綾小路グループで特別なお宝を手に入れるため、囮を引き受け、2年の警察を撒いたところで携帯が振動する。
一之瀬からのチャットだった。
「なるほど、アイテムカードか……」
一之瀬から送られてきた画像に目を通す。
ミッションが各地で開催されているらしいが、こちらは囮をしていたため、それどころではなかった。
執拗に追ってくる警察連中の攻撃を躱しながらできたことといえば、精々、携帯でミッションの告知を確認し、次に狙うお宝やミッションに参加するならどこを狙うかなどのシミュレーション、そして今度の佐藤さんとの外出で何をしようかと検索したぐらいだった。
逃げながらそんなことをしていたところ、追ってきた警察の5名から何やら罵声を浴びせられていたような気もするが、地に這いつくばっている者の声など届くはずもない。
そのまま置き去りにして、現在は合流地点を目指して移動している。
送ってもらった画像に載っているものがアイテムカードの全種類かはわからないが、手に入れることで戦況をコントロールできそうなものがいくつかある。
特に巨額の富を手に入れたであろう愛里には、防御のカードや潜伏のカードを持たせたいところ。
一之瀬へはお礼にお宝レアリティを見破る法則を送っておく。
仲の良いBクラス連中なら気づいているかもしれないが、今のところそれぐらいしか返せる情報もない。
合流地点が近づき、しゃがんで茂みに隠れる4人の姿を捉えた。
「清隆くん、遅いね……大丈夫かな?」
「おお、きよぽん。捕まってしまうとはなさけない」
「誰がなさけないって?」
「きゃぁっ!……ってきよぽんか、気配なくいきなり話しかけてこないでよー。死ぬかと思ったじゃない」
縁起でもない話をしていたので、サッと近づき指摘したところ波瑠加が尻もちをつくほど驚く。
「おお、波瑠加。しんでしまうとはなさけない」
「みやっちぃっ!」
「清隆くん、無事でよかった」
「お前らな、再会を喜ぶのは良いが、声を抑えろ。見つかるぞ」
「幸村くんは冷静ですごいね」
「と、当然だ。俺がしっかりしなくては――」
「あー、ゆきむー顔赤くなってるー」
「こ、これは走り回ったせいだ」
結局騒がしくなる一同。全員無事なようで何よりだ。
「ところで、お宝の方はどうだったんだ?」
「あ、そうそう、それね!愛里、見せてあげなよ」
「こ、これっ」
そう言って愛里が携帯画面を見せてくる。
『合計獲得ポイント100万1000ポイント』
先ほどのお宝は100万ポイントだったか。幸先のいいスタートとなった。
「やったな」
「うんっ!みんなで頑張った結果だね」
楽しそうに頷く愛里。
今の姿を見たら篠原も喜ぶことだろう。
「ところで、こんな情報を入手したんだが……」
一之瀬からもらった画像を見せる。
「愛里に防御系のアイテムカードを持たせることができれば、かなり安心できるな」
「だね、今の私たちならミッションもクリア余裕余裕!」
「うん。私たちならできる気がする……ううん、できるよ」
「それで無事に終了したら、4か月分のプライベートポイントゲットだ。アツいな」
巨額のお宝をゲットしたことで士気が上がっている。このまま守り通すことができれば、良いメンタルでコウィケのライブを迎えることができるだろう。
「そうすると、ミッションを探しながら、道中お宝を狙っていく形で移動するか」
「おっけー」
啓誠の提案で早速移動を開始する。
「ここのお宝良いんじゃない?私にしか表示されてないし」
波瑠加がここから少し先にあるお宝の表示を指さす。
「あっ、でもあれ見ろよ、すでに2年生が狙ってるみたいだ」
明人の言うように波瑠加の示した場所付近に2年生が数名いる。
「でも、まだ見つけてないみたいだし、先に頂いちゃおう。早い者勝ちってことで」
「それもそうだな」
「お、おい、お前たち少しは慎重に動け」
走り出した波瑠加と明人を啓誠が追う。
「私たちも行こっ、清隆くん」
3人に続こうとする愛里の手を掴む。
「えっ!?」
驚き、振り向く愛里。
違和感に気づくのが遅れた結果、この時オレにできたのは……愛里を守ることだけだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
諸藤さんによって『お絵かき伝言ゲーム』のルールが説明される。
3人の中で、1番目の描き手、2番目の描き手、解答者を決める。
スタートと同時に、1番目の描き手の携帯にお題が届く。そのお題を確認し、1分以内にイラストを描く。
その後、2番目の描き手は、1番目の描き手の絵を見て、お題を予想し、1分以内に新しく絵を描く。
最終的に2番目の描いた絵を見て、解答者がお題を答える。
全3問出題され、正解数の多いチームが勝者となる。
「まずいわね……」
神室さんと金田君は美術部。
AクラスとDクラスのチームが有利なゲームだ。
アームレスリングなど室内でできる運動系の科目ならこのチームでも勝ち目はあったでしょうけど、こうなってしまうと戦況は不利ね。
幸いだったのは絵の出来が評価される戦いではないこと。
いくら酷い絵でもお題にたどり着ければ勝てる可能性はあるもの。
「ちなみに須藤くん、あなた絵は得意?」
「勉強よりはマシだと思うぜ」
何とも言えない返答。
そもそも勉強が底辺から出発だったのだから、それ以下は存在しないのではないかと思う。
正直、山内君の言っている金賞云々は当てにならないし、どちらに描いてもらうのがいいか。どんぐりの背比べだ。
「私が1番、2番目は須藤くん、解答は山内くんに任せるわ」
「なんだなんだ、一番大事な解答を任せてくれるなんて、堀北もわかってんなー」
正直消去法だけれど、一番最初の私がしっかりと須藤くんに繋げることができればまだ可能性が残せる。
最初を山内君に任せるのはリスクでしかない。
須藤くんは勉強の飲み込みも早いし、そのセンスを信じることにした。
レベルは低くとも最低限の絵を届けることができれば、いくら山内君でも間違うことはないはず……。
「それでは、皆さん、順番に机について、各々携帯で登録をお願いします」
他の一番手は、神室さん、金田くん、一之瀬さん。強敵ぞろいね。
「それでは、お題が届いたら、手元の紙とペンを使って作成を始めてください。1分後、携帯に連絡が来るので、次の人に回すようにお願いします」
早速1問目のお題が届く。
『ネコ』
簡単ね。こういうイラストは特徴をしっかりと書いてあげれば、次の受け手もわかりやすくなる。まずは鋭い目つき、次にとんがった耳、牙も忘れないようにしなくちゃいけないわね。あとは躍動感をつけてにゃーんと飛び出しているようなポージングにしておきましょう。
うん、中々の出来ね。これなら須藤くんもネコと一目でわかるわ。
時間になり、イラストを描いた用紙を須藤くんに渡す。
そして私の携帯に次のお題が届く。
『野球』
これもそのままでいいでしょう。バットを持たせた人間に、ボールを投げてる人間、あとは、キャッチャーと審判、その他7人を配置して完成よ。
間違いようがないわ。
最後のお題は『クリスマス』
急に季節感を出してきたわね。
クリスマスといえば、ツリー、そしてサンタ、トナカイ、プレゼント、あとは適当に電飾でもつけてキラキラにしておけばいいわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はんっ、どんなもんよ」
「やったね、軽井沢さん!」
平田くんとペアで挑んだ、二人三脚障害物競走。
私たちは1位でゴールテープを切った。
姑息な手段を使われなければ、私と平田くんが負けるはずがない。
ふん、伊達にいつもくっついて歩いているわけじゃないんだから。
遅れてゴールし悔しがるDクラスのペアを見て少し溜飲が下がる。
「まさか最後の飴食いパートで軽井沢さんが率先して顔をつっこむとは思わなかったよ」
ほら、とハンカチを水に濡らして渡してくれる平田くん。
恐らくすごい顔になってたと思うけど、気にしない。
1番になるために、なんだかもうがむしゃらだったのだ。
「さすが学年一のカップルだ」「あの2人の相性すごく良かったねー」
次のレースのため待機していた参加者たちから浴びる称賛が、誇らしくもあり、胸が痛くもなり……。
「軽井沢さん、かっこよかったよー!平田くんもお疲れ」
そう言って話しかけて来たのはうちのクラスの佐藤さん。
松下さんと一緒に3組目のレースに出るそう。
「やっぱり2人はベストカップルって感じ!憧れちゃうなぁ」
「そ、そうかなぁ」
「そうだよ……あのさ、軽井沢さん、良ければイベント終わった後、ご飯でも行かない?それとも平田くんと予定とかあったりする?」
「え?あ、うん。大丈夫。いいよ、行こう」
「ありがとう!楽しみにしてるー」
ニコニコと手を振りながら去っていく佐藤さん。
急な誘いだったけど、用件は予想がつく。
断るよりも少しでも情報を集めておきたい気持ちが優ってしまった。
……私は平田くんとの偽りの関係をどうしたいんだろう。
平田くんと清隆のおかげで、私のクラス、いや、副会長の友達パワーもあって、学年での地位は盤石なものになった。
今後、平田くんと別れたからと言って、その地位が崩れるとも思えない。
でも、別れたいのか?と聞かれると、はっきりとした回答ができない。
これまで彼氏役として支えてくれた平田くん。
体育祭では身を犠牲にして私を助けてくれた。
でもそれは平田くんが平田くんだからで、あの時の相手が櫛田さんでも、堀北さんでも、なんなら山内君だったとしてもきっと助けただろう。
彼にとっては私だけが特別ではない。みんなが特別だからこそできる自己犠牲。
もし彼の中での特別が私だけだったのなら、私だって他の子と同じように彼を好きになっていたかもしれない。どこまでもフラット、それがいいところでもあり、悪いところでもある。
清隆の方も、正直よくわかんないんだよね。
私の過去を受け入れて、友達になってくれると言ってくれた、その気持ちはとても嬉しかったし、あの言葉に思った以上に救われている。
本当の自分の居場所が初めて出来たような感覚。
言葉通り仲良くしてはくれるんだけど、アイツの中での一番もまた私ではない。
ってこれじゃまるで1番になりたいようなセリフじゃない。
あー、もうなしなし。考えたって仕方がない。
今は目の前のイベントを楽しもう。
切り替えてしっかりと顔を拭く。
「賞品のアイテムカードが届いたみたいだよ」
「さっそくチェックしなきゃね」
「うん、軽井沢さん頑張ってくれたし、きっと良いカードが当たるよ」
爽やかすぎる笑顔。これを何の下心もなくしているのだから、彼もまた罪作りな男だなと思う。
荷物置きから携帯を取り出してチェックすると運営からメッセージが届いていた。
記載されているURLからリンク先に飛び、出て来たプレゼント箱をタップすると
『強奪のカード』をゲットした案内が出てくる。
「僕は賄賂のカードだったけど、軽井沢さんは?」
賄賂なんて平田くんに似合わないなー、いや、泥棒の時点で今更か。
「私は強奪のカードだった。これ、誰を狙えばいいんだろ」
「そうだね、クラスメイトは外すとして、あとは活躍してそうな人だと思うけど……」
説明を読む限り、誰が誰にアイテムカードを使用したのかはわからない仕様。
ただ、坂柳さんみたいな人に使うとあの手この手を使って特定されそうで、あとが怖そうよね。
Bクラスは一応同盟関係みたいなところあるし……。2年生は誰がすごいとかよくわかんない。
「使えるタイミングはいつでも良いみたいだから、たくさんお宝をゲットした人とか、レアなお宝を持ってる人とかの情報を集めてからも遅くないんじゃないと思うよ」
そんな私の悩みを察してか、平田くんがアドバイスをくれる。
確かにそうだ。あとで清隆にでもチャットで聞いてみよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
図書館での神経衰弱。
お互いに数枚めくって今のところペアはゼロ。
少し甘くみていましたね。
単純な数字ではなく、本の表紙だけで場所を記憶するのは、存外手間なものです。
タイトルがやたら長い本。
続編なのか、似たようなタイトルの本。同じタイトル、巻数なのに、1年生編、2年生編の違いなど、一瞬見間違えてしまいます。
文庫本なのか表紙がシンプルで記憶に残りにくい本などなど。
とはいえ、この程度の暗記、私にかかれば造作もございません。
むしろ、椎名さんは憶えきれるのでしょうか。
策士策に溺れるなど、興ざめも良いところですよ?
「この本は……こちらでしたね。あたりです。次はこれ。あっ、レイモンド・チャンドラーの『さらば愛しき女よ』です!これはここですね」
どうやらいらぬ心配だったようです。
残りは34枚、17ペア。現在2ペア揃えた椎名さんが一歩リードというところ。
ただ、神経衰弱はその性質上、過半数を超える札がめくれた時点で勝負が決まります。
10ペア揃えば勝ちですので、今、片方の場所が判明しているのは5枚。仮にこの5枚が取られない状態で、残り5枚の所在が分かればゲーム終了です。
あとはその時が来るのを待つだけですね。
「次は……これです。ウィリアム・アイリッシュの『さらばニューヨーク』ですか……うーん、この庫はここにいる気がします。あ、当たりました」
先ほどから、さらばが続きますね、皆さんお別れしすぎでは?
それにしても、情報のないカードのペアを揃えるとは……。
何かしらのイカサマがあるのでしょうか。だとすると、見破れない方が悪い、というのがこの手の勝負の常識ですね。
「次は、ドロシー・L・セイヤーズの『誰の死体?』ですか!これはオススメの本ですよ。あ、勝負中でしたね、失礼しました」
楽し気に話す彼女にこちらのペースも乱されかけます。
「次の本は……ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』ですか」
「あっ」
思わず声が出てしまいます。
「もしかしてご存じなのでしょうか?」
「ええ。私もそれなりには読書を嗜みますので……」
「そうなんですねっ!もしかしたら坂柳さんとはお話が合うのではないかと思っていたんです」
車輪の下。正確には私が興味があるのは、その本の作者の人生の方ですが……。
ただ、そのカードだけは他の誰にも取られたくはありません。
念じる、なんてこと今までしたことはございませんでしたが、もし神様がいらっしゃるのでしたら、どうか、あのカードは私の手に――――
「こちらは……残念ながら違う本でしたか。お待たせしました、坂柳さんの番です」
願いが通じたのでしょうか。ここで椎名さんの連取が止まります。
それとも彼女の運が尽きたのか……いえ、あの本が、私に力を貸してくれたのかもしれません。
その証拠に
「これはもう一方の『車輪の下』ですね」
我ながら乙女チックな思考をしてしまいました。
迷わず、もう一枚の車輪の下を獲得します。
そうして勝負は続いていき……
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。ここまで苦戦するとは思っていませんでしたよ」
「ふふ、褒め言葉と受け取っておきますね」
「もちろんです」
勝負は10対9で私の勝利となりましたが、一手違えばどうなっていたか。
ここまで私を追い詰めた椎名さんには敬意を払わねばいけませんね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『お絵かき伝言ゲーム』~須藤の場合~
鈴音からのパス、確実に受け取った。
目でそう訴えて、イラストを受け取る。
どんなイラストでも、愛の力で必ず読み解いてみせるぜ!
※画像はイメージです。
……。
コウモリだな、うん、そうに違いねえ。
この目つきの悪さと、尖った牙。なんか飛んでるエフェクトも描いてあるしな。
そうとわかれば簡単だ、コウモリをしっかりと描いて春樹に渡すだけ。
2問目のイラストがやってくる。
鉄パイプのような棒を持った男の背に2人、対面には大勢の棒人間。
一番近くで対峙している奴は、何かを発砲してんな……。
こりゃ、カチコミの様子だな。
物騒なテーマだが流石鈴音だぜ、ハジキ相手に鉄パイプで突っ込んでいくしかない男の悲壮感が、しっかりと表現できている。
もう少し人数を減らして、事務所の風景も加えておくか。
格好ももっとそれっぽくしておく。
3枚目のイラストは……。
なにやら怪しい帽子をかぶった人間が、四つん這いになって被り物をした人間を引きずって、怪しくギラつく塔へと連れて行こうとしている……。
途中無造作に置かれている四角い物体は、なんだ。
……わかったぜ、これ、黒魔術の儀式へ捧げられる生贄だろ。
生贄が黒魔術師に連れていかれている様子。
なら、この謎の四角い物体の中身は……。
なんて業の深い絵を描くんだ、鈴音。俺じゃなかったら理解すらできなかったぜ。
鈴音の絵に足りねえのは魔方陣だな。
あとは、それっぽい鍋とか、カラス、魔術書でも並べておけば、一気にそれっぽくなるぜ。
『お絵かき伝言ゲーム』~一之瀬チームの場合~
お題はネコかあ。猫だけでわかるかな?わかりやすいように、なんかもっと色々足しておこうかな。
画力も自信がないし、こうなったらアイディアで勝負だよ。
うーん、あ、黒猫にしてトラックをつけて、それで荷物を描き込んで、よしよし。これで誰がどう見ても……宅急便だね。や、やりすぎた。
時間もないし、描き直しは無理そう。しょうがない、申し訳程度にロゴのネコに矢印付けておこう。
柴田君、後はお願い!
↓
一之瀬のイラスト、めちゃくちゃわかりやすいな。
流石一之瀬、なんでもできんのな。
お題は宅急便で決定だろ。
矢印で猫のロゴを指しているのは、お題がトラックじゃないことを伝えてるんだろうな。
俺もこの構図参考にさせてもらって神崎に繋げるぜ。
神崎、後は頼んだー。
↓
柴田からのイラストを受け取る。
なるほど、考えるまでもなく解答は『宅急便』だな。
↓
2問目は『野球』かあ。
これは難しいなあ……。バットを描いたバットって答えちゃうかもだし、ボールでも同じ。でも人まで描いちゃうと、『野球選手』になっちゃうかも。
……そうだ。直接それを描くんじゃなくってイラストで言葉を伝えよう。
文字を書くのは禁止されてるけど、これなら問題ないはず。
矢を9本描いて、『やきゅう』
柴田君ならわかってくれるよね。
↓↓
次は矢か。たくさん描いて一之瀬もやる気だな。
でもいっぱい書くと混乱するだろうから一本で十分だろ。
↓↓
これも悩むまでもないな、解答は『矢』だ。
↓↓↓
最後は『クリスマス』
これも野球と一緒でピンポイントにクリスマスに導くのが難しい問題だね。
さっきと同じ方法で伝えよう。
栗と酢と枡を描く。
柴田君もこういうノリ好きだし、わかってくれると思う
↓↓↓
一之瀬、ちょっとこれは難しいぞ。
三つ描いてある。
栗と……ビンと枡?
何かを連想しろってことか。
栗……秋か?
そこにビンの中は酒で枡で飲むと。
食欲の秋!そういうことだよな。
↓↓↓
……紅葉やイチョウに囲まれた場所で、人がたくさん食べているイラストか。
解答は『食欲の秋だ』
よって、一之瀬チーム、正解0。
『お絵かき伝言ゲーム』~神室チームの場合~
ネコなんて簡単でしょ。
これでも一応美術部だし。
よしできた、シンプルにしたし、鬼頭でもわかるわね。
↓
なるほど、ネコか。
だが、神室のイラストにはオーラが足りない。
黒猫は不吉の象徴なんて言われている。それを描くなら禍々しいエフェクトが必要だ。
橋本もこれならわかるだろう。
↓
おいおいおい、鬼頭、なんだよ、これ。
邪悪なオーラを放った黒い動物のようなものが描かれている。
冷静になれ、俺。
まず注目すべきはこのオーラ。
神々しさの中にも不吉な何かを予感させる。
そして動物を黒でわざわざ塗っているのもポイントだ。
つまり他にカラーがなく、黒が当たり前の何か……。
そうか、アヌビスか。
冥界の神であるアヌビスであれば、このオーラも黒い塗りつぶしも納得だ。
難しいお題によく応えてくれた。
解答は「アヌビス」だ。
↓↓
野球ねえ。まあ試合風景を描写すれば伝わるわよね。
↓↓
神室、オーラが足りぬ。
(以下略)
よって神室チーム、正解0。
『お絵かき伝言ゲーム』~金田チームの場合~
お題は猫ですか、久しく描いてはいませんが、まあ問題ないでしょう。
諸藤氏は漫画を描かれているそうですし、この勝負、こちらの勝ちですね。
↓
なるほど、ネコか。
……ネコといえば、2人の関係では、平田王子の方ですね。
やっぱり、綾小路王子になされるがまま……。
あ、マズい、気づいたら平田王子のイラスト描いてる!?
え、もう渡す時間?
伊吹さん、ゴメンなさい。
↓
……どうみても、これ、平田よね?
そんなお題ある?
いや、でも変な生徒会の連中の企画だし……。
いいわ、解答は『平田』よ。
↓↓
野球は簡単です。
頼みます、諸藤氏。
↓↓
もう変な妄想はしません。
しっかり野球を描きます。
(以下略)
よって金田チーム、正解2つ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんともまあ散々な結果ね」
他の3チームのイラストと解答が順番に発表される。
このままだと金田君チームが勝って、私たち全員逮捕されるじゃない。
でも、私は手ごたえがあったし、須藤くんがミスしていなければ、大丈夫なはず……。
そうして貼りだされる私たちのイラスト。
「どういうこと?」
「ちゃんと鈴音の意を汲んで、『コウモリ』『カチコミ』『黒魔術の儀式』の絵を描いておいたんだが……すまねえ、全然違ったんだな」
「須藤くん……」
「……あれは須藤くんを責められない気がするよ、堀北さん」
一之瀬さんから指摘が入る。
「このイラストを見た、山内君の解答ですが――」
そんなの聞くまでもないじゃない。
明らかに違うイラストなんだから答えがわかるはずがない。
どうやらここで牢屋行きの様ね。
誰かが解放してくれるのを待つしかなくなるなんて。
「え?……『ネコ』『野球』『クリスマス』……よって、正解3つ。堀北さんチームが優勝です」
正解を発表した諸藤さんも、周りのみんなも驚きを隠せない。
「ま、俺にかかればこのぐらい当然ってもんよ。どう見ても、健の絵は『ネコ』『野球』『クリスマス』にしか見えなかったぜ」
彼の独特の感性が、奇跡を呼んだとでもいうのかしら。
運営が見張っている状況で、不正も難しいでしょうし……。
素直に喜べないけれど、首の皮がつながったどころか、賞品も手に入るのだから一旦疑問は置いておきましょう。
「任意のアイテムを選択だったわね。私は潜伏のカードが欲しいのだけど、いいかしら」
「俺は強奪が欲しかったから大丈夫だぜ」
「俺も被ってないから問題なし」
話もまとまったところで、携帯端末を操作し、さっそく潜伏のカードを使用する。
これで守りは安心ね。現在、マップに表示されている泥棒は高円寺君など数名。
恐らく、1人でお宝を盗り過ぎたペナルティ。警察に狙われやすくなることこの上ない。
でも私はこれでいくら獲得しても大丈夫。
単独で動く以上、このアイテムの効果は大きい。
「ところで、山内君は何のカードを――」
さっきまでそこにいた山内君がいない。
と思ったら、Aクラスの方に近づいて……。
「よお、お三方、素敵なイラストだったじゃん」
そう言って3人の肩を叩く。
全く緊張感がないのだから、いくら警察が3分間行動不能だからと言って油断しすぎよ。
ささっと立ち去った一之瀬さん達を見習うべきね。
「ちょっと触らないでよ」
神室さんも当然ご立腹。ただでさえ負けた後なのに、山内君のあの対応は煽っているようにしか見えないもの。
でも、本当の問題はそこじゃなかった。
触れられた3人の腕時計が赤く光る。
警察によってタッチされた合図だ。
「は?」「なに?」「おいおいおい」
3人とも何が起きたかわからない状態。
私にもわからない。
「おい、春樹。何やったんだよ」
須藤くんが山内君の肩を掴もうとする。
「ダメよ、須藤くん」
制止の言葉は間に合わず、山内君に触れてしまった須藤くん。
腕時計が赤く光る。
「ど、どういうことだ」
「悪いな、健。こうなることは決まってたんだ」
ニヤリと笑う山内君。
彼がこんなにも不気味に見える日が来るとは思わなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「報酬は賄賂のカードでしたか。捕まる予定はないですし、無駄でしたね」
「まあ保険があるのはいいじゃないか。俺は偵察のカードだったが、どうする?」
「温存も悪くないですが、一度もアイテムカードを使ったことがないのは、いざという時に命取りになるかもしれません、試しに使用してみてください」
「わかった。……じゃあそろそろ移動しよう。椎名が追ってくるとは思えんが、3分過ぎてしまうと厄介だ」
そういって屈んで私を乗せようとする葛城くん。
そんな時でした。
「葛城さーん。こんなところにいたんですね。探したんですよ」
「弥彦か、どうした?」
「……戸塚くん、あなたどうしてここに?」
「別に持ち場は指定されていないんだ、どこにいたって良いだろ」
「いえ、そういう意味ではございません。……警察のあなたが、なぜここにいるのか、聞いているんです」
葛城くんから預かった携帯のマップには偵察カードの効果で警察がリアルタイムで表示されています。そう、今私たちの目の前にいる彼もそのうちの1人。
「バレてんだったら仕方ない。坂柳、ここでお前を捕まえて、葛城さんの目を醒まさせるんだ」
そう言って戸塚くんの手が私に向けて伸びてきます。
残念ながら私の身体能力では、これを避けることは無理でしょう。
「弥彦っ!」
そんな彼の手を葛城くんが掴みます。
「葛城さん、なんで……俺、こ、こんなつもりじゃ」
葛城くんの腕時計が赤く光ります。
「坂柳、すまないな。お前だけでも逃げてくれ。弥彦には俺がしっかり言っておく」
「……葛城くんナシで私にこのイベントを戦えと?」
「お前ならできるさ」
「全くマイカーが言うようになったものです。いいでしょう、私にはそのぐらいのハンデがあって丁度いいというもの」
「牢屋でお前の活躍を見守っている」
「ええ。そうしてください」
葛城くんの献身を無駄にするのも格好がつきません。
ゆっくりと自分のペースで歩き出します。
こんなに低い視線で校内を進むのは久しぶりな気がしますね。
「待て坂柳っ!」
「無駄だ、弥彦。坂柳は賄賂のカードを持っている」
「なら、何度でも捕まえてやるだけです」
「よせと言っている。そんなことをしても誰も幸せにならない」
少しずつ離れていく二人の声。
どうやら戸塚くんは追ってこないようです。
まさか彼に謀反を起こす度胸があるとは……面白いことをしてくれたものですね。
だんだんとこのイベントもきな臭くなってきました。
この感情をどうするのが一番いいでしょうか……いけませんね、そのことばかり考えてしまいます。
堀北さんの描いたすずねこを再現しようと粘った結果、こんなことに……。
挿絵で入れてみましたが、あくまで堀北さんが直接描いたものではなく、こんなのです、というイメージということで……。
野球やサンタも描くには描いたのですが、絶妙に下手さを残しつつ、可愛げのある絵にするのは難しいですね。なんだか猟奇的なものが完成したので、掲載を控えることに……。
大体、須藤くんが感じたような感想がすべてです。