ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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戦う理由

みんなを助けるための鍵を手に入れるため、屋上の扉を開けた。

 

「よぉ一之瀬。お前たちが一番乗りだぜ」

 

そこにいたのは龍園くんと、取り巻きの男子が3名、2年生の男子も3人ほどいる。

 

「ここの担当は龍園くんなんだ。あんまり良いミッションじゃなさそうだね」

 

「クク、そうでもねえさ、この通り、このミッションにはレフリーまでいて平等そのものだぜ」

 

2年の男子のうち一人は審判ということらしい。

 

「それでこのミッションの内容は?」

 

神崎君が話を進める。

 

「そこの壁に貼ってある。もちろん、参加するよな?」

 

『タッグで挑め、総合格闘バトルロイヤル』

 

泥棒側は2人1組で最大5組まで参加可能。

※1人でも参加可能

警察側も同様に最大5組まで参加。

 

最大10組で屋上をフィールドとしてバトル。

最後の一組になるか、警察側のどのペアかが持つ牢屋の鍵を、泥棒が入手することでミッション終了。

 

勝利した泥棒は、牢屋の鍵を入手。

 

基本的なルールは総合格闘技に準ずる。

 

敗北条件は、どちらかがダウン後、レフリーから10カウント宣言されるか、戦闘続行不可能な状態になった場合、その生徒は脱落。両ペアが脱落した時点で、敗北。

 

また、屋上から出ることでリタイアすることも可能。

 

リタイアした場合、もしくは警察が優勝した場合、泥棒は逮捕となる。

 

ミッションスタート後、参加者が最後の1組になるまで継続。

終了までに両サイド5組に到達するまで追加で参加可能。

 

「これは……」

 

形式上、バトルロワイヤルとなってるけど、泥棒側が一方的に攻撃される未来しか見えない。向こうは、6人。こっちは3人だけど、このルールだと私は戦力にならない。

 

「2人とも参加は見送ろう。これはどうしようもないと思う」

 

「怖気づいて逃げんのか?ああ、そうだよな。万引き犯には泥棒がお似合いだもんなあ。人助けなんてするはずがねえ」

 

「おい、それ以上ふざけたこというんじゃねえ」

 

「龍園、貴様っ」

 

「安い挑発だよ、柴田君、神崎君。私、気にしてないから」

 

「ククク、あんだけ啖呵を切ってたわりに、すぐ泥棒やってんだから笑っちまうぜ。今度は誰のために盗んだって言い訳すんだ?教えてくれよ」

 

「いい加減にしろよ!」

 

龍園くんに殴りかかろうとする柴田君。

 

「おいおい。手を出すならミッションスタートと捉えていいんだよな」

 

「柴田君っ!!」

 

寸でのところでピタッと止まる柴田君。

悔しそうにこちらを振り返る。

 

「でもよ、一之瀬。こんなこと言われて黙ってられねえよ」

 

「ここはしばらく待とう。他の参加者がくれば勝機もあるから」

 

「クク、そりゃそうだよな。だが、そんな奴らは現れないぜ?特別に教えてやるよ。すでに牢屋にいる泥棒は170人以上、つまり8割を超える。あの坂柳もさっき捕まったそうだぜ」

 

「でもまだ……」

 

「綾小路がいる、か?残念ながらここに来るまでに警察が何人待ち構えているか、教えてやろうか?ま、アイツ1人来たところでどうにかなるとも思えねえがな」

 

「……まんまと誘い込まれたってこと」

 

このミッション、10人まで参加できるけど、そんな団体行動をしている泥棒はいない。

大人数は目立つし、途中の裏切り者騒動で新たにチームを組みにくくなった。

 

他のミッションなら、待てばそれなりに人数は集まったけど……。

最初に1組やってきたら、屋上へのルートは一本道。ミッション範囲ギリギリに警察を配備することで誰も近寄れなくなる。

そう言った意味で屋上は厄介な場所だ。

 

「帰ってもいいんだぜ。その場合はお前たちにこのミッションの参加権はなくなるがな」

 

このまま待っていても増援は見込めず、帰ってしまえばこのミッションへの再チャレンジは不可能。

残りの泥棒数から見ても、鍵の獲得は絶望的になってしまう。

 

「帰えりたいなら帰れよ。お前には泥棒がお似合いなんだ、誰も責めねえよ一之瀬。さっさと本業に戻りやがれ」

 

「……一之瀬、俺たちにやらせてくれ」

 

「神崎君、でも……」

 

「今まで黙っていたが、俺は格闘技経験者だ。そこら辺のチンピラに負けるつもりはない」

 

「俺も我慢の限界だ。それにここで捕まったみんなを助け出したら最高にカッコいいしな」

 

2人からの力強い言葉。……仲間を信じることも大事だよね。

 

「わかった。このミッション、挑戦しよう」

 

私はいつも肝心なところで判断を誤ってしまう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

時間までミッションを回っていたが、やっと本命の告知がやってきた。

 

「ひより、すまないが、この勝負、ここまでにさせてもらう」

 

残りのカードを全て揃えて、ミッションを終了させる。

 

「ええ。楽しい時間をありがとうございました」

 

「こちらこそ。茶道の和服も良いが、その格好もなかなか似合っているな」

 

「……その件に関してはノーコメントでお願いします」

 

そっと近くの本で顔を隠すポリスひより。

そんなやり取りをしたのち、屋上へと足を進める。

と、その道中の階段に何人もの警察が待機している。

 

試しに先ほど入手した偵察のカードを使用してみると

屋上までの階段に10人ほどの警察が待機していることがわかる。

 

こいつらを巻いて、屋上に辿り着くのは骨が折れそうだ……。

 

恐らく一之瀬たちはすでにミッションエリアに入っている。

だからこそ、警備が厳重になっているのだろう。

 

一之瀬がオレを誘き出すための餌なのだとしたら

早く向かわなければ手遅れになるかもしれない。

 

そうなるとルートはひとつだな。

3階から出て、先ほど感じで登ればそう時間はかからないだろう。

 

……人の駒に手を出すとどうなるか、アイツらには理解してもらう必要があるな。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「待たせてすまなかったな、一之瀬」

 

屋上のフェンスを飛び越えて、綾小路が乗り込んでくる。

コイツ校舎の壁を登ってやってきたのか?

確かに階段は封鎖してやったが、こんなのアリかよ。

 

南雲からの命令は、綾小路の心を折り、二度と反抗する気が起きないよう叩き潰せ、だった。

そのための場所として、高ポイントが狙え、かつ一之瀬が食いつきそうなミッションが用意された。

綾小路の行動理念は不明だが、これなら間違いなくやってくる、なんて言っていたが本当だったな。

 

あとは俺たちの得意分野、暴力が許される内容でルールを設定し、形だけのレフリー、2年Dクラスで荒事に向いている兵隊の借り受け、なぜか急に故障する監視カメラ、緊張感ある状況で走り回って疲労がたまっている綾小路、こっちの準備は万全だ。

 

リスクがなくなるわけじゃねえが、

こいつら2人がクラス争いからリタイヤすれば、俺たちが勝ち上るのも時間の問題、悪い話じゃねえ。

 

ただ、流石に女をボコボコにしたとなれば問題になるだろうからな、一之瀬は精神的に陥れるため、クラスの明暗を分ける無理難題な要求、大事な仲間への暴行を実行した。

わざわざ助けに来るんだ、一之瀬を追い詰めれば追い詰めるだけ、綾小路へのダメージに繋がる算段。

あと一歩で完成だったが……計画に変更はねえ。

順番は前後するが綾小路も叩きのめせば、一之瀬も観念するだろう。

 

「生徒会副会長さんのお出ましか。派手な登場だが、お前も参加するってことでいいのか?」

 

俺たちを一瞥した後、壁に貼ってあるルールを確認していた綾小路。

 

「そうだな」

 

「ククク、お前もつくづく馬鹿な野郎だぜ、こんな窮地に単身乗り込んでどうにかなるとでも?」

 

「素朴な疑問だが、オレは今、窮地に立たされているのか?」

 

「やけに余裕じゃねえか。女の前だからって怖いのを必死に隠してんのか?それとも何か策でもあんのか?まさか、フェンスから次は高円寺でも出てくるってんじゃないだろうな」

 

「策?そんなものはない。ただ、この場にいる6人じゃ、オレは止められない」

 

どこまでも涼しそうな顔でそう答える綾小路。

何を強がっているかわかんねえが、それならもっと絶望させてやるだけだ。

 

「クク、それなら人数を追加させてもらうぜ」

 

石崎に合図を出す。

階段で待機させていた、アルベルト、2年の武藤、川上、立花の4人が入ってくる。

アルベルトは言うまでもねえが、その他の2年も喧嘩慣れしている連中だ。

 

「これでもまだ余裕か、綾小路?」

 

さあ、お前の恐怖する顔を見せてみろ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あ、綾小路くん。こんなミッションに参加しちゃだめだよ。綾小路くんまで傷ついたら、私、わたし……」

 

颯爽と助けに来てくれたことには感謝しかないし、心が折れそうだっただけに彼の姿が見えただけで今までないほど安心感を得た。

でも、それは長く続かない。格闘技経験者の神崎君でさえ、龍園くんたちに囲まれて為す術なくやられてしまった。

それだけ危険な相手。いくら綾小路くんがスゴイからって、アルベルト君まで加わった状況では結果を予想するまでもない。

いや、想像したくない、綾小路くんを失いたくない。

だから、止めなくちゃ、ここに来てくれただけで十分だ。

 

「あ、綾小路くん、あの――」

 

「心配するな、帆波。オレにとっては朝飯前だ」

 

それは、体育祭の時に、私がちょっとした遊び心で伝えた言葉。

思わず言葉に詰まる。

 

「……信じてそこで待っていてくれ」

 

そんな私の様子をみて綾小路くんが言葉を続けた。

どうしてだろう、こんなに絶望的な状況なのに本当に大丈夫なんじゃないかって気持ちになる。

 

「ククク、妬けるじゃねえか、お二人さんよ。おい、石崎、小宮、近藤」

 

名前を呼ばれた3人が一斉に綾小路くんに殴りかかっていく。

思わず目を逸らしそうになるけど、綾小路くんが立ち向かっているのに、ここで私が逃げるわけにはいかない。

 

だから、私はしっかりと目を開けて綾小路くんを見ていた。

 

……見ていたはずなんだけど、何が起きたのか、よくわからず、自分の目を疑うことに。

 

わかったのは、先頭の石崎君の攻撃を片手でいなしたところまで。

次の瞬間、石崎君はお腹を押さえて膝をつき、続く、小宮君、近藤君は同時に倒れていた。

 

その様子を見た2年生の5人が綾小路くんを取り囲む。

 

じっとその様子を見つめる綾小路くん。

 

背中をとっていた立花先輩が、綾小路くんの腰あたりを狙って蹴りを入れようとする。

でも綾小路くんは後ろに目でもついているかのように、少しだけ横に逸れて、その足を掴み、回転を利用して目の前の2年生へ投げつけた。

2年の人がキャッチしたところに、綾小路くんが詰め寄って顎にジャブが入って崩れ落ちる。

 

崩れ落ちた時に落とした立花先輩の両足を再び掴んで、ジャイアントスイングする綾小路くん。

 

近寄れない、残り3人。

 

その中の1人へ、再び立花先輩を投げつけた。

キャッチせずに避けることを選択した先輩は、避けた先に飛んできた綾小路くんの回し蹴りがヒットし撃沈。

 

最後の1人は雄たけびを上げながらタックルしていったけど……膝蹴りを顔面に受けて動かなくなってしまった。

 

1分足らずで8人が地面に横たわっている。

 

「おみそれしたぜ、綾小路。生徒会は伊達じゃねえってことか」

 

「この状況でもまだ余裕なのは流石だな」

 

「俺は負けねえからな」

 

「Sorry Brother」

 

そういって龍園くん、そしてアルベルト君が綾小路くんに襲い掛かる。

 

アルベルト君の素早い打撃で牽制して、龍園くんが大ぶりの攻撃を仕掛ける連携。

素人目にも只者じゃないことがわかる。

 

でも、それを表情一つ変えずに捌き切る綾小路くん。

あれどうやってるんだろう。避けたり、弾いたり、牽制したり……。

 

そうやって相手の攻撃は防ぎつつ、時折攻撃をしているのか、アルベルト君と龍園君が顔をしかめる時がある。

でも、どちらが優勢なのか、私にはわからない。

私にできるのは綾小路くんの無事を祈ることだけ。それが悔しくてたまらない。

 

「そうやって雑魚どもを見下してきたのか?さぞ気持ちが良かっただろうな」

 

「そんなことは考えたこともない」

 

「嘘を言うんじゃねえ。それだけの力があって愉悦を感じないはずがねえ」

 

「お前は蚊を潰すのに愉悦を覚えるのか?」

 

「ククク、ハハハハハ。ここまで俺をコケにしたのはお前が初めてだぜ、綾小路」

 

アルベルト君の大振りを躱した綾小路くんに龍園くんが飛びつく。

 

「やるな、龍園」

 

「お前に恐怖を教えてやるよ」

 

組み合った状態で膝蹴りを入れる龍園くんの攻撃を綾小路くんも膝で止める。

 

龍園くんが屈んで、その後ろからアルベルト君のストレートが飛んでくる。

 

「危ないっ!!」

 

思わず叫んでしまった。

 

「これがお前の言う恐怖なのか?」

 

屈んだ龍園君が片膝をつき、アルベルト君もよろけていた。

あの一瞬で龍園くんに何かしらの攻撃を加えて、アルベルト君の攻撃にカウンターを合わせた……とか?

 

「もういいさ、龍園」

 

龍園くんを裏拳で吹き飛ばし、よろけたままのアルベルト君と距離を詰め、ローキック。

ガクッと崩れたところに、顔面に蹴りをかました結果、アルベルト君も地面に倒れ込む。

 

「ったく、歯を二、三本持ってかれちまったぜ」

 

顔を腫らした龍園くんが立ち上がる。

 

「まだやるのか、龍園」

 

「アルベルトもやられちまったんならどうしようもねえ、降参だ。ほら、持って行けよ」

 

そういって綾小路くんにカギを投げ渡す。

 

「俺たちは退散させてもらうぜ」

 

龍園くんの目配せで、ここまで一切仕事をしなかったレフリーが慌ててミッション終了を宣言し、階段で待機していた他の警察を呼んで、負傷者を運び出す。

 

言葉を失うほどの圧倒的な力の差。

そもそも私が心配することすら失礼だったのかもしれない。

 

「すまない、一之瀬。さすがに昼飯前ぐらいの苦戦はした」

 

そう言って近づいてくる綾小路くん。

いつもと変わらないその顔を見たときに様々な感情が襲ってきた。

あのアルベルト君すら、綾小路くんに一撃も与えることができなかった。

本当に何者なんだろう……。危険は去ったはずなのに、得体のしれない恐怖が心の底に滲み出してくる。

 

「あれ……」

 

でもそれは気のせいなのかもしれない。

事態が収まって安心したのか、今になって震えが止まらなくなったから、ただ単に不安だったんだ。

綾小路くんが無事だったこともそうだけど、もし彼が来てくれなかったら今頃私は……。

止まっていた涙が自然とあふれ出す。

 

「怖かった……全部失っちゃうんじゃないかって、怖かったよ」

 

「……すまない、こういう時はどうすればいいか、わからない」

 

そういう綾小路くんは、あれだけのメンツに囲まれたときよりも、ずっと困っていたのがなんだか面白くて、少しだけホッとした。

そこにはさっきまでの少し怖い綾小路くんはどこにもいなかった。

ここにいるのは、私の知っている、私の、私の大好きな綾小路くんだ。

 

「こういう時は『大丈夫だ、帆波』って言いながら抱きしめて欲しいかな」

 

頑張って笑顔を作って伝えてみる。

 

「大丈夫だ、帆波」

 

「……うん」

 

ありがとう、と言葉にしようとしたのに続きは出てこなかった。

今はただ、この胸の中で安心したかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

一之瀬の震えが収まったところを見計らい、そっと離れる。

イベントの残り時間は30分を切っていた。

 

「すまないが、オレはこれからみんなの解放に向かう」

 

「うん、そのためにカギを手に入れたんだしね。私も同行したいけど……」

 

奥で倒れる神崎と柴田を見る一之瀬。

 

「一之瀬は二人の傍にいて、目が覚めたら保健室に連れていった方が良いな。見たところ、見た目以上のダメージはなさそうだが」

 

喧嘩慣れしているからか、事件にしない為か、2人とも骨折など大きなけがはなく、あざや擦りむき腫れはあるものの、大事には至らないレベルの負傷だった。

 

「そうするね。……不要かもしれないけど、無事を祈ってるよ」

 

「不要なんてことはない。気持ちは大事に受け取っておく」

 

一応、手は抜いておいたのだが、暴力と縁のなかった一之瀬からしてみれば、ショッキングな出来事だったかもしれない。

先ほど突然泣き出したことといい、どうしたらよかったのか、まだまだ分からないことは多い。

どうしたら、この感情を学ぶことができるのだろうか……。

 

そうこう考えている間に、体育館近くに到着した。

 

ここまで警察に出くわさなかったが、鍵が入手されたとわかって、牢屋の守りに力を入れていたようだ。

偵察のカードの効果でマップ上には、体育館の入り口を囲むように警察が配備されていることがわかる。

 

「ここにいたのね。綾小路くん」

 

「堀北か。坂柳はどうしたんだ」

 

「坂柳さんなら牢屋の中よ」

 

「なるほど、どうやらそっちも順調なようだな」

 

「あなたも坂柳さんも随分先が見えているのね。私にはわからないことの方が多かったわ」

 

堀北もこのイベントを通して色々なことを吸収しているようだ。

 

「この作戦はあなたがみんなを解放してくれないと完成しないのだけれど、あれをどうするつもりなの?」

 

大量の警察の突破方法か。

 

「2つあるんだが、今回は確実な方にしたいと思う。ちなみにこれからもう一波乱起こると思うぞ」

 

「なら私はここでお手並み拝見させてもらうわ」

 

もしかしたら警察への対応を手伝いに来てくれたのだろうか。

確かに正攻法で行くなら、囮でも使わなければあの包囲網は突破できない。

 

「堀北の献身に免じて、少しレクチャーしよう」

 

「一体何のつもり?」

 

「これから起こる一波乱だが……なんでアイテムカードやお宝は電子化されているのに、鍵は実物なんだろうな」

 

「そんなの実際に開ける必要があるからじゃない?」

 

「そこはどうとでもなる。ヒントは泥棒解放のルールだな。逆に言えば、そこを利用してオレも包囲網を突破させてもらう予定だ」

 

「……難しいことを言うのね」

 

「これから起きることを見て、解答を考えておいてくれ」

 

堀北の成長はクラスがAクラスを目指すうえで必要不可欠だろう。

もしオレがいなかったとしても、最低限、戦えるようにしておきたい。

 

そういってオレは堂々と体育館へ歩いていく。

 

そして、あっという間に警察に包囲された。

 

「さっきぶりだな、綾小路。第二ラウンドと行こうぜ」

 

「すんなり鍵を渡すと思ったが、やはり本命はこっちか」

 

顔に湿布を貼った龍園が目の前に立ち塞がる。

 

「クク、その様子じゃわかってるようだな。だが、今度はミッションじゃねえ、お前は俺たちに触れただけでアウトだ。今度こそ窮地なんじゃないか?」

 

「仮に窮地があるとすれば、ここではないな」

 

いつかの修羅場と化した生徒会相談室に入ったときのことを思い出す。

窮地という言葉はああいう状況が相応しい。

 

「今度はてめえが蚊の番だ。精々逃げ回って――」

 

龍園の顔面にワンツー、怯んでがら空きのボディにフックとストレートのコンビネーション、頭が下がったところで首を掴み持ち上げる。

 

「悪いが龍園、今後も一之瀬に手を出すならこうなる。もし挑戦したいなら、直接オレに来るんだな」

 

自分で言っていて不思議だが、ただの駒にここまで執着するのもおかしなものだ。

オレは今どんな感情でコイツを締め上げている?

24億ポイントを稼ぐ約束、生徒会の仲間、利用価値を含め理由をつけようと思えばつけれるのだが――。

 

「な、なんで――」

 

顔が腫れあがり、呼吸もままならない龍園の瞳には少しの恐怖が宿っていた。

それを確認し、手を放す。

 

「簡単な話だ。オレも今は警察だからな。警察間での攻撃は特に禁止されていない」

 

鍵が実物である理由。それは入手したもの以外でも使えるということを意味している。

ルールでは、手に入れることは泥棒しかできないと記載があったが、使える対象の明記がなかったこと、そしてポイントの受け取りが『解放者』という表記になっていたのが、気になっていた。

つまりこのルールは、一度泥棒にカギを渡し、その泥棒を捕まえて鍵を奪い、自分たちの手で泥棒を解放するためのもの……字面にすると、とんでもない警察だな。

 

本来の計画では、お宝の大量ポイントを南雲が、泥棒の解放ポイントを龍園が牛耳ることで、泥棒側へのポイントを極力減らす狙いだったのだろう。

 

仕組みがわかれば対策は簡単だ。

鍵の入手後、ドッチボールの報酬で手に入れていた変装のカードを使用するだけ。

目には目を、警察には警察を、だな。

10万ポイントのお宝を失いはしたものの、安い出費だ。

 

「こうなりたいやつは他にいるか?」

 

一応確認してみたが、警察全員が慌てて道を開ける。

 

そうしてゆっくり体育館に入る。

中にはこれまで捕まった生徒たちが牢屋ゾーンと書かれた場所で待機していた。

なるほど、スクリーンで様子を見ていたのか。

幸い、屋上の監視カメラは細工がしてあったようだし、体育館前には監視カメラは置いていない。

 

「きよぽん、信じてたよー」

 

体育館にカギを持って入ってきたオレに注目が集まる。

別れたのは、ほんの数時間前のはずだが、綾小路グループの面々の顔を久しぶりに見たような気がする。

愛里たちの姿がないことから、あの三人は上手く逃げているようだ。

 

『牢屋の錠前』と記された場所に移動し、置いてある錠前にカギをさして回す。

 

その瞬間、大きな効果音と共に、スクリーンに泥棒解放!と大きく表示された。

各自、携帯を回収して、体育館を出た後、5分間はタッチ無効で行動できるようになる。

 

各々残り時間でさらなるお宝をゲットするため飛び出す。

 

「ありがとうございます、綾小路くん」

 

「そっちの仕上げはこれからか」

 

「ええ」

 

坂柳が葛城に乗ってやってきた。

この2人はこれでないと落ち着かなくなってしまったな。

 

「捕まるのは不本意ではありましたが、向こうの作戦では、主要人物の確保、泥棒の一定数減少が、開始の条件だったようですから」

 

厄介な生徒がいなくなり、泥棒の数も減らし、安全を確保してから高レアリティのお宝をゲットする出来レース。

恐らく、鍵が龍園に渡っていた場合、イベント終了直前での解放になっていたのだろうな。

 

それにしてもこの作戦はオレが解放することが前提のもの。

オレなら必ず解放できると坂柳からある意味、信頼されている証拠でもある。

 

「それでは、皆さん、指示した方に強奪のカードを使用してください」

 

「了解」

 

強奪のカードを所持したまま、あえて捕まっていた泥棒たちが返事をする。

その中には軽井沢の姿もあった。

 

潜伏のカードを使用した最低人数を残して、あえて捕まり油断を誘い、潜伏したメンバーで各宝箱を監視。

どの2年生が高得点のお宝を手にしたのか、チェックさせていたのだろう。

 

当然、対象の2年生も防御カードの1~2枚は持っているだろうが、この人数で攻められてはひとたまりもない。

 

「みなさん慌てていらっしゃることでしょうね。ふふ、真の強者は時が来るまでじっと座して待つことができるものです」

 

奪われた2年生は血の気の引くような思いだろうが、奪い返そうにも誰から取られたのか、推測もできない状況。

 

「さあ、残り時間もわずかですし、他のお宝でも漁りましょうか」

 

そうして坂柳一行も体育館の外へ。

 

「きよぽーん」

 

飛びついてきた波瑠加をさっと躱す。

 

「なんで?ここは感動の再会を噛みしめるシーンじゃない」

 

「抗議されても困るんだが、一応いまオレは警察だからな。タッチ無効とは言え、自ら接触してきた場合がどうなるかわからない」

 

「それこそなんで?どんな状況よ」

 

「ホント、清隆は俺たちの想像の斜め上を行くな」

 

「ま、助かったから良いんじゃないか」

 

「ということで、残り時間は愛里たちと合流して、残ったお宝をゲットすることをおすすめする」

 

「ま、それもそうか。愛里のことも心配だし」

 

「それに関しては、櫛田と鬼龍院先輩がついてくれているから、きっと大丈夫だ」

 

「本当になんで?」

 

終始疑問を抱き続けた波瑠加だったが、愛里を探すと体育館を出ていく。

 

 

いまさら警察の職務を全うする気も起きないため

オレはここでゆっくりさせてもらうとするか。

 

今回の一件で、安直に暴力で攻めてくることがなくなると信じたい。

そうでなければ、ここまであからさまに動いた甲斐がなくなってしまう。

オレを倒したいなら、もっと違う手を考える必要がある、南雲も龍園もそう感じたはずだ。

 

それにしても、巡り合わせとは不思議なもの。

このイベントも、本当は堀北兄を巻き込みたかっただろうに。

南雲が生徒会長になって、こんなイベントを開催できるようになった頃には、3年は受験準備で参加できない。だが、生徒会長でなければこれほどのイベントは企画できないというジレンマ。

 

ただ、堀北兄に自分の作っていく実力主義の学校の一端を実際に見せることができたのは、南雲にとっても、堀北兄にとっても良かったのではないだろうか。

そしてこれが南雲の作る新しい学校のスタイルなら、そんなに悪いものではないかもしれない。

 

次があるのだとしたら、こちらもテコ入れさせてもらい、暴力やら勝手に勝負を挑んでくるのやら、色々禁止させてもらわなくては。

 

こうして、警察側の大敗で今回の『リアルケイドロ』は幕を閉じた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

綾小路相手に龍園が成功するとは思っていなかったが、

まさかこっちもポイントが手に入らず終わるとは思わなかった。

 

綾小路と龍園がぶつかれば、お宝の方には手が回らないと思ったんだがな。

少し1年をなめすぎていたようだ。

 

綾小路以外にも少しは骨のあるやつらがいるってことだ。悪くない。

 

それに、おかげでいいデータが手に入った。

これを元に来年の無人島試験を組み立てることができる。

綾小路と本気で遊ぶのはその時だな。

 

今年度はあくまでも堀北先輩がターゲットだ。

 

結局、学校側へも色々プレゼンしたが、より質の高い特別試験が実施できるっていう謳い文句が一番効果的だった。今後はその方向で考えていくのもいいかもしれない。

 

俺としても今回の各自の行動データを分析すれば、色々な傾向が見えてきて対策をしやすい。未知数だった、高円寺や坂柳、鬼龍院、その辺りのデータを取れたのも大きい。

 

……にしても、タイマンの殴り合いで綾小路に喧嘩を売るのは止めておいた方が良さそうだな。俺が勝つにしても、少なからずダメージを覚悟しなきゃならなそうだしな、うん。龍園を先にぶつけたのは正解だったぜ。

 

今回のイベントの結果をもとに来年の無人島試験を想像すると楽しくて仕方がない。

堀北先輩がいなくなったあとの学校生活は、消化試合だと思っていたが、わからないものだ。

今度は俺もプレイヤーとしてこいつらと直々に戦ってやる。

 





ちょっと長くなったリアルケイドロ編、完結です。

原作とは違い、綾小路くんが実力をそれなりに出していたり、龍園くんが先走ったり、軽井沢さんが真鍋さんたちにいじめられていなかったりした結果、原作7巻であったことがほぼほぼなくなってしまったため、こんな形になりました……。

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