ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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私を連れて行って

よし、高円寺を戦力として扱うのはやめよう。今後は禁止カードだ。

 

騎馬戦の結果を見て、そう判断する他なかった。

相手を倒した功績よりも与えた被害の方が大きい。Aクラスから同盟破棄されても文句は言えないレベルだ……。

 

身体能力だけで言えば、突然にも関わらずのオレの投擲に合わせてジャストタイミングで跳躍したことなど、まだまだ底の見えない部分もある。

 

だが、いくら強力な切り札でも、自滅覚悟で使用しなくてはならないのであれば、ただの自爆装置だ。

もし今後オレから高円寺を頼ることがあるとすれば、それはすべてがどうでもよくなったときだろうな。

 

グラウンドから出ると、入場口で2年女子が騎馬戦の準備をしている。

 

「確かに目立ってはいたが、私なら一騎も味方を落とさず同じことができる」

 

高円寺と何やらやりとりをしていた鬼龍院。

その言葉通り、騎馬戦では鬼龍院も宙を舞っていた。ただこちらは事前にそういった作戦で行くと伝えてたのか、跳んで移動しやすいように味方騎馬の配置が意識されている。

ここまでの団体戦を勝利に導いているだけあって、他のBクラス女子生徒も素直に従っているようだ。

ただ、奇襲以外で跳ぶメリットがあるのかどうかは別の話だが。

 

「ったく、高円寺が暴れなきゃもっと高得点で勝てたかもしれねーのによ。お前らがもっと高円寺を縛りつけておけりゃぁな」

 

「無茶言うなよ、健。アイツ気づいたら跳んでいなくなってたんだからさ……」

 

須藤と山内が不満を漏らす。とても騎馬戦を振り返っている会話には聞こえない。

ただ、山内たちは着地の衝撃を恐れてか、付かず離れずの距離をキープしていたのも事実で、それがなければ、高円寺ももう少し大人しかったかもしれない。

……騎馬戦をたった1人で戦うとしたらああいった戦術しかないか。何を考えたところで後の祭りではあるが。

 

須藤たちだけではなく、Dクラスの男子、特に踏まれた人間は不満を露わにしている。

 

「でも一概に否定もできないよ。Bクラスを引きつけてくれたのは事実だし、それに気になることもあって」

 

こんな時でもクラスの和を重んじる平田には頭が上がらないな。

 

「何だよ、気になることって」

 

「実は龍園君の鉢巻を掴んだ時、これが手について滑ったんだ」

 

そう言って指先についたやや粘り気のある透明の液体を見せてくる。

 

「ワックスか何かか」

 

「野郎、とことん卑怯な手を使ってきやがる」

 

「だから、龍園くんの鉢巻は簡単には取れなかったと思うんだ。あのまま粘られてたら、僕らもやられてたかもしれないよ」

 

実際、高円寺に危機一髪のところを救われてもいる。そのことを思い出したのか、須藤もこれ以上追及することはなかった。

 

先ほどの派手な試合と比べると200メートル走はあっけなく終わる。

依然Cクラスからの妨害は継続中でケガこそないようだが、回避でロスする分、各々順位が振るわなくなってきている。

 

長かった前半の部も無事終了し、昼休憩となった。

逆に後半の部は4競技、しかも人数を絞った推薦競技しかないので配分としてどうなのかと思わなくもない。

推薦競技に出ない生徒にとっては、体育祭が終わったようなもの。

程よい疲労と達成感からか、リラックスした雰囲気で休憩を取っている生徒が多い。

 

 

昼食は学校が外部から取り寄せたという、高級仕出し弁当が配布された。

受け取ったのはいいものの、どこで食べたものか。

 

生徒会か茶道部で過ごすことが増え、クラス内での交流を蔑ろにしてしまっていた。

そのツケが回ってきて、こういった時に一緒に食べようぜ!と誘ってくれるクラスメイトがいないのは悲しいところだ。

頼みの綱の平田も軽井沢率いる女子生徒軍団に連れていかれてしまった。

 

堀北の事を笑えないな。

その堀北は須藤を交えて推薦競技の作戦の確認をしており、推薦競技組数人で食事を取っていた。

 

声を掛けられていない以上合流する気にもなれず、仕方がないとグラウンドの端の適当な場所で弁当を広げる。

確かに高級というだけあって、普段コンビニなどで売っている弁当とはまるで違った。

色とりどりの食材を使った多様な品目。程よい味付け。冷めてもおいしく食べられるような工夫も感じられ、弁当の奥深さを味わった。

 

「あれ?綾小路くん、1人ですか?」

 

「ええ。誠に遺憾ながら」

 

どこかに行ってきた帰りだったのか、橘が通りかかった。

そういえば、来賓テントにいるとか言っていたか。

 

「それならそうと言ってくれればいいのに……。会長ーっ!ここでお弁当にしましょう」

 

少し離れたところに手を振る橘。その先には弁当を2つ持った堀北兄がいた。

 

「綾小路か。クラスとの距離ができてしまうのは生徒会の宿命とも言えるな。オレも1年のこの時期は、クラスでの居場所に少し迷いもあった」

 

「アンタがか?」

 

「会長は誤解されやすいですからね。私も最初は周りを寄せ付けないクール男子だと思っていましたし……」

 

「懐かしいものだな。……体育祭もこれで最後かと思うと感慨深いものもある。もっとも今年は例年以上に常識の外のお祭り騒ぎになっているようだが」

 

「……普通の体育祭ってこんな感じじゃないんだな」

 

初の体育祭なので全く勝手がわかっていなかったが、もしかして色々間違っていたのだろうか。

 

「……?不思議なことを言いますね。中学校でも体育祭はあったんじゃないですか?」

 

「あんまり真面目に参加してなかったので」

 

「なら、今年は楽しめているようで何よりだな」

 

そんな他愛のないことを話しながら食べた高級弁当は、先ほどよりも少しだけ美味しく感じられたような気がした。

 

「最後のリレー楽しみにしている」

 

「会長を一番に応援しますが、綾小路くんのこともその次ぐらいに応援してますからね」

 

昼休憩の終了間近、そんなことを言ってそれぞれのテントに向かった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

体育祭後半戦。

推薦競技の第1種目は借り物競争だ。

 

各クラス代表の6人が出場し、1レースで各クラス1名選出、計4名が走ることとなる。

 

ルールはシンプルで、コースを進んだ先にある箱の中からお題のカードを引き、そのお題を借りてきてゴールへ向かう。ゴール地点ではお題の確認と借りてきたものに相違がないかチェックされ、OKが出て初めてゴールとなる。また、難しいお題だった場合は、スタッフに申請後、その場で30秒待てば引き直しも可能だ。

 

走力も大事だが、より運が試される競技だろう。

 

借りてくるもののお題を考えたのは一之瀬だ。比較的簡単にしてあるとこっそり教えてくれたが、どんなお題が出てくるか。

 

第1レースは須藤が出場する。

午前中の疲れを感じさせない走りで箱へと走っていく。

 

「うぉおおおおしゃあぁぁぁぁっ!」

 

カードのお題を見た須藤がガッツポーズを取りながら雄叫びを上げる。

余程簡単なお題だったのか。須藤は先ほどよりも速いスピードでスタート地点に戻ってきて、その先にあるDクラスのテントへ向かっていった。

 

グラウンドの構造上仕方がないのだが、赤組のテントがスタート方向付近、白組のテントがゴール方向付近となるためお題によってはゴール間近で探せる白組の方が有利となる。スタート位置は、公平な抽選のもと決められたらしいので、ここからすでに運の勝負が始まっていると割り切るしかないだろう。

 

他の生徒もお題を探しに各テントに向かい始めた。

そんな中、須藤がテントから出てくる。借りてきた(?)のは堀北だった。

2人してダッシュで走り抜けた結果、1位で到着。

お題は『長髪の女子生徒』だったようで、連れてきた堀北で問題なしと判定されゴールが認められた。

 

なるほど、これならオレでもどうにかなりそうだ。

あのカードをオレが引いていたとしてもDクラスには長髪の女子は結構いるからな。

堀北を選んだのは須藤の好みだったと思われるが走力もあるためベストチョイスだっただろう。

 

続いてオレの番となる。箱へとたどり着き、カードを1枚選ぶ。

 

「……嘘だろ?」

 

お題は『友だち10人を連れてくる』だった。

 

先ほど途中までぼっちメシをしていた男にこの仕打ち……。

 

友だち……平田、みーちゃん、櫛田……一応、軽井沢、堀北はどこかに行ってしまったし、須藤もゴール後の待機列から離れていいか不明、勉強仲間の幸村たちは来てくれるだろうか、Aクラスなら葛城と肩に乗ってる坂柳は来てくれるか……だめだ、どう考えても10人は厳しい。

 

他の生徒はすでに探し始めていた。

1位を狙うならお題の引き直しはもちろん、スタート地点に戻るのも危険だ。

これがBクラスなら何とかなりそうなだけに組が違うのが悔しいな……

 

いや、どうせこのままじゃ最下位の確率が高いんだ。

ダメもとで行ってみるか。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「帆波ちゃん、綾小路くんが走ってるよー」

 

「う、うん」

 

綾小路くんが借り物競争に挑戦している。

本当はBクラスのクラスメイトを応援しなくちゃいけないんだけど、つい目で追ってしまう。生徒会の仲間だもんね、そう言い聞かせる。

 

そんな彼のここまでの成績は驚異的で、でもやっぱりそうだよね、と納得できてしまう。慣れてしまった自分に驚きだ。

 

お題カードを引いた綾小路くんが何やら固まっている。

何のカードを引いたんだろうか。

 

実はこの借り物競争、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、期待を込めてあることを仕込んである。ルールを決めた人の特権ということで、誰かが不利になるわけでもないし、ちょっとした遊び心。

 

色んなお題を入れておいたけど、もし『好きな人』のカードを引いたら、彼はどうするのだろうか。

やっぱりDクラスのテントに向かっていっちゃうのかな。

さっきの騎馬戦での軽井沢さんとのやり取りを思い出す。

気付いたら色んな女の子と仲良くなっている、き……綾小路くん。

クラス内ではどんな過ごし方をしているんだろう……。

一緒に居る時間は私もそれなりに多いと思うんだけど、こればっかりはクラスメイトには及ばない。

なーんて、そんなカード引いたらチェンジだよね。

 

そんなことを考えていると、綾小路くんが意を決したようにコースを走ってくる。

そして一目散にこっちにやってきた。

 

「一之瀬……」

 

「は、はいっ」

 

いつも冷静に的確に話す綾小路くんにしては、歯切れが悪い。

他のカードであれば、組が違うとはいえ、すぐに伝えてきそうなもの。

も、も、も、もしかして、ホントに『好きな人』のカードだったりするのかな。

どうしよう、どうしよう、全く何の心の準備もしてなかった、どうしよう。

 

普通あんなカード引いてもすんなり達成できるのは、伊吹さんと金田君、軽井沢さんと平田くんの様に公認のカップルぐらい。

でも、綾小路くん、抜けてるところがあるというか、変なところで素直なんだよね。

ハードルの時も帆波って呼んでくれたし。

あー、思い出したら余計恥ずかしくなってきた。顔の火照っていることが嫌なほどわかる。鼓動の音もさっきからうるさくて仕方がない。

なんなんだろう、これ。

 

「すまないが、一緒に来てくれないか。組が違うのは重々承知しているんだが……他に頼めることじゃなくて」

 

「は、え、にゃいっ!」

 

思いっきり噛んでしまった。

 

「ない?」

 

「ち、違うの。私で……いいのかな」

 

「もちろんだ」

 

「そ、そうなんだ。だったら、うん、一緒に……行きます」

 

「助かる。それと、網倉も」

 

「え、麻子ちゃんも?」

 

私の隣にいた麻子ちゃんも指名する……確かに『好きな人』に人数制限は書いていない以上、好きな人が複数いるなら連れていくことも可能だね、綾小路くん?

 

「できれば、渡辺、神崎、小橋に白波もお願いできないか?」

 

ここで初めて違和感に気付く。

 

「……んーと、お題のカードって?」

 

「もちろん『友だち10人連れてくること』だが?」

 

もちろんじゃないよ、綾小路くんっ!!!

友だち10人ぐらいで出していい雰囲気じゃなかった。

そう思いながら、緊張していた分、一気に力が抜ける。ああ、なんか綾小路くんらしいな。

でも友だちで、真っ先にここに来てくれたのは素直に嬉しい。

一之瀬とは仕事上の付き合いだけだ、なんて言われるより何倍も喜ぶこと――のはずなんだけどね。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「そういうことなら間違いなく俺たちはダチだな。さっきのお礼もあるし、行こうぜ、みんな」

 

「綾小路に貸しを作っておくのも悪くないな」

 

「私は帆波ちゃんが行くならついていくよ、間近で2人を見守りたいし」

など赤組のライバルであるはずなのだが、快く同行してくれることとなった。

さすがBクラスの面々。ありがたい。

 

残り4人は隣のテントにいる。

 

「ひより、オレと一緒に来てくれ。友だちが必要なんだ」

 

「わかりました。ふふ、お友だちとして呼んでくれて嬉しいですよ」

 

「真鍋、山下、藪もいいか?」

 

「リカの分まで手伝ってあげる。あとで保健室で休んでるリカに声かけてあげてね」

 

そういって4人とも同行してくれることとなった。

ジッと見つめてくる一之瀬の視線が痛い。船上でもそうだったが、Cクラスとは仲良くしにくいのかもしれないな。

小橋は小橋でそんな一之瀬とオレを交互に見比べてニコニコしている。

 

白組1年のテントはゴールの先にあったので、あとはゴールに戻るだけ。

まだ、他の競争相手はゴールしていない様子。何とか間に合いそうだ。

 

「わ、わたし、やっぱり二人の関係、認められません」

 

そういってゴール手前で白波が走り去っていく。

 

「あ、千尋ちゃん、待ってー」

 

そのあとを網倉が追いかけて行ってしまった。

 

マズいことになった……。1人なら最悪ゴール地点にいる須藤を引っ張って来れたが、2人はどうしようもない。だ、だれかいないか。

 

周りを見渡すと、視界に入ってきたのは、来賓テント。

そういえば、こっち側にいるって言っていたな。

 

慌ててテントに向かうと目当ての2人を発見する。

 

「頼む」

 

カードを見せてお願いする。

 

「ああ」「もちろんです」

 

堀北兄も橘も笑顔で応じてくれた。

 

こうして11人でゴールテープを切った。

 

「えー確認ですが、君たちは彼の友人ですか?」

 

スタッフからのチェックに、「はい」「そうでーす」「おう」「ああ」などとB、Cクラスの面々が応えてくれる。

 

「あなた方は3年生ですが、ご友人なんですね?」

 

「もっちろんですっ!綾小路くんは、大事な友だちです」

 

「こちらも相違ない。綾小路は友人だ」

 

「わかりました。彼のゴールを承認します」

 

スタッフの言葉に湧き上がる友だちの面々。

「良かったな綾小路」「1位おめでとう」など祝いの言葉を述べてテントに戻っていく。

 

一時はどうなることかと思ったが白組の生徒8人と、3年の生徒会長、書記という異色のメンツを連れてゴールすることができた。

 

ちなみに、他のお題を見ていたが、シューズや置時計などありきたりなものに紛れて『ア行の名字の女子』『Bクラスの女子』『7月生まれの女子』『生徒会役員』など、かなり限定的なものも混じっていた。

 

もっとも、一番会場が盛り上がったのは、伊吹が『好きな人』のカードを引いて、長考の末、金田を引きずってゴールした時だったが。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

第2種目は四方綱引き。

4クラス代表4名でそれぞれの方向に引っ張り、綱の目印が自分の陣営に入れば勝ちといったもの。

制限時間まで勝負が決まらなかった場合は、目印と陣営の距離で順位が決まる。

 

こちらは事前の取引通り、ABDクラスで、まずCクラスを落とすため、Cクラスと反対方向に3クラスで力を入れる。

結果、正反対に位置するBクラスが有利になるのだが、そこはAとDで両サイドから力を入れ均衡を保ち、3組間での持久戦勝負に。勝機は十分にあったのだが、ここで参加メンバーの三宅が不調を起こす。結果、A、B、D、Cの順番で勝負が決まった。

 

「悪い、実は200メートルの時に少し足を捻ってたんだが、この綱引きで想像以上に悪化しちまった」

 

幸い、三宅の出番はここまでだったため、残りの競技に支障はでない。

 

第3種目は男女混合二人三脚だ。

Dクラスからは堀北&須藤ペアといった確実に勝利を狙うペア

軽井沢&平田ペアといった半ば軽井沢が強引に決めたペアなどが出場する。

オレは練習の結果、最速の成績だった櫛田とペアを組む。

 

「今日の綾小路くんは大活躍だね。それだけの実力があれば、誰かさんを退学にすることぐらい本当は簡単なんじゃない?」

 

「以前も話したが、それを実行するかは櫛田の努力次第だ」

 

「私、役に立ってないかな?綾小路くんがそんな風に思ってたなんて悲しいなぁ」

 

もはやお約束ともいえる、うるうるとした上目遣いでこちらを見てくる。何度見ても騙されそうになるのだから、すごいスキルだとは思う。

 

「あと一歩だとは思っている」

 

「またそうやって誤魔化す。実は退学にする気ないんじゃない?あのふざけたトレーニングもアイツと一緒にノリノリで踊ってたし」

 

「あれは不可抗力だった。プールの件といい、何度か櫛田の気持ちが痛いほどわかるときもあった」

 

「そうだよね、うんうん。わかってくれて嬉しいな。でも私もそんなに我慢強くないよ?一緒に頑張ってくれるなら早く答えを出してね。じゃないと――なーんてね、ちょっとは心配になったかな?」

 

「そうだな。櫛田がいなくなるのは寂しいな」

 

「……ふーん。とりあえず、今はこの競技一緒に頑張ろうね!」

 

「ああ」

 

櫛田との会話が落ち着き、紐を結んでもらっていると、後ろから声がかかる。

 

「私たち、綾小路くんと櫛田さんのペアと一緒みたいだね」

 

「わぁ、一之瀬さんと柴田君のペアなんて強敵だ」

 

「そんなことないよ、柴田君は速いけど、私はそうでもないし」

 

「そうなんだ、意外かも。一之瀬さん何でもできるイメージがあったから」

 

「あはは、実はそうでもなかったり……でも、この勝負は負けたくないかな」

 

「お、やる気なんだね」

 

「なんだか、今日はそんな勝負ばっかりだよ……しかも全然勝ててないんだけどね。それじゃ、またレースで」

 

「うん、お互い頑張ろう」

 

いつもはみんな仲良く、といったイメージの一之瀬だが、今日はやたら好戦的な一面が見える。やはり勝負事に妥協はしない、ということか。

それにしては、綱引きの坂柳の件や先ほどの借り物競争など随所に甘さが見られるが……。

 

第1レースの堀北&須藤ペアは難なく1位を獲得。元々の走力もあるが、あの2人はスズーズブートキャンプ開発から一緒に動いていたため、呼吸も合わせやすかったのだろう。

 

「綾小路くん、櫛田さん、気を付けてきてね」

 

「清隆、ファイト―」

 

軽井沢&平田が応援してくれる。

 

「ああ。二人とも……特に平田、頑張ってな」

 

「うん」

 

「なになにー、私には何かないわけ?」

 

「軽井沢も平田をちゃんと支えてやって欲しい」

 

「あったりまえじゃん」

 

依存だけはダメだぞという真意は全く伝わらないか。

オレと櫛田のペアは、一之瀬&柴田ペアと接戦を繰り広げたものの相性の良さの差で1位を獲得した。

何せこちらは退学で息が合ってるからな。流石の櫛田も周りに人がいるレース中はあの掛け声は発さないものの、1ヶ月の練習の結果、頭の中で自然と再生されるようになってしまっていた。……これ軽い洗脳ではないか。

 

事件が起きたのは、3レース目。

軽井沢と平田の番だった。

 

ここまで大人しくしていたCクラスが再び攻撃を仕掛ける。

その攻撃先が、平田なら避けれただろう。

だが……

 

「軽井沢さん、危ないっ!」

 

軽井沢を狙った肘打ちを庇う形で平田が転倒。

それに合わせてCクラスのペアも平田に覆いかぶさるように転んだ。

 

平田の苦悶の声が、勝利へと高まっていたDクラスのムードを一瞬で冷ますこととなる。

 

 

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