ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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大切な日は過ぎて

小テストが返却された日の放課後。

状況を把握するのは早い方がいいだろう、ということで三宅と長谷部ペアに幸村を加えた4人で勉強会を開くこととなった。

 

長谷部の希望でカフェのパレットに移動している途中。

 

「あやのん……うーん、あやぽん、こうじぽよ、のこのこ、あやのこっち……だめだ、全然しっくりくる呼び方が思いつかない」

 

「……今の全部オレのあだ名候補だったのか?」

 

「途中、カメっぽいのとか、たま●っちに出てきそうな呼び名だったな……」

 

うーんと唸りながら悩み続ける長谷部。

間違っても公の場で呼んで欲しくないあだ名の羅列。

三宅も「長谷部はこういうやつだ、諦めるしかない」と早くも慰めモードに。

 

「あ、みやっちと被るから『っち』は使えないよね、ごめんごめん」

 

「別に『あやのこっち』に譲ってもいいが……」

 

「丁重にお断りさせてもらう」

 

「お前たち、くだらないことを言ってないで早く行くぞ」

 

「ちなみに、幸村くんはゆきむーね!」

 

「なんだその気の抜けた呼び方は……」

 

「え~いいじゃん、可愛いって」

 

これまで各々グループに属さず、1人の時が多いメンツ。クラスメイトが見たら違和感しかないだろう。そんな4人で会話など弾むのか?と考えていたが、杞憂だったようだ。

 

「うーん、普段はすぐコレって思いつくんだけどなぁ、なんで綾小路くんのは決めきれないんだろ?」

 

「オレに聞かれてもな」

 

こちらを見つめながら不思議そうな顔をする長谷部。

あだ名で誰かを呼ぼうと思ったことはないため、その感覚に対し助言することは難しい。

なぐもん、とか今度呼んでみるか、ゆるキャラっぽくなっていいかもしれない。

 

オレもオレであだ名を考えはじめたところで、パレットに到着する。

 

「ひとまず、2人のこれまでのテストの答案用紙を見せてくれ」

 

「ほい、どうぞ」

 

長谷部と三宅がカバンから答案用紙を取り出し渡してくる。

幸村と2人で確認すると――

 

「見事なまでの理系だな」

 

「ああ」

 

理系科目は70点前後と安定しているのに対し、国語や日本史などは40点前後。

これでは2人が不安になるのも頷ける。

……うちの担任、日本史の教師なのだから、もっと授業頑張ってもらいたいな。全然学生に届いてないぞ。

どうでもいいことだが、チャーナビはあだ名に入るだろうか。

 

「それで私たちどうすればいい感じ?」

 

橘が最初に勉強会を開いてくれた時にやっていたのは学力確認のためのお手製のテストだったか……。

 

「ひとまず文系科目の強化をしていけば問題なさそうだ。簡単にテストを作るから少し待っててくれ」

 

「おっけー。じゃあ、今のうちに糖分補給しとくー。ケーキ、ケーキ」

 

そういって、そそくさとカウンターに向かう長谷部。

ショーケースの中には様々なケーキが飾ってある。

中にはみーちゃんの誕生会で見たケーキも混ざっていた。

そういえば、明日はオレの誕生日か。

 

この学校に来て、一之瀬に、みーちゃんに、高円寺の彼女と、多くの誕生日を祝ってきた。

これまで自分のものを含め、誕生日に特別な感情を抱いたことはなかったが

『誰かに祝ってもらえる』

それはひとつの幸せな形なのかもしれない。

 

とはいえ、オレは誰にも誕生日を伝えていないし、この場でそのことを言い出せば、祝うことを催促していると思われかねない。

誕生日会なんて、オレには縁のない話だな。

 

って佐倉の誕生日、この前じゃないか?

なぐもんの集めていたOAA用のデータが間違っていなければ佐倉の誕生日は10月15日だった。

オレが言えた義理ではないが自己主張が足りないぞ……。

誰もがそうだが、来年の今頃もこの学校にいるとは限らないんだ。

祝える時に祝ってもらった方がいい。

 

もう少し早く気づいていたら平田と相談できたものを。

いや、今からでも遅くないか?

 

「確認用のテストができた。2人はこれを10分でできるだけ解いて欲しい」

 

「あっという間に作っちゃったね、まだケーキ半分残ってるんだけど……」

 

「残りは解き終わってからでいいだろ」

 

「えー、みやっちスパルター」

 

「綾小路、俺も解いてみていいか?」

 

「ああ」

 

3人が問題を解き始めたところで、断りを入れて席を外す。

カウンターに向かい、ショートケーキを購入して奥のテーブルへ移動する。

 

「佐倉に篠原、偶然だな」

 

「わっ、あ、綾小路くん!?ぐ、ぐ、偶然だね?」

 

「ホント偶然だー、綾小路くんたちもテスト勉強?」

 

オレがいたことに気付かなかった偶然を装っているのに『綾小路くんたち』と言ってしまっては台無しだな、篠原。

 

「そうだな。三宅と長谷部が文系苦手ペアで、急遽幸村と勉強をみることになった」

 

「そ、そうなんだ……」

 

篠原たちに任せて様子を見ていた佐倉だが、以前と比べるとたどたどしさは抜けていないがまっすぐ人の目を見て話せるようになっていることがわかる。

 

「2人も勉強中みたいだな……邪魔をして悪いが、良ければこれ受け取ってくれ」

 

そういって佐倉にケーキを渡す。

 

「えっ?」

 

「遅れてすまないがこの前、誕生日だったんだろ。おめでとう。こんなタイミングでなければ、もう少し手の込んだお祝いができたんだが……」

 

「いやいやいやいや……まさか綾小路くんから祝ってもらえるなんて思ってなかったから、これだけで十分嬉しい。嬉しいよ。あ、ありがとう、綾小路くん」

 

顔を真っ赤にしながら両手を振り普段よりも早口で話す佐倉。

そんな佐倉をニコニコしながら眺める篠原。

 

「やるじゃない、綾小路くん。うんうん、良かったね。佐倉ちゃん」

 

「うん、ホントにありがとう。このケーキ、一生大事にするね」

 

「いや、食べてくれ」

 

「あ、うん、そうだよね……でも、もったいないなぁ」

 

残念そうにケーキをじっと見つめる佐倉。

 

「じゃあせめて写真に残そうか。デジカメ持ってきてるんでしょ?」

 

「あ、うん」

 

いつかの事件で大活躍した佐倉のデジカメ。

色々あったが無事修理は完了していたようだ。

ポケットからサッと取り出したところ、篠原がそれを受け取る。

 

「せっかくだから二人で映りなよ、私、撮ってあげるからさ。はい、もっと近づいて近づいて~」

 

有無を言わさぬ篠原の仕切り具合に、大人しく従うしかないオレたち。

せっかくの記念写真にオレが一緒に入るのもどうなのかと思わないでもないが

この人がくれました、と記録をする分には効率的だ。

 

「笑って笑って~うーん、2人とも硬い。佐倉ちゃんはこういうの得意でしょ。綾小路くんは……まあ仕方ないか」

 

精一杯の笑顔を用意させてもらったつもりだったのだが

篠原の反応をみるにご期待に沿えていないよう。

 

何度かシャッターを切った音がする。

 

「うん、悪くないね」

 

「ありがとう、篠原さん」

 

画像を確認し、嬉しそうにする佐倉。

これまでのサプライズと比べると大したことはできなかったが

少しでも喜んでくれたのなら良かった。

 

「それじゃ、オレは戻ることにする。佐倉たちも頑張ってくれ」

 

「うん。またね」

 

こうして長谷部たちの元へ戻り、10分が経過する。

採点をしてみると、長谷部も三宅も間違う問題の傾向まで同じことがわかる。

 

「実質教えるのは1人だな」

 

「いやー、難しかった。糖分補給しなきゃもう無理~」

 

残りのケーキに手を付ける長谷部。

 

「方針も考えたいし、少し休憩にするか」

 

「そうしてもらえると俺も助かる」

 

三宅の方も少なからず疲れていたようだ。

 

「ねえねえ、前から聞いてみたかったんだけどさ、あやのん(仮)は誰かと付き合ってるの?」

 

「おい、長谷部」

 

「いいじゃん、せっかくの機会なんだし。ちょっと前だったら堀北さんと怪しいのかと思ってたけど……堀北さんは、アレだしね」

 

長谷部の言う通り、堀北との関係を疑う質問は幾度となく受けて、その度に否定をしてきたが、最近は一切なくなった。

というのも、流石に周りも堀北が重度のブラコンだということに気づき始めているからに他ならない。

いまだにそれに気づいていない、というか気にしていないのは須藤ぐらいか。

 

「今のところそういった関係にある人物はいないな」

 

「へぇー、そうなんだ。あやのん(仮)は、他クラスの女子とも仲いいみたいだし、私たちの知らないところで発展しててもおかしくないのかなって思ってたから……」

 

思っていたからの後に続く言葉を長谷部は飲み込んだ。

ちょっとした間が空く。

 

「ツッコんだら負けかもしれないが、(仮)って必要なのか?」

 

「わー、わざとスルーしてたんだ。ショックー」

 

こちらをおちょくる感じでそう話す長谷部は少し前までの様子に戻っている。

 

そうして休憩をしたあと、本格的に勉強会を始めたのだが……

 

案外、難しいな。

橘がやっていたことを真似しようとするのだが、あれは橘がするから効果があるのであって、リアクション芸などオレでは再現できない部分が多い。

 

そうなると授業のように正攻法で指導するしかないのだが、

2人がなぜわからないのかをオレがわかるまでに時間がかかる。

一度学んだあとは問題なく解けてきたオレにとって、その点がよくわからない。

 

つまり、2人に合った指導をするためには、この2人の精神性、思考回路、行動原理、趣向、優先度などを把握し、分析しなければならないということ。

 

橘はそれをやっていたのか?いや、オレのことをすべて把握するのは不可能だろう。

では、他に方法があるのだろうか……。今度聞いてみるか。

 

「俺も協力しよう。綾小路が普段口数が多い方ではないことはわかっていた。人には得手不得手があるのも当然だ」

 

そういって幸村が助け船を出してくれる。

 

「俺は体育祭では役立たずだった。勉強でくらいクラスに貢献したい」

 

幸村もAクラスを目指す意欲の高い生徒だ。

これまでの試験を経験して、色々と思うところがあったようだ。

 

こうして、幸村の助力もあり1回目の勉強会は無事幕を閉じた。

今後はテストまで定期的に集まることとなる。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

翌日。

昼休みにひよりから茶道室に来るように連絡が来る。

恐れていた事態がやってきたかと思ったが、文面を見る限りどうやら違う様子。

 

「ひより、来たぞ」

 

茶道室のドアを開けたところでクラッカーの音が複数鳴った。

 

「清隆くん、お誕生日おめでとうございます!」

 

「「「おめでとー!」」」

 

中にいた茶道部の面々と茶柱先生が祝福してくれる。

 

「ありがたいが……どうしてオレの誕生日がわかったんだ?」

 

「チャットアプリのプロフィールで確認できますよ」

 

と携帯で見せてくれるみーちゃん。

なるほど。そういう手があったのか。

 

「これ、私たちからのプレゼントです」

 

「ありがとう」

 

ひよりから包装された箱を渡されたので、ありがたく受け取る。

だが、この後はどうするのが正解なのだろう。

これまでのサプライズではプレゼントは渡していたが……

開けるタイミングはまちまちだった。

 

「良ければ開けてみてください」

 

少し戸惑っていたオレの様子を察してか、ひよりがそう声を掛けてくれる。

 

「それじゃ、遠慮なく」

 

包装を丁寧に剥がし、中から出てきた木箱を開けてみると

 

「良い茶碗だな」

 

「ふふふ、気に入っていただけたみたいで嬉しいです」

 

以前からマイ茶碗が欲しいと思っていたが、後回しにしてしまっていた。

色も落ち着いていて手触りも良い、お茶も点てやすそうだ。

 

「これは私から個人的に読書仲間の清隆くんに」

 

ひよりからこっそり小さな紙袋を渡される。

 

「いいのか?」

 

「もちろんです」

 

こちらも開けてみると、革製の栞が出てくる。

ひよりらしいチョイスだな。

 

「大事にさせてもらう」

 

「ええ。これからも読書の話もいっぱいしましょう」

 

「そうだな。よろしく頼む」

 

そうして茶道部の面々から誕生日を祝ってもらう。

少なくとも今年は縁のない話だと思っていたため、それだけでサプライズだった。

そうか、これがサプライズを仕掛けられる側か……良い経験ができたように思う。

 

放課後、生徒会へ向かう準備をしていると、平田と軽井沢に声を掛けられる。

 

「綾小路くん、軽井沢さんから聞いたんだけど誕生日なんだってね、おめでとう。大した準備はできなかったけど、これ僕たちから」

 

「清隆、誕生日おめでと」

 

そういって紙袋を渡してくる平田。

 

「ありがとう。まさか平田と軽井沢から祝ってもらえるとは思っていなかったから、嬉しい」

 

プレゼントの中身はタンブラーだった。

 

「アンタよくコーヒー飲んでるじゃない。ちょうどいいかなって」

 

「大事にさせてもらう」

 

こういう時、なんと返事するのが正解かもよくわからない。

1つ確かなのは相手の誕生日にお返しをする、ということだろう。

 

待てよ、平田の誕生日は……

 

「今度お返しを、と思ったんだが、平田の誕生日は――」

 

「うん、9月1日だから、気にしないで大丈夫だよ」

 

「すまない、色々助けてもらっておきながら失念していた」

 

「いや、いいんだよ。始業式と被ることが多くって、ドタバタするのはわかってるし。僕にとっては、夏休み明けてみんなが元気に登校してきた姿を見るのが何よりのプレゼントだからね」

 

平田、お前ってやつは……。

 

「お返しは大事だ。来年は必ず盛大にお祝いをさせてもらう」

 

「そういうことなら楽しみにしてるね」

 

再度2人にお礼を言って、生徒会室に向かう。

 

二度あることは三度あるという言葉もある。イベント大好きな南雲なら何か仕掛けてくるかもしれない。

一応心の準備をして中に入るが、特に何も起きない。

 

「やっと来たか、綾小路。早速だがそこの書類整理しておいてくれ。一之瀬から体調不良でしばらく生徒会を休むと連絡があった。その分、お前には働いてもらう」

 

……なぐもん。

わかりきっていたことだが、こいつがオレの誕生日を祝うはずがないか……。

祝ってくれそうな人物はもう――。

 

その時、携帯が振動する。

言葉はなく『↓』マークが送られてきた。

 

手早く仕事を片付けて、相談室側から下の隠し部屋に。

 

「綾小路くん、お誕生日おめでとうございますっ!」

 

「おめでとう。お前もこれで16歳か」

 

「堀北君、お父さんみたいなセリフですね」

 

出迎えてくれた堀北兄と橘。

 

「はい、これ付けてくださいね」

 

渡されたのは、本日の主役と書かれたタスキと派手な三角コーナーのような被り物。

 

「では、綾小路くんの誕生会、開催です!みんなでチキンを食べましょう」

 

フライドチキンやピザなどが机に並んでいる。

 

「誕生日と言ったらこれです!ジャンク感がたまりません」

 

口いっぱいにチキンを頬張る橘。

確かに、こういった食事も悪くない。

非日常感があるな。

 

食事を終えたところで、堀北兄が小さな長方形の箱を渡してきた。

 

「これは俺と橘からだ」

 

「有難く頂戴する。アンタたちには世話になってばっかりだな」

 

「気にするな。先輩として当然のことをしているだけだ」

 

「そうですよ。綾小路くんも先輩になったら、後輩の面倒をしっかり見てあげてくださいね」

 

「そういうものなのか」

 

そうやって次世代へバトンを繋いでいくのかもしれない。

 

「開けてみても?」

 

「もちろんだ」

 

中から出てきたのは、万年筆。

 

「綾小路くんは達筆ですからね、似合うと思いますよ」

 

「少し背伸びしているように思うかもしれないが、この学校を率いていく者としてそれを持つ姿が様になる日が来ると思っている」

 

「大事にさせてもらいます」

 

「ああ」

 

その後は恒例ということで橘が持ってきたトランプで遊んだりして過ごした。

 

あっという間に時間が過ぎ、帰路につく。

家を出た時と比べ少しだけ重くなったカバン。

不思議な感じだ。

 

自宅のドアノブを回す。

鍵は……開いてないか。

 

それが当然のはずなのだが、今日はもしかしたら、なんて考えが一瞬でも過ぎったことが少し面白かった。

 

荷物を置き、何か飲み物でもと冷蔵庫を開ける。

 

すると、そこには、一切れのケーキが入っていた。

もちろん、購入した覚えはない。

つまりこれを置いたのは――

 

なんとも素直じゃないお祝い。

だが、それが今日一番のサプライズだったように思う。

 

 






このあたりの時間軸が原作とアニメで若干違う?ことに今更ながら気づいた今日この頃です。
初回の勉強会で翌日が誕生日といっていた原作。その後何度か勉強会を重ね、綾小路グループ結成。
アニメではそろそろ誕生日と言っていて、綾小路グループ結成日と誕生日が同じ日になっている気が……。


何が変わるかというと、主に軽井沢からのメールの『気づくの遅れた』の意味合いが大きく変わってくるので、その点では良い改変なのかもしれません。

その分スケジュールがややこしくなりますが……成立させるなら、アニメはグループの絆が爆速で深まった感じになりそうですね。


ひとまずこちらは原作準拠、と思われるスケジュール感で進めています。

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