「私たちも何かしたいよねー」
「うん、なんだか面白そう」
綾小路グループでやってきたカラオケで、コウィケの話になった。
「みやっちとゆきむーはどう?」
「俺はやっても構わないが、何ができるかは考えないとな」
「しょんにゃじかんがあるなりゃべんきょうひりょ」
「え?ゆきむーなんだって?」
「は、波瑠加ちゃん、流石に気の毒だよ」
ろれつが回らない啓誠。それも無理はない。
1個だけ激辛味の入ったロシアンたこ焼きなるものに5人で挑戦しているのだが、現在啓誠が4回連続で当たりを引いてる。激辛が当たったら一曲歌いきるまで飲み物を飲めないという追い打ち付きで、すでに満身創痍の啓誠。
だが、本人たっての希望でこのまま負けっぱなしでは終われないと5回戦に入るところだ。今は次のたこ焼きが届くのを待っている。
「うーん、何を出せば売れるか……私たちの特技を活かせると良いよね。一旦みんなで自分の得意なことを書き出してみようか」
「さっき啓誠は反対してなかったか?」
「いいの、いいの。ゆきむーはいつもの事じゃん。何だかんだノリノリで手伝ってくれるんだって」
オレたちのグループも集まる機会が増え、以前よりもお互いのことがわかるようになってきていた。
オレが生徒会でいない時も集まっていることもあって、この4人はより親睦が深まっている様子。だが、オレだけ疎外感がでないように配慮してくれているのか、愛里や波瑠加がその日あったことなどを次の日に話してくれたり、チャットで写真を送ってくれたりしているため、1人取り残されるなんて悲惨なことにはなっていない。ありがたい限りだ。
「得意なことと言っても俺は弓道ぐらいしか思いつかないな……」
「おれふぁべんきょうだな」
「私は何にも……あ、写真を撮るのは好き、だけど……」
各々自己分析をしているが、コウィケに活かせるような特技は出てこない様子。
「オレは、書道に、茶道に、ピアノぐらいだ」
「……」
なぜか波瑠加からジトっとした視線が飛んでくる。
オレなりに使えそうなスキルを提案してみただけなのだが……。
「きよぽんのことは置いておいて、愛里は歌も上手かったし、元グラビアアイドルでしょ?普通に写真集とか売りだせるんじゃない?」
「そ、それは恥ずかしいよぉ」
「一応言っておくが、健全なイベントであることが学校側からの条件だからな?」
「あー、きよぽん、変な想像したでしょ~。別に水着とかの写真とは言ってないのにー」
「それは悪質な誘導じゃないか?」
「あーあ。きよぽんは愛里のそんな写真集が欲しいんだー。ふーん」
「おいおい」
どうやら波瑠加の罠にハマってしまったようだ。
先ほどの会話の流れで写真集と言われれば、そんなグラビアものだと思うのは自然だろう。
助けてくれと明人や啓誠に視線を送るが、こうなったら俺たちの手には負えないな、といった諦めムード。むしろ2人に飛び火しないようにオレが人柱になるべきか……。
「どうする愛里。きよぽんのために頑張っちゃう?」
「え、えっと……清隆くんしか見ないなら……いや、ダメだよ、やっぱり。どうしてもって言うなら、波瑠加ちゃんも一緒だよ」
「え、わ、私?」
波瑠加からの誘いに慌てる愛里だったが、その愛里からのキラーパスに今度は波瑠加が動揺する。
「えーと、私の写真なんてあってもね……ほら、需要とかないと思うし」
反撃するならこのタイミングだな。
2人に目配せをする。
「きっと人気が出ると思うぞ」
「な、なにいってんのきよぽん」
「いや、俺もそう思う」
「よくわかりゃんがしょうだな」
男性陣は日頃、波瑠加にからかわれてばかりなので、ここぞとばかりにからかい返す。
「もー、なしなし。降参降参。この話おしまーい」
照れるのを誤魔化し振り払うかのように話題を終わらせようとする波瑠加。
実際、贔屓目なしに愛里と波瑠加で写真集を出せば、かなり売れるんじゃないだろうか。
愛里は元プロだし、そのスタイルに負けず劣らずの波瑠加。
2人とも系統が違うので幅広くニーズに応えることができそうだ。
「……ありかもな」
「「「「え?」」」」
学生の悪ノリの雰囲気から一変、真剣に検討を始めたオレの様子に驚く一同。
「清隆、お前、マジでやるつもりか?漢だな」
「きききよたかかかくんん。わ、わたし、心の準備が……」
「きよぽんのスケベ―」
「おれふぁしりゃんじょ」
無関係を主張する啓誠の顔が一番真っ赤だったことは置いておくが、女性陣が完全に拒否しないこの反応であれば、いけるかもしれない。
「グラビア写真ではなく、ステージイベントで歌って踊る、ならどうだ?」
「なんて?」
「本家のコミケではコスプレをしたり、即売会とは違ったイベントがあったりするんだろ?コウィケでも何かできないか考えていたんだが、せっかく体育館のステージもある。利用しない手はない」
「えーと、つまり?」
「明人、弓が引けるなら、ギターも弾けるよな」
「ん?」
「啓誠、お前の正確さならリズムはバッチリだ。ドラムを頼む」
「んん?」
「2人はさっき言ったように、歌って踊ってくれ」
「「んんん?」」
「そしてオレはキーボードを担当する」
完璧な役割分担だろう。
「綾小路グループでバンドやるってこと?」
「そういうことになるな」
「……」
考え込む波瑠加。
元々人の視線に敏感な波瑠加。
ステージに立って目立つことは抵抗があるのかもしれない。
「ひとつだけ条件があるんだけど」
「なんだ?」
「愛里が可愛いアイドル衣装でやってくれるならその提案に乗ってもいい」
「最初からそのつもりだ」
ぎゅっと握手を交わすオレと波瑠加。
愛里のアイドル姿と天秤にかけた結果、こちら側に傾いてくれたようだ。
「え、え、えっと、でも、いきなり楽器の演奏とか大変だと思う…な。本番まで1か月もないんだよ」
波瑠加がこちら側についたことで、明人たちに助けを求める愛里。
「実は中学時代の多感な頃、ギターに挑戦したことがあった。練習すれば1曲ぐらいならいける」
明人の意外な過去。
当時を思い出しているのか少し照れくさそうだ。
「俺も姉さんがドラムやってて、その姿に憧れて小さい頃一緒に練習してたんだ」
啓誠の意外な過去。
辛さを忘れているのかすっかり口調が戻っている。
とにかく2人とも乗り気なようで良かった。
バンド活動はやりたくても残念ながら1人ではできない。
学校で孤独組だったオレ達には縁のない話だった。
だが、それも昔の話。今はここにメンバーがそろっている。
オレたちはもうぼっちじゃない。
「2人とも経験者かー。愛里はアイドルだったし、完璧じゃん」
「わ、わたしのはそんなんじゃ……」
「まぁまぁ、ちょっと耳貸して」
まだ躊躇いのある愛里に波瑠加が何かを囁く。
「愛里の可愛い姿を見たらきよぽんも喜ぶって」
「そ、それは……で、でも波瑠加ちゃんだって、その……」
「あーまぁでも、私たちは協力したいかなって思うんだよね。最近きよぽんの周りってさ――――」
こちらまで声は聞こえてこないが、波瑠加の話を聞いて、徐々に愛里はうんうんと頷くようになってきた。
「わかったよ。なら、波瑠加ちゃんもアイドル衣装で一緒に歌おう。それなら私も頑張れる」
「えええっ!?」
「協力って話なら平等じゃなきゃ」
「安心してくれ、最初からそのつもりだ」
「きよぽん!?」
「2人が歌って踊れば大成功間違いなしだ」
「俺もそう思う」
「その確率が高いことは認めてもいい」
男性陣からの猛プッシュに波瑠加も覚悟を決めたようだ。
「確かに愛里だけってのもひどい話かぁ。こうなったら絶対成功させるんだから。夢はでっかく武道館ね」
「まずは体育館で成功させてほしい」
「きよぽーん」
「先のことはともかく、当日の収益の方はどうするんだ?」
「あー確かに。お金じゃないって言いたいところだけど、やっぱりあるのとないのじゃ変わってくるよねー」
「その点も考えてある。練習風景や本番の映像を撮っておき、DVDにして後日輸送する。その交換券を当日販売すればいい」
「なるほど。売れた分だけ作ればいいから、元手の不安もないな」
「だったらさ、人気が出たら配信とかもありかもよ」
どんどん話が膨らんでいく。
こうして綾小路グループでのバンド参戦が決まった。
「そうと決まれば、練習あるのみ。愛里、歌うよ!」
「うん」
「元々勉強のために集まったグループが、こんなことになるなんてな」
「だが、悪くはないな」
「ああ」
明人の発言に賛同する啓誠とオレ。
これまでピアノを弾く機会にはなぜか恵まれたが、他の誰かと演奏してみるのも新たな発見があるかもしれないと気にはなっていた。
ホワイトルームの4期生は最終的にオレだけになっていたため、叶うことはなかったアンサンブル。どんな音楽になるのか楽しみだな。
こうして、一同が心を一つに練習を開始す――
「ロシアンたこ焼きお待たせしましたー」
「「「「「あ……」」」」」
すっかり忘れていた、たこ焼きが登場する。
「まあ景気づけに行っときますか」
「啓誠の口の中も落ち着いたみたいだしな」
「ああ。次は普通のたこ焼きを楽しませてもらう。確率的に5回連続はあり得ないからな」
「ゆきむー、それフラグだよ?」
「大丈夫、幸村くんなら普通のを引けるよ」
「それもフラグになるんじゃないか?」
「えええ、ご、ごめん、幸村くん」
「構わない。俺はそんな非科学的なことは信じないからな」
波瑠加と明人の言ったように、フラグというものを乱立していった啓誠。
5回目の激辛味を引いたのが誰かはもはや説明不要となった。
なるほど、これがフラグを回収する、ということか。
一つ勉強になったな。まあ使うことはないだろうが……。
「ところできよぽん」
「どうした?」
「この前さ、執事やってたよね?」
「あれは廃業した」
「私は一之瀬さんと特別棟でデートしてたって話聞いたよ?」
「あれは生徒会活動だ」
「「ホントにー??」」
隣で辛さに悶え苦しんでいる啓誠が羨ましくなった。
オレがあれを食べていれば、この追求から逃げ出せたのにな……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の放課後。
一之瀬や諸藤、さらに手伝ってくれるという真鍋や山下、藪たちと
コウィケ実行委員会の臨時の会議室として利用している生徒会相談室へ向かっていた。
「そういうことでステージでの出し物の募集もしようと思う」
「うん、いいと思うよ。ますます盛り上がりそうだねっ」
「王子のバンド楽しみにしてます。……平田王子は出演されないんですか?」
ステージでのことを共有し、他の参加者も募ることにした。
副会長権限を利用してバンドをやってると思われるのを防ぐ意味合いが強いが
高円寺の彼女の様に、何かしらステージで発表したい生徒がいればいい機会となるだろう。
「清隆くん、コウィケでの茶道部出店で相談したいことがありまして」
「わかった。相談室で詳しく聞こう」
途中、ひよりとみーちゃん、朝比奈が合流する。
以前のプールの時のように抹茶ラテなどを出品して荒稼ぎさせてもらう予定だ。
「きよぽーん、この後のバンドの練習だけどさー」
「わかった。相談室で詳しく聞こう」
波瑠加と愛里も合流する。
ちなみに男性陣は楽器を探しにケヤキモールに行っており不在だ。
「綾小路くん、私も運営手伝うよ」
「清隆、ひと声かけてくれたって良かったんじゃないの、友だちでしょ?」
「わかった。相談室で詳しく聞こう」
櫛田と軽井沢も合流してきた。
人手が増えるのは良いことなのだが、この2人とその他の女子生徒を一緒の空間に入れても大丈夫だろうか……。
「綾小路くん、兄さんは出品しないのかしら?写真集とか出したら絶対売れるわよ」
「わかった。相談室で詳しく聞こう」
遂には堀北妹まで合流してくる始末。
かなりの大所帯となった。
もう少しで相談室に到着するため、これ以上は誰も声を掛けてこないだろうと考えたところで更に声がかかる。フラグ回収だな。
「清隆」
「わかった。相談室で詳しく……」
もう何度目かわからないので流そうとしたが、聞き覚えのある声にそちらを見る。
オレに声を掛けてきたのは、ここにいるはずのない男。
綾小路篤臣。戸籍上、オレの父親にあたる人間だった。