ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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各々の勝つための手段

1年男子棒倒しの2戦目。

こちらの戦術に付け焼刃の対策で対抗できるはずもなく、ADクラス連合の赤組が勝利を収めた。

 

Cクラスは早めに勝ちを諦めていたようで、Dクラス生への直接攻撃を狙っていたようだが、みんな上手く避けていたようだった。

 

「お見事でした、綾小路くん」

 

テントに戻ると坂柳から労いの言葉をかけられる。

ニコニコしているが、ピリピリした空気感を纏う不思議な状態。

 

「いや、Aクラスの協力のおかげだ。特に葛城の活躍は正直オレも驚いたぐら――」

 

「綾小路くんともあろうお方が、一体『何に』驚かれたというのですか?」

 

「ん?葛城が叫びながら――」

 

「あれは悪質なプロパガンダですね。誤報だと訂正させていただきます。よろしいですね、綾小路くん?」

 

「あ、ああ」

 

いまいち何を気にしての発言かはわからなかったが

坂柳のプレッシャーに頷く以外の選択肢はなかった。

葛城の言う通り、対峙した時のプレッシャーは坂柳の方がアルベルトより重いな。

 

「わかっていただけたようで安心いたしました。次は女子の番ですね。綾小路くんに少しでも楽しんでいただけるよう私も尽力するとします」

 

そう言い残し坂柳はテントへと戻る。

 

グラウンドでは2年男子の棒倒しが始まった。

こっちはこっちで異様な光景が広がっている。

 

「おい、Cクラスどういうつもりだ。作戦ではお前たちが攻め込む予定だったはずだ」

 

桐山の抗議の声が聞こえる。話しぶりからすると相手はCクラスの代表だろうか。

 

「いやね、急に棒を支えたくなったんだわ。お前らで攻め込んでくれや」

 

「くそ、どいつもこいつも。みんな、急ですまないが攻撃へ回るぞ!」

 

そう言って2年Bクラスは慌てて攻撃へ。

 

それと入れ違いに赤組の南雲が殿河や溝脇を引き連れてゆっくりと白組の棒に近づいてきた。

あまりに無防備な南雲の行軍。

防御に回ったCクラスがどうにかするのかと思ったが、誰も南雲を止めようとしない。

 

そのまま棒に南雲が触れると、あっけなく棒は倒れた。

 

「悪いな桐山。こんな野蛮な競技を真面目にやるのは性に合わないのサ」

 

「南雲貴様ッ!」

 

「張り合って面白い相手でもいれば話は別だが、そうでもないならこんなの消化試合でしかないだろ」

 

南雲は事前にCクラスを買収していたようで、成すすべなく2戦目も白組の負けとなった。

勝つという意味では間違いない戦略だが――勝利を手にしたにしては、南雲は退屈そうに空を眺めていた。

 

最後は3年男子の試合となる。

 

こちらは王道ともいえる勝負となった。

堀北兄の指揮で、攻防ともに統率のとれた動きを見せ、1戦目は赤組が勝ち星をあげた。

だが、続く2戦目、後がなくなった白組も死に物狂いで食らいつき、1勝1敗にもつれ込んだ。

 

3戦目では堀北兄自ら積極的に攻撃へ加わり、仲間のフォローもありながら敵の防御陣を棒から引きはがしていき、出会った当初オレに蹴りをかました時のような強烈な一撃を棒にお見舞いすると、良い音を響かせながら棒は吹っ飛んでいった。

なるほど、脚の筋力は、腕の3倍はあるらしいからな、合理的な作戦かもしれない。

 

功労者の堀北兄のもとへ駆け寄り賞賛するチームメイトたち。

堀北兄も軽く手をあげてクールに対応している。

……きっと内心では喜んでいそうだな、なんとなくだがそんな気がした。

 

こうして全学年、棒倒しは赤組が勝利することとなる。

 

女子は棒倒しの代わりに、玉入れが団体種目だ。

1年女子がグラウンドに入場してくる。

 

「みなさん、よろしいですか。練習で覚えた感覚をしっかりと思い出してくださいね」

 

坂柳曰く、玉入れほど簡単な勝負はないそうだ。

要は、弓道の正射必中の考え方と同じ。かごに入る正しいフォームと力加減、そしてかごへの距離を覚えてしまえば、あとはそれを再現するだけ、という主張。

 

「そうね、ずっと投げ続けてたから身体が覚えてるわよ。毎日、1000個入れるまで帰さないってのは正気の沙汰じゃなかったわ」

 

「1個入れるごとに祈りを捧げる感謝の玉入れ1万個にしてもよかったのですが……他の競技の練習との兼ね合いもありましたからね。これでもだいぶ妥協した方だったんですよ?」

 

「アンタも投げるんだったら1万個でも何でも付き合ってあげるわよ」

 

「フフ、神室さんも寂しがり屋さんですね」

 

神室が愚痴をこぼすぐらい、女子生徒はひたすら玉を投げ続けた1か月だったようだ。

 

「風向きなどので必要な微調整は私の方で指示を出します。みなさん、配置についてください」

 

坂柳は、それぞれ一人一人のフォームや癖などを把握し、4チームに分け、かごを囲むように配置している。

チーム内でも前後に並んで5人2列の編成になっている。

 

「それでは玉入れスタート!」

 

係の合図で玉を集めた生徒たちが、先ほどの隊列に戻ってくる。

 

「まずは、ウサギさんチーム、角度を上方に玉2つ分修正……構えて、今です。撃ってください」

 

ウサギさんチームと呼ばれたグループが一斉に投げる。

様々なところから投げると玉同士がぶつかって狙いから外れてしまうことを防ぐためだろう。

投げた玉の全てが入った。

 

「続いてアヒルさんチーム、左に2つ分修正。撃ってください」

 

坂柳の指示のもと、赤組のアヒルさんチームが玉を投擲。こちらも全てカゴに収まる。

にしてもなんだか可愛らしいチーム名だが、坂柳の趣味だろうか?

 

対する白組はどうだろう。

 

「みんなー、この調子でじゃんじゃん投げていこー!」

 

一之瀬が白組を鼓舞する。

玉を回収するチームと投げるチームに分かれているようで、効率よく玉を投げ込んでいる。

ただし、入らないものも多く、おおよそ入る確率は6割ぐらいか。

外してもいいからとにかく投げる、というのが作戦のようだ。

 

「あら、外れてしまいましたね」

 

「ひより、アンタもっと早く投げなさいよ、ほら」

 

のんびりと玉を放るひよりの姿を発見する。

玉を渡す真鍋が急かしているように見えるな。

 

「えいっ」

 

「あいたっ」

 

ひよりの投げた玉が、変な方向へ飛んでいき、玉の回収へ向かった真鍋の後頭部を襲っていた。

茶道部では日常茶飯事の惨劇だが、こうやって傍から見る分には微笑ましく思えるな。

 

『確実に入れる赤組』対『とにかく量の白組』。

作戦の優劣はともかく指揮する人間の性格でここまで様子が変わるのだから面白い。

 

玉入れの結果は途中から赤組は投げる玉がなくなり、全部入れてしまうという結果になった。

時間を多少かけても、制限時間内にすべて入る算段があるなら、負けることはない策だったと言える。

 

こうして1年女子玉入れは赤組の勝利となる。

 

続いて始まる2年女子の玉入れ。

 

どうやらこちらもCクラスを南雲が買収していたようで、玉を拾った生徒が適当な方向に投げ続けている。

2年Bクラスのテントで悔しがる桐山の様子が見えた。

これでは全く勝負にならないだろう、誰もがそう感じた時だった。

 

「全く、南雲もつまらないマネをするものだ。勝負、勝負と言っておきながら、自分で水を差す、意味が分からんな」

 

2年Bクラスの秘密兵器、鬼龍院だ。

彼女も高円寺の様に体育祭にさほど興味を抱いていない実力者だったが、先日交渉し、今回は真面目に取り組んでくれることになっている。

だが、この絶望的な状況をどうにかできるのだろうか。

残り時間はあとわずか、既に赤組のかごには大量の玉で満ちている。白組は半分も埋まっていない。

 

「そんなに難しいことではないさ。じっくり見ているといい」

 

オレのそんな考えを察したのか、そんなことを宣言する鬼龍院。

2年の実力者のお手並み拝見といこう。

 

鬼龍院はCクラスの生徒から玉を奪い取ると、華麗ながらも力強いフォームで玉を放った。

ものすごいスピードで突き進む玉。

だが、それは白組のかごとは全く違う方向へと飛んでいく。

向かった先は――赤組のかご部分と接し支えている棒の根元、そこに玉が勢いよくぶつかる。

バキッという鈍い音が鳴ったかと思えば、棒が折れて、かごが地面へ落下していく。

慌てて逃げる近くにいた赤組の生徒たち。

 

そのタイミングで試合終了のホイッスルが鳴る。

 

結果は赤組0個で、白組の勝利となった。

 

団体戦初の白組勝利に、全学年の白組から歓声が上がる。

 

続く3年女子の玉入れは、特に何も語ることがないような平和な戦いだった。

知り合いも橘ぐらいで、その橘も「えぃ、やぁ、とぉ」と元気よく投げるもののなかなかかごに入らない。

 

「あ、やっと一個入りました!この調子でもっと頑張りますよー」

 

橘応援団が湧き上がる。旗も激しく振られて……って旗を振り回しているのは堀北兄じゃないか?

応援団と一緒に熱心に応援していた。

 

だが、結果は僅差で白組の勝利となる。

 

ここまで赤組が優勢だが楽観視はできない差。

追いかける白組もまだ諦めていない。

 

続いての競技は綱引きだ。

1年男子にとって、この種目はかなり分の悪い戦いではある。

各クラスの能力で計算したところ、単純なパワー対決なら、まず勝てないだろう。

後はどれだけ綱に力を伝えられるか、連携できるかの勝負。

 

「作戦はシンプルだ。背の順に並んで、葛城の掛け声で息を合わせて引っ張っていく。葛城、頼んだぞ」

 

「ああ。任せてくれ」

 

背の順で綱を周りに並ぶ赤組、対する白組はバラバラでBとCの連携はないようだ。

これなら、勝てる可能性もある。

 

スタートの合図で一斉に綱を引く。

あとは葛城の号令に合わせて引っ張るタイミングを合わせるだけだ。

 

「いくぞぉぉぉー」

 

葛城も気合十分だ。

 

「かーるい、かーるい、かーるい――」

 

なんだって?

これまでの練習ではオーエスと言ってなかったか?

 

「「「 かーるい、かーるい、かーるい――」」」

 

Aクラス生は動揺することなく謎の掛け声に合わせていく。

Dクラス内では疑問が生まれたものの、考えている余裕はない。

白組は連携していないにも関わらず、向こうから引っ張られる力が強い。

 

オレたちも合わせるしかないな。

 

「「「「「 かーるい、かーるい、かーるい 」」」」」

 

軽い軽いと言いながらも、踏ん張って苦しい表情になっている赤組の生徒。すごい矛盾だな。

そんな時だった、本当に綱が軽くなる。

 

掛け声の効果が表れた、などではなくCクラスが一斉に手を離したせいだった。

その結果、勢いよく引っ張ることとなり、Bクラス含めほぼ全員が転倒することとなった。

 

1戦目はこちらが勝利したものの、何ともすっきりしない雰囲気に。

 

「クク、優等生も不良品も地べたを這いつくばってる姿がお似合いだな」

 

龍園がこちらの姿をみて笑っている。

 

またしてもCクラスは勝ちを捨て、こちらを攻撃する方向へシフトしたようだ。

幸い、軽く擦りむいた生徒が何人かいたぐらいで、今後の競技への影響はほとんどなさそうだった。

 

「葛城、今の掛け声はなんだったんだ?」

 

「急な変更ですまなかった。坂柳から直前に指示が出てな。なんでも軽い軽いと言った方が綱を引く際に気が楽になるんじゃないかという話だった」

 

「そういうものなのか?」

 

「俺もよくわからん。だが、ノーと言える雰囲気ではなかったんだ」

 

「とりあえず、一回実践したんだ、元に戻そう。練習でやってないことをやると連携に支障が出る。変更はオレの独断だったということで坂柳には伝えてもらって構わない」

 

「そうだな、そうしよう」

 

気を取り直して2戦目に挑む。

 

「「「オーエス、オーエス、オーエス……」」」

 

掛け声の意味は分からないが、こっちの方が落ち着くな。

 

ドーエス、ドーエス、ドーエス……」

 

すぐ後ろにいる橋本から悲痛な叫びが聞こえてきたように思えるが……気のせいだろう。

 

今度こそ一致団結した赤組だったが、先ほどのCクラスの行動を警戒していまいち、力を出し切れていない。

また転ぶのは勘弁だ、そんな雰囲気がある。

何とかしなくてはいけないが……。

 

「お前たち、こんなことで怯える必要があるのか?日頃からオレたちAクラスは重いもの(トップクラスである重責)にさらされているだろう」

 

「俺もそう思うぜ、葛城!」

 

食いつきの良い橋本。

お互いの認識に齟齬があるような気がするが、意思が統一されるなら問題はない。

 

「なら正しい掛け声はひとつだな!」

 

「「「オーモイ!オーモイ!オーモイ!」」」

 

Aクラスの奮闘で徐々に綱がこちら側に寄ってくる。

そうなれば後はタイミングを見切るだけか。

 

龍園が何かしらの合図を出す姿が見えた。

 

「全員、いまだ」

 

こちらも合図を出す。

 

Cクラス、そしてDクラスが一斉に手を離し、綱から距離をとる。

その結果、今度は力のバランスが取れて転倒はしない。

そうなるとAクラスとBクラスの勝負になるわけだが、向こうは大黒柱のアルベルトが抜けたのに対し、こちらには葛城がいる。

 

ものの数秒でこちらに綱が引き寄せられ、赤組の勝利となった。

 

「へ、馬鹿みたいに同じ手を使いやがって。2度も喰らうかよ」

 

今度は須藤が龍園を煽り返した。

もしもの時を想定して、事前にDクラス内で綱を離す練習をしておいて正解だった。

1戦目も変な掛け声に気をとられていなかったら対応できたかもしれないのだが……。

 

ひとまず綱引きでも勝利することができた。

この調子ならDクラスの優勝も不可能ではなさそうだ。

 

「みなさん、試合に勝って、勝負に負けるという言葉はご存じでしょうか?あなた方は今しがた取り返しのつかない過ちを犯しましたよ?」

 

次の女子の綱引きのため、交代する際に坂柳がAクラス男子へとそんな言葉を投げかけている。

てっきり賞賛されるものと思っていたAクラス男子はきょとんとしていた。

 

「お仕置きは後程ゆっくりと考えさせていただくとして、今は体育祭に集中いたしましょう」

 

ゆっくり歩いているが、ズカズカという効果音が似合いそうな様子の坂柳。

 

「坂柳も綱引きに参加するのか?」

 

玉入れとは違い、綱引きはある程度の危険が伴う。

そもそも踏ん張りがきくのかなど疑問があるのだが……。

 

「ええ、もちろんですよ。私にしかできない戦術もありますから」

 

何をするつもりかはわからないが、ここでケガをして残りの競技欠場になるのは赤組のために避けてもらいたい。

 

「その……坂柳は華奢な身体なんだ、無理しないようにな」

 

「ええ、ええ、そうです、華奢ですからね。心配いただきありがとうございます」

 

先ほどまでのズカズカした空気感が和らぐ坂柳。

移動速度は変わらずゆっくりだが、足どりは軽そうだ。

 

 

そんな1年女子の綱引きが始まる。

 

「あぁ~無理をしすぎてしまいました。バタッ」

 

スタートと同時に、綱の先頭にいた坂柳が突然、尻もちをつく。

見え透いた演技……まさか、戦術ってこれのことじゃないよな?

 

「だ、大丈夫、坂柳さん!」

 

一之瀬が見事に引っ掛かり、駆け寄ろうとする。

その瞬間、綱は赤組側に強く引っ張られて、あっけなく白組が敗北した。

 

「フフ、一之瀬さんはお優しいのですね」

 

「大事がなくて安心したよ。無理しない方がいいんじゃないかな?」

 

「そうもいきません、私たち赤組も頑張らねば勝てませんから。華奢な私でも綱を持たねばならないのです」

 

「ううーん、ものすごいやりにくいね、これ」

 

そんな意見にBクラス女子はほぼ賛同している様子。

強く引きすぎて、坂柳が転倒してケガをするかもしれない。

 

勝負の世界で、しかも本人の意思で参加を表明する以上、そこで遠慮する必要はないのだが……。

一之瀬たちの良心に的確に付け込む作戦。見事に弱点をつけている。

 

「狼少女にならなきゃいいんだが……」

 

いざという時に助けてもらえなくなるリスクに目を瞑れば、効果的な戦術かもしれない。

 

そうしてペースを乱された結果、2戦目も赤組が勝利した。

 

 

ここまでの成績は、1年生だけで言えば、赤組が圧勝状態。

全員参加種目の残りは、障害物競走、二人三脚、騎馬戦、200m走か……。

 

龍園たちが仕掛けてくるとしたら、次の競技が一番危険かもしれないな。

順調な結果とは裏腹に、嫌な予感を拭い去ることができなかった。

 

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