「それでは図書館のミッションのルールを説明させていただきますね」
図書館で机に案内され、葛城くんから降りて、椅子に座ったところで椎名さんが話し始めます。
「ここでは、とあるゲームで勝負し、泥棒が勝てばアイテムカードをプレゼント、警察が勝てばその時点でお縄についていただきます」
敗北は即リタイアですか……。
リスクに見合う挑戦かはアイテムカードの内容次第ですね。
「ここで手に入るアイテムカードは全3種類。このうちの1つがランダムで贈られます」
そう言って3つのアイテムカードの詳細が書かれた紙を見せてくれます。
〜アイテムカードの種類と効果〜
・強奪のカード:他の泥棒を1名選び、その泥棒が所持しているお宝を選んで1つゲットできる
・賄賂のカード:一度捕まっても、5分間無敵状態で解放される。ただし所持金の3分の1をその警察に払わなければならない
・偵察カード:使用後30分間、全警察の位置情報が端末に表示される
「これはまた面白そうなカードがありますね」
強奪のカードがあればあの不遜筋肉からお宝を奪って、少しは悔しがる顔が見れるかもしれません。
「さて、肝心の勝負内容ですが、こちらを使った神経衰弱になります。特別なルールはございません。相手より多くの札を持っていた方が勝ちとなります」
彼女が手にしていたのはただのトランプではないカード。柄と文字が見えますが――
「そちらは何かの本の表紙ですか?」
「はい!このために特注いただきました。トランプの数字やマークの代わりに、この図書館にある本の表紙になってますっ!」
なるほど。そこに何か秘密があると言うことですね。
「ご説明ありがとうございました」
「いえいえ。それで挑戦なさいますか?」
「もちろんです。参加人数は何人でも?」
「はい。ただ、勝者は1人になります」
「では、私だけ参加いたします」
「かしこまりました。では、こちらのQRを読み取って参加の手続きをお願いします」
QRを読み込むと、図書館ミッションに参加同意のボタンが出てきます。
そちらをタップすると登録が完了したようです。
ただの遊びに随分手が込んでいるのですね。
ここまで来るとこのイベント、資金面での出し惜しみはないとみていいのかもしれません。
「それでは準備いたしますね」
「その前に、カードを一通り見せて頂いても?」
「どうぞご覧になってください」
彼女は、嬉しそうに微笑みカードを渡してきます。
イカサマの類があるのであれば、裏面のどこかに傷や一部模様の変化があるもの。念のために香りも確かめます。
しかし、確認したところでは特に何も変わったところはありません。
それであれば、表面の本の表紙を確認します。
こちらに何か細工をすることも可能なはず。似たようなタイトルにしてある、実はペアが存在しないなどおかしな点がないか……何もないですね。
「ありがとうございました。とても素敵なカードですね」
「気に入っていただけたのでしたら嬉しいです」
カードを受け取った椎名さんはシャッフルを始めます。
一流のマジシャンやディーラーは、このシャッフルでカードをコントロールします。
カードに細工がないのであれば、彼女自身が何かしらのスキルを持っているのかもしれません。どんなに素早い動きでも見逃しませんよ。
…………。
「あの、差し出がましいようですが、カードを切るのが苦手なようでしたら、そこの葛城くんが代わりにシャッフルしますよ?」
椎名さんはとてもゆっくりカードを切りながら、それでもあちらこちらに飛んでいく始末。これも何かの策でしょうか……。それなら葛城くんへの交代は拒否するはず。
「助かります。坂柳さんはお優しいのですね」
あっさりとカードを差し出す椎名さん。
「葛城くん、お願いいたします」
「ああ。俺の名前に誓って公平にシャッフルさせてもらう」
「……?」
「気になさらなくて結構ですよ。恐らく場を和ませようとしたジョークだったのでしょうが……。彼は根っからの真面目なので、こちらが有利になるような不正はいたしません、ということです」
「そうなんですね。それは素敵なことだと思います」
いまいち椎名ひよりという生徒を掴み切れませんね。
何かを企んでいるようであり、その実何も考えていないようであり……ただ、それすらも演技の可能性は捨てきれず、こちらの油断を誘っているのかもしれません。
「このまま並べてしまってもいいか?」
「はい、お願いします」
ここでもあっさり葛城くんに譲ります。
まさか、本当にただの神経衰弱で勝負なさるおつもりでしょうか。
「それでは準備が整いましたので、スタートです。よろしくお願いしますね」
「ええ、よろしくお願いいたします」
こうして神経衰弱が始まりました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「軽井沢さん、こっちだよ」
「うん、今行くね、平田くん」
今回のイベントは、平田くんと参加することになった。
これでも学年1のカップルってことになってるし、こういうイベントは2人で参加しないと不自然だから。
実際、彼は頼りになるので、ここまでポイントもそれなりに獲得できている。
その点に関しては、不満なんて一切ない。むしろ、恵まれすぎてるなーって思う。
「ここがミッション開催地点だね」
「またグラウンドに戻ってきちゃうのも不思議な感じだけど」
「このエリア内なら参加意思がある限り安全だからね。少し休憩もできると思う」
そう、平田くんの彼女の弊害というか、同性から妬まれ、警察の女子たちか執拗に狙われてしまっていた。何とか撒き続けたけど、息が切れ始めた時に、ミッション開催の案内が届き、平田くんの提案でここまでやってきた形。
女子のそういうところ、ホントくだらないと思いながらも、私も本気で好きな相手が他の異性と一緒に回っていたら、邪魔の1つや2つしてしまうかもしれないので、文句は言えない。要は恋する乙女は怖いってこと。
「えーと、ここのミッションは……」
いつのまにかグラウンドにはイベント用のテントが立てられており、そこに大きな紙が貼りだされていた。参加希望者がそのあたりに集まっている。
『ペア対抗、二人三脚障害物競走』
参加者同士でペアを作って登録。
1レース定員5ペア。
順位に応じてアイテムカードをプレゼント。
ただし、配布はランダム。
【3位の報酬】
・防御のカード:他プレイヤーからの攻撃アイテムを使用されたとき、その効果を無効にする
・偵察カード
【2位の報酬】
・潜伏カード:自身と周囲3m以内の泥棒は、地図上から表示されなくなり、あらゆる情報が非公開となる
・変装のカード:使用後、警察となる※泥棒時に入手していたポイントはロストする
・防御のカード
・偵察カード
【1位の報酬】
・強奪のカード
・賄賂のカード
・大泥棒のカード:獲得金額が倍になるが、一度捕まると所持ポイントをすべて失い、牢屋が解放されても復活できない
「うーん、よくわかんないけど、これって高確率でアイテムがゲットできそうだよね」
「うん、どのカードも持っていて損はなさそうだよ。ただ、リスクもあるから、そこをどう考えるかだね」
そうして平田くんが指さしたのは、敗北時の項目。
『各レースに1組だけ参加する警察側のペアが1位になった場合、そのレースに参加したペアは逮捕となる』
「これ、一度で最大10人逮捕ってことよね。良い商売してるって感じ」
「走る競技ってことも不安要素かな。ここで体力を消費しすぎるとその後イベントに戻ったとき、逃げ切れなくなるかもしれないし」
「確かに……じゃあ、参加は見送――」
見送ろうと言おうとしたその時だった。
テントで待機している警察側の参加者と思わしき生徒が目に入る。
その中に、体育祭で平田くんにケガを負わせた奴らがいた。
「平田くん、やっぱり参加していい?」
「え、どうしたの軽井沢さん」
「……私たちはこんな関係だけど、それでも彼女として、乙女の怖さを知らしめたい相手がいるって感じ」
「なるほど?」
平田くんに変に気負いさせるのも違うし、理由の詳細を話すと「そんなことのために~
」とか言い出しかねない。
これは完全に私の我がまま。スルーするのが賢明なのもわかる。だけど……ここで逃げてしまったら、いつまでも偽りだらけの自分から変われない、そんな気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「全く、どうしてこんなことになってしまったのかしら……」
「だ、大丈夫だ、鈴音!俺が2人分働くからよ」
「おいおい、お二人さん、そんな言い方ないだろ?」
3人1組で参加のミッション。
このイベント中、私の事を守るからなどと言ってストーキングしてきた須藤くん。
そして、人数が足りなかったとはいえ、彼を参加者としたのは明らかにミス。
頭を抱えたいこんな状況になった経緯は10分前に遡る。
私はイベントがスタート後、警察から隠れつつ、学校内のお宝を探索していた。
単独で動くなら隠れる場所の多い校内が適していると考えたからだ。
「ちょっといつまでついてくるつもり?私は1人で回りたいのだけれど」
「そんなこと言わねえでよ、協力しようぜ、鈴音。警察が来ても俺が守ってやるからさ」
「余計なお世話よ。それに須藤くんの身体能力であれば、もっとたくさんのお宝をゲットできるはずだわ。他の泥棒に盗られないよう、仲間同士で探索範囲は被らない方がいい。お互い単独で動いた方が効率的よ」
「だってよ……、こんな時期だし、明日から休みなんだぜ。そしたら新学期まで会え――」
最後の方は言葉を濁した須藤くん。明日から休みだからなんだというのだろう。
こちらが理屈で説明してもなかなか納得しない様子。
どうすればわかってもらえるか悩んでいたところに
ミッションの開催の知らせが届いた。
開催地は龍園くんのクラスの教室。
近くにいたこともあり、どんな様子かだけでも把握するために足を運んだのだけど……。
「あ、堀北さんと須藤くんだ。やっほー」
「一之瀬さん、あなたたちもミッションを?」
「うん、そうだよ。実は、グラウンドのミッションを確認したクラスメイトから連絡を貰ったんだけど、ミッションの景品は獲得しておいた方が良いと思って」
そう言って携帯に映し出した写真を見せてくれる。
グラウンドのミッションの張り紙を映したもので、いくつかのアイテムカードとその種類が記載されていた。
「確かにこれはあるのとないのでは戦略が変わってきそうね」
「だよねー」
「でもよかったのかしら、こんな貴重な情報を見せてもらって」
「それは全然構わないよー。遅かれ早かれ出回る情報だろうし、堀北さん達とは協力していきたいしね」
「何かお返しができるといいのだけれど……そうね、須藤くんを護衛役に譲るわ」
「あははは……面白い冗談だけど、流石に須藤くんが可哀そうだよ」
「そうね、誰にも引き取ってもらえないなんて可哀そうな存在ね」
「鈴音……」
あからさまに落ち込む須藤くん。
いけない、つい綾小路くんと話すときの温度感で返してしまった。
彼ならいざ知らず、普通の高校生はこれだけで結構傷つくのだと最近気づいたのに。
「少し言い過ぎたわね。わかったわ、このミッションであなたが活躍したら同行を認めてあげる」
「鈴音っ!」
「あははは……綾小路くんのクラスはみんな面白いね」
「そうかしら?」
「ところで、このミッション、参加するには3人1組のグループじゃないといけないみたいだけど、大丈夫?」
「「えっ?」」
すっかり話し込んでしまって肝心の内容のチェックがまだだったわね。
~1年Dクラス教室ミッション~
3人1組のチームで参加登録が必要。
競技内容は開始直前に説明。
1位のチームは、下記カードの中からそれぞれ任意の1枚を入手できる。
※チーム内で同じカードは選べない
・強奪のカード
・賄賂のカード
・変装のカード
・潜伏カード
・大泥棒のカード
ただし、参加する警察チームが1位になった場合、参加者は全員この場で逮捕となる。
「任意のカードを選択できるのは大きいわね」
「問題はあと一人をどうするかだな」
一之瀬さんは、神崎君、柴田君と参加するそう。
他にはAクラスの、神室さん、橋本くん、鬼頭くんのチームが強敵となりそうね。
警察チームは……
「堀北、一之瀬!今度こそ覚悟しなさい」
「警察側に見知った人物はいないわね」
「無視すんじゃないわよ」
警察側からは、このうるさい伊吹さんと金田君と諸藤さん(だったかしら?)が参加するみたい。
「できればクラスメイトが良いわね。他クラスだと、自分のクラスのチームを勝たせるために裏切る可能性があるわ」
「早く誰か来てくれ」
ミッション参加エントリーの時間が近づいてくる。
こんな時、連絡をして駆けつけてくれる仲間がいれば良かったのだけど……。
残念なことに私の携帯の連絡先一覧にはそんな人物はいなかった。
綾小路くんに連絡しても無視されるでしょうしね。
「ここがミッション会場、かな?」
と、そこにやってきたのは櫛田さん。
彼女なら実力的にも問題はないわね。
私の事を嫌ってるみたいだけど、最近は以前ほどでもないような気がするし、協力を仰ぎましょう。
「櫛田さん、ここでは三人一組でチームを組む必要があるの。協力してくれないかしら」
「え、そうなの?」
「そうなんだ、櫛田、頼む、時間がねえ」
「堀北さんと須藤くんのチーム……あ、私、さっきお宝見つけてたの思い出した、ミッション中に誰かに盗られたら悲しいからそっちに行くね。でも安心して、代理の人を派遣するよ。二人に最適な人とさっきまで一緒だったからっ!」
「お、おい」
須藤くんの制止も虚しく、有無を言わさず立ち去った櫛田さん。
代理の人と言ってたけれど……。
その人物はその後すぐにやってきた。
「お二人さん、お困りだと聞いて、クラスのリーサルウェポン山内春樹様が助けに来たぜ!」
「……」
「よりによって春樹かよ」
「辞退するか、悩ましいわね」
「おいおいおい、俺がいれば百万人力だって。豪華客船に乗ったつもりで任せてくれよ」
競技がわからないけれど、須藤くんの身体能力、そして私がいるのだから、彼分ぐらいはカバーできるかもしれない。
「背に腹はかえられないわ、参加登録しましょう」
「おうよ」
こうして、この2バカと私でミッションに挑むことに……。
「それではここのミッションを発表します」
時間になって諸藤さんが仕切り始める。
「皆さんに挑戦してもらうのは、お絵かき伝言ゲームです」
「お、いいじゃん。何を隠そう俺って中学時代、絵画コンクール3年連続金賞だったからよ」
自信ありげに話す山内君。
……このメンバーで勝てるのか、一気に不安になった。