ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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インポッシブルなミッション

「こんなん無理ゲーだろ」

 

スタート前に渡辺がつぶやく。

 

アルベルトを筆頭に、屈強な1、2年Dクラスの男子がずらっと10人外野コートを囲む。

ボールは、かご一杯に入ったものが正方形コートの1辺ずつに配置された。

 

四方八方から数多のボールが投げつけられ蹂躙される未来を、誰もが想像したことだろう。アイテムカードを餌に参加者を一方的に逮捕していく理不尽なミッション。

 

本来、このミッションはそうなるはずだったんだろうな。

 

「こんな球、避けるまでもないな、綾小路」

 

「そうですね」

 

鬼龍院先輩とオレが片面ずつ担当し、投げ込まれるボールの半数をキャッチ&リリース。

そのため他の参加者は、残り2方向から投げ込まれるボールに注意するだけでいい状態になっていた。

 

「さすが綾小路だぜ!俺は信じてたからな」

 

愛里をカバーするための対応なのだが、渡辺からすっかり当てにされてしまっている。

お前にも守るべきクラスメイトがいるんじゃないか?

 

「鬼龍院の傍が安置だぜ」

 

2年にも似たような考えの生徒がいるようで、2年Bクラスの三木谷が鬼龍院の後ろに移動している。だが……

 

「ぐえっ」

 

「あまりレディの後ろに立つものではない。照れて思わず身をよじってしまったではないか」

 

これまでキャッチしてきた鬼龍院が急に避けたため、勢いのあるボールは後ろにいた三木谷に直撃する。

三木谷からしてみれば、急に目の前にボールが飛んできたわけだからどうしようもない。

しかも逮捕ボールというおまけつき。

 

「……よし、俺も自分の力で避けるぞー」

 

三木谷の惨状を目の当たりにした渡辺がそう言って動きを改める。

 

鬼龍院は濁したが、キャッチしなかったのには別の理由がある。

先ほどの投球はアルベルトの一投だった。

 

「さて、なかなか強力な投球だが、あれをどう攻略する、綾小路?」

 

「ここは合体技しかないでしょうね」

 

「ほう?」

 

「俺がボールをキャッチします。ですが、反動で取りこぼすかもしれません。そこで、オレの後ろにクッション役で愛里を、そして愛里の後ろでオレの取りこぼしを防ぎつつ愛里を支える役を鬼龍院先輩がしてくだされば完璧ですね」

 

「なるほど。面白そうだ、試す価値はあるな」

 

「え?そんな大役は無理だよ、清隆くん」

 

鬼龍院は賛同してくれたが、愛里はそうもいかない様子。

だが、この役はクッション性能という意味で愛里以外には無理だ。

 

「いや、愛里以上に立派なクッションを持っ……が務まるやつはこの学校にはいない」

 

「そうなんだ、だったら、が、がんばろうかな」

 

愛里の同意も得られたので、飛んでくるボールをキャッチしながら3人で隊列を組む。

 

「おい、綾小路。その作戦、元ネタ的に佐倉ちゃんはお前と背中合わせで支えるべきじゃないか?」

 

渡辺から鋭い指摘を受ける。

 

「……なら、やめとくか」

 

「ええっ!?」

 

驚く愛里。

その時、アルベルトから強烈な逮捕ボールが飛んでくる。

 

「危ない、清隆くん!!」

 

そんな剛速球をパシッと片手でボールを掴み取る。

 

「Oh!Great!!」

 

なぜか喜ぶアルベルト。

 

「1人で取れるのかよ!なんだったんだ、さっきのやりとり」

 

「純粋に合体技をやってみたかっただけだな」

 

「余裕ありすぎだろ!ってあいたっ」

 

ツッコミに気を取られすぎたのか、後方から来たボールに被弾する渡辺。

 

「嘘だろ、渡辺……」

 

「悲しんでくれるのか、綾小路。嬉しいぜ。俺の分まで頑張ってくれ!」

 

しまった、貴重なツッコミ役の渡辺がやられてしまった。

ふざけがいがなくなるな……。

 

アルベルトはともかく、他の外野の投球も決して弱いものではない。

ある程度キャッチしているとはいえ、うまくアルベルトの投球に合わせられれば、回避する必要も出てくる。

 

残り2分、徐々に内野の人数が減ってきた。

的が減ればそれだけこちらへ狙いも集中してくる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

無数のボールを避けながら、佐倉さんにぶつかりそうなボールをキャッチしていく綾小路くん。

 

これまで彼の能力の高さは見てきたつもりだったけど、いつまで経っても底が見えない。

 

にしても、弱々しく振舞って庇護欲を駆り立てるだけで、綾小路くんから守ってもらえるんだから、佐倉さんも良い身分だ。

 

別にうらやましくなんかない。

私だって、ちょっとお願いしたら、このイベント中、池君とか本堂君とか伊集院くんとかそこら辺の男子が身代わりになって助けてくれたし、このミッションだって他の男子が壁になってくれている。

 

私が生き残ればいいんだから、誰に助けられたとか関係ない。

 

「あっ」

 

余計なことを考えていたら、避けた拍子に足がもつれて体勢を崩す。

いつもなら、このくらいそつなくこなせるのに……。

的を見つけたと言わんばかりに外野から逮捕ボールがいくつも飛んでくる。

肉の壁も、もういない。

それなりにポイントを稼いでいただけに残念だ。

夕飯は、もやし定食に決定だよ、綾小路くん。自業自得だからね。

 

せめて顔に当たらない様にと腕でガードを固め、覚悟を決めた時だった。

身体がすっと引き寄せられる。

 

私に当たるはずだったボールは地面にワンバウンド。

引き寄せられた私は綾小路くんの胸の中。

 

「大丈夫か、櫛田」

 

「なんで……」

 

ば、バカ。せっかくこっちが気を遣ってあげてんのに、何で助けるのよ。

 

「別に櫛田を助けるのに理由はいらないだろ?」

 

急に顔が熱くなるのを感じる。バカバカバカ。

こういう時は退学を数えて心を整えるの。

 

堀北1退学、2退学、3退学、4退学……。

ふう、落ち着いてきた。

 

「余計なことしないでよね」

 

さっと綾小路くんから離れる。

離れたのだけど、さっきの温もりが外気で薄れていくと、なんだかぎゅっと胸が締め付けられた。

 

……試しに、彼が助けやすく、外野から狙われやすそうなところで転んでみる。

 

再び助けてくれる綾小路くん。

 

「わざとなら無視するぞ」

 

ふふ、今晩の献立はとびっきり豪華にしてあげる。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

オレが注視していた生徒の服が、激しい運動に耐え切れなくなり

ついに胸のボタンがすべてはじけ飛ぶ。

 

あらわになる立派な胸部。

 

まあアルベルトのだが。

 

あれだけ豪快な投球をすれば、制服も耐えきれなかったのだろう。

かなりワイルドな姿になっていた。

 

と、ここでミッション終了のベルが鳴る。

愛里含めて無事に生き残ることができたが最初は20人いた参加者も、最終的に残ったのは8人。

 

少しでも多くの泥棒にアイテムカードが渡った方が警察側にダメージを与えられるため、極力カバーしてきたが限界があったな。

 

「本番前の肩慣らしには丁度良い運動だったな」

 

「本番前?」

 

同じく生き残った組の鬼龍院から意味深な発言が飛び出す。

 

「清隆くん、ごめん、ゲットできたカードは防御のカードだった……」

 

「いや、悪くない。これで少し安心できるからな」

 

できればこちらの情報を隠せる潜伏が良かったが、他の泥棒に100万のお宝を盗まれる心配が減ったのはありがたい。

 

「もしかして潜伏のカード探してるの?」

 

「え、あ、うん、そうだよ」

 

櫛田が近寄ってきた。龍園クラスの目は、先ほどオレが庇ったことで、気にしないようにしたのかもしれない。

 

「私、潜伏のカード引いたんだけど、これって一緒に居れば周囲の人にも効果があるみたいだから、私も同行しようか?」

 

「それは助かるな。それで大丈夫か、愛里」

 

「……うん、もちろんだよ。よ、よろしく」

 

愛里はいまだに櫛田のことが得意ではないようだが、背に腹は代えられない。

仲間と一緒に獲得した宝を守ることが今の愛里にとっての最優先事項。

そう判断できるようになっている。

 

さて、オレのアイテムカードは――と、携帯を確認したところで殺気を感じ上体を逸らす。

そこを細腕が通過するのを目視し、跳躍して距離を取る。

 

「さすがだな、綾小路。今の一撃を躱すとは」

 

「何のつもりですか、鬼龍院先輩?」

 

「語るまでもないだろ?」

 

「あなたは誰の下にもつかないものだとばかり」

 

「冗談はよしてくれ。ただの利害の一致さ。純粋にキミと手合わせしてみたかっただけだ」

 

堀北から共有のあった山内の話を聞いて警戒はしていたが、まさか鬼龍院があちら側になるとは。

 

「せめて別の機会にお願いしたいですね」

 

「その場合、のらりくらりと躱されそうだったからな」

 

ご名答。

 

「安心しろ。綾小路以外を狙うつもりはない。一対一の追いかけっこといこう」

 

「次からは拒否権付きでお願いします」

 

「それまで私の興味がもっていれば検討しよう」

 

次などあって欲しくはないが、日常茶飯事にされても迷惑だ。

 

「櫛田、すまないが、愛里を頼む」

 

「「えっ!?」」

 

不満げな顔と不安げな顔。

2人を置き去りにしてしまうことになるが、これはこれで都合が良い。

櫛田なら上手く愛里と逃げてくれるだろう。

 

鬼龍院と向き合う。

 

「では行かせてもらう」

 

さりげなく、アンクルブレイクを試してみたが、転ぶことなく堪えられた。

 

が、その一瞬の隙に反転し、ダッシュで寮を離れる。猛スピードで追ってくる鬼龍院。

通学路を疾走する2人。

 

単純な走力ではこちらに分があるが、警察が彷徨いている中、ルートを選んで行動しなければならないため、なかなか引きちぎれない。

 

おまけに野生の感とでもいうのだろうか、途中、曲がり角や街路樹を使って身を隠してもすぐに発見される。

 

「なるほど、いつかは素敵な殿方に追いかけられてみたいと思っていたが、追いかけるのも悪くないな」

 

などと笑いながら追ってくる。人によってはトラウマになる光景だ。

 

通学路をあちこち回りながら、走り抜けた先には当然学校が見えてくる。

 

平面で逃げ回っていても埒があかないな。

 

「校内でかくれんぼでもする気か、綾小路?」

 

「まさか。あくまでちゃんと逃げ切りますよ」

 

「そうこなくてはな」

 

中途半端な逃亡はその後も鬼龍院が追いかけてくることを意味する。

あくまで、追うだけ無駄だと実感してもらう必要があるだろう。

 

勢いをつけて校舎の壁を蹴り上げ、飛び上がり、校舎外壁の1階と2階の境界あたりにある出っ張りに指をかけてぶら下がる。そこから指の力で引き上げ、2階部分まで登っていく。

 

「パルクールか」

 

クライミング技術含め、パルクールはホワイトルームで学習済みだ。

 

「だが、私にもそのぐらいできる」

 

鬼龍院も同様に壁を登って追ってくる。

それならばと、渡り廊下の屋根の上に着地し、特別棟に向かって走る。

特別棟へここからは繋がっていないため、建物と建物の間を跳んで渡る必要がある。

距離はそこまでないが、跳び渡るにはそれなりの勇気がいる。

 

ざっと跳躍して特別棟2階のベランダへ着地する。

 

「このぐらいでは怯まんよ」

 

鬼龍院も戸惑うことなく跳んできた。

それに合わせて、入れ替わる形でこちらは本館の壁に飛び移る。少し高度を上げ3階へ。

 

鬼龍院も飛び移ってくる。

 

それならと本館の壁を蹴り上げて、特別棟の3階ベランダへ着地する。

往復する形となったが、今度は助走がないため、先ほどとは難易度が異なる。

 

本館の壁に張り付き、じっとこちらを見つめる鬼龍院。

やっと諦めてくれたか、と思った瞬間、壁を蹴り上げてこちらに飛んでくる。

 

「フッ、さすがに無理があったか」

 

わずかに届かず、このままでは落下する軌道。

この高さから落ちれば、いくら受け身を上手くとってもそれなりのケガは免れないだろう。

 

オレは迷わず手を伸ばし鬼龍院の手を取り落下から救う。予想通り、腕時計に変化はない。

 

「……いつから気づいていた?」

 

「通学路を走っている途中ですね。同じ警察にしては他の警察の挙動がおかしかったので」

 

「全く、あの状況でよく見ているものだ」

 

鬼龍院は変装カードを使用した警察のフリをしていた泥棒。

裏切り者が発生している状況を利用して、オレの力量を試したかったのだろう。

そのために、『イベントがもっと楽しくなる』『本番前の~』などあからさまな前振りを用意しておき、ミスリードを誘っていた。

裏切りについての具体的な話を避けていたのも、ボロが出ないようにしていたのだろう。

 

学生寮を出るまでは南雲と取引し変装カードを使用したものだと思っていたが、警察側は連携の取り方から見て、お互いの位置はマップ上に表示されていることがわかる。

つまり、オレを追う鬼龍院のことは把握していそうなものだが、道中、待ち伏せされたり、囲まれたりすることがなかったことに違和感を思えた。

 

「綾小路の言う通り、私が誰かの下につくことなどありえないからな」

 

「鬼龍院先輩がお変わりなくて安心しましたよ」

 

そういって、鬼龍院をベランダに引き上げる。

 

「今回は潔く負けを認めるとしよう。この学校で私に泥をつけたのは君が初だ。誇るといい」

 

「そうですね」

 

あの鬼龍院に勝った副会長、ってどんな肩書だ。

2年生には効果があるだろうか……。

 

「勝者の特権だ。イベントの邪魔をしてしまったしな、その詫びも兼ねて、なんでも言うことを聞いてやろう」

 

「なんでも、ですか?」

 

「喜べ、なんでもだ」

 

「二度と勝負を仕掛けてこないでください、というのは?」

 

「聞けない相談だな」

 

なんでも、とは一体……。

 

「では……愛里と櫛田――学生寮でオレと一緒に居た二人の護衛をお願いいたします」

 

「……つれない男だな。こっちは色んな覚悟をして提案したというのに。まあいい。あの2人のイベントでの生還は約束しよう」

 

「ありがとうございます。では、自分はやることがあるので失礼しますね」

 

「次の機会を楽しみにしている」

 

付き合わされるこちらの身にもなって欲しいところだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「やっとお越しくださいましたか、綾小路くん」

 

特別棟に入り、指定された教室へ出向くと、坂柳、堀北が迎え入れてくれた。

 

「意外な組み合わせだな」

 

「ふふ、セカンドカーは小型車を考えていまして」

 

「二度と運ばないわよ?」

 

「堀北さんは冗談の通じない方ですね」

 

いつの間にか、冗談を言い合える仲になっていた2人。

気の強い者同士、通ずるものがあったのだろうか……。いや、ないだろうな。

 

「それで、綾小路くんにご提案があってお呼びいたしました」

 

「提案?」

 

「ええ。綾小路くんも南雲会長が描くゴールにはお気づきのことと思います。ですが、いくら綾小路くんでも、この状況では1手足りないのではないでしょうか?」

 

ゆっくりとこちらの目を見て話す坂柳。

 

「お宝の方は私たちに任せて、綾小路くんはもう一つの方を担当する。お互い邪魔はしない、ということでいかがでしょうか?」

 

正直なところ、オレだけでも対応することはできなくもない。

だが、坂柳にはペーパーシャッフルで貴重な体験をさせてもらった借りがあったな。

 

「それで構わない」

 

「ありがとうございます。それでは、お互い健闘しましょう」

 

「ああ」

 

お宝の方を坂柳に譲ったため、こちらは時が来るのを待つこととなる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

綾小路くんが教室を出て去っていく。

 

「それでは私たちは私たちで準備が必要ですので……堀北さんのクラスは、まだ無事な生徒はどのくらいいらっしゃいますか?」

 

「……」

 

坂柳さんからの急な質問。私が知っているはずがないじゃない。

 

「綾小路くんからは、アナタがクラスの代表と伺っておりますが……把握されてますよね?」

 

「ええ、そうね。ただ、作戦の全容を把握する前にクラスの情報を渡すのはどうかと思ったのよ」

 

そう言って急いで平田くんへチャットを飛ばす。彼が無事なら上手く現状を教えてくれるはず。

 

「おっしゃる通りですね。慎重な姿勢は悪くありません。では、南雲会長の狙いと私たちの取るべき作戦案をご説明するので、納得なさったら、お互い正式に協力するということでいかがでしょう」

 

「それで構わないわ」

 

これで少しは時間が稼げるわね。平田くん、急いで頂戴。

 

「このイベントで南雲会長がいくつか策を打っていることはお分かりですね?」

 

こちらを探るように質問してくる坂柳さん。試されている、そう感じた。

なぜならその態度が綾小路くんとどことなく被るのだから。

Aクラスを目指す者としてここで舐められるわけにはいかないわね。

 

「裏切り者の用意、警察側のアイテムカードを伏せていたこと、その辺りのことね」

 

「そうです。では、それは何のためになさっているのでしょうか?」

 

「現状をみるに、泥棒間での疑心暗鬼を誘った仲間割れでしょうね」

 

「ええ、そうです」

 

ニコッと笑う坂柳さん。

でもその笑みからは、どこまでも続く深い闇の入り口のような、そんな不気味さが滲んでいた。

 

「つまり、お宝を簡単にはゲットできないようにする遅延行為と解釈しているのだけど」

 

「そこまではどなたでも想像がつくことでしょう。では、遅延させる狙いはどこにありますか?」

 

ここからが本題、値踏みをされている。

 

「……あくまで想像だけれど、協力しないと手に入れにくいお宝を用意していて、それができなくする状況にしたのだから、自分で回収する手段があるんじゃないかしら」

 

「その通りです。南雲会長は、私たち1年の泥棒を全員捕まえて、その後、自分の息のかかった2年の泥棒に高レアリティのお宝を盗らせる算段なのでしょう」

 

「なぜ、そんな回りくどいことを?」

 

「ひとつはエンターテイメント性の重視。もうひとつは、私たちを試している、といったところでしょうか」

 

確かにあの南雲会長ならそんな理由で効率の悪いことをしそうではあるわね。

無駄に派手な勝ち方にこだわりそう。

 

「補足すると裏切り者が狙ったのがクラスの代表である私たち、というのも偶然とは思えませんね。先に指揮系統を潰しておきたかったのでしょう」

 

「なるほど……でも、一之瀬さんは今のところ無事みたいだけれど」

 

「そこがポイントですね。逆に無事であることにも意味があると思うのです。ただ、これに関しては私たちの方は気にしなくていいでしょう」

 

「そういうことね」

 

こちらでないなら、綾小路くん側で何か起きるということ。

ただ、彼が向かった以上、私たちが心配する必要はないのかもしれない。

 

「話を戻しますが、そう考えるとこれからの警察の動きは読めてくるというもの」

 

「泥棒の一斉検挙といったところかしら」

 

「ええ。そしてその後に2年の泥棒が数名動き出すはずです」

 

「なら、その前に全部お宝をこっちで手に入れればいいわけね」

 

「いえ、残りの人手ではリスクが大きすぎます。我々は減っていくのに警察の人数は減ることがありませんからね」

 

「なら、作戦というのは?」

 

「ふふ、私たちは泥棒ですよ。ならば泥棒らしく盗んでいくだけです」

 

そうして坂柳さんは作戦を話し始める。

丁度、平田くんから返事も届いたので一安心だ。

 

「そろそろお返事がきましたか?」

 

「あなた、嫌な性格って言われない?」

 

「ふふふ、褒め言葉と受け取っておきますね」

 

こうして私たちは南雲会長の計画を阻止するために動き始めた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

このイベントで大量のポイントを稼ぐ方法が、お宝を探すこと以外にもうひとつある。

それが、捕まった泥棒の解放だ。

 

解放の報酬は、泥棒の数が多ければ多いほど大きくなる。

愛里が持っているような100万ポイントのお宝はなくとも10万ポイントのお宝をゲットして捕まった泥棒は何人もいるはず。

 

全部で2000万ポイント分のお宝があるとの話が本当で、仮に半分の1000万ポイントが牢屋にいる泥棒の総計だとすれば、解放するだけで100万ポイント以上ゲットできる。

 

その解放のために必要な牢屋の鍵を手に入れるためのイベント。

恐らくだが、残り時間が1時間ほどになったそろそろ開催されるとみている。

 

ただ、南雲の考えがわかった今、明らかにこれは罠だろうな。

 

オレはポイントの事しか考えていないが、仲間を解放することを重視して鍵を入手しようとするやつを、オレも南雲も知っている。

 

そして、そいつがピンチになるのであれば、オレが出向くことも計算済みだろう。

 

問題は、そのミッション内容か。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「見て、神崎君、柴田君」

 

携帯に出てきた告知を2人に見せる。

 

 

 

『泥棒救出ミッション開催』

 

開催地は校舎本館の屋上。

 

ミッション成功で、捕まった泥棒を解放するための鍵を入手。

 

鍵を手に入れて、牢屋の泥棒を救い出そう!

 

 

 

「これで捕まっちゃったみんなを助けられるね」

 

ここまででたくさんのクラスメイトが捕まってしまっている。

残り時間は少なくなっているけど、解放できれば各々多少なりともポイントはもらえるし、人数が増えれば泥棒側が再び有利になるはず。

 

「そうだな!俺たちでみんなを助けようぜ」

 

「だが、油断はできない。これまでのミッションよりも難しいと考えるべきだ」

 

「もちろんだよ。でも、行かない選択肢はないと思ってる」

 

幸い私たちは校舎内で探索をしていたこともあって、すぐ開催地の屋上へ向かえる。

 

「確かに、このメンバー以上の人材は簡単には集まらないか」

 

「うん。それに、ミッション内容を確認して無理そうなら挑戦しなければいいしね」

 

「わかった。そうと決まれば邪魔が入らないうちに向かうぞ」

 

こうして私たちは屋上へと走り出した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「龍園くん、もうやめて!このままじゃ2人が、2人が死んじゃう」

 

「馬鹿をいうなよ、一之瀬。俺たちはルールの下でちゃんと戦ってんだ」

 

ボロボロになって地面に這いつくばる神崎君と柴田君。

 

「でも、こんなのってどうみてもやりすぎだよ」

 

「どうしてもって言うなら、それ相応の態度が必要なんじゃねえか?」

 

「リタイアを宣言するだけじゃダメってこと?」

 

「そりゃそうだ。わざわざ見逃してやろうってのに、そんな甘い取引があるかよ。ほら、これにサインしやがれ、そうしたらやめてやるよ」

 

投げ渡してきた書類には、卒業までに私たちが毎月手にするプライベートポイントの半分を龍園くんに渡す契約が書いてある。

 

「こんな暴論、許されるわけない」

 

「それならそれでいいぜ。ここでお前のクラスの主力を消せるならそっちが得かもしれないしな」

 

「一之瀬、俺たちの事はいい、リタイアするんだ」

 

「これぐらいどうってことねえからさ」

 

傷だらけになりながらも懸命に立ち上がろうとする2人に、石崎くん、近藤くんの蹴りが入る。

 

「がはっ」

 

「やめて!やめてよ……」

 

2人とも動かなくなってしまった。

 

こんな書類にサインすればBクラスの未来はない。

でも、このままじゃ2人が……。考えるまでもない選択。

何よりも2人を助けることが先決。クラスのみんなもきっとわかってくれる。

 

最悪、契約した私が退学になればこの契約は無効にできるはず……。

退学、という言葉が頭を過ぎったとき、サインのために伸ばした手が止まる。

退学したら、みんなと、綾小路くんとも会えなくなってしまう……。

 

「龍園さん、もう我慢できないっすよ。ここではあらゆる暴力が許されるんでしょ?一之瀬も嬲ればいいじゃないっすか」

 

「それは一之瀬次第だ。あくまでもこの交渉はこちらの善意なんだぜ?だが、俺たちも暇じゃねえ。このミッションをさっさと終わらせて警察の仕事もしなくちゃなんねーんだ。そろそろ答えを聞けねえと何するかわかんねーな」

 

屋上の入り口は封鎖されてしまった。

逃げ出すことも、助けが来ることも見込めない。

 

……綾小路くん、ごめん、私、約束果たせない。

 

そうして、震える手で何とかペンを握り直して書類を持つ。

 

前を向いて進もうと決めたのに、こんなのって悔しすぎるな……。

涙で視界が歪みながらも、サインをしようとしたその時だった。

 

「待たせてすまなかったな、一之瀬」

 

屋上のフェンスを乗り越えて、綾小路くんが登場した。

 

 

 

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