ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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瞬く星のように

「新生徒会の仕事をはじめる……って綾小路のやつがいねえな。初日からサボりとはいい度胸だぜ」

 

「そこは察してやれ、南雲。面倒を見てくれていた堀北先輩が引退したんだ。あいつもショックなんだろう」

 

「そうだと思います。綾小路くん、誰よりも3年の先輩方と仲良くしてましたから……まだ気持ちの整理がついてないのかなって。今日ぐらいは休ませてあげていもいいんじゃないでしょうか?」

 

「あいつがそんなタマか?……まあ気持ちはわからないでもない。大目に見てやるか」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ウノでーーーすっ!」

 

橘の渾身の叫びが隠し部屋に響く。上の部屋に聞こえないか気が気でない。

 

「俺はドローツーをだす。ウノだ」

 

「これで綾小路くんは2枚引かなきゃですね。この勝負もらいましたよ」

 

「じゃあオレもドローツーを重ねます。あ、ウノです」

 

「ウソでーーーすっ!」

 

引退したとはいえ、橘のリアクションに陰りは一切見えないな。

安心して容赦ない手を打てる。残り1枚だった橘の手札が一瞬で5枚になった。

 

「ゆ、許せません……」

 

そのまま堀北兄もオレも順当に上がって、橘が残される。

 

「また負けちゃいましたぁ~」

 

「橘先輩、そろそろお開きにしましょう。生徒会活動始まってますし」

 

うるさいためモニターの音声はミュートにしてあったのだが、映像を見る限りすでに何やら話し合ってる様子。

 

「だめです。勝ち逃げは許しませんよ、綾小路くん。どうせ南雲君のことです。初日に真面目に活動するとは思えませんから大丈夫です」

 

南雲もウノをやってるやつに言われたくはないだろうな。

どこかで区切りをつけて抜け出そうかと考えていると一之瀬からチャットが飛んでくる。

 

『今日ぐらいゆっくり休んでね。また明日から一緒に頑張ろっ!』

 

「……何のことだ?」

 

さっぱりわからなかったが今日は休んでいいらしい。

お言葉に甘えさせてもらおう。

 

「とりあえず、今日は顔を出さなくてよくなったので、このまま続けますか」

 

「綾小路君もわかってますね!次こそ勝ちますよー」

 

「一応、上の様子確認したいんで音声出しますね」

 

「いいですよー」

 

そうしてリモコンを手に取り、音量を上げる。……この部屋、便利だな。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「それで次の議題だが、ケヤキモールのテナントが1つ空いたらしくてな。新しく誘致する店について学生の希望を聞きたいらしい。誰かやりたいやついるか?いなければ、綾小路にやらせるが……」

 

生徒会長の席に座る南雲先輩の姿は、まだ少し違和感があった。

これが徐々に様になっていき違和感が消えた時、はじめてみんなが認める生徒会長になれるのかもしれない……なんて生意気なことを思う。でも、なんだか、綾小路くんなら最初から似合いそうだしなぁ……。

 

そういった意味では、堀北会長はまさにこの学校の生徒会長って感じだったし、橘先輩は生徒会長を支える書記として本当に立派だった。

私も来年は橘先輩のように……いけない、いけない。先の見えない未来よりも、今は目の前のことを頑張らなくちゃ。

 

「南雲会長、その話私でよければ挑戦させていただけませんか?」

 

「もちろんいいぜ、帆波なら安心だ」

 

「ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」

 

テナント探しなんて面白そうな仕事、この生徒会じゃないと体験できないよね。

3年生の引退で、綾小路くんも少なからず落ち込んでるみたいだし、彼を元気づけられるような企画を考えてみたい。

 

うーん、癒し系で何か探してみようかな。綾小路くんのやりたいこと探しの件もあるし、滅多にできないことを体験できる施設もいいかも。

 

キッザ●アみたいな高校生版はないのかな。

気に入った仕事があれば、Aクラスを目指すモチベーションにも繋がるし、悪くないかもしれない。

 

誰かのためになるようなことを考えるのって本当に楽しい。

願わくば、綾小路くんが笑顔になってくれるようなお店を見つけたい。

……普通のことを言っただけなのに、物凄くハードルが上がった気がしたけど。

 

他には大きな議題はなく、これからの方針を語る南雲先輩。

真の実力主義の学校への改革。それが今後どう学校を変えていくのか。

 

私は……甘いって思われるかもだけど、誰も退学しないで卒業出来たら、それが一番だって考えてる。

誰もが一生懸命頑張ったらAクラスに上がれる機会をもらえるのはありがたいこと……でも、私は今のBクラスのみんなと一緒にAクラスに上がりたい。

みんながいるから頑張れる、一人だけAクラスに行っても、それは寂しいことだと思うから。

 

私は誰も裏切らない。もう二度と大切な人たちを傷つけない。

たくさんの人を救える立派な人間になる。

それが私がここで頑張ることのできる最後の理由なのだから。

 

「それじゃ、これからここに先輩たちを呼んで、サプライズでお疲れ様会をやる。みんなそれぞれ準備を頼む。桐山は合図したらこのビッグクラッカーをお見舞いしてやれ、殿河、溝脇は扉の両サイドに隠れて花吹雪を頼む、他はそれに続いて小さなクラッカーを連射して追い打ちだ。そしてピアノ演奏をスタートし、俺と帆波で記念品を渡すぞ」

 

「悪くない作戦だな、南雲」

 

「これは先輩たちも喜んでくれそうですね」

 

「この作戦には、癪だが、ピアノ担当の綾小路も必要だ。きらきら星が得意らしいからな、それでも弾いてもらおうぜ。帆波、悪いが呼び出しておいてくれ。あいつも先輩たちがいるなら来るだろう。とにかくサプライズはバレたら意味がない。あの堀北先輩たちの驚く顔を見ることを目標に頑張るぞ」

 

こういったところが何だかんだで南雲先輩に人気がある理由なのかもしれない。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「リバースだ」

 

「俺もリバースをだす」

 

「ならオレはスキップだ」

 

「あわわわわ、ずっと私のターンが来ません……って違いまーす!大変ですよ、かいちょ……堀北君、綾小路くん。がっつりサプライズの内容聞いちゃいました。どうしましょう……」

 

「別にいいんじゃないですか?」

 

「綾小路の言うとおりだ、もてなしてくれるならドンと構えていればいい」

 

「で、でも、聞かなかったことにして驚くなんて私には無理ですよぉー」

 

「橘先輩にできないリアクション芸があるわけないじゃないですか」

 

「あー、綾小路くん、失礼ですよ。私にそんな芸風はありません」

 

一度橘の様子を動画に撮って本人に見せる必要があるかもしれないな。橘が卒業するまでの課題にしよう。

 

『綾小路くんごめん。これから3年生のお疲れ様会があるんだって。生徒会室に来れないかな?』

 

一之瀬からチャットが届く。

3年生に対してなら、今まさに接待中なのだが……サプライズは大事だからな、協力しよう。

 

「それじゃ先輩方、一足先に上で準備してますんで、またあとで」

 

「ああ。お前の演奏楽しみにしてるぞ」

 

「あわわ、どうしましょう、知らないフリ知らないフリ……」

 

両手を上下にぶんぶんさせ、オドオドしながら、ウロチョロぴょんぴょんしている橘。

このリアクションでも十分通じそうだが、まだ上を目指すなんてさすがだな。

 

「出る時は生徒会相談室側から出れば気づかれることはないだろう」

 

「わかった」

 

「えーと……わぁ、さぷらいずナンテウレシイデスー、ビックリシマシタァ……」

 

これは……南雲のサプライズも早速とん挫するかもしれないな。

 

生徒会相談室から出て、生徒会室へと入る。

 

「あ、綾小路くん、やっほー。……その、無理言ってゴメンね。辛いかもしれないけど、先輩たちのためにも笑顔で送りだしてあげよっ!その、淋しいときは私もいるし!」

 

「そんな暗い顔をするな、綾小路。堀北先輩がいなくなったわけじゃない。悩んだときはいつでも相談に行けばいいじゃないか。もちろん、俺たちもいつでも相談に乗る」

 

「いつも以上にしけた面してるな。これから大事な先輩方の見送りだ。大好きなピアノでも弾いて元気出せ」

 

「えーと、はい」

 

なんだか妙に温かく迎え入れてくれてるんだが、何があったんだ?

 

南雲の言った通り、いつの間にか生徒会室にグランドピアノが配置されている。

 

「音楽室から運ばせた。調律も問題ないはずだ。先輩方が入ってきたら、お前の自慢のきらきら星を弾けよ。今日のサボりはそれでチャラにしてやる」

 

「それは構いませんが……」

 

南雲と初めて話した時に「きらきら星変奏曲でも弾きましょうか」といったのを覚えていたのか。別に他にそれっぽい曲でもいいのではないかと思ったが、新会長がご所望なら構わないか。

 

「全員、準備はいいな。よし、先輩方にチャットした。まもなく来る」

 

真剣にボトル型の大きなクラッカーを抱える桐山。

入口の殿河、溝脇も色とりどりの紙吹雪をかご一杯に持っている。

記念品と花束を抱きしめる一之瀬。

ピアノ演奏に備えるオレ。

他の役員もクラッカーをいくつも構え、その時を待つ。

生徒会室に緊張が走る……って何をやってるんだ、オレたち。

 

「ガラガラガラー、いやぁ勉強して遅くまで残ってたんですが、皆さんどうしたんですかー」

 

わざわざドアを開ける音まで口にして白々しい嘘をつきながら、橘と堀北兄、そして幻の3年の元生徒会役員たちが入ってくる。

 

「「「先輩方いままでお疲れ様でした!」」」

 

先輩方に向け、生徒会メンバーが元気よく挨拶をする。

……掛け声について聞かされていなかったんだが。

その声に合わせ、桐山のクラッカーが盛大に発射される。

カラフルなテープが輝きながら宙を舞い、紙吹雪が先輩方を包む。

通常のクラッカーも小気味よく音を奏でる。

 

ここでオレも演奏を始めた。

 

きらきら星変奏曲の主題。

恐らく多くの人が耳にしたことがある、と思われるフレーズ。

 

「今までありがとうございました」

 

南雲が堀北兄に、一之瀬が橘にプレゼントを渡したのをきっかけに、それぞれのメンバーから他の3年生にも記念品が手渡される。

 

「わぁ、ありがとうございます!び、びっくりしました」

 

「喜んでもらえたみたいでよかったです」

 

一周回って普通の驚いたリアクションになっている橘。

 

「南雲、わざわざこんな会を開いてくれてすまないな」

 

「先輩たちにはお世話になりましたからね、このぐらい当然っすよ」

 

各々感謝の気持ちを述べているようだ。

 

「綾小路くんのきらきら星もすてきな――」

 

きらきら星変奏曲は、第一変奏、第二変奏へと入り、よりテンポよく、煌びやかな旋律を奏でる。

 

「んんん?」

 

賑やかだった生徒会室もピアノの音に包まれていく。

 

変奏、第三、第四、第五とどんどん進んでいく。

 

「わ、私の知ってるきらきら星と全然違います……」

 

「輝くような星や儚げに光る星、色んな星の瞬きが音から伝わってくるな」

 

「あ、綾小路、また騙しやがったな、こんなに弾けるとは聞いてねーぞ」

 

「さすが綾小路くん、先輩の想像をも超えるアーティスト!」

 

最後の第12変奏が終わる頃には全員が聴き入っていた。

 

「綾小路くん、ありがとうございます。こんな素敵な演奏……スキップ連打で腹を立てていた自分が恥ずかしくなりました」

 

「こんなことなら、もっと早く弾いてもらうんだったな。まさか茶道以外に言っていた特技もここまでのクオリティーだとは思わなかった」

 

2人とも喜んでくれたようだ。

 

こうして南雲企画のお疲れ様会は無事結びを迎えた。

色々思うところはあったが、今度こそ2人をしっかりと送りだせたような気がして、悪い気はしなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

一年ということで、最後にゴミ出しをした、オレと一之瀬が帰路につく。

 

「……先輩たち、引退しちゃったね」

 

「だな」

 

「私たちも、あの2人に負けない生徒会にしたいね」

 

「悪くないな」

 

「その時は……えっと、その~」

 

「一之瀬生徒会長か、良いかもしれないぞ」

 

「えっ?私がそっちなの!?」

 

「オレは今のところ生徒会長に興味はないからな」

 

驚く様子の一之瀬。

人望や人柄からしても一之瀬の方が適任だろう。

オレは『生徒の代表』には相応しくない。

 

「うーん、もったいない気がするけどなぁ」

 

「適材適所ってやつだ。もし、一之瀬が生徒会長になるなら、しっかりと応援するぞ」

 

「そ、それは、それで……アリだね」

 

上手く乗せて生徒会長になってもらわないと、オレが任命されても困るからな。

やる気のある生徒が務めるのが一番だ。

 

「それにしても、また綾小路くんの演奏が聴けてよかったよ。もうプロの演奏家になれるんじゃない?」

 

「それは流石に無理だな」

 

オレの演奏はホワイトルームに来ていた指導員、かなりの賞を獲った経歴の持ち主の演奏をそのまま真似ているだけだ。その人が感じた感情まで再現して弾いているからそれっぽく聴こえるだけ。

結局のところ、オレの気持ちを込めてるわけではないため、本当の意味で心に響く演奏などできないだろう。

 

「今度、高円寺の彼女のためにあのレストランで演奏するんだが、良ければ一之瀬も来るか?」

 

「いいの?」

 

「もちろんだ」

 

「やった、楽しみにしてるね!」

 

あんな演奏で良いのならと、高円寺たちとだけでは気まずくなるので、強力な助っ人をしれっと連れていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽い気持ちで誘ったが、まさかあんなことになって後々面倒なことになるとは、この時のオレは知る由もなかった。

 

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