ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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情熱を注ぐもの

生徒会が代替わりして早くも2か月が過ぎようとしている。

 

自信満々に真の実力主義の学校にすると意気込んでいた南雲だったが、現状何か特別なことを行っている風でもなく、堀北兄の杞憂だったのでは?と疑いたくなるほど大人しい。

 

正確には、ここ最近は2年の役員全員が忙しそうにしているため、そろそろ何か仕掛けてくるのかもしれない。

ただ、これに関しては1年には秘密とのことで、一之瀬と2人別の業務にあたっている。

 

また、就任あいさつであれだけかっこつけて『生徒会役員の上限人数の撤廃』『実力のある人間はいつでも加入可能』と宣言したものの、1年で生徒会入りを希望する生徒は全く現れなかった。

……きっと南雲の下では働きたくないとかだろうな。決してオレたちが無茶苦茶をやらかしているから、ハードルが上がっているとかではないはず……。

 

だが、そんな生徒会に遂に1年生から面談の予約が入った。

オレと一之瀬を面会人に指名しており、まずは生徒会の様子を同学年から聞き出したいのかもしれない。新メンバーが加入すれば負担する仕事も減り、南雲がめんどくさいときは押し付けることも可能になって良いことだらけだな。

 

「綾小路くん、そろそろ面談の時間だから相談室に移動しよう」

 

「わかった。色々対応を任せてしまってすまないな」

 

「いやいや当然だよ。綾小路くんは副会長、私は(その専属の)書記なんだから」

 

何か『私は』と『書記』の間に言葉が入っていそうな間があったが気にしない。

生徒会への依頼に関しては書記がまず目を通し、会長や副会長へと相談する形であるため、今回は一之瀬が窓口となっている。そのあたりは一之瀬に一任しておけば間違いないため、オレは今日1年からアポイントがあることしか知らない状態。

 

「これから2人と面談するよー」

 

「2人も来てくれるのか」

 

人手が一気に増えそうだな。どんな生徒が来るのだろうか。

やはり優秀な生徒が多いAクラスからか?それとも真面目な生徒が多いBクラスか?

……オレたちや龍園のクラスはないだろうな。平田やひよりは部活に入っているし、櫛田や堀北妹も興味なさげで、他に務まりそうな人物の見当がつかない。

 

「うん、外村君と諸藤さんが来てくれるんだけど――」

 

「嘘だろ?」

 

見事に予想の裏をかかれる。

この2人の組み合わせも珍しいが、生徒会という柄ではないだろう。

南雲から「俺の生徒会には相応しくない」というセリフが飛んでくることが目に見える。まさかそのカバーをしてもらうためにオレたちが呼ばれたのだろうか……。

 

そんなことを考えていると、相談室のドアがノックされる。

 

「どうぞお入りください」

 

「失礼します」

 

少し緊張しながらも、外村と諸藤が入ってくる。

だが、いつもとは違い熱意に溢れた様子の2人。

 

「綾小路殿に折り入ってご相談したいことがあるのでござる」

 

「こんなこと、王子たちにしか相談できなくて……」

 

真剣な顔でこちらを見つめてくる2人。そんなに生徒会に入りたいのか……。

何かが起こるかもしれない可能性を消すのも勿体ないため、南雲の説得方法を考えてみるか。

 

「実は……拙者たちでコミケを開きたいのでござる!!」

 

「ん?」

 

「年末のビックイベント……でも、私たちは学校から出れない。なら、私たちで開催しちゃえばいいんじゃないかって思ったんです」

 

どうやら生徒会入りの希望ではなかったらしい。

特に残念でも何でもないのだが、外村の発した『コミケ』という聞きなれない言葉の意味が気になる。何かの略称だろうか……諸藤のセリフから、何かしらのイベントであるようだ。

 

「学生たちの創作意欲をぶつける場所がここにはござらん。そしてその創作に触れる機会もないのは余りにも残酷だと拙者は常々頭をかかえていたのでござる」

 

そんな外村の言葉に社交ダンスが得意な高円寺の彼女を思い出す。

彼女もせっかくの才能がありながら発表の場に恵まれていなかった。

 

「そこで秘密裏に同志を募ったところ、リカ殿に出会い、その後は学年を越えてたくさんの仲間ができたのでござるよ」

 

「これ、私たちが集めた署名です」

 

そういって諸藤が提出してきた資料に目を通す。

そこにはコミケ開催を熱望する旨と、生徒の署名が30名分集まっていた。

意外なことにひよりの名前もある。

 

「2人の考えと想いはわかったよ。どうしますか、副会長?」

 

少し書記っぽくなる一之瀬。

どうするも何も『コミケ』がふわっとしていてよくわからないのだが……一般高校生の常識だった場合、これを聞いてしまうと怪しまれるか?

 

「あ、綾小路くん。コミケっていうのは、同人誌即売会のひとつで――」

 

こちらの様子から察してくれたのだろう、一之瀬が補足をしてくれる。

2人に聞こえないようにか、耳元まで顔を近づけて囁く。

 

簡単に言えば、生徒たちが趣味で作ったものを販売したい、という感じか。

これは良いかもしれないな。大々的にポイントを稼ごうとすると学校側もNGを出すかもしれないが、生徒の創作活動を名目にイベントを開催。あわよくば、その作品が学外でも通用するのかの検証を建前に、業者に委託して学外での販売も視野に入れたい。

出店費などを頂きつつ、ポイントの総数を増やすこともできそうだ。

 

「2人の想いは伝わった。開催できるように動いてみよう」

 

「ありがとうございます!」「持つべきものは生徒会所属の戦友でござるな」

 

喜ぶ2人だったが、ひとつ疑問があった。

 

「だが、いまから準備して作品が作れるものなのか?」

 

「ふふふ、その点は抜かりありませんよ、王子」

 

「でござるな」

 

息の合った2人。相性がいいのかもしれない。

 

「私たちはこんなこともあろうかと夏休みあたりからずっと活動を続けてきたので、ほぼ作品は仕上がっています。あとは学校の許可がでたら製本していく感じです」

 

「それはすごいな。ちなみに諸藤は何を出品する予定なんだ?」

 

「え……それは……簡単に言うと、綾小路王子と平田王子が仲良く仲良しする仲睦まじい漫画です」

 

「えぇ!?」

 

諸藤の言葉を聞き、一之瀬が顔を赤くして俯く。

 

「どうしたんだ一之瀬?」

 

「だ、だって、綾小路くんはそれ大丈夫なの?」

 

「大丈夫も何も平田はクラスメイトだ。仲良くしていても不思議じゃない」

 

「そ、そ、そうなんだ……で、でも、今のでわかったけど、開催にあたり、出品者は面談する必要がありそうだね。スルーして許可したら大惨事になるような気がしてきたよ」

 

うんうんと自分に言い聞かせるように話す一之瀬。彼女には何か不吉な未来が見えたのかもしれない。

 

進捗があったら連絡するという約束で2人との面談は終了した。

 

「まずは南雲をどう説得するかだな」

 

すんなりイエスと言うだろうか。署名を見た感じだと賛同しているのは文化系の人間。

南雲は対極にあるようなイケイケチャラチャラ野郎だからな……。

ただでさえ忙しくしている上に開催まで時間もない、断る理由はいくらでもある。

 

「うーん、純粋にみんなが楽しめるのは良いことだし、ポイントをゲットできる機会は貴重だし……いざとなったら奥の手を使うよ」

 

「奥の手?」

 

「うん、多分一回しか使えないからここ一番で使おうかと温存してたんだけど……今回が使い時かなって」

 

一之瀬に手があるというのなら当てにさせてもらうか。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――ということで、コミケみたいなものを開催したいんですが、よろしいですか」

 

「馬鹿を言うんじゃねえよ、綾小路。俺達もそんなに暇じゃない。イベントを一つ開催するのにどれだけの労力と資金がかかると思ってんだ」

 

「今回はオレと一之瀬で担当しますし、労力面は実行委員会をたちあげて有志を募りますよ」

 

「資金面は出店費から一部とあとは学校側に教育の一環ということで提供してもらえるように動きます」

 

2人して南雲を説得するが、予想通りいい顔はしない。

 

「あまり俺の予定外のことをされても困るんだが――」

 

「あー!私、なんだか急にこの前の噂を流した人の特定がしたくなってきたなー」

 

南雲の話を遮るように一之瀬が主張を始める。

 

「今からでも龍園くんに問いただして、どこから私の秘密を聞き出したか白状してもらおうかなー。生徒会に訴えたら、綾小路くんが仕切って、犯人の追及もお願いできないかな?」

 

「任せろ」

 

「私の秘密知ってた人ってこの学校じゃ一人しかいな――」

 

「わかった、わかった。今回だけだ、特別に許可してやるよ。学校の説得はお前たちで勝手にやれよ。俺はそっちの方までは面倒はみれない」

 

「ありがとうございます。やったね、綾小路くん!」

 

喜ぶ一之瀬から両手でハイタッチを要求され応じる。

自らの過去を南雲をゆするネタに使うとは……一之瀬の心情の変化にも驚かされた。

 

 

その後、学校へは、生徒の表現の幅を広げる活動になること、販売を通して社会を知るきっかけになることなどそれっぽい理由を並べて説得。

生徒会が厳正な判断のもと出品物の管理などを担うことなどを約束に、年末に1日体育館を借りて開催することが決定した。

 

「そういうことで実行委員会として、外村や諸藤たちにも働いてもらう」

 

「任務、了解」

「もちろんです、王子」

 

「コミケは商標登録されてるみたいだから、流石に使えないね……イベント名はどうしようか?」

 

「そうでござるなぁ……本家から離れすぎても伝わらないでござろうし」

 

「うーん、高育生によるマーケット……」

 

「なら、コウィックマーケット、略してコウィケだな」

 

「「「……」」」

 

オレの発案に賛同はなかったが、副会長権限でコウィケに決定した。

名称に時間を取られても仕方がないからな。

こういうのは勢いだろう。

 

こうして外村達の宣伝の下、コウィケの出品の募集が始まる。

署名していた30人以外にも、一般(?)生徒からの出品も受け付ける形となった。

 

「次の方ーどうぞー」

 

一之瀬の懸念と学校との約束もあり、生徒会で出品物のオーディションを行う。

 

「帆波ちゃん、よろしく」

 

何人目かの面談で見知った顔、白波がやってくる。

白波は美術部ということもあり、何か発表したい作品があるのかもしれない。

 

「私が出品したいのは絵画集です。名付けて『私の愛する帆波ちゃん』」

 

「……えーと、それは……」

 

嫌な予感しかしていない一之瀬。

探るように言葉を選んでいる。

 

「これまで描いてきた大好きな帆波ちゃんの絵をまとめてみようと思うの。もっとたくさんの人に帆波ちゃんのすばらしさ、魅力を伝えるんです!」

 

「あのね、千尋ちゃん、それはちょっと恥ずかしいっていうか……」

 

「ダメ?」

 

うるうるとした涙目で一之瀬に訴えかける白波。

 

「えっと、あー、ダメとは言わないけど……」

 

「じゃあいいんだね!ありがとう、帆波ちゃんだーい好き!!」

 

抱き着いてこんばかりの勢いでお礼を言って去っていく白波。

これまでの白波の努力を否定することはできず、完全に押し切られた一之瀬。

 

「あちゃー……大丈夫かな?」

 

「売上なら心配ないんじゃないか?オレも一冊買わせてもらうことにする」

 

「そ、そういうことじゃなくて」

 

少しからかうと余計に慌てだす一之瀬。

だが、面談はまだ残っている。

 

「つ、次の方どうぞ―」

 

切り替えて職務を全うすることにしたようだ。

 

「俺が来たぜ、帆波」

 

「え?南雲会長?」

 

「どうせ開催するなら俺が出ないのはおかしいだろ。とびっきりの出品して賑やかにしてやるよ」

 

都合のいいなぐもんだったが、出品するという以上、面談は必要だ。

 

「それで南雲会長はどんな作品を出したいんですか?」

 

「ずばり、『カッコいい俺様』写真集だ」

 

「「却下」」

 

一之瀬と2人即断即決。

 

「おい待てよ。話ぐらい聞け。人気者の俺が文字通り一肌脱いでやろうってんだ、絶対売れるぜ。これサンプルな」

 

「問答無用です。お引き取りください」

 

上裸でバラを咥えた南雲が映ったサンプル写真を頭からビリビリに引き裂く一之瀬。

 

「……販売の許可しなかったこと、後悔しても知らないからな」

 

捨て台詞を吐いて去っていく南雲。

 

あれか、新手のイベント妨害行為だったんだろうな。

とんでもないものを販売されるところだった。

売れても売れなくても迷惑だ。よくやってくれた、一之瀬。

 

こうしてオレたちはコウィックマーケット開催へ準備を進めていくのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そんで、ふざけた写真を撮らせるだけのために俺たちを嵌めたわけじゃねえよな、会長さんよ」

 

龍園が気色の悪い笑みを浮かべながら挑発してくる。

 

「当たり前だろ。こんなのただの余興さ。お前たちへは最高の舞台を用意してやるよ」

 

「俺たちだけ、ってわけじゃないだろ」

 

「そりゃな。だが、合法的に暴力をふるえて、上手くいけば俺への借金も返済できる素敵なイベントを計画中だ」

 

こいつらは手綱を握っておかないと、退学すれすれの行動ばかり。

逆に合法的に攻撃できる場を用意してやれば、それなりに活躍してくれるだろう。

 

「クク、ちっとは楽しみにしといてやるぜ」

 

1月に控えた堀北学との前哨戦。

ここで学に本気になってもらわなければ、卒業までの残り期間での勝負は実現しないだろう。

そのために想定外の要素、綾小路には大人しくしていてもらわなくてはならない。

 

 

「それにしても、破り捨てるのはあんまりじゃないか、帆波……」

 

 

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