ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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見えるけど見えないもの

12月25日、クリスマス。

 

雪の降る中、遠く輝くイルミネーションの光と今にも沈みそうな夕日に照らされて、どこか物寂しさを漂わせる並木通りの外れ。

 

隣には佐藤さん。

ちょっと手を伸ばせばお互いの手が触れてしまいそうな距離で歩いている。

 

寮が近づくにつれ、その足取りは次第にゆっくりと、交わす言葉も少なくなっていく。

そうしてしばしの沈黙が流れ、大きな樹の近くで佐藤さんが歩みを止めた。

 

振り返れば、じっとこちらを見つめていた。

 

のは、佐藤さんだけではなく、茂みの中に隠れている奴らもだろう。

 

昨日は、多くの人物と過ごす一日も悪くないといったような感想を抱いたがあれは訂正だな……今オレの思考は、1人で穏やかに過ごしたい、ただそれだけだった。

 

どうしてこんなことになっているのか。

いや、これこそホワイトルームでは学べなかったことと迎合するべきなのか……。

 

ぎゅっと胸の前で腕を組み、何かを伝えようとこちらを見つめては、俯き悩む佐藤さん。

 

そんな佐藤さんの様子を観察しながら、今日一日を振り返る。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

今日は佐藤さんと出掛ける約束の日だ。

人生初の異性と2人で過ごすクリスマス。

 

ペーパーシャッフルのお礼をしたかったため丁度良かったのだが

クリスマスに男女で出かけることの意味を、波瑠加を筆頭に友人たち、生徒会メンバーからはあれやこれやと注意を受けた。

 

だが、そうなったらそうなったでいいのではないだろうか。

オレも健全な男子高校生。男女の付き合いというものにも興味はある。

相手が佐藤さんなら特に不満もない。

 

今日一日はそういったことも含めて、良い判断材料になるだろう。

そのため、あえて事前に佐藤さんの情報は仕入れず、自分の目でじっくり観察させてもらうことにした。

 

待ち合わせ場所はケヤキモール入り口。

こういう時は男がエスコートするものだと雑誌で読み、それなりに準備をしていたのだが今日は佐藤さんの方でスケジュールを立ててくれるとのことだ。

本人が行きたい場所に行くのが一番、今回はお任せすることにした。

 

待ち合わせ場所で待機していると、程なくして佐藤さんの姿が遠目に確認できた。

少しして向こうもこちらに気づいたのだろう、小走りで可愛く駆け寄ってくる。

 

「おはよー綾小路くん!」

 

近くに寄って立ち止まると嬉しそうに微笑む佐藤さん。

 

「今日も素敵だな」

 

「え、あ、ぅ、うん。ありがと……あ、綾小路くんもカッコいいよ」

 

雑誌でクリスマス特集を読み漁ったり、ネットでデートのイロハを研究した結果どの情報源でも、第一声は相手の容姿を褒めることと書いていたため実践してみたが、一定以上の効果があったようだ。

 

昼前とは言え、それなりの寒さであったが、パタパタと手団扇で顔に風を送る佐藤さん。

 

「予定より早い合流になったが、最初はどこに行くんだ?」

 

「映画を一緒に見たいなって思って。予約もしてあるよ」

 

そういって携帯を取り出し予約画面を見せてくれる。

 

「上映時間まではまだ余裕があるが、移動するか」

 

寒い外にずっといる必要もないと思ったのだが、佐藤さんはじっとして動かない。

 

「えっと、ちょっと待って……映画館に行く前にここでちょっとお話したいというか、外の風に当たりたいというか……」

 

「そういうものなのか」

 

「うん。さっき走ったから息を整えたいなぁって」

 

視線をキョロキョロさせて周囲を見回す佐藤さん。

もしかしたら緊張しているのかもしれない。

そういうことであれば、こちらから話題を提供して少しでもリラックスしてもらうか。

 

待ち合わせ場所でする会話の鉄板ネタは――これから行く場所の話と書いてあった。

 

「佐藤さんはよく映画を観るのか?以前、映画館でばったり会ったこともあったが」

 

「うーん、映画館で観るのは、そんなにないかな。話題のやつとかをみんなで観に行くぐらい。綾小路くんは?」

 

「オレは結構休みの日は観に来ることが多い。どんな映画からも学ぶことはあるからな」

 

そんな風に自然と会話が続いていく。

初デートで会話に困らない特集に間違いはないようだ。

 

「綾小路くん、佐藤さん、おはよう!」

 

と、本来の待ち時間が近づいてきたところで、後ろから声を掛けられる。

 

振り向けば、平田と軽井沢が近づいてくる。

偽装カップルの2人がわざわざクリスマスに出掛けるのは、周りへのアピールに他ならないだろう。こんな日まで偽装工作とは偽りの関係を続けるのも大変だな。

 

「軽井沢さん、おはよー。ぐ、偶然だねっ!」

 

佐藤さんは軽井沢の方へ近づいていき、楽しそうに会話を始める。その様子を嬉しそうに見つめる平田。

 

「そっちもデートか」

 

「うん。軽井沢さんが誘ってくれてね。おかげで淋しいクリスマスにならずに済んだよ」

 

「平田なら引く手数多だと思うけどな」

 

実際今日が暇だと公言すれば、みーちゃんをはじめ多くの女子が放っておかなかったのではないだろうか。平田のスケジュールを管理して、レンタルを始めれば一山当てられるかもしれない……。

 

「あはは……綾小路くんも似たようなものだと思うよ。佐藤さんが羨ましいって人は多いんじゃないかな」

 

「そんなことはないだろ。現に誘ってくれた女子は佐藤さんだけだった」

 

「教室で大々的に出掛ける約束してたし、みんな遠慮したんだと思うよ」

 

平田も自分が人気者だから感覚が麻痺しているのだろう。

モテる男と同じ基準で考えられても困るというもの。

 

「それじゃ、長居しても悪いし……そろそろ行こうか、軽井沢さん」

 

こちらに気を遣ってか、平田が軽井沢へ退散を促す。

平田もせっかくのクリスマスだが、偽装工作頑張ってくれ、そう思って2人を送りだそうとしたのだが――

 

「せっかくだからさ、Wデートなんてどう?」

 

軽井沢のそんな一言で早くもクリスマスデートは普通から遠のいていった。

流石にWデートの過ごし方は検索していないのだが、基本は同じで良いのだろうか……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『リアルケイドロ』が終ってから、佐藤さんと食事に出かけた私は、クリスマスにWデートでアシストして欲しいという相談を受けた。

 

『平田くんと入学早々付き合うなんてすごい』

『2人は理想のカップル』

『綾小路くんとも仲良しでホント尊敬しちゃう』

『実は恋愛経験なくって……助けて欲しいの』

 

そんな風に言われたら無下にすることもできない。

学年でもトップクラスの人気者の平田くんの彼女。

そして生徒会副会長で人気急上昇中の清隆の友だち。

佐藤さんから見れば、私以上の助っ人はいないだろう。

 

清隆のスペックを考えると、急がないと誰かに取られてしまうなんて焦りも理解できる。

 

どういうつもりで清隆がクリスマスデートをOKしたかわからないけど2人がくっついてしまえばここ最近の私の悩みも解消するし、別に清隆に彼女ができたからって友だちじゃなくなるわけではないんだし……。

そんなこんなで今日は佐藤さんのために一肌脱ぐことにした。

 

Wデートの提案はちょっと強引だったけど、平田くんも清隆も了承してくれたし、ここからはさりげない会話で清隆の好きなタイプとか聞き出してイイ感じに盛り上げる。

どうせ清隆の事だから、いつも通りあんまりしゃべんないだろうし、ここは腕の見せ所よね。

 

「クリスマスと言えば、サンタクロースだが、そのサンタさんにもちゃんと奥さんがいるらしい。しかも、英語圏では慎ましく夫を支える女性らしいんだが、本場のフィンランドでは魔女の家系に生まれた神秘的な女性とされているとか」

 

「へぇーそうなんだ!知らなかった。綾小路くん、何でも知ってるんだねっ」

 

季節感のある雑学を披露する清隆。しかもさりげなく夫婦の話題を出すのも何かいやらしい。

 

「佐藤さんはネコ派、イヌ派とかあるか?」

 

「私はネコ派かなぁ。実家で飼ってるんだー。可愛いんだよ?」

 

「それはいいな。この前のイベントじゃ南雲がネコを撫でてて、ちょっと羨ましかった」

 

「あれぬいぐるみだったじゃん、綾小路くんも冗談言うんだね」

 

何気ない雑談から相手の好みを聞いてオチまで用意してる!?

何よ、清隆、めちゃくちゃ積極的じゃない!?

アイツ、今日、佐藤さんを落とす気なんだ……。

……クリスマスだからってエッチなこと期待してるとか?

ああ、もう。清隆も立派な男の子だったってことね!!

 

清隆の思わぬ積極姿勢に動揺してしまう。

別にいいんだけどさ。

私たちと違って、お互い好き同士で付き合えるなら、それが一番じゃない。

 

チクチクチクと胸を刺す痛み、そんな何かには気づかないフリをして私も話に入っていく。

 

「動物と言えばさ、この前、子犬みかけたよー」

 

「本当か軽井沢、あとで目撃した場所と日時を教えてくれ」

 

やたら食いつきがいい清隆。意外と動物好きなのかもしれない。佐藤さんだけでなく、ちゃんと私とも話してくれるのは……少しだけ嬉しかった。

 

「別にいいけど。確かに、動物と触れ合いたいよね。この学区内、鳥ぐらいしか野生の動物いないし」

 

「それなら、1月中旬に動物カフェができる予定だ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。生徒会で誘致したからな」

 

「わぁ、じゃあさオープンしたら一緒に行こうよ、綾小路くんっ!」

 

「……それは構わないが、人は選ぶと思うぞ」

 

「どういうこと?」

 

「そこはできてからのお楽しみだな」

 

佐藤さんもしれっと次のデートの約束してるじゃない。

……今日、私のアシスト必要だった?

 

順調に距離を詰めていく2人。

ふーん、そういうことなら私だって平田くんの腕、ぎゅっと握っちゃうんだから。

 

「軽井沢さんはこのままでいいの?」

 

「なんのこと?」

 

「いや、余計なお世話だったね。つい心配になっちゃうのは僕の悪い癖だ。ごめん」

 

2人へ聴こえないように小声でこちらを気遣ってくれた。

彼氏役が長いだけあって、私のちょっとした変化にも気づいて反応してくれる。

本物の彼氏であれば、まさに自慢の彼氏だったろうと思う。

 

「えっと、その、綾小路くんはさ、す、好きな女の子のタイプとかある?」

 

こちらがこそこそ話している間に、気になる話題に移っていた。

清隆のリアクションが良いからか、佐藤さんも積極的になってきたのかも。

 

「そうだな……元気系とか」

 

「「元気系ぃ?」」

 

誰のこと思い浮かべて言ってんの……って清隆の身近にいる元気系なんて一人しかいないじゃない。

あーあ、元気系なんて言っちゃってるけど、結局は清隆も胸の大きさで選んでるんじゃない。

 

と思ったけど、口にした清隆自身がこちらのリアクションをみて、何やら戸惑っている様子。

 

「もしかして清隆はさ、世の中には元気系か大人しい系の女の子しかいないと思ってるんじゃない?」

 

それでいけば、佐藤さんも……私も元気系だろう。

 

「そんなことはない。堀北の様なツンツン系がいることも把握しているぞ」

 

「堀北さんはただのブラコンじゃん。お兄さん以外に興味がないだけ」

 

「そうなのか。どおりで全くデレがないわけだ」

 

「ふーん、デレた堀北さんがいいんだ」

 

「ツンツンよりはマシだろ」

 

「どうだかねー、さっきの子犬の話と言い、甘えてくる系に弱いとか?」

 

清隆の言う好みが全く当てにならないことだけは確かね。

そんな話をしながら4人で歩いて、映画館が近づいてきた時だった。

 

「よぉ!ちょっといいか」

 

突然現れた南雲生徒会長が話しかけてきた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

突然なぐもんがあらわれた。

なら、今日に相応しいあいさつをしなくてはいけないな。

 

「南雲会長、メリクリっす」

 

「……綾小路、お前、俺に対してその路線で行くつもりか?」

 

「南雲会長も堀北元会長に対してこんな感じでしたよ?そこに何の違いもないじゃないですか」

 

「俺のは愛嬌のある後輩キャラ作りだ」

 

「オレも同じだと思うんですけどね」

 

「良かったね、気軽に挨拶してくれるなんて雅も後輩に懐かれてるってことじゃん」

 

隣にいた朝比奈が間に入る。

決して懐いているわけではないのだが――ちょっと嬉しそうにするなよ南雲。

 

「朝比奈先輩、おはようございます」

 

「おい」

 

「うん、おはよう!丁寧でいい挨拶だね」

 

「おい」

 

「ちょっとした冗談じゃないですか」

 

「そうだよ、後輩君が絡んできてくれてるんだから、ドーンと構えるのが先輩じゃない?」

 

なぜか朝比奈がこちら側についてくれているので、2対1で南雲を攻撃することに。

 

「チッ、まあいい。今日はデートか、綾小路?」

 

「まあそんなところです」

 

「ここにいるってことは映画か?偶然だな、俺たちも映画でも観ようかって話してたんだ」

 

偶然か……。南雲の意図は読めないが、歓迎すべき状況でないことは確かだ。

 

「ワワッ、綾小路くんと南雲先輩、朝比奈先輩、コンナトコロデ奇遇デスネ」

 

やたら棒読みで聞きなれた声がする。

その方向からは、一之瀬が白波を連れて歩いてきた。

 

測ったかのようなタイミングの登場にじっと一之瀬を凝視する。

目が泳ぎまくる一之瀬。

そしてなぜか睨みを利かせてくる白波。

 

「ソウナンデスか、私たちも映画を観に来たんデス」

 

硬さがほぐれてきたが、こちらはまだ何も言っていないのに妙なことを言う一之瀬。

まるで台本のセリフをいくつか飛ばしてしまったようだ。

 

「帆波たちもか。せっかくだ、みんなで観ようぜ」

 

「そうだな、その方が感想も言い合えて楽しさも倍増だ」

 

「デスネ、桐山先輩!」

 

いつの間にかやってきた桐山や殿河、溝脇、その他の生徒会役員。

当然の如く、会話に交じっている。

 

……本来の入るタイミングは一之瀬が出てきた直後ぐらいだったんだろうな。

 

そんな寸劇は置いておくとして同調圧力、ついでに生徒会権力も相まって、平田たちもノーとは言いづらい様子。ここはオレが断りを入れるべきだろう。

 

「あれれー、綾小路くんだ。こんなところで偶然だね」

 

そんなところに新たな乱入者が現れた。

櫛田が、須藤、山内、外村、鬼塚を連れて近づいてくる。

池はいないが、なんだろうこのメンツ、コイツらをぶち込めば色々台無しにしてくれるでしょ、みたいな期待感がこめられてないか?

 

「映画観るんだ?私たちも一緒していい?あ、でも生徒会の人もいるし悪いかな?」

 

台本外の人物の登場に慌てる生徒会組だったが、南雲が前に出てくる。

 

「いや、そんなことはねえさ。せっかくの機会だ、綾小路のクラスメイトと交流するのも悪くないぜ」

 

利害が一致すると判断したのだろう。南雲が櫛田の提案を受け入れる。

 

ややこしいことになってきた。

生徒会だけなら、『普段交流のないメンバーもいるので』と断れたが、同じクラスの連中が混ざるとその手がつぶれる。どちらも断るか、受け入れるかの2択。

ただし、断るならクラスメイトの同行を拒否する明確な理由を考えなくてはならない。

 

そして拒否する理由を『デートだから』などと答えたら、このメンバーによってオレと佐藤さんのあらぬ噂が広まることは想像に難くない。

 

仕方がない、ここは全員で映画を観るか。

いくら一緒に観るとはいえ、広い映画館、みんなで仲良く一列に並ぶわけではない。

既に席は取ってあるようだし、バラバラでの配置ならそこまで気になることもないだろう。

 

すまないと佐藤さんに目配せすると、大丈夫と頷いてくれた。

 

どんどんデート感が薄れて行ってしまうことを残念に思うのだからオレも少なからずこの日を楽しみにしていたのかと改めて実感する。

 

結局、映画を観に来たのか、映画を観に来た風の人物たちに様子を観られに来たのか、よくわからないような時間を過ごすこととなった。

 

しかし、こんな中でも映画を観ながらうるうると涙目になる佐藤さん。

なんて感受性豊かなんだろうか、面白い話だとは思ったがオレにはさっぱり感動ポイントがわからなかっただけに羨ましく思えた。

命の宿ったおもちゃたちが、大人になった子供と遊んでもらえなくなり、紆余曲折あって次の子どもへと受け継がれていく、そんなストーリーのアニメ。

不要になったら捨てるだけ、そこに何かドラマが生まれるはずもない……そう思うのだが――――。

 

「にしても綾小路、この裏切り者~」

 

エンドロールまで見終えて佐藤さんと一緒に映画館の外に出ると、山内が絡んでくる。

 

「いつから付き合ってんだよ、くそ、ずりぃなあ。まあ、オレには櫛田ちゃんがいるからいいんだけどよ」

 

山内の後ろから出てきた櫛田から禍々しいオーラが一瞬放たれた気がしたが、気のせいだと信じたい。

 

「えっと、私たちまだ付き合ってないけど、やっぱりカップルに見える?」

 

「見える見える。もう一線超えちゃってんじゃないかってぐらいだぜ」

 

「もぉー変なこと言わないでよね、ねえ、綾小路くん」

 

山内、デート中に下ネタはNGと書いてあったぞ。

 

「そうだよ、綾小路くんも困ってるよ」

 

「わかってねえなぁ、櫛田ちゃん。綾小路も喜んでるって、な?」

 

本当の意味でのキラーパスを山内が放ってきた。

返答を誤れば、しばらく櫛田の料理はめざし定食になるかもしれない。

だが、露骨に否定してしまえば佐藤さんが傷つく。

 

「あー、悪い、オレは山内のようになじられて喜ぶ性質じゃないんだ」

 

「えー山内君ってそっち系なんだ……」

 

「ちょっと関わり方考えよー、下手に罵倒できないじゃん」

 

「ちょ、違う、違うって。俺は責める方が大好きなんだって」

 

「それはそれでキモイ、って、しまった、罵倒しちゃダメなんだった」

 

佐藤さんと合流してきた軽井沢がそんな感想を漏らす。

キラーパスにはそのままキラーパスで返す。話題を山内に切り替えさせてもらった。

撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだぞ、山内。

 

「んで、次はどうするんだよ、綾小路?」

 

「オレたちは食事の予約があるんでこれで。南雲先輩たちも良いクリスマスを」

 

「そうか、なら仕方ねえな。俺達はカラオケでも行くか。おい、せっかくなんだ、奢ってやるからお前ら一年も来いよ」

 

そう言って櫛田チーム、一之瀬チームも連れてカラオケに向かっていく一同。

 

「雅、なんかやけにあっさりじゃない?」

 

「勘違いするなよ、なずな。こう見えて後輩の恋路は応援してんだぜ」

 

「なんか怪しー」

 

南雲が特に何もせずに、ましては明らかにこちらを邪魔しに来たであろう櫛田たちを入れて行った。

 

「……どういうことだ?」

 

本当にたまたま同じタイミングで映画に来ただけとは思えないのだが……。

そんな風に疑っていると、佐藤さんが目を輝かせて話しかけてくる。

 

「綾小路くんってやっぱりすごいね、生徒会長にあんな話し方できるなんて」

 

「僕もそう思うよ。南雲先輩相手だとサッカー部のみんなも畏縮しちゃうから」

 

「いや、南雲だしな」

 

オレから見えている南雲像と他から見えている南雲像が時々ズレるな。

意図的だとしたら大したものだが……。

 

「予約時間もあるし、レストランに移動しよー」

 

軽井沢からのあまりにも自然な提案。

 

「レストラン、2人の分の予約してあるのか?」

 

「あ、うん、さっき佐藤さんに変更してもらったんだ」

 

「さすが佐藤さん、手際がいいな」

 

「……清隆、アンタ本気なの?」

 

「何がだ?」

 

「『何がだ?』じゃないわよ。わかってんでしょ」

 

「そうだな……それは佐藤さん次第なんじゃないか?」

 

今日一日がオレたちの関係を変えるかどうかは佐藤さん次第、最初から決めていたことだ。

 

レストランでの食事も鉄板ネタで会話をしていき、佐藤さんと楽しく話ができた。

食後はケヤキモール内を遊び歩き、気づけば時刻は5時前。

 

「それじゃ、あたしたちは……そろそろ帰ろうか、平田くん」

 

「そうだね、今日は2人ともありがとう。楽しかったよ」

 

これまで何かとこちらに絡んできた軽井沢からの急な解散宣言。

任務を完了したのか、オレたちを2人きりにする目的があるのか。

 

平田を連れてあっさりと寮の方へ歩いていった。

 

「……ちょっと遠回りして帰らない?」

 

2人を見送り佐藤さんからそんな提案を受ける。

断る理由はもちろんないため、承諾する。

 

「そうだな……じゃあ向こうの道を使って帰るか」

 

そうして並木道を通って帰る道を選ぶ。

平田たちが帰った方向以外で寮に向かうならこの道になる。

 

「あの2人ってすごいよね、ラブラブなんだけどそれを見せつけてこないところとか、熟練のカップルって感じ」

 

ラブラブに見えないのは別の理由だろうが……。

ただ軽井沢は偽装効果を上げるため、平田を上手に立てるような立ち回りをしている。

それが彼氏を第一に想い支える姿勢に見えなくもない。

 

「憧れちゃうよね~」

 

「そうだな」

 

憧れとは違うが、あの関係を貫ける2人の在り方は面白いと思う。

 

そんな話をしながら、ふと会話が途切れ、しばしの沈黙が流れる。

隣を歩いていた佐藤さんが足を止めた。

……何のために、といったことは考えるまでもないだろう。

 

今日一日のデートを経て、佐藤さんが出した結論を受け止める時が来たようだ。

 

そう思い振り返ると……茂みの方から、視線、気配を感じる。佐藤さんは今にも告白してきそうな勢い。

 

だが、このままここで公開告白させるのはあまりに不憫。

 

「佐藤さん、少し目を瞑ってくれないか?」

 

「えっ……あ、う、うん」

 

オレのお願いに戸惑いながらも目を瞑る佐藤さん。

 

オレはしゃがんで地面の雪をすくい雪玉を作り、気配のする茂みへと投擲する。

 

「ッゥゥ」

 

ドカッと命中音の後、痛みを堪える声が聞こえてきた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ここまでで大丈夫、今日はありがとね、平田くん」

 

「うん、こちらこそ。また何かあったらいつでも連絡してね」

 

平田くんと途中で分かれて、私は急ぎ移動する。

帰ったと思わせて、告白ポイントに先回りするためだ。

 

佐藤さんは『伝説の木の下』で告白予定。

そこで2人の行く末を見届けなくては……。

 

ところが、そのスポットに到着すると先客が何人もいた。

 

「あれ、軽井沢さん?」

 

「えーと、一之瀬さん達はここで何を?」

 

「あ、えーと、何というか、かくれんぼ、みたいな?」

 

「帆波、こいつも同志だ。無理に隠す必要はないだろ」

 

そう話すのは南雲会長。

 

「カラオケに行って帰ったと思わせて、このタイミングを待ち構えていたのさ。俺には奴の位置を把握する方法があるんでね、方角的にこのスポットを狙ってることは察しがついたからな」

 

「ここ、そんなに有名なんだ……」

 

「私たちの代でも、3組ぐらいここで告白して成功させてるからね~」

 

朝比奈先輩が補足してくれる。

 

「でも、ホント見守るだけだからね?邪魔しちゃダメだよ、雅」

 

「なーに、綾小路の野郎がヘタレないか確認できればそれでいいと思ってる」

 

「え、南雲先輩、邪魔しないんですか?」

 

「帆波には悪いが、そのつもりはないぜ。恋ってのは障害があった方が燃え上がんのサ。俺が圧をかけたことで邪魔されるわけにはいかないと綾小路も焦ったはずだぜ」

 

「南雲が応援側に回るとは……どんな風の吹き回しだ?」

 

「別に大した理由なんかないさ。桐山にはわからないだろうが、女ができると男は変わんだよ」

 

「……南雲先輩ってホント役立たずですよね。もっと高笑いしながら、意地悪く登場して、人の告白を台無しにするような人だと期待してたのに……」

 

「帆波、なんか言ったか?」

 

「いえ、何も。南雲先輩がおっしゃると説得力が違うなって。普段は障害になってばっかりですもんね」

 

「だろ。帆波もやっと俺の良さがわかってきたな」

 

生徒会の人たちっていつもこんなんだろうか。

清隆も清隆で色々大変なのかもしれない。

 

「あっ」

 

遠くから2人が歩いてくるのが見え、私と生徒会の人たちは茂みの裏に隠れて息をひそめる。

何となく会話が聞こえてくる。

ああ、佐藤さん、やっぱり告白するんだ……。

清隆もノリ気だったし……。

 

「こりゃあ、めでたくゴールインだな」

 

「しっ、バレちゃうよ雅」

 

「大丈夫、大丈夫…ってなんか急に綾小路、しゃがみ出したぞ……ツウウ」

 

雪玉が飛んできて南雲会長の顔面に見事命中する。

滅茶苦茶痛そうにしてるけど、声を出したら存在がバレてしまうので我慢している南雲会長。

ってか、雪玉投げ込まれた時点でバレてんじゃん、私たちがいること。

 

清隆からの警告。これ以上邪魔するなってことよね……。

 

「おい、綾小路のヤツがお持ち帰りしやがったぞ!」

 

顔についた雪を払い落しながら南雲会長が指をさす。

見れば佐藤さんを抱えて、走り去る清隆。

 

「綾小路くん、なんて大胆なの」

 

「あいつも相当溜まってやがったのか……追うぞ!」

 

朝比奈先輩が目を見開いて様子を眺め、南雲会長は追跡をする構え。

 

でも、警告もされたし、逃げるってことはこの先は本当に2人になりたいってこと。

なら、これ以上踏み込むのは間違いだ。

 

「あの――」

 

どこまで効果があるかわからないけど、生徒会の人を止めようとした時だった。

 

「そこまでです!」

 

反対側の茂みから出てきた2つの影が南雲会長の進路に立ち塞がった。

 

「あ、あなたたちは!!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あ、綾小路くん、いくら何でもステップを飛ばしすぎっていうか……心の準備が、ね?」

 

オレに抱えられ、最初は驚いていた佐藤さんだったが、現状を整理したのか、顔を赤くしながらそんなことを言ってくる。

 

「突然のことで申し訳ないが、しばらく黙って従って欲しい」

 

「う、うん……強引なところも、あるんだ――ギャップでいいかも」

 

あの場での告白はマズいと判断し、場所を移す為、佐藤さんを抱え走っていた。寮を通り過ぎて、学校に向かう方向の並木道に差し掛かる。

 

「え、寮の中で……じゃないの?」

 

「あの場所は少し目立つかと思ってな。ちょっと場所を移動したかったんだ」

 

安全という意味ではどちらかの部屋が一番かもしれないが前日の例もあるし、この後のことを考えると室内はよろしくない。

 

学校側の並木通りは、冬休み中ということもあり、人通りがなかった。

南雲たちも追跡してくるものと思ったが、なぜかやってくる気配がない。

雪玉が効いたのか?

 

そこでゆっくりと佐藤さんを降ろす。

 

「えっと、今度歩き疲れた時はお願いしようかな」

 

「佐藤さんのお願いなら叶えようと思うが……頻繁にすると葛城2号みたいになってしまうな」

 

「それはちょっと悪目立ちしちゃうね」

 

そんな話をしながら、急な出来事を消化し終えたのか、佐藤さんの顔が真剣なものへと変化する。

 

「ねえ、綾小路くん、今日は楽しかった?」

 

「ああ。もちろんだ」

 

「でも、今日一度も笑ってないよ?」

 

「笑ってないか……」

 

南雲たちの横やりはあったものの、素直に楽しい時間を過ごせていたのだが。

佐藤さんはオレの表情に笑顔が見られなかったことを気にしていたようだ。

どう説明しようかと考えていると佐藤さんが話を続ける。

 

「やっぱり、前に堀北さんを虐めようって言ったこと……気にしてる?嫌だよね、自分の友達を傷つけようとした相手といるの」

 

映画を観ていた時とは違った意味で瞳に涙が浮かんでくる。

 

「そんなこと、全く気にしていない。すっかり忘れていたぐらいだ。佐藤さんのことを嫌っているなら、そもそも今日を一緒に過ごそうなんて思わないぞ」

 

入学して間もない頃の堀北がツンツン全盛期。

クラスメイトを馬鹿にしていたため、良い感情を持たれていなかった。

そんな時、グループチャットで堀北を虐めないか提案したのは、佐藤さんだったな。

 

だが、そのくらい可愛いじゃないか。

実際に行動に移したわけではないし、行動したとしても佐藤さんがそこまで酷いことをするとも思えない。

こっちは毎日のように退学するよう迫ってきて、実際に行動を起こしまくるようなヤツと一緒に居るんだ。

それと比べれば、あまりに小さい問題と言わざるを得ない。

 

「……本当に?」

 

「ああ、本当だ。あれは堀北の態度にも問題があったし、そのぐらいで人の評価を決めたりはしない」

 

それを聞いて少し安心したのだろう、ホッと息を吐く佐藤さん。

ただ、それならそれで、オレが笑っていなかった理由がわからなくなる。

 

「……ならやっぱり笑ってなかったのは楽しくなかったから?」

 

「個人的には精一杯笑っていたつもりなんだが……単純に笑うのが苦手なだけなんだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

なかなかこちらの気持ちを伝えるのは難しいな。

佐藤さんと出掛けるということでかなり準備してきたのだが、まさかそんなことを気にしていたとは思わなかった。

 

「だったら、いつか綾小路くんが笑顔になれるように、傍にいたい……私と付き合って綾小路くん」

 

一陣の風が、すっと吹き抜ける。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「堀北先輩に、橘先輩!?なぜここに」

 

前会長と書記の人が南雲会長の前に立ちはだかる。

 

「俺が逐一お二人にチャットで報告してたからな」

 

「桐山、余計なことを」

 

どうやら桐山って人が、今日の行動を2人に伝えていたようだ。

……何のために!?

あ、こうなることを予想してたのかも。

自分たちじゃ止められないから、止められる人を呼んだってこと?頼りなさそうだけど、やるじゃん、桐山先輩。

 

「結論は綾小路くんが出すことです。邪魔するのは無粋ですよ」

 

「……でも、ここにいたってことは先輩たちも覗いてたんっスよね?」

 

「うっ……それは――」

 

「俺たちはあくまでもお前たちの監視だ。暴走しそうになったら止めるためのな」

 

「その通りですっ!恋はみんなに平等、そして告白する勇気を出したチャレンジャーの邪魔をするものではありません」

 

文句があるなら、先に告白しろってことね。

私は偽装だけど、入学早々に平田くんと付き合ったように、恋は早い者勝ちなのだ。

 

「俺は邪魔する気はなかったんっスけどね。どうなったか気にならないんっスか?」

 

「それは話したくなったら綾小路の方から話してくれるだろう。こちらから聞き出すものでもなければ、盗み聞きするものでもない」

 

「綾小路くんなら、私たちには話してくれると信じてますしね」

 

「ちょ、ずるいっすよ、そんなの」

 

納得がいかない様子の南雲会長。

……清隆は私にどうなったか教えてくれるだろうか。

私はその話を黙って聞けるのだろうか。

 

「……そうですね、私、間違ってました。こんなことしても綾小路くんから嫌われちゃうだけだ」

 

「私はちょっと状況次第ではケアが必要になるかもしれない子が近くにいたから知りたかっただけですし、そういうことならここまでかな」

 

一之瀬さんと朝比奈先輩は追跡を諦めたようだ。

 

「はぁぁ、しゃーないっすね。今日はこれまで。帰るか、なずな」

 

「私が責任もって送っていくのでご心配なく」

 

そうして帰っていく南雲会長と朝比奈先輩。

桐山先輩は堀北元会長と話していて、一之瀬さんは橘先輩に抱き着いている。

 

何だか残された気分の私は、夕焼け空を見上げ、ゆっくりと舞い降りてくる雪を眺める。

 

「清隆、なんて返事したんだろ……」

 

誰に聞かせるわけでもなく、そんな言葉を呟いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――私と付き合って綾小路くん」

 

風が吹き抜け、佐藤さんの髪が揺れる。

 

人生で初めて受ける告白。その返事は、今日一日を共に過ごしてすでに決めていた。

 

「悪い、佐藤さん。気持ちは嬉しいが、その想いにこたえることはできない」

 

勇気を出して告白してくれた佐藤さんに対して、素直な気持ちで答えた。

 

「……そっか、ダメ、か。……ここ、伝説の木の下じゃないしなぁ」

 

佐藤さんは必死に涙を堪えながらも笑顔を作ろうとしている。

デートの最中にそれなりの手ごたえは感じていたかもしれない。

なんせ、デート特集に記載されていた通りの行動をオレは実行していたのだから。

 

王道が王道であるのには理由があるように、マニュアルがマニュアルであるのにも理由がある。

多くの試行錯誤を繰り返した先駆者たちの努力の結晶だ。それなりの効果は見込める。

 

「よ、よかったら……その、理由を教えてもらえない、かな……他に好きな人がいるから?とか」

 

「好きな人か……」

 

『恋愛における好き』がまだよくわかっていない以上、その点で佐藤さんの告白を断ったわけではない。

ただ、奇しくも佐藤さんの告白の言葉が、ある人物のくれた言葉を彷彿とさせた。

そうであれば、隣にいて欲しいのは、残念ながら佐藤さんではないような気がした。

 

とはいえ、いずれにせよ結論は出ていた。

恋愛が、マニュアル通りに進むのであればそれほどつまらないものはない。

マニュアルで済むなら、わざわざ実体験する必要性がないからだ。

オレがホワイトルームを抜け出してまで体験したかったことは、データや文字情報だけではわからない、その先にあるもの。

 

狭い学校内、そんなに簡単に恋人をとっかえひっかえできるわけではない。

学習レベルに合った参考書を選ぶように、オレはもっと学びの多い恋愛を選びたかった。

 

今日一日ともに過ごしてみて、楽しかったことは事実。

だが、あえてマニュアル通りの行動をしていたオレに対して、想像を超えるものを提供してくれたのは、悲しいことに佐藤さん以外の人物たちだった。

 

「情けない話だが、オレはまだ誰かを好きになれたことがないんだ。それは佐藤さんに限らず、他の誰でも変わらない」

 

「……そっか。私、急ぎすぎちゃったのかもしれないね。一回のデートじゃ相手の事なんてわかんないよね」

 

俯く佐藤さん。

オレが告白を断ってしまったことで少なからず、心に傷を負ってしまったはず……。

もういつものようにニコニコしながら手を振ってはくれないかもしれない。

恩も返していないまま、気まずい関係になってしまうのは――少し残念だ。

男女の関係は難しい。執事とお嬢様の関係性だったらどんなによかったか。

 

「オレはチャンスを逃してしまったのかもな」

 

馬鹿な選択をしたということはわかっている。

試しに付き合ってみる、ぐらいの返事で曖昧な関係になることもできたかもしれない。

恋の傷は恋で癒すしかない――と特集には書いてあったか。

佐藤さんもいつかは立ち直って次の恋に向かうのだろうか。

 

「……だったらさ、まずは友達から――軽井沢さんの様に私とも今より仲良くなるっていうのは……どう、かな?」

 

まだチャンスは逃していないとでも言うように、ある種の救いを求めるように、なんとか絞り出した声で佐藤さんは提案する。

 

ここでイエスと答えるのは簡単だが――佐藤さんにとって、その道はさらなる苦しみを味わい続ける茨の道かもしれない。

だが、苦しみながらも茨を抜けたら、その先があるかもしれないことも事実。可能性は0ではない。

 

どちらが佐藤さんのためになるのか、決めるのはオレではない。

佐藤さんがその茨の道を希望するのであれば、それを叶えるだけだ。

 

「そうだな。まずはお友だちから、お互いを知っていくのは悪くない」

 

「……ホント?」

 

「もちろんだ」

 

告白のOKを貰ったかのように、涙を拭いながら笑顔を見せる佐藤さん。

それならこの返答でよかったのかもしれないな。

 

佐藤さんが今日初めてみせた意外性が、オレが告白を断った後だったのはなんとも皮肉なものだ。

 

「これから友だちとして、よろしくね、清隆くん」

 

「ああ。よろしく、佐藤さん」

 

「……そこは仲良しの友だちなんだから、『さん』づけとか苗字じゃなくて、名前で呼んで欲しいな」

 

言われてみれば、波瑠加もグループ結成時に似たようなことを言っていた。

 

「それもそうだな、麻耶、よろしく頼む」

 

「うんっ!」

 

涙で顔が腫れて恥ずかしいからと麻耶は先に走って帰った。

 

すると携帯が振動して着信を知らせる。非通知の電話。警戒しながらも出てみることに。

 

『俺だ、桐山だ』

 

「非通知でどうしたんですか?」

 

『いや、何か話したいことでもないかと思ってな。そうだ、話しにくいなら校舎の近くに人目のつかないところが――』

 

「特に用はないので失礼します」

 

一方的に電話を切らせてもらった。

今日の結果が気になっていたのだろう。だが、桐山に話す気にはならなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

すっかり日は沈み、星とイルミネーションが輝く時間となる。

桐山がその辺にいる可能性や、南雲たちと鉢合わせる可能性も考慮し、しばらく海辺の通りで風を浴びて帰ることにした。

 

「……綾小路、1人か」

 

「まさかここでアンタと出会うとはな」

 

ベンチには先客――堀北兄が座っていた。

 

「ちょっと考え事をな」

 

「アンタでも悩むことがあるんだな」

 

どうせ急いで帰る必要もない。隣に座って話をしていくことにする。

 

「俺も一人の学生だからな……南雲の目指す新しい学校、それを否定してきたが、先日のイベントをみて色々と思うことも出てきた」

 

「なるほどな。確かにあんな感じなら、退学者も出るわけではないし、実力があれば成り上がるチャンスも増える」

 

「あれが計画の全てとも思えないが、それでも学生にとっては悪くないイベントだった。俺には真似できない発想だ」

 

学校の伝統を守ってきた堀北兄にとっては、南雲の開催したイベントはある種のカルチャーショックだったかもしれない。

だが、違う文化だからと言って頭ごなしに否定はできない、学生のためになっているのであればなおさら。

 

「俺は自分が間違ってきたとは思わない。学校の在り方として正しい道を進み、学生を導いてきた自負がある。だが……道は一つとは限らない」

 

堀北兄のやり方が王道だとすれば、南雲は邪道。どちらも道には変わりない。

 

「違う道を塞ぐことばかり考えてきたが……少し早計だったか」

 

「結局その道がどこに繋がるのか、アンタは見届けられないのが惜しいな」

 

「かもしれないな」

 

そう言って堀北兄は笑った。

後悔しているのかと思ったが、そうではない様子。

どちらかと言えば、楽しんでいる、が近いかもしれない。

 

「すまん、クリスマスの夜にする話でもなかった」

 

「そんなこと気にするとは意外だが……」

 

「俺は常に学校の事を考え動いてきた。最後の一年ぐらい学友とクリスマスを楽しんでみても良かったかもしれないと思ってな」

 

出会った頃の張り詰めた様子がすっかりなくなっている堀北兄。

安心、という言葉が一番適しているような気がする。

 

「綾小路はしっかり楽しんだようだな」

 

「結局、友だちってことになったがな」

 

桐山が事あるごとに情報共有していたからな、こちらの状況も把握しているのだろう。

 

「付き合ってみる選択肢はなかったのか?」

 

「それはあんたが橘先輩と交際しない理由と同じなんじゃないか?」

 

自分自身の思考回路が、普通とは違うことは理解している。

常に自身の身を守るための予測、下準備を欠かさない。

 

先ほどの理由に補足をすると

麻耶と付き合うことで発生するリスクを考えた時に、費用対効果に見合わないとジャッジした。

 

交際相手、それは敵から見れば弱点でしかない。

将が討てないなら馬を討つ。王子を狙うのではなく姫をさらう。

 

ここ最近の南雲の攻撃を考えると、相手がどうなるか。

 

交際する以上、必要であるうちはできる限り守るつもりだが、限界はある。

そして、その時オレが下す判断はきっと――――

 

堀北兄がこれまで友人や恋人を作ってこなかったのは――堀北妹への接触を控えているのも、そういった脅威から遠ざけ守るためだろう。

Aクラスのリーダーで、生徒会長。南雲ほどの執着ではなくとも、狙われる機会は多かっただろう。

まあ堀北兄の考えは、リスクをあらかじめ減らしたいオレとは似て非なるものだが……。

 

「そうか。……俺はそれでいいと思ってきたが、今になって思えば、それは自分への甘えだったのかもしれない」

 

「甘え?」

 

「相手を何が何でも守る、そんな自信があれば不要なことのはずだからな」

 

「自信だけではリスクは消えない、そうだろ」

 

らしくもない、根性論。

 

「それはそうだ。だが、リスクに対する過程は変わり、それが良い方向へ向くこともあるだろう。そしてその気持ちがあれば、どんな結果でも受け入れられた、かもしれない」

 

「ゴールは関係ないと?」

 

「良い結果を目指すのは変わらない。だが、俺が否定してきた南雲政権の様に、辿ってみないとわからない答えもある。それを自ら閉ざすのはもったいない気がしてな」

 

他人がどうなろうと最後にオレが勝っていればいい、そういう根本的な考えは恐らく一生変わらない。

これまではその最善最短の道を選んできたが……なるほど、それではホワイトルームにいた頃と何も変わらないのかもしれないな。

堀北兄の言葉が、すっと胸に染みていく。

 

寄り道をしてみて、道中起こる出来事を楽しむ、新幹線ではなく鈍行列車での旅路。

 

「何が言いたいかというと――綾小路、お前にもそう想える様な相手が見つかるといいな」

 

「それは、そうだな」

 

結局オレは、外の世界に出ても、まだホワイトルームの中にいるのだろう。

だが、もしも堀北兄の言ったような相手に恵まれたとしたら、その時初めてホワイトルームから抜け出せたと言えるのかもしれない。

 

輝く星空を見上げ、そんな想像もできない未来があるかもしれないことに、初めて気づかされた。

 

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