ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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坂柳プレゼンツ~一番キレイに夕日が差し込む場所~

「綾小路くん、あなた煙臭いわよ」

 

テスト返却の翌日。相変わらず朝の一言目から棘がある堀北妹。

テスト結果が発表された時に、こちらを睨みつけていたからな……

しばらく小言は続くかもしれない。姑にはしたくないタイプだ。

 

「昨日焼肉に行ったからな、こんなに臭いがつくとは思わなかった」

 

確かにあの煙の中、食事をしていれば臭いもつくか。

ここまで残ると知っていたら帰ってから洗濯したのだが……

次回があれば消臭剤を買っておこう。

 

返事がないので堀北を見ると先程までとは一転

可哀想なものを見る目でオレを見つめている。

 

「いくら満点取って嬉しかったからって、ひとりで焼肉は……ちょっと哀しいわね」

 

「おい!生徒会長と橘先輩も一緒だ」

 

「っ!?……綾小路くん、次から私にも声を掛けなさい」

 

「あー、悪かった。今度は堀北も一緒にいいか聞いてみる」

 

確かに兄貴を追いかけてこの学校までやってきたんだ。

少しでも交流する機会は欲しいよな。

堀北のご機嫌を回復させるために一肌脱ぐのもやぶさかではない。

 

「そうじゃないわ。兄さんと一緒に焼肉なんて許してもらえないもの。こっそりついて行って、お肉を焼く兄さんを別席から見守るの」

 

その場合、お前はさっき自分で哀しいとか言っていた一人焼肉をやることになるぞ。

 

「そうだな、ほどほどにな」

 

喉まで出かかったツッコミを呑み込み、話を打ち切る。

これ以上この話を続けるのは危険だと判断した。

堀北は限度を知らないらしい。その深淵を覗く気にはなれない。

だが、案外同席をお願いしたらみんなで仲良く肉を焼けるのではないだろうか。

いや、焼肉は争奪戦だから仲良くは語弊があるか。

焼けた肉を奪い合う堀北兄妹……見てみたい気もする。

 

「それにしても自称『事なかれ主義』の人はどこにいってしまったのかしらね」

 

「オレは今でも主義を変えたつもりはないんだが、文句があるなら生徒会に入れた会長に言って欲しい」

 

「それもそうね。綾小路くんを入れるなんて何かの間違いだと思っていたのだけど、流石兄さんだわ。人を見る目も一流ね」

 

こいつ無敵か!?本人の前でもその調子でいてくれればいいものを……

 

「とにかく、これであなたの実力は証明された。正直、気に入らないけど、貴重な戦力としてDクラスのために馬車馬の如く働いてもらうから覚悟しておきなさい」

 

「橘先輩の教え方が良かっただけで、今回は自分でも出来すぎたと思っている。あまり期待はしないでくれ」

 

「何か言ったかしら?」

 

堀北の手にはあのコンパス、その針が輝いている。

心なしか普通より尖ってないか?研いだのか?

学力で敵わないとみるや武力に切り替える堀北に戦慄していると

茶柱先生が教室に入ってきて、ホームルームの時間となる。

 

隣から「次は負けないから」とつぶやきがかすかに聞こえてきた。

相当ご立腹のようだが、戦意喪失しないことは良いことだ。

これからの堀北の成長にも期待できる。

ただ、すぐコンパスを手にする癖だけは改めて欲しい。

 

 

ホームルームの時間は月末から出発する豪華クルージングの班決めをした。

4人1部屋の割り振りのため、須藤、池、山内と同じ班になるだろうと油断していたら

向こうであっさり4人組を決めてしまい定員オーバー。

あの3人、縦に席が並んでるから相談しやすいのか、オレを放って話を決めてしまった。

 

このままじゃマズいと焦ったが、殊の外、すんなりと4人組ができた。

……オレ、平田、幸村、高円寺の不思議なグループではあるが。

 

まず、学力トップ集団のひとり幸村から組まないかと声をかけられた。

断る理由もなく歓迎したが、幸村も仲のいいクラスメイトはいないため

2人組のままとなる。そこで登場したのが平田だ。

誰も組みたがらなかった高円寺と組んだ救世主平田マンとの合流に成功し

4人組が完成した、という経緯。

 

このように期末テストでオール満点を出したことは

クラス内での立ち位置にいくつかの変化をもたらしたようだった。

 

例えば、池や山内——これまで比較的仲良くしていた2人から距離を置かれた。

堀北曰く、オレのことを同じ底辺仲間だと思っていたら

勉強ができて騙された気持ちになったのだろうということらしい。

たかが勉強くらいでと思ったが

平均点が底上げされたことにより赤点ラインが上がった結果

須藤含む3人とも赤点ギリギリだったからな。

かなり肝を冷やしたことだろう。死活問題なら仕方ない。

 

逆に幸村のように勉強のできる生徒からは話しかけられるようになった。

友達作りの秘訣は学力だったのか、初手で選択肢を誤っていたらしい。

 

おまけとしては、茶柱先生が上機嫌だ。

発表された各クラスの平均点では、今回Cクラスを抜いて3位という結果だった。

茶道部の顧問になる条件でもあったことから

オレが『Aクラスに上がるために本気を出した』と誤解している。

せっかくなので誤解は解かず

そろそろ出るであろう夏のボーナスで茶道部に高級茶葉でも買ってもらおう。

あ、オレ用に茶碗も欲しいな。

 

そんなこんなで「なぜこいつが生徒会に?」みたいな空気はすっかりなくなっていた。

特に気にしてはいなかったが、疑われているよりはマシだろう、橘様様だ。

 

正直、もっと注目されることも覚悟していたが

夏休みが目前で、豪華クルージングも待っている。

クラスのテンションは過去最高に上がっており

人の点数などそこまで気にならない様子。

というより、テストの事なんて早く忘れたい生徒が大半なのだろう。

そういう意味ではタイミングがよかったな。

 

だが、果たしてどれだけの生徒がこのクルージングが

ただの旅行ではないと考えているのだろうか。

試験次第ではオレが本気を出してもどうにもならない場合もある。

クラスの強化は今後の課題だな。

 

「……綾小路くん、旅行のしおりに付箋まで貼って、よほど楽しみなのね」

 

「見ろ堀北、客船内にはプールに劇場にバーまであるぞ」

 

「興味ないわね」

 

そんなことを思いつつ、一番テンションが上がっているのはオレだったかもしれない。

 

 

 

昼休み。ここ最近は手早く食事を済ませて、図書館でひよりと話をする事が増えた。

個人のテスト結果は他クラスには共有されないため

あれこれ聞かれないのは非常にありがたい。

 

ひよりと話すのは、

最近面白かった本の話や今度入荷する本の話、これまで一番感動した本の話

……これはテスト結果が共有されていても本の話題だけだったろうな。

 

「ところで、もうすぐクルージングだな」

 

せっかくなのでこちらから話題を振ってみる。

 

「そうですね。2週間もありますから、どの本を持っていくか悩みますね」

 

実にひよりらしい返事だ。

客船内に図書室でもあれば話も違ったろうが

クルージング中、部屋から出てこない可能性もあるな。

 

「さすがに冗談ですよ、半分は」

 

「安心した。せっかくのクルーズだ。たまには普段できないことをするのもいいんじゃないか」

 

「そうですね。でも、どこまで自由時間があるかは疑ってかかるべきだと思います」

 

「ひよりもそう思うか」

 

どうやら学校側から何かしらのアクションがあると疑っているようだ。

Dクラスの面々にも見習ってほしい。

 

「豪華客船では事件が起こるのがお約束ですからね」

 

違った、これはただのミステリー小説の読みすぎだ。

クルーズ中の殺人事件を期待するのはやめて欲しい。

……山内あたりが

「殺人鬼と一緒にいるのはごめんだ、オレは部屋に戻らせてもらうぜ」

とか言い出しそうだな。うーん、溢れるB級感。

 

「こっちも冗談ですよ?」

 

「安心した。ひよりも冗談を言うんだな」

 

「すみません、清隆くんは妙なところで素直なので、ついからかってしまいました」

 

よほど面白かったのか、ニコニコしているひより。

オレは素直なのだろうか。自分ではわからない。

 

「実際のところ、この学校が2週間もただの旅行に連れ出すとは思えません。それこそ『普段できないこと』をするのかもしれませんね」

 

そうそうそれだ、ひより。最初からその考察が欲しかった。

 

「流石はひよりだな。実のところDクラスはあまり危機感がなくて、オレの考えすぎかと心配になっていた」

 

「Cクラスも似たようなものですよ。皆さん、旅行中に何をして遊ぶかで盛り上がっていらしたので」

 

この話を100%鵜呑みにするわけにはいかないが、少なくともCクラスが一致団結してクルージングに向けて対策を考案している様子ではなさそうだ。

 

「まぁ本当に考えすぎの線もあるからな。その時はお互い思いっきり羽を伸ばそう」

 

「フフ、そうですね」

 

昼休みも残り僅か、借りたい本があるというひよりと図書館で分かれ

教室に戻ることにした。

 

「ちょっといい?」

 

教室への廊下の途中で女子——Aクラスの神室真澄と思われる生徒に声を掛けられた。

 

「……何か用か?」

 

「放課後でいいんだけど少し付き合ってもらえる?」

 

「どうしてオレが?」

 

「少し話があるから。5時になったら玄関に来て」

 

もしかして告白的なものか?

入学当初とは違い、生徒会やテストで絶賛活躍中だからな。

おかしくは……おかしいな。

初対面の神室は、オレが生徒会役員であることもテストの点も知らないはず。

 

「話があるならここで——」

 

と、こちらが問い詰める前に、神室は立ち去って行った。

 

 

 

 

 

「——ということがあったんですが、生徒会の仕事もありますし、スルーしようと思います」

 

放課後、生徒会室で堀北兄と橘、桐山に昼間の件を話していた。

明らかに怪しかったからな。

あとで文句を言われても生徒会で忙しくて顔を出せなかった、でやりすごそう。

時計はすでに4時55分を指している。

 

「ダメですっ!女の子が勇気を出して声を掛けてきてくれたんですよ。綾小路くん、行くべきです」

 

橘はオレの判断に反対のようだ。どう考えても行くのはリスクだと思うんだがな……

 

「綾小路、こんな時ぐらい仕事は代わってやる。だがな、女に現を抜かして生徒会業務へ影響が出たら許さないからな」

 

硬派な桐山なら止めてくれると思ったんだが、気持ちよく送り出してくれようとする。

 

「聞いたところによると南雲に一矢報いてくれたんだろ、その礼だ」

 

自分でもおかしな発言だと思ったのか、理由を補足してくる桐山。

南雲とはあまり仲が良くないようだ。

現Aクラスと元Aクラスという関係だからな、ライバルのようなものなのかもしれない。

ただ「それならお言葉に甘えて」とは言いづらい理由だ。

それにあの勝負結果なら『一矢報いた』という表現は正しくないのではないか。

100本ぐらい矢は刺さったと思う。

 

「綾小路、一つの経験と思って行ってみたらどうだ?」

 

何かの罠でもお前なら大丈夫だろ?とでも言いたげな堀北兄。

少し面白がってないか、口元が緩んでいるぞ。

 

3人の内の誰かから「確かに生徒会の仕事があるから無理だな」という言質を

念のために取っておこうと話したのだが、完全に裏目に出たな。

 

少し遅れるが玄関に向かうしかない。

 

 

 

5時10分、少し遅れたが神室はまだ玄関にいた。

 

「……アンタいい度胸ね」

 

無駄だ神室。日頃、堀北妹の睨みを受け続けているからな。

その程度のガンの飛ばし方では心は動かない。

 

「まぁいい、ついてきて」

 

どんな要件にしろ、玄関で立ち話はないか。遅れた手前、黙ってついて行く。

少し早足で向かった先は、特別棟の3階だった。

 

「それで一体——」

 

話を聞きだそうと切り出したところで、ここで待つよう言い廊下の奥へ歩き出した。

 

「連れてきたわよ、もう帰っていい?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。ありがとうございました、真澄さん。またよろしくお願いしますね」

 

神室は頷くと奥の階段を降りたのだろう、姿が見えなくなった。

代わりに出てきたのは、神室と同じAクラスの坂柳有栖だ。

片手に杖をつきながらゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 

呼び出した手前、何か声を掛けてくると思ったのだが、微笑むばかりで何も話さない。

目の前に来るまでじっと見つめ合う形となる。

夕暮れの校舎……いい感じに夕日が差し込み

ロマンチックな空間が演出されて——いただろうな、10分前ぐらいなら。

オレが遅刻したことで、日はだいぶ沈んでしまっていた。

まぁ坂柳もそんなことを狙っていたわけではないだろうし、別に問題ないか。

 

「Dクラスの平均点が突然上がったので不思議に思って調べてみたんですが、なんでも全教科100点を取った生徒がいたらしいですね、綾小路清隆くん」

 

やっと口を開いたと思えば、テストの事か。

 

「あー、悪い。1つチャットを送ってもいいか。待たせている人がいるんだ」

 

「どうぞ」

 

嫌な顔をせず笑顔を向けてきた坂柳。

 

『告白じゃないっぽいです』

 

例の3人のグループにチャットを送った。

そうしないと見守るとか言って後をつけてくる気満々だったからな。

グループ名を『綾小路くんの愛ノ恋路を応援する会』にしたのは誰だ、橘しかいないな。

 

『えー、そうなんですか、残念です』

『これで仕事に身が入るな』

『ドンマイ』

 

すぐ既読がついて、返信がきた。

誰のせいでこんな訳のわからないことになっていると思っているのか……

こんなグループ、即解散だ。

 

「待たせたな、それで何の用なんだ」

 

「あなたのテスト結果を知って思い出したんです。その時の衝撃を共有したいと思いつい呼び出してしまいました。まるで告白の前置きみたいですよね」

 

「……何のことだかさっぱりだ」

 

橘たちが煽るから『告白』のワードを聞いて、あれ?やっぱり告白だったか?なんてノイズが一瞬走ってしまう。

もう何でもいいから要件が知りたい。

 

「お久しぶりです綾小路くん。8年と166日の4時間10分ぶりですね」

 

分刻みで時間を言ってくるあたり、遅刻のことを根に持ってないか?

これが巌流島の決闘であればこちらの勝ちだったな。

どちらにせよ、8年と166日の4時間10分前

オレはホワイトルームでチェスのプログラムをこなしていた。

坂柳と会うことなど不可能だ。

 

「すまないが坂柳とは初対面だろ」

 

「私のことをご存じなのですか、一方的に知っていると思っていたので嬉しいですね」

 

オレが知っているのは生徒会にあったデータだけで

坂柳本人に会うのは間違いなく初めてのはず。

会話が絶妙に噛み合わないもどかしさ。何かを勿体ぶっている。

 

「悪いが用がないならこれで失礼する」

 

そういって立ち去ることを決める。

 

「ホワイトルーム」

 

突然出てきた言葉に耳を疑う。

立ち止まり、坂柳を振り返る。

 

「驚かれるのも無理はありません。あなたは私を知らないし、私も二度と会えないと思っていましたから。このような場所でお会いできるなんて、不思議な縁なのでしょうね」

 

どうやら、こちら側の関係者のようだな。

ホワイトルームにいた頃のオレを見る方法は限られている。

なら下手に隠し立てしても無駄だろう。

 

「安心してください。あなたのことは誰にも言うつもりはありません」

 

「信じろと?」

 

「誰にも邪魔をされたくないんです。あなたのお父様が作られた最高傑作、偽りの天才を葬る役目は私にこそ相応しい」

 

ほぼ初対面の相手に物騒な物言いだ。

オレの実力をある程度把握しているにも関わらず、この強気な姿勢。

かなり自信があるのか。

 

「お前にオレが葬れるのか?」

 

期待を込めて尋ねずにはいられない。

 

「ふふふ、その答えは勝負の時までのお預けですね。退屈だと思っていた学校生活にも楽しみができました」

 

濁されてしまったが、勝負は時の運ともいえるし

どんな壁でも工夫次第で超えられる可能性はある。

簡単に勝てると断言しないのは評価できるな。

 

「今日は再会のご挨拶までで失礼しますね。いずれ勝負できる日を心待ちにしています」

 

そういって坂柳はゆっくりと歩き出す。

 

「一つだけ質問してもいいか」

 

去り行く坂柳を見て、ひとつだけ気になることを聞いておく。

 

「あなたからの質問なら喜んで。何でしょうか?」

 

「監視カメラを警戒して特別棟なのはわかるが、身体のこともあるのになぜ3階なんだ?」

 

「それは……乙女の秘密、ということでお願いします」

 

少し言葉に詰まった坂柳だったが

これまでの冷たい微笑みとは違い、どこか慈愛を連想させる笑みでそう答えた。

 

初めからこの表情で登場してくれたら

『告白かもしれません』とチャットしていたかもしれない。

 

そんな坂柳の一面に、謎の少女という印象がより深まるばかりだった。

 




テストで目立ってしまった結果、早くも坂柳さんに見つかってしまう綾小路くん。
再会するまでの日数については、原作は10月頭、この作品では7月後半となったため、おおよそ2か月とちょっと分差し引いています。大雑把な計算ですので、整合性には目をつぶっていただけますと幸いです。

また、構成の関係上、夏休み前日にあった班決めのホームルームは少し早まっています。
おそらく、上機嫌の茶柱先生が生徒たちのために日程を早めてくれたに違いありません。
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