2学期の終業式。
校長の長い話が続く。クビにはならなかった安堵からか、やたら舌が回る様子。あの一件で、校長も日常が日常であり続けることのありがたみを思い出したのかもしれない。
この2学期は体育祭、ペーパーシャッフル、3年生徒会役員の引退などなど、1学期よりも色々なことがあったのだが、体感としてはあっという間に過ぎていった。
明日から冬休み。長期休暇とはいえ夏休みとは違い、期間は2週間と数日であるため、流石に無人島に連れて行かれることはないだろう。
少なくとも年末にコウィケの開催が許されたので、今年中は問題ないとみている。
とは言っても、今日の『リアルケイドロ』といい、コウィケといい、今年もまだまだイベントは残っているため、暇ということにはならない。
長い校長の話がようやく終わり、各クラスでホームルームの時間となる。一般的な学校であれば通知表なるものが渡されるらしいが、この学校にはそれがないため、茶柱先生から冬休み明けの説明が少しあって解散となる。
「ねっ、綾小路くんも今日のイベント参加するの?」
「ああ」
綾小路グループが集まる前に、佐藤さんがやってきた。
「えっと、じゃあさっ!私と一緒に行動しない?……なんて言ってみたり」
「すまないが、先約がある」
お嬢様のお願いであれば叶えてあげたいのものの、綾小路グループでしっかり作戦まで立てた状態。いくら縛りのない自由なグループとはいえ、突然の別行動は申し訳が立たない。
「そっかぁ……じゃぁ仕方ないね」
あからさまにしゅんと落ち込む佐藤さん。
これは見ていられない。
「他の日でよければいつでも誘ってくれ」
「ほ、ホント!?……例えば、明後日とかでも?」
しゅんとした様子から一転、少しもじっとしながら、上目遣いで遠慮がちに尋ねてくる。
櫛田とはまた違った仕草――ということはこれは天然だな。
であれば、裏はないだろう。
「もちろん、大丈夫だ」
「やったー。詳しいことはまた連絡するね」
ぱあと明るい表情へと変わった佐藤さん。
手を振って立ち去り、松下のところへ駆け寄っていく。
松下と何やらハイタッチ。その松下が一瞬、ニヤッとこちらに視線を寄こす。
「なるほど……」
どうやら先ほどのやり取りは、松下の入れ知恵だったようだ。
オレが綾小路グループでイベントに参加しそうなことは、ここ最近の様子を見ていれば予想がつくだろう。
あえて、そこに一緒にどうかと提案し断らせることで、本命の25日の約束を通しやすくする。古典的な手ではあるが……松下にそんなことができるイメージがなかったため、少し驚かされた。
「『なるほど……』じゃないわよ、きよぽん!」
「ん?」
先ほどのやり取りを聞いていたのだろう、波瑠加が詰め寄ってくる。
「さっきのどういうこと?」
「どうと言われても、佐藤さんに誘われたから出かける約束をしただけだ。佐藤さんには恩があるからな、なるべく希望には沿いたいと思ってる」
「でも明後日って、25日よ、ク・リ・ス・マ・ス!聖なる夜!」
「ああ……?」
キリストの降誕祭を、なぜか信仰に関係なく盛大に祝う日本の文化は把握しているが……もしかしてパーティーでも開く予定だったのだろうか。
「あ、これホントにわかってないやつか。きよぽん、クリスマスはね、青春真っ只中の男女にとっては、サンタさんが来る日でも、チキンを食べる日でもないの」
「……というと?」
サンタさんなどもちろんホワイトルームには来たことがない。
流石にあのセキュリティーの突破はサンタさんでも不可能だったようだ。
「簡単に言うと、最高のデート日和ってこと」
「キリストの降誕祭でなぜそうなるんだ?」
「そ、その、告白とかするのに丁度いいというか、雰囲気が出るというか……と、とにかく、どうするのきよぽん。愛里なんてさっきからあわ噴き出して倒れそうになってるんだけど?」
そう言われて愛里の方をみてみる。
「あばばばばばばば」
動揺からか随分おかしなことになっている愛里。
「どうすると言われてもな……ただ出掛けるだけかもしれないだろ。こちらから何かをするつもりはない」
「うーん、こういうことに関してのきよぽんは、本当にダメよね」
波瑠加にズバッと言い切られ、少し傷つく。
確かに男女のやり取りに関しては、まだ学習不足は否めない。
それが他者に伝わっているのだから、余程なのだろう。
「とにかく下心がないってことがわかっただけマシか……。ホント罪作りな男だよね、きよぽん」
「そう言われてもな」
「ま、こうなったら切り替え、切り替え。24日は私たちと過ごしてもらうから、よろしく~」
「そうだな、今のところ予定もない」
綾小路グループでクリスマスパーティーというのも悪くない。
「それじゃ、イベント前に生徒会に顔を出さなくてはいけない。またあとで」
「うん。今日はがっぽり稼ぐからね」
そうして教室を後にする。
春休みとはいえ、コウィケの運営など生徒会の活動はそれなりにある。そういった休み中の活動の話が南雲からあるらしい。
「やっほー、綾小路くん。一緒していいかな?」
「もちろんだ」
生徒会へ向かう途中に一之瀬と出会う。
目的地が一緒であるため、おかしなことはないのだが……。
「2学期も終わっちゃったね」
「そうだな」
「念願の生徒会に入ったり、色々あった2学期だったなぁ……」
一之瀬にとっては生徒会の部分も、色々の部分も学校生活を根底から変える、大きな出来事だったに違いない。
「……よくよく思い返すと、全部に綾小路くんが関わっているというか、綾小路くんのおかげでどうにかなったような気がする」
「たまたま……ではないが、どうにかなったのは一之瀬の力だ」
「それでも、やっぱりお礼は言っておきたくて。ありがとね、綾小路くん」
生徒会の同期が欲しかったこと、大衆をコントロールできる一之瀬の力を利用したかったことなど、いくつもの思惑があったとはいえ、少し一之瀬に肩入れしすぎていたかもしれない。流石にすべての事をたまたまだと誤魔化すことはできないだろう。
……不思議なのは、そうまでしたわりに、今は駒として積極的に運用しようと考えていないところ。
オレの中でも何かが変わり始めている……のかもしれない。
「ところでさ、明日とか明後日って……」
一之瀬がそう切り出したところで向こうから南雲たち御一行の姿が見えた。
「ま、またあとで話そう。お疲れ様です、南雲会長」
「おう、気持ちのいい挨拶だな、帆波」
それに比べてお前は?みたいな顔でこちらに視線をやる南雲。
「ちーす、南雲会長」
「その度胸は褒めてやるぜ、綾小路」
南雲相手ならこんなもんでいいのではないかと思ったが、お気に召さなかったらしい。
「まあいい。さっさと生徒会室に入れ。今日はイベント前にやることが色々あるからな、時間が惜しい」
そういって生徒会での話し合いが始まった。
議題は……『クリスマス 生徒会カラオケ大会』について。
全く真面目な話でも何でもなかった。
イベント前にわざわざやることか?とも思ったが、タイトル通りなら明後日の話か。
今日を逃すと開催できなくなるかもしれない。
「綾小路、流石のお前でも歌までは歌えないだろう。採点で生徒会役員のランク付けをしてやるよ」
「南雲、人には得手不得手がある。カラオケだけで格付けは好ましくない。……ただ、俺は自信があるとだけ言っておく」
「私もカラオケならクラスのみんなでよく行くので、そこそこ自信ありますよ」
南雲だけでなく、桐山も一之瀬もノリノリだ。
生徒会のメンバーはカラオケでクリスマスを過ごすらしい。
「パーティールームを予約してあるからな、カラオケだけじゃなく、プレゼント交換やビンゴ大会でも何でもできるぜ」
「楽しみだね、綾小路くんっ!」
「あの……」
「なんだ綾小路、クリスマスソングでも演奏してくれるってか」
「いえ、すみませんが、その日は予定があるので不参加でお願いします」
「「「え?」」」
佐藤さんとの約束があるからな。クリスマスのカラオケ大会に参加はできない。
「あー、あれだよね、最近仲のいいグループのみんなで過ごすとか?」
「ったく、ダチより生徒会を優先しろよな、綾小路」
「友人というのは不適切かもしれないですね。クラスの女子と出掛けるだけなので」
「「「は?」」」
「あ、あ、綾小路くん……そ、それって、ででででえと?」
「いや、そんなつもりはなかったんだが、クリスマスに出かけるのは特別らしいな」
挙動がおかしくなる一之瀬。
『綾小路、抜けがけです。クリスマスに女子と予定あり』
すぐさまグループチャットを流す桐山
「おい、カラオケ大会は中止だ。各々やることはわかってるな」
カラオケの中止を宣言する南雲。
頷く一同。
何をするつもりだ?嫌な予感しかしない。
「この話はまたあとで詰めることにするぜ。俺たちはこれからイベント準備の仕上げがある。分かっているとは思うが、綾小路も帆波も生徒会役員としてイベント成功のために、派手に立ち回ってくれよ。潜伏して終了なんてつまんねーからな」
ゲーム性を自身で否定していないか?
南雲の要望に応えるつもりはないが、こちらとしても最終的には派手な立ち振る舞いになる可能性はあるので、きっとご満足いただけるだろう。
学校側もイベントに効果があると判断すれば、次のイベント開催へと繋がる可能性もある。盛り上げておくにこしたことはないだろう。
「残念ながら一番目立つ俺が不参加だ。その点だけが不安だな。ま、モニター越しにお前たちの活躍は見させてもらうぜ」
サボるなよ、ということだろう。
「はい、頑張ります」
一之瀬からの返事を聞いて満足したのか、南雲は準備へと向かう。
それに続く2年生役員たち。
「私たちも行こうか」
「そうだな」
準備を済ませ、スタート地点のグラウンドへ移動することにする。
「綾小路くんはこのイベントどう見る?」
「基本的には楽しむ方向でいいんじゃないかと考えている」
「だよね、私たちのクラスも楽しみつつ、ポイントゲットのために動くつもり」
でも、という表情の一之瀬。
「もちろん、あの南雲が考案したイベントだ。何かしら裏があることは間違いない」
「だよね……」
先ほどと同じような返事でもトーンが落ちる。
一之瀬も南雲に何かしらの考えがあることはわかっている様子。
「だが、アイツが何を企んでいても関係ない。オレたちの目標のためにも利用させてもらう」
「綾小路くんが言うと頼もしいね。でも、頼りっぱなしになるつもりはないよ。なんでも力になるから言ってね」
「ああ。協力できる部分は協力していこう」
そうしてオレたちは、すでにイベント参加者で賑わっているグラウンドへと足を進めた。