ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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今回も原作9巻の話にがっつり触れるため、アニメのみ視聴し、3期を楽しみにしていらっしゃる方はネタバレ注意です。


赦しを請い求める

1年Bクラスの教室。

Bクラスの生徒たちが固唾を飲んで見守る中、教壇に立つ一之瀬。

その表情は、普段の凛としてにこやかなものではなく、遠いどこかを見るような、陰のある面持ち。

 

「結局一之瀬もいい子ちゃんぶっていただけ、お前たちは騙されてるんだぜ。いつか裏切るつもりでお前らを利用している可能性だってある」

 

教室の入り口に陣取った龍園は、石崎、小宮を引き連れ、ニヤつきながら野次を飛ばす。

 

「みんな……いまから私の、罪を――告白します。聞いてくれるかな」

 

一之瀬のクラスメイトは、心配そうに、不安そうに、あるいは覚悟を決めたように、各々静かに頷く。

 

それを確認した一之瀬は、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「あの噂は全部が全部偽物じゃない。私は確かに過去に罪を犯したの。中学3年の時に、私は――――万引きをした」

 

「うそ、帆波ちゃんが……」

 

一之瀬の告白に衝撃を受けたのか、思わず網倉がつぶやく。

他のクラスメイトも大なり小なり動揺を見せている。

 

「ホントのことだよ、麻子ちゃん。どうしても、妹のために欲しかったものがあったんだ……」

 

そこから一之瀬がどうして万引きをしてしまったのか、過去の告白が始まる。

 

母子家庭の一之瀬家だったが、貧しいながらも母親と妹と協力して幸せに暮らしていたこと。

 

それまでわがままのひとつも言ったことのなかった中学1年生の妹が、誕生日プレゼントに好きな芸能人がつけていた『ヘアクリップ』が欲しいと初めてねだったこと。

 

もちろん叶えてあげたかったが、来年一之瀬の高校進学も控え何かと費用がかかるタイミングだったこと。

 

母親が無理をしてシフトを増やした結果、倒れて入院することになったこと。

 

病床で母親は泣いて謝ったものの、まだまだ幼い妹、そう簡単には割り切れず、泣きじゃくって母親を怒鳴りつけたこと。

 

そんな様子を見た一之瀬はなんとかして妹にプレゼントして家族の笑顔を取り戻したかったこと。

 

それが万引きをした理由。

 

「事実を知らずに喜んだ妹は、そのヘアクリップをつけてお母さんのお見舞いに行っちゃって……気づいたお母さんは大泣きする妹からクリップを取り上げて、私を思いっきり叩いて本気で怒って、安静にしていなきゃいけなかったのに……私を連れて万引きしたお店で土下座してひたすら謝って……」

 

一之瀬から一筋の涙が流れる。

心に封をしてきた消えない記憶。

 

「私は、この時初めて、取り返しのつかないことをしてしまったんだって身に染みてわかった。どんなに言い訳を並べたって、犯罪が肯定されるはずがない。……結局、お店の人は私を警察に引き渡すことはしなかったけど、噂は広まって、私は自分の殻に閉じこもった。中学3年生の残り半年は、ずっと家に引きこもって……でもね、この学校のことを担任の先生が教えてくれて、もう一度だけ前を向いて頑張ろうって思ったんだ。この学校なら、入学金も授業料も生活費も掛からない。卒業すればどこにでも就職できる。一からやりなおして、傷つけてしまった大事な家族に、今度こそ笑顔を届けるんだって……」

 

全てを話し終えた一之瀬は深く頭を下げた。

 

「ごめんね、みんな。こんな情けないリーダーで……」

 

「そんなことないぜ、一之瀬。今の話を聞いてますますお前がいいやつなんだって思った。そうだろ、みんな」

 

近くで話を聞いていた柴田がクラスメイトに投げかける。

 

「そうだよ、帆波ちゃんはわるいことをしたかもしれないけど、でもーー」

 

「おいおい、笑わせんじゃねえよ。お涙頂戴の過去なんか聞いたところで、事実は変わんねえよなぁ」

 

一之瀬の話を聞いて、クラスメイトが擁護しようとしたところで、龍園が割り込む。

 

「犯罪は犯罪だろ。そんなやつがクラスのリーダー?生徒会?身の程をわきまえるべきなんじゃねーか。またいつ盗みを働くかわかったもんじゃないぜ?おいおい、まさか俺たちの作った大事なテスト問題を盗んだんじゃねえだろうな。こりゃあ確かに油断できない相手だ」

 

高笑いする龍園。盗人猛猛しいとはこのことか。

 

「そう……だね。私がいくら努力したところで、一度犯した罪は消えない」

 

そう言って一之瀬は目を閉じる。

一歩を踏み出すために、傷つき弱りきった心の奥底から勇気を引っ張り出す。

 

「過去の私の評価は今の私が決めることじゃない。大切な人を傷つけてしまった罪だったとしても、その経験があったから今の自分がいるって胸を張って言えるようになりたい」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『一之瀬帆波は犯罪者だ』

 

あの日、ポストに入っていた紙を見た時に、あの時のトラウマが鮮明に呼び起こされた。

血の気が引いて、周りが真っ暗になって、吐き気が止まらなくなる。

そのまま熱まで出ちゃって……、みんなに心配をかけてしまうことに。

ただの悪戯かもしれないのに、倒れちゃうなんて自分の心の弱さを憎たらしく思う。

 

なんとか身体の方は回復したから登校できたけど……どんどん悪い噂が広まっちゃっていて、心が追い詰められていくのがわかった。

 

犯人はきっと私の秘密を知っている。

 

クラスのみんなから届く心配や励ましのメッセージ。

心の中で罪悪感が力を増していく。私はみんなが思っているような品行方正な人間じゃない。

罪人の私は人に優しくされていい人間じゃない。そんな私を庇ってみんなが傷ついていくなんて、あっていいはずがない。どんどん心に重しが積み重なっていく。

 

でも、立ち止まっちゃいけない。

家族のため、クラスメイトのため、私は――

重くなった心を引きずって、決意を固め、クラスメイトを害する龍園くんに立ち向かう。

 

その時、龍園くんから言われた一言。

 

『万引き犯が生徒代表の生徒会なんておかしいって訴えてもいいんだぜ』

 

私の決意は蝕まれていく。

もう進むことはおろか、立ち上がることすらできない。

 

生徒会に訴えられたら当然、彼の耳にも入ってしまう。

綾小路くんだけには、こんな薄汚い私を知られたくなかった。

真実を知らないで欲しかった。

見捨てられ、幻滅され、去っていってしまうんじゃないかという恐怖。

 

醜い私を見られたくない、そんな思いから……心配してくれる綾小路くんを拒否してしまった。

 

それなのに、学校を休みはじめてから、放課後になると毎日尋ねに来てくれた綾小路くん。

 

私からの反応がないのに、玄関のドア越しに、毎回ひと声かけては、その日の出来事を話して帰っていく。事情を聴こうとしたり、学校へ来るように説得するなんてことはない。

何も変わらない、いつもの綾小路くん。

耳も心も塞いでいたはずなのに、いつの間にか、その時間だけは少しだけ心が軽くなった。

 

試験前日。もうあとがなくなった日曜日。

明日は絶対に登校しなくちゃいけない。ペアに迷惑をかけるなんてダメ……。

でも学校に行ったら、そしたら私は――――。

 

そんなとき、その日も綾小路くんがやってきた。

なんで……なんでこんなに気にかけてくれるの……私にそんな価値はないのに。

 

「どうして綾小路くんは毎日来てくれるの?」

 

ついポロっと出てきてしまった言葉。

心配してくれる嬉しさと罪悪感。

話を聞いて欲しいのに、助けて欲しいのに遠ざけてしまった。向き合えなかった本音。

 

その疑問の答えを聞いた時、私は今まで感じたことのないほどの衝撃を受けた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「どうして綾小路くんは毎日来てくれるの?」

 

懐かしさすら覚える一之瀬の声。

その声はいつもの元気の良さはなく、本人も久々に発したのだろう、今にも消え入りそうなか細さだった。

 

「一之瀬が全部吐き出してくれるのを待ってるのかもな。……実はオレは一之瀬の犯した罪がなんであるかを知っている」

 

「え……えっ、な、なんで……そんなの、うそ、だよ……ね?」

 

「誕生日を祝ったことがあったよな。あの日、生徒会室で南雲と話していた内容が廊下まで聞こえていた……意図的ではなかったにせよ、盗み聞きした形になってしまってすまない」

 

あの日、聞こえてくる『様々な声』に耳を澄ましていたオレ。その様々な声とは生徒会室から聞こえてきた2人の話し声。

 

それなりに壁の厚い生徒会室でも、夏休みで人気のない静まった状態であれば、少し耳をすませば話の内容はわかるもの。

あの日のサプライズは偶然であり、必然でもあった。

今日この日のための布石。一之瀬を過去の呪縛から解放する最初の一手。

 

「一之瀬は自分の悩みを他人に打ち明けるのが苦手なんだろう。他人を救えても、自分を救えないタイプ。だから、今、ここにオレがいる」

 

「綾小路くんは……私が……犯罪者だって……今まで…ずっと…知っていたのに」

 

詰まりながらもなんとか言葉を発する一之瀬。

 

「知っていたのに、それでも見捨てず……私に、優しく接してくれていたの?」

 

「オレにとっては、この学校で出会った一之瀬帆波が全てだ。それ以上でもなければ、それ以下でもない。誰にだって触れられたくない過去はある。オレは過去で人を判断したりはしない」

 

「……私は、許されちゃいけない人間なんだよ」

 

「オレは、そうは思わない。一之瀬がこの学校でしてきた頑張りを誰よりもわかっている、そのオレが保証する」

 

驕りと思われても構わない。

今の一之瀬に必要な言葉を送る。

 

「でも……綾小路くんに、こんな私を……」

 

続く言葉はしぼんでいき、聞き取ることはできない。

まだ、心を曝け出すことに抵抗があるのだろう。

それは自分が隠したいから、というより、オレのことを気遣うからこその迷い。

 

「オレは今扉だ。見ることも触れることもできない。ただの扉に気を使わなくったっていい」

 

「……だめ」

 

それでも拒否をするのであれば、こちらも――

 

「ただの扉じゃだめ、私は、綾小路くんに聞いて欲しい。私の、罪の全て」

 

そうしてドアが開き、一之瀬が姿を見せる。

怯え、涙を流し、弱り果てた一之瀬……それでも、その表情からは覚悟が伝わってくる。

 

部屋の中に案内される。

シンプルなドレッサーの目立つところに、いつかプレゼントしたキーホルダーが飾ってあった。

 

テーブルを挟んで向かい合うものの、なかなか話しを切り出せない様子。

言葉を選んでいるのかもしれない。

 

「ゆっくりで大丈夫だ。一之瀬の準備が整うまで、オレはいくらでも待っていいと思っている」

 

一之瀬が頷く。

 

ふと、一之瀬の後ろ、部屋の隅にパーティグッツのような派手な飾りなどがおいてあるのが目に入った。編みかけのマフラーのようなものも見える。

 

「……私の誕生日、素敵なサプライズをくれたから……私もお返しするんだって張り切ってたんだけどね」

 

視線の先に気づいたのだろう。一之瀬が口を開く。

オレの誕生日に向けて準備をしていてくれたのか。

だが、それどころではなくなってしまった。

 

「大切な日、過ぎちゃったね……ごめんね、私は大事な人の誕生日すら祝えない……」

 

身体は震え、涙が今にもあふれ出しそうになる。

オレは一之瀬の右隣に移動し、左肩に手を置き、そっとこちらに抱き寄せる。

 

「あ、綾小路くんッ!?」

 

驚くものの、力なくこちらに身体を預けてくる一之瀬。

普通なら拒否されてもおかしくない行為。ダンスの時の方が密着していたため、今更ではあるが……。だが、一之瀬が逃げ出さないのは、弱り切っているからか、それとも―――

 

「一之瀬の気持ちは十分伝わった。オレはそのサプライズ、楽しみにしている」

 

「……なら、早く元気に、ならなくちゃ……だね」

 

震えも収まり、少しだけ一之瀬の顔に明るさが戻る。

 

「……万引きの話なんだけどね――――」

 

そうしてゆっくりと過去を話し始めた一之瀬。

 

事情を知っている相手とは言え、思い出すのも辛い記憶。

それを口にするのは、とても力のいることだ。

時折、堪えきれなくなった涙が流れてゆく。

 

それでも、決して偽ることはなく、自分の罪を告白した一之瀬。

誰にだって隠したい罪の一つや二つ存在する。

大抵の人間がそれを誤魔化し偽るのに対し、真っ向から受け止め立ち向かう姿勢は、尊敬に値するだろう。

 

全てを語り終えた一之瀬がこちらを向く。

 

「……綾小路くん。厚かましいお願いだとは思うんだけど……私に、勇気をくれないかな」

 

過去を乗り越えるために踏み出す、その最初の一歩には勇気がいる。

一之瀬の頬に触れ、指で優しく涙を拭うと、冷え切っていた頬にはじんわりと温かさが広がってゆく。

 

「一之瀬、過去の自分の評価をするのは、今の自分じゃない。過去の自分を振り返り、評価できるのは未来の自分だ。お前が過去の罪を悔やんでいるからこそ、誰よりも頑張ってきたとオレは知っている。その結果、色んな人が救われたことも知っている。オレもその一人だからな。そうして歩んだ先にある未来で多くの人が救われたのなら、その時お前は初めて過去の自分を評価できるだろう。今はまだ全力で突き進む時だ、立ち止まったらお前はただの罪人で終わってしまう」

 

赦しを請う一之瀬に投げかける『罪を背負って、立ち止まることなく、歩み続けろ』という残酷な言葉。

 

「綾小路くんは……厳しいね。私を甘やかしてくれないんだから」

 

「一之瀬は特別だからな」

 

言葉とは裏腹に、一之瀬の目には確かな闘志が宿っていた。

 

もちろん、一之瀬には法的な意味での罪はない。母親の適切な対応によって、すでに許されたと言っていいだろう。だが、それでは救われない。自分自身で乗り越えたと思わなければ、罪の心は一生付きまとってくるだろう。

 

「過去は未来の自分が評価する……か。ありがとう、綾小路くん。勇気、もらえたよ」

 

それが一之瀬が休んでいる間に起こった出来事。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「過去の私の評価は今の私が決めることじゃない。大切な人を傷つけてしまった罪だったとしても、その経験があったから今の自分がいるんだって、いつか胸を張って言えるようになりたい」

 

一之瀬はクラスメイトに向かって言葉を続ける。

 

「ここにいるみんなで助け合ってAクラスで卒業する。その未来に到達して、初めて私は過去を乗り越えられると思うんだ。みんな、こんな私だけど……信じてついてきてくれないかな」

 

決して楽観的な考えではない。自分を曝け出し、拒否されないか、不安は今この時も拭えていないだろう。震えながらも、しっかりと想いを伝えた一之瀬。

 

「俺達も助けられてばかりじゃいけないな、一之瀬のために力になるぜ」

「もちろんだ!」

「うん!」

「帆波ちゃんがリーダーでよかった」

「帆波ちゃん大好き」

 

柴田の声に、クラスメイトが次々と賛同する。

いつもの活気あふれるBクラスが戻ってきた。

やはりこのクラスはこうじゃないとな。

 

「クク、犯罪者をリーダーにするなんてめでたいやつらだな。後悔することになってもしらないぜ」

 

「何を言っても無駄だよ、龍園くん。私は過去の私のためにも、こんな私に付いてきてくれるみんなのためにも、もう立ち止まらない」

 

一之瀬を蝕む過去の過ちは、今や一之瀬を突き動かす原動力となった。

そこから崩すことはもう誰にもできない。

 

「ハッ、口では何とも言えるだろうよ」

 

「それはこれからの学校生活で証明していくから。龍園くんにも見てて欲しいかな。そして私たちの活躍する姿を見てウワサを蒔いたこと、後悔してもらうよ」

 

「ククク、上等だぜ、一之瀬。今回の試験で早速泣き面を晒すお前たちを盛大に笑ってやることにするよ」

 

負け惜しみとも取れる発言を残し、龍園達は教室をあとにする。

 

「やったな、一之瀬。あの龍園を撃退した」

 

「帆波ちゃん、帆波ちゃん、帆波ちゃん」

 

喜ぶ神崎。白波はこれ幸いと一之瀬に抱き着く。

 

今日まで淀み切っていた空気が嘘のように晴れ渡っている。

このクラスで一之瀬が培ってきたもの。その大きさがよくわかる。

 

野次馬で来ていた生徒たちも嬉しそうに、そんなBクラスの姿を眺めていた。

 

「なんか、すごかったな、一之瀬完全復活って感じだな、清隆」

 

「ああ。本当にな」

 

クラスメイトの喜びに応える一之瀬と目が合う。

「私はもう大丈夫」そんな思いが伝わってきた。

 

一之瀬の復活で湧き上がるBクラスはきっと最高のコンディションで試験に臨めることだろう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

オレの計算じゃ、ここで一之瀬を完全に潰しきれる予定だったのだが……。

第三者の介入以外考えられないだろう。

 

スパイとして綾小路の昼休みや放課後の様子を探らせていた桔梗からは特に変わった報告は上がってきていない。

 

となると、南雲が一之瀬の洗脳を一足先に完了させたか。だが、それであんなに力溢れる状態になるとも思えない。

 

何がそこまで一之瀬を変えたのか。

 

だが、結局はそれだけの話。今回は潰し損ねたが、一之瀬のクラスの弱点も見えてきている。

 

そしていくらあいつ等が良い成績をだそうと、今回のペーパーシャッフルで俺たちのクラスが負けることはない。

 

綾小路クラスの作った問題は、桔梗から入手済みだ。問題制作者の平田たちに綾小路へチェックしてもらった方が安心だと助言した後、なぜか持っている綾小路の部屋の合鍵を使って部屋に忍び込み、試験問題を携帯で撮影したらしい。

 

あいつのことを信用しているわけではないが、あの鈴音への退学の執着は紛れもない本物だ。つまり利害が一致していれば裏切ることはない。むしろ、この話を俺に持ってきたんだ、裏切ったときにどうなるかをわからないやつじゃないだろう。

 

その後、変更されることなく受理された様子は俺の目でも確認した。

 

そうして入手した問題はクラスに配布済み。土日を使って答えを暗記させてある。

 

オマケにAクラスの橋本が噂の蔓延の協力と100万ポイントを対価に、Bクラスの試験問題を要求してきた。

これは『一之瀬をこれ以上追い詰めないこと』を条件に白波と金田を介して取引し、Bクラスの提出した問題を確認、写真を撮らせて、橋本に送った。

 

これでAクラスのヤツ等の合計点も大幅に上がるだろう。点数で競うBクラスはますます不利になる。

 

教室に担任の坂上がやってきた。

テストの配布前に不正を防止するため、携帯の回収が行われる。

 

「それでは、試験を始める」

 

覚えた解答を書き込むだけ、うちの馬鹿共でも余裕だろう。

 

そう思いながら、回ってきたテスト問題を確認し、その違和感に一瞬で気が付いた。

なぜなら問題が全く違うからだ。

 

一体何が起きやがった……。

だが、この問題、一度見た気がするな。つまりこれは――

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「姫さん、Bクラスのやつの作った問題を手に入れた。これでうちのクラスは負けることはないぜ」

 

「いえ、それは使うべきではありません」

 

「まさか正々堂々勝つのがAクラス、だなんて言わないよな?」

 

「ふふふ、橋本くんも面白いことをおっしゃいますね。そうではありません。そんな簡単に試験問題が手に入ったことを疑うべきだと言うことです」

 

「いや、これでも公正な取引のもと入手したんだぜ」

 

「そのようですね。クラスメイト数名と協力してここ最近は何やらお忙しそうでした。クラスのために動かれることは大変好ましいことですね。ただ、私の意見は変わりません」

 

「……わかった。だが、仲間内で勝手に共有するのは問題ないだろ」

 

「ええ。でもズルなどせずにテスト勉強もしっかりしておくことをおすすめします」

 

テスト問題を解きながら、数日前の橋本くんとのやり取りを思い出してしまいました。

きっと彼らは今頃心中穏やかではないはずです。入手したテスト問題と目の前の問題は全くの別物になっているはずですから。

あなた方は、綾小路くんを侮りすぎなんです。

 

そうしてテスト終了後に神室さんが近寄ってきます。

 

「ねえ、綾小路クラスへのあの教科の問題、あんなんでよかったの?簡単すぎたんじゃない?」

 

「あれでいいんですよ、神室さん。正解なのに不正解。理解されないというのは寂しいものですね」

 

どんな問題を作っても彼は解いてしまう。極端な話、高校生の範囲外の問題が出たとしても、彼にとっては何の障害にもならない。

 

でも、そんな彼が間違う可能性のある科目が一つだけあります。今回は前哨戦ですからね。綾小路くんにもこちらを意識してもらいます。

 

私もずっと片思いでいる気はありませんよ。

 

 

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