、ちょっとドキッとした。

二人の時は、堀北君って呼んでるのか……

 

「なるほど。ですが電源を切った状態ではさすがに追跡は無理ですよね?」

 

カフェで橘書記を撒いた後に携帯の電源は切っている。

追跡アプリが使えない中で、学生寮に先回りできたのは——

 

「位置が表示されなくなって、電源を切ったことがわかりましたからね。こちらが取った手段に気づいたのなら、もう寮に帰るぐらいしか選択肢がないと思ったんです」

 

「……お見事です。ですが、寮に着く前に先輩に気づいたので、見つからないようにここに来たつもりでした」

 

正直ここまでは想定したパターンに入っていた。

だが、ここを見つけた方法だけはわからない。

 

「単純な話です。寮で張り込むまでに街ゆく人にお願いをしておきました。こんな生徒を見かけたら教えて欲しいと」

 

オレの写真を見せながら、情報提供をお願いして回る。

聞いてしまえば単純な方法だが

赤の他人からそんなことを頼まれても

真面目に協力してくれるとは思えない。

 

「親切な人がいたもんですね」

 

「えぇ、とてもいい人たちですよ」

 

「ん?知り合いだったんですか?」

 

「ええ。生徒会に入って2年間、多くの方々と交流の機会がありました。おかげで今でも街の皆さんとは仲良しです」

 

生徒会の課外活動のことはまだ知らない。

だが、オレの勉強を見るためだけに、ここまで一生懸命追ってくるくらいだ。

困っている人を全力で助けようと活動してきたことは想像に難くない。

そうした積み重ねで、街の人たちからも好かれているのだろう。

それこそ橘書記が困っていたら喜んで力を貸してくれるほどに。

 

「ちなみに何人ぐらいに声をかけたんですか」

 

「50人くらいですね。今回綾小路くんを見つけてくれたのは北川さんという方で、普段はケヤキモールのレストランで働いてらっしゃる方です」

 

ちょっとした好奇心で聞いてみたのだが

予想以上の大人数で捜索されていたことがわかる。

オレには真似ができない人海戦術だ。

 

「正直、見直しました。橘『先輩』」

 

「ええ、そうでしょう。そうでしょう。やっとわかってくれたようですね」

 

いつも堀北兄の隣にいるリアクション担当の書記、ぐらいの認識だったのだが

ちょっとチョロそうなところはあれど、今回のことで尊敬できる部分も見られた。

 

「では早速勉強を、と言いたいところですが、さすがに今日は疲れました。勉強会は明日からにしましょう」

 

と、その時。

ぐぅー、とお腹が鳴り赤面する橘。

 

「えっと、食べますか?」

 

デザートに買っておいたシュークリームを差し出す。

 

「わぁ」と目を輝かせる橘。

が、すぐに「こほん」と咳込み、平静を装う。

 

「まぁ、もとはと言えば、あなたのせいでこんなことになってるわけですし、当然の対価として頂いておきます」

 

と何とも素直でないことを述べながら受け取る橘。

 

「失礼します」と隣に座り、シュークリームにかぶりつく。

かぶりつくとは言っても一口は小さくずっともぐもぐしている。

ハムスターとかリスとかその辺りの小動物に例えたい。

 

妙な放課後になってしまったが、たまにはこういう日があってもいいかもしれない。

シュークリームを齧る橘を横目に、メロンパンを食べながらそう振り返った。

 

 




原作での期末テストの時期がわからない問題。
須藤の赤点が中間テスト、その後暴力事件、3巻頭には中間、期末を乗り切ったと記載があるため、おそらく暴力事件後~クルージング出発までの空白期間でやっているはず!という予測のもとに執筆しています。間違っていたらすみません。

ちなみに櫛田さんの裏の顔を見てしまう現場は、原作では屋上への途中(?)で、外のフェンスを蹴っ飛ばしていたのはアニメの方になります。基本原作準拠ですが、アニメ要素もいいとこどりできればと。さすがに学校内だと誰かに発見されても文句は言えないと思います、櫛田さん……
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