ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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完璧なあなたへ

体育祭が終わったのもつかの間、オレたちを待ち受けていたのは……中間テストだった。

 

文武両道とはよく言ったもので、体育祭、中間テスト、生徒会選挙、中間テスト結果発表と慌ただしいスケジュールだ。そしてこれは生徒会役員だから持つ情報だが、次の特別試験もすぐ迫っている。こちらをどうするかも検討する必要があるだろう。

 

「ということで、引退間近の私ですが、このままじゃ、安心して引退できません。なぜだかわかりますか、はい、綾小路くん」

 

放課後、生徒会室で作業をしていたところ、橘が一方的に話を始め、一方的にオレに振る。

 

「そうですね……遊び足りてないとかですか?」

 

「残念、不正解ですッ!いえ、確かにもっと皆さんと色々遊びたかった気持ちがないわけではありませんが、それは生徒会と関係ないですからね」

 

ふざけているような予想でも、こと橘に対しては割といい線いってると思ったんだが、どうやら違うらしい。

 

「綾小路くん、あなたの成績のことです!前回の期末テストは、私の勉強会の成果もあってオール満点でしたが、今度の中間テストでも同じように行くとは限りません。もし、成績が落ちるようになっては生徒会の面目丸つぶれです」

 

「大丈夫だと思いますけどね……」

 

「いいえ、一度の成功で満足してはいけませんよ。2回、3回と好成績を残すことで、初めて実力が認められるものです」

 

「なるほど?」

 

釈然としない説明に曖昧な相槌となってしまう。

そこでここまで黙って聞いていた一之瀬が橘に聞こえないよう耳打ちをしてくる。

 

「綾小路くん、多分橘先輩は、引退前にまた勉強会をしたいんだよ。ただ、綾小路くんの前回のテスト結果が結果だっただけに、自分から勉強会をするって無理強いができないんじゃないかな?」

 

「そういうことか」

 

「橘先輩も今更、綾小路くんの力を疑ってる、なんてことはないと思うし」

 

毎回テストの度に勉強会をするとは言っていたものの、これまでのオレの言動から橘も、実は勉強会はいらないかもしれないと悩んでいるということ。こんなことで悩むなんてらしくない。橘は素直が一番だ。

 

「えーと……確かに橘先輩の言う通りですね、今度のテスト範囲で自信がない部分もありますし、体育祭にかまけて勉強も少し疎かにしていました。先輩さえよければ、また勉強会を開いてくれませんか?」

 

「もちろんです。綾小路くんがしっかりと生徒会を続けられるようにするのが、私の役目ですからね」

 

とはいっても中間テストは3日後。

そして生徒会選挙……正確には、南雲の就任の挨拶がその翌日となる。

本来なら引退前の3年生はここに来る必要もない。つまりこの勉強会を開くのは――

 

「では、さっそく始めましょう」

 

「橘先輩、私もご一緒していいですか?」

 

「もちろんです。一之瀬さんも大切な後輩ですから」

 

「ありがとうございます。綾小路くんが満点を取れるようになった勉強会楽しみです」

 

「ふっふっふ、これで一之瀬さんも覚醒してしまうかもしれませんね」

 

自信満々の橘。とても楽しそうだ。

こうして生徒会で橘たち3年と過ごす最後の時間を過ごしていく。

その一秒一秒を忘れないようにしっかりと記憶する。かけがえのない時間だったといつか思い出す、そんな予感があった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

帰宅後、オレの部屋の鍵が開いていることに気付く。

今朝、閉め忘れた……なんてことはないよな。

 

「あ、お帰りなさい。綾小路くんっ!今日も遅くまでお勤めご苦労様です」

 

新妻が仕事帰りの旦那を迎えるような雰囲気で櫛田が出迎えてくれる。

 

「私たちもこんな関係になって長いじゃない?ほら、そろそろいいんじゃないかな。親からもまだか、まだかって結構期待されちゃっててさ……ね?」

 

頬を赤く染め恥じらいながらもじもじと言葉を紡ぐ。

不思議だな、普段は何を企んでいるか読みにくい櫛田だが、次にいう言葉はわかる。

 

「堀北退学にしちゃってもいい頃だと思うの」

 

オレの手を取り、両手で握りしめ満面の笑みで訴えてくる。

予想を裏切らない、安定の櫛田さん。……そもそも親も期待してる退学ってなんだ?

 

「茶番劇に付き合うつもりはないぞ?」

 

「冷たいなぁ、まるで堀北みたい」

 

「それは全力で否定させてもらいたい」

 

「ま、今回の本題はそっちじゃないからいいけど。せっかく作ったし、ご飯食べながら話そうよ」

 

「……ああ」

 

追い返すことに失敗してしまった。

というより、食事まで作って待っていられると理由もなしに追い出すのは難しい。

体育祭での堀北の活躍。クラスは徐々に堀北をリーダーと認めはじめている。

櫛田にとってはストレスが溜まる一方だろう。

 

「ていうか、体育祭の1位って、堀北のおかげっぽくなってるけど、8割方綾小路くんの活躍ありきだったじゃない?みんなわかってないなー。そもそも、あんたが自分の活躍を主張しないせいで、あの女が付け上がんのよ。しっかりしてよね」

 

「いや、できるなら目立つつもりはないからな」

 

「わかってないわね。いい?せっかくそれだけの実力があるんだから――」

 

そんな愚痴なのか褒めてくれているのかわからない会話に付き合う。

食事は美味しかったが、次があるならもっと楽しい話題を希望したい。

 

「それで本題に入るけど、私との約束覚えているわよね?」

 

「綾隆で販売を手伝ってもらった時のやつか」

 

「そうそう。勉強教えてくれるんでしょ?学校じゃ目立つから、今日から放課後はここで勉強会ってことで」

 

「……カフェとかでもいいんじゃないか?」

 

「多分、それだと2人でって無理になると思うよ?」

 

「あー……」

 

櫛田は人気者だ。勉強会をやっているとわかれば、飛び入り参加を希望する生徒が現れてもおかしくない。

 

「いま、他人事のように考えてるでしょ?」

 

「どういうことだ?」

 

「教えてあげない」

 

なぜだか、むすっとする櫛田。

 

「そういうことなら、ここで勉強会にしよう。ただ、生徒会の用事もあるからそのあとになるぞ?」

 

「うん、いいよ。こっちもどうせクラスの勉強会とかあるだろうし」

 

「人気者は大変だな」

 

「綾小路くんもそんなこと言ってる余裕がなくなると思うけどね……。どっちにしろ、私と一緒に勉強できるなんて、男子ならポイント払ってでもお願いすることなんだから、感謝しなさいよ」

 

どっちが教える立場なのかわからなくなるような発言だな。

 

「そうだな、櫛田、ありがとう」

 

素直にお礼を述べてみたがジトっとした目で睨まれる。

 

「ま、いいけど。綾小路くんに期待しているのはどっちも結果だけ。調子に乗ってる堀北を中間テストで倒してやるんだから、早く教えなさい」

 

そうして今度は櫛田との勉強会が始まる。

教えられたり、教えたり不思議な数日を過ごすこととなった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

中間テストはあっという間に終わり、結果の発表は来週となる。

 

そして、今日は生徒会選挙――3年生の引退と新生徒会長の挨拶が行われる。

 

体育館に全校生徒が集められ、はじまりを待っていた。

生徒会役員は舞台裏に待機することとなる。

 

現生徒会長は次期生徒会長を指名することもできたようだが、堀北兄は指名はせず、立候補制とした。

南雲の対抗馬が現れなかったため、結局、信任投票という形になったが……オレに立候補して欲しかった、というわけではないのだろう。

現時点で南雲にどのくらいの票が集まるのか、それを南雲自身に感じてもらいたかったのかもしれない。

 

結果は全校生徒の7割の票を集めて当選した。

3割の内訳は不明だが、南雲に反感を持つもの、生徒会に興味がないものなど色々な可能性が考えられる。この3割の生徒に対し、どうアプローチしていくかも新生徒会長の腕の見せ所、といったところか。

 

「約2年間、生徒会を率いて来れたことを誇りに思うと同時に感謝します。ありがとうございました」

 

堀北学からのあまりに短い挨拶。

生徒の大半は「え、それだけ?」といったキョトンとした顔をしている。

だがオレには「やるべきことはすべてやってきた、言い残すことなどない」

そんな堀北学の意思が伝わってきた。

 

壇上のマイクから離れる際に、目が合う。

「あとは任せる」そんなメッセージを受け取る。

 

そうか、引退するんだな。

ここまで実感がわかなかったが、この瞬間から堀北学は生徒会長ではなくなった。

 

と、そんな堀北学のもとへ紫のバラの花束が投げ込まれる。

突然のことだったが、堀北兄は見事にキャッチ。

投げ込んだ相手は……言うまでもないか。

 

「10本か、粋なことをするようになった」

 

そうつぶやく堀北『兄』の表情が和らぐ。

 

「この度、生徒会長に就任させて頂くことになりました南雲雅です――」

 

壇上では南雲が挨拶を始める。

どうでもいいかと流して聴いていたのだが、『生徒会の任期の撤廃』、『選挙と生徒会役員の上限数を撤廃』『学校の歴史も撤廃』と近々大革命を約束していた。

 

撤廃ばかりだが、本当に実現できるのだろうか……。

 

南雲は真の実力至上主義の学校へ変えていくことを全校生徒の前で宣言する。

体育館は一瞬静まり返ったが、2年生のほぼ全員が歓喜の声を上げて盛り上げた。

ポイントを使ったサクラではないよな?

 

そんな選挙の後、昼休みに南雲から生徒会室に来るよう呼びだされる。

サボろうかと思ったが「会長命令だ」と追加のメッセージが届く。

さっそく生徒会長権限を行使してくるな、これは面倒だ。

仕方なく、生徒会室に足を運ぶ。

 

「てっきり南雲会長はオレの事をクビにするんじゃないかと思っていたんですが」

 

「俺は寛大だからな。お前みたいなやつでも使えるなら傍に置く。たとえ反旗を翻してきてもそれはそれで面白いからな」

 

南雲にとってオレは堀北学が連れてきた不穏分子。生徒会長には役員の任命権もあるため、不要であれば切り捨てることも可能だった。

 

「随分な余裕ですね」

 

「そうでもないさ。実際、この前の体育祭でお前の知名度は他学年にも飛躍的に広がった。正直、生徒会の一員として認められたお前を理由なしに切ることはできない状態になったからな。狙っていたとしたら大したもんだ」

 

「たまたまですよ」

 

「いずれにせよ、そうなったからには精々利用してやる。全校生徒の前でも宣言したが、これから俺は大革命のための準備を始める。いや、正確には準備はずっと続けてきた。ここから本格的に詰めていく。綾小路、副会長としてお前にも手伝ってもらうぜ」

 

「生徒会の仕事としてでしたら、拒否はできませんね」

 

「それでいい。手始めに来年度から導入予定の制度『OAA』の仕組みづくりの一部をお前に任せる」

 

「『OAA』?」

 

「『over all ability』の略だ。全校生徒の実力をデータ化して、誰でも把握できるようにするシステムを学校に打診している。それを見れば、そいつがどれぐらい実力を持っているかも一瞬でわかるってことだ。テストの点数も確認できたりすると面白いな」

 

「なるほど……」

 

これまで他クラス、他学年の成績は非公開情報だった。それを知ることができれば、確かに面白くなりそうだ。

 

「実は他の生徒会の連中にも内密に、すでに1年、2年の情報をまとめてある。お前にも教えてやるから、これをもとにどう評価してランク付けしていくか、項目は何が適当か、色々考えをまとめて、学校が納得できるよう、より使えるツールにしてもらいたい」

 

そういって南雲が見せてきたのは、オレが生徒会に入った当初、見つけた各生徒のデータだった。これ、非公開の情報だったのか……。もっとセキュリティ対策をしておいた方がいいぞ、新生徒会長。

 

「俺はしばらく、堀北先輩とどうやって勝負するか考えるのに忙しい。重要な仕事だから責任もってやれよ」

 

「おい」

 

明らかに面倒な仕事を押し付けようとしてくる南雲。

 

「そういうな、お前にも成果を分けてやるんだぜ。上手くやれば次の生徒会長はお前に決まったようなもんだ。堀北先輩はもうすぐ卒業しちまうが、お前は来年もいるからな。優先度が違うのサ」

 

「この前のリレーで負けたんですから、前生徒会長との勝負は諦めていいんじゃないですか?」

 

「いや、負けてないだろ?あれは桐山が邪魔だったからな。それに特に賭けもしてなかった、いわゆる前哨戦ってやつだ。次はもっと派手に戦いたいな」

 

南雲は、ある意味敗北を知らない男だ。

コイツに負けを認めさせる方法はあるのだろうか。

 

「ま、そう言うことだから頼んだぜ。今日の放課後から新生徒会本格始動だ。そのあと、先輩たちのお疲れ様会も企画してるからお前も来いよ。一発芸の一つや二つ期待してるぜ」

 

「生徒会長になって、ますますパワーアップしましたね、南雲先輩」

 

「だろ?これからは俺の時代だからな。このくだらない学校の伝統ともお別れさ」

 

面倒臭さに磨きがかかったことを伝えたかったのだが、本人に自覚がないため、まるでわかってもらえなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

放課後、生徒会室を訪れる。

 

早めに着いたのか、室内には誰もまだいない。

いや、いつも早くからいた堀北兄や橘はもういないのか……。

 

静まりかえり、普段よりも広く感じられる生徒会室。

 

目を閉じれば、橘のオーバーリアクションやそれを微笑んで見守る堀北兄の姿が浮かぶ。

 

「……もう少しだけ、一緒に活動してもよかったな」

 

生徒会に入る前はそんな風に思うことはなかっただろう。

なるべく参加したくないとすら思っていた。

去っていくものを惜しむことなどない、そう思っていたんだがな……。

 

これまで堀北兄たちが築き上げてきたもの、これから南雲が作っていくもの、そしてその次は――

 

次の主を待つ生徒会長の椅子を眺めながら、そんなことを考えていた。

 

そんな時、携帯が振動しチャットの着信を知らせる。

 

確認すると橘から『↓』とだけ送られてきた。

 

……まさか、な。

 

オレは隠し扉を開き、隠し部屋への梯子を下りていく。

 

「あ、綾小路くん。やっと気づいてくれましたかー」

 

「選挙ぶりだな、綾小路」

 

「……」

 

隠し部屋にはさも当然の如く、堀北兄と橘がいた。

 

「あれ?感動のあまり言葉を失っちゃたんでしょうか?『……もう少しだけ、一緒に活動してもよかったな』って私も嬉しかったですよー」

 

「綾小路にもそんな一面があったとはな」

 

「…………」

 

あ、バラが花瓶に飾ってあるなー。

 

「安心してください。生徒会は引退しましたが、ここで皆さんの事は見守ってますから」

 

「お前も暇なときは顔を出すといい」

 

なんかもう色々返して欲しい。

 

引退はしたが、いなくなったわけではなかった2人の姿を見て、疲れと共に妙な感覚が自分の中に染みわたっていった。

 

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