ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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勝敗を分けるもの

死の間際、世界がスローモーションになり、これまでの出来事が思い出される――いわゆる走馬灯を見たような、という体験。

あれは死の危険に立たされたことを自覚した際に、脳が限界を超えて集中力を高め、これまでの経験から何かこの危機を脱する生き残る術がないかを探っている、なんて説もあるらしい。

……オレがもし走馬灯を見ることがあれば、きっとそれは真っ白な世界ばかりになるところだったな。

 

 

話を戻すが、何が言いたいかというと、極度に集中した状態では、情報量が増え普段よりも時の流れが非常にゆっくり感じられるということだ。

そういった集中力を限界まで高める訓練はホワイトルームで行ってきた。むしろこれができないと生き残ることができない世界でもあった。

 

桐山が走り去ってから10秒ぐらい経ったような体感だったが、実際は5秒ぐらいだったようだ。

きっと前の話も5秒に書き換わっている。

 

堀北妹がバトンを渡す際に、オレが受け取ったことを見るや否や、兄貴の方をガン見していたことも、スローな世界でしっかりチェックしていたし、それを見た堀北兄の表情が少し緩んだことも確認した。

この体育祭、ここまでの堀北妹の努力が少しは報われたかもしれないな。

 

そんな刹那のバトンタッチのやり取りを観察し終え、目の前の勝負へと思考をシフトする。

ほぼ同時のスタートではあったが、横の並び順はイン側からオレ、堀北兄、南雲の順番である。

走力がほぼ同じであれば、あとはコーナーのインコースに近いオレが有利な状況。

 

それぞれが踏み出す一歩一歩、そのすべてに渾身の力が籠められている。

生徒会トップ3の激走に、会場は盛大な声援に包まれる。

白組はお通夜状態だったが……誰か桐山の応援をしてやって欲しい。

 

直線では3人とも前を譲らず、ほぼ横並びの状態でコーナーに入る。

イン側にいるオレが少し前に出た、その時だった。

 

「コーナーに入れば勝てると思ったら大間違いだぜ。俺には、この日のために俺専用でメーカーに特注、開発したこのシューズがある。コーナーで差をつけてやるぜ!いっけえぇぇぇシュンソクー!!!」

 

南雲が加速する。

その靴に何か秘密があるのか。

そういえば、装備品に関しての規定は特になかったな。というより、これを目論んでいたため、ルールチェックの際にあえて触れなかったのかもしれない。

 

「開発に100万ポイントかけたんだ。負けるわけにはいかねえぜ」

 

言葉通り、アウト側にいたにも関わらず、南雲が一歩前に出た。

 

俺の見立てだが、3人とも最高速度は同じぐらいの実力を持っている。

大体、高校生の肉体の限界値に近い速度だろう。

これ以上の速度を目指すのであれば、走りにおける才能、すべてを陸上に捧げた研鑽の日々、そして恵まれた肉体が必要になる。

 

実力が拮抗しているなら、勝敗を分ける要素の一つに、使用する道具が関係してくるのも確かな事実だ。

 

南雲がそのままコーナーで先頭をとり、インコースに入り込む。オレはその後ろにぴったりと張り付く。

 

堀北兄はアウトインアウト、なるべく曲がる量を減らし、コーナリングでの減速を抑えた無駄のない走りを見せている。

 

そしてコーナーをまもなく抜けて、ゴールに向かう直線が見えてくる頃、遂にイン側でコーナーを走る桐山を背中を捉えた。

 

勝負所はここだ。

桐山をどう対処するか。

 

イン側ギリギリにいる桐山を抜くためには右から抜ける必要がある。

だが、その避ける行動がロスになる。

それを見越していたのだろう、堀北兄はこのコーナーで、無理なく桐山を抜けるアウト側の位置をキープしていた。

 

最後の直線に入った瞬間、一気に加速する堀北兄。

コーナーでの減速が少なかった分、スピードに乗るのもはやい。

南雲の横に並ぶ。

 

「邪魔だ桐山!どきやがれ!」

 

堀北兄の加速について行きたいが目の前の桐山が障害となる南雲。

 

「俺にだって意地は、あるッ!」

 

珍しく叫ぶ桐山。南雲に抜かれまいと必死の抵抗を見せた。

仮にここで桐山が南雲に勝利することができれば、自信をつけることができるだろう。

その自信が独走を許している南雲体制へ一矢報いるきっかけになるかもしれない。

このタイミングでなら、南雲の進路を抑え込みアシストをすることは可能だ。

実際、桐山にはもう少し踊ってもらいたい気持ちがないわけではない。

そのための起爆剤として仕向けた鬼龍院は本当によく働いてくれた。

堀北兄の引退を間近に死んだ目をしていた桐山が、ここに来てかなり息を吹き返したからな。

 

だが、それをすればこの勝負を捨てることになる。

それは少し惜しい気がした。

 

オレは南雲の後ろから堀北兄の後ろへポジションチェンジする。

そして、堀北兄に続き、南雲、そして、桐山を抜き去る。

 

慌てて南雲も桐山を抜き去るが、一歩遅れた3番手。

走力が同じであれば、勝敗を分ける要素はもちろん道具以外にもある。

 

 

ゴールが近づいてきた。

 

ここまで南雲を風よけにして温存してきた体力を一気に使い加速し、堀北兄との距離を詰めていく。

最高速度は似たようなものでも、その速度をどのくらい維持できるかといった持久力は違う。

先にスパートをかけた堀北兄がどこまで保てるか。

 

徐々に視界が狭まっていき、大きかった声援も耳に入らなくなっていく。

 

ただ、目の前の男を抜き去ることのみに集中する世界。

オレの人生の中で、こんなに誰かを意識して、だだっ広い大地を走る日が来るとは思わなかった。

ほら――もっと加速するぞ――

 

近づく堀北兄の表情を見て、走馬灯ではないが、ふと今日1日の出来事が頭を過ぎる。

 

出場表をコントロールするなど裏で画策したオレ

資金力と支配力で勝てる試合を作った南雲

仲間と協力して正々堂々戦った堀北兄

 

同じ生徒会役員とは言え、三者三様の取り組み方だったが……

一番体育祭を楽しんでいたのは、堀北兄だったかもしれないな。

 

 

ゴールまで僅か数メートル。

オレは堀北兄に並んでいた。

この一歩、力を込めて踏み出せば、追い抜ける――

 

「会長ー!頑張ってくださーい!!」

 

決して大きな声ではなかったはずだが、この数か月で耳に馴染んだ声が聞こえ、意識がこっちの世界へと戻ってくる。

そして、その声援は確かに堀北兄にも届いてた。

 

ゴールテープが切られる。

 

怒号のような大歓声が、今度ははっきりと聞こえた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「さすがのあなたも兄さんには敵わなかったようね」

 

「オレにももっと声援があれば違ったかもしれないぞ」

 

「心にもないことを言っているうちは兄さんには勝てないんじゃないかしら」

 

「全力で戦ってきたソルジャーに対するセリフとは思えないな」

 

体育祭の閉会式後、結果が発表された巨大な電光掲示板を眺めながら、ご機嫌な様子の堀北に話しかけられた。

 

誰かの声援でパワーアップする、そんなことはあり得ない、そう考えていた。

だが、最後の最後、勝敗を分けた要因は、優れた道具でもなければ、計算された策でもなかった。

 

それは他でもないオレが求めているもの、ホワイトルームでは学べなかった要素。

いつかオレも、それを自分のものとして体感できる日は来るのだろうか……。

 

「ちなみに堀北が応援していたのは?」

 

「もちろん兄さんよ。綾小路くんは2番目ね」

 

「お前な……」

 

「白組の2年生を抜いた時点で、赤組がトップ3を独占。1年ではDクラスの1位が確定したもの。だったら、勝敗に限らず応援したい人を応援するのが一番よ」

 

1年での優勝は決まったのだから、あとは自由にさせてもらったということ。なんとも堀北らしい。

オレが堀北兄と同じものを体感できる日は遠いようだ。

 

総合結果は赤組の勝利。

 

1年の順位は、1位Dクラス、2位Bクラス、3位Aクラス、4位Cクラスとなった。

 

団体戦では振るわなかったBクラスだったが、出場表の配置の強みを活かし配点が高い推薦競技で好成績を収め、最後のリレーでも5位になったことで、Aクラスを抜いたようだ。

 

ちなみに最優秀生徒は堀北兄となり、学年別最優秀生徒は無事オレが獲得できた。こちらも最後のリレーの配点が大きかった。

報酬は1万ポイントではあるが、他の個人競技の報酬と合わせると、41,000ポイントとなる。

なかなか稼げたと喜びたいところだが……リレーで平田の代役費10万ポイントはオレが払っている。

もちろん、保健室で安静にしている平田に請求しに行けば払ってくれるかもしれないが

名誉の負傷をした平田から、さらに10万ポイントをむしり取るといった非道な真似はとてもしづらい。

クラスで折半が妥当な線なのだろうが、こういう時に言い出せないのが悲しい性分だ。

こんな時、誰も気づいてくれないのもDクラスらしいところではあるな……。

 

だが、気づかないのも今回に限っては仕方がないかもしれない。

なぜなら――

 

「今回の結果で、今度こそ私たちのクラスが昇格するわ」

 

堀北がご機嫌だったのは、兄貴の活躍だけが理由ではない。

この体育祭で1位になった結果、オレたちは50クラスポイントを獲得に成功。

他クラスはマイナスになったためクラスの変動があった。

 

「マジかよ、堀北のおかげだぜ!」

 

「いいえ、皆で頑張った結果よ。私たちのクラスはもっと強くなる。この調子でAクラスを目指していきましょう」

 

「おうよ!」

 

須藤をはじめ、多くのクラスメイトが堀北に賛辞を送り、自分たちの健闘を称え合う。

Dクラスの結束は、今回の体育祭を経て、強固なものになった。

もう他クラスから攻め込まれても、簡単には負けないだろう。

オレの手を離れる日も想像以上に早いかもしれない。

 

このまま無事に11月になれば

生活態度やテストの結果で多少の増減はあるだろうが

 

坂柳Aクラス   1324クラスポイント

一之瀬Bクラス   979クラスポイント

堀北Cクラス    503クラスポイント

龍園Dクラス    292クラスポイント

 

ということになる。

 

今回の体育祭でクラスが変動したのは、ほとんど龍園クラスの自爆のような形だったが……今後どう動いてくるか、気になるところだ。

だが、どんな手を使おうとオレのすることには変わりはない。

堀北兄と一緒に走って、その気持ちがより一層強くなったように思う。

 

「よし、これから平田に結果報告だ!みんな行こうぜ」

 

須藤の掛け声に、保健室へ移動を始めるクラスメイトたち。

そんな一回り成長した彼らの姿を見送りながら、龍園の次の手に対しての検討をはじめる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「龍園、このままじゃDクラスじゃない。まともに戦ってたらもっとマシな結果になったんじゃないの」

 

「そう騒ぐな、伊吹。この体育祭はどうあがいても俺達は最下位だったんだよ」

 

「はあ?」

 

「俺が出場表を売ったからな。それだけで300万プライベートポイントだ。悪い取引じゃなかったぜ」

 

「何それ。結局アンタしか得してないじゃない。そのポイント、クラスに還元するんでしょうね」

 

「クク、それはもうしばらく先だ。今はそれ以上にやることがある」

 

「それはクラスのためになるのよね?」

 

「もちろんだぜ、なんせ目障りなBクラスを潰せるんだからな」

 

今回の体育祭でわかったことがいくつかある。

Bクラスの背後にいる存在、そしてその存在が置かれている状況。

そいつはご丁寧にBクラスの弱点まで教えて行ってくれた。

 

つまりこの俺を利用する気なんだろう。

面白いが、馬鹿な野郎だ。逆にこっちが利用して大量にポイントを頂くことにする。

そのための先行投資と思えば、今回クラスポイントが減ったことぐらい些細なことだろう。

 

次の特別試験、恐らくそこが攻め時になる。

 

掲示板に映し出された2位の結果に、悔しがるのではなく、喜びあっている呑気なBクラスの連中。

そんなBクラスが絶望に顔を歪ませる姿が目に浮かんでくる。

それまで精々最後の学校生活を楽しんでおくといい。

これまでのツケ、しっかり払ってもらうぜ、一之瀬。

 

 




体育祭編終了です。


描き終わった後に念のため原作を読み直して気付いたのですが、
堀北兄との勝負の描写で

「1つ目のカーブを越え、直線を越え、そして最後のカーブへ。」

とあるのですが……なんで2回カーブが出てくるのかわからず……。

もしかしてゴールは、
カーブ終了地点にある?
もしくはトラック一周200mだった?(400mだと思っていましたが……)
陸上経験が学校の授業ぐらいだったため、そこら辺の感覚がわからず……。
完全にアニメの描写に騙された感があります。

そもそもアニメでは松下さんが走ってた気がしますが、原作では前園さんじゃん!と今更な気づきが増え……
大きなリードがある中、小野寺さんを抜き去る網倉さんの時点で疑ってかかるべきでした。柴田もいないし。※こんなことを言っていますが、アニメはアニメで好きです

すみませんが、その辺はご容赦頂ければと思います。
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