コウィケスタートまで残り1時間を切った。
会場の第一体育館では出店者が各自割り当てられたブースで販売の準備を進めている。
最終的な参加は、出店が50団体、ステージ出演は10組となり、ステージ付近の観覧席を除き、体育館をしっかりと埋める形となった。
その一角にある運営本部での最終確認が完了し、あとは開場を待つのみ。
本部には大きな告知ポスターが飾られており、学生のキャラクターたちがペンやら原稿やらを手に持ち、目を輝かせ、楽しそうにしている様子が描かれている。
実際に会場にいる出店者たちは、締め切りに間に合わせるため無茶をしたのか、満身創痍な印象を受ける……が、目は輝いているな。
ちなみにこのポスターは、一之瀬経由で美術部がデザインしてくれたのだが……
「一之瀬、ポスターに大きく記載してある『大丈夫、綾小路副会長の企画だよ』の文言は必要だったのか?」
「絶対に必要だよ。どこかの誰かさんの企画だと思われたら、胡散臭い感じがしちゃうし、なんか裏がありそうって思われるかもしれないよね?綾小路くんの企画だとわかればみんな安心すると思うんだ」
「あー……それはそうかもしれないな」
珍しく強い圧で主張する一之瀬。
これに関しては、南雲の日ごろの行いの結果なので、それはそうかもしれないな、としか言えない。
強いて言えば、オレの企画なら安心という保証もないのだが……。
「逆にこれだと大丈夫じゃない感がマシマシになるのではござらんか。誤った攻略情報とか載ってそうでござる」
「え?そうなの?」
運営委員の外村からの指摘に不安そうな顔になる一之瀬。
「あ、いや、拙者の勘違いでござった。みんなきっと安心してるでござ、安心してると思います」
そんな一之瀬の思わぬ反応を見て慌てた外村が、ござる口調を捨ててまで早口で即撤回した。
これまで人前では無理をしてでも明るく気丈に振る舞ってきた一之瀬。
最近は少しだけ無理を止めるようになってきている。
「そうだよね、それならよかった」
「ですです」
ニコッと笑顔を見せた一之瀬に、外村がこれまたすごい速さで頭を上下に動かし頷く。
……外村、もしかして遊ばれてないか?
「綾小路くん、ちょっと見回りに行かない?待機列の様子とか気になるし」
「そうだな、確認しておくか」
今日まで、先ほどのポスターを学校やケヤキモールなど様々な場所に掲示させてもらい、校内放送や掲示板などでも宣伝してきた。出店情報や出品物の紹介、ステージ内容はホームページを随時更新して周知している。
その結果、外部からの反響もあり、学校経由でWeb販売やステージのネット配信も対応済み。
とはいっても、直接会場にやってくる人数に関しては、学生の最大数が決まっているため集客予想は一日を通して300人前後。
興味がない生徒や敷地内の大人たちもわざわざ来たりはしないだろう。さらに言えば、朝から並んでまでやってくるのは、余程のモノ好きだけ。
状況が気になっている一之瀬には悪いが、開場前のこの時間にやってきている生徒は多くて十数人ぐらいじゃないか。
「……嘘だろ」
「わあ、たくさん来てくれてるねっ!」
10人いれば上出来かと外に出てみれば、目に飛び込んできたのは、ずらっと続く長蛇の列。
準備していた待機ゾーンに入りきれず、3列で並ぶ列は途中で体育館裏に曲がってしまい最後尾が見えない。確認できる範囲でざっと150人は超える計算。
予想に反して大人の姿もそれなりに見られる。
元々体育館は全校生徒が余裕で入るスペースがあるのでキャパシティとしては問題ないが、需要を読み誤った。
どうやらオレは、この世界のことをまだ理解しきれていなかったらしい。
「綾小路くん!ご覧の通りの状況で、整列スタッフが足りなくなってきて困ってるの」
そう話すのは、こちらを見つけて寄ってきた櫛田。
運営の手伝いをしてくれるとのことで、今日は待機列の誘導や体育館入り口での集客活動班のとりまとめをお願いしていた。
「うれしい悲鳴ってやつだな。スタッフを何人かこっちに回そう」
「うん、ありがとう。あ、それまで綾小路くんが手伝ってくれない?」
「それもそう――」
「私が手伝うよ、櫛田さん」
「あ、うん、ありがとう、一之瀬さん」
一之瀬が食い気味で手伝いを申し出た。
コウィケに対する熱量が違うな。大勢来てくれたことが嬉しいのかもしれない。
「じゃあここは任せる」
「「うんっ!」」
返事の被った二人が、お互いの顔を見る。
見るというか、笑っていない笑顔でがんを飛ばしあっているというか……。
どうも二人ともクリスマス以降から少し様子が変わってきた気がする。
そうして待機列へスタッフを派遣するように本部に連絡をいれ、オレは再び見回りへ。
「みーちゃん、今日はよろしく頼むな」
「うん!2人の分も頑張るね!」
今回も茶道部は『綾隆』として、主に抹茶飲料の販売を行う。
オレも空き時間は手伝う予定だが、自分の作品を出店するひよりの代わりにみーちゃんが責任者を務め、運営する。
飲食関係は、他に調理部が軽食を出すぐらいなので、先程の人数を考えるとそれなりの利益が見込めそうだ。
ただ、来客数が来客数なので予め材料の追加の算段はつけておいた方が良いな。
みーちゃんと調理部にそのことを伝え本部に戻ると、いよいよ開場の時間となった。
一之瀬も丁度戻ってきたタイミングだったため2人並んでその瞬間を見守る。
「絶対成功させようね!」
「もちろんだ」
体育館の扉が開き、並んでいた学生、大人たちが続々と入ってくる。
各々お目当てのブースがあるのか、脇目も振らず移動を始めていた。
ステージは出演は13時からスタートし、1組準備時間込みで10分まで、間に休憩を挟み、約2時間を予定している。
出場順は楽器等の準備物が必要なライブ系から始まり、休憩後にその他の出し物になる。
「ここにいたか、綾小路。探したぜ」
「別に探す必要はないと思うんですがね」
どこにでも現れる南雲がやってきた。
「1年が企画したイベントにしちゃあ盛り上がってんな。俺も写真集は出せなかったが、ライブには出る。もちろん、勝負するよな?」
「本来、あらゆる音楽はすべてに価値があり、優劣をつけるものではないと思います」
ステージに出演登録をしてきた時から予想はできていたが、面倒なので断らせてもらう。
「そういうな。ステージ終了後に、アンケートと気に入った出し物への投票をするんだろ。それで投票が多かった方に100万ポイント払うってのはどうだ?」
「2つ条件をのんでくださるのであれば考えないこともないですよ」
南雲がポイントを出すのであれば話は変わってくる。
「なんだ言ってみろ」
「1つは当然のことですが、2年生を使った票の操作を行わないこと」
「まあそれをしたらお前たちに勝ち目はなくなるからな、もちろんいいぜ」
「もう1つは、賭ける金額は500万ポイントにしてください。オレたちは5人グループです、100万では1人当たり20万にしかならない。それではメンバーも納得しないでしょう」
「ハッ、面白い提案だが、お前に500万ポイント払えんのか?」
当然の疑問だろう。先日のイベントで荒稼ぎさせてもらったが、それでも500万ポイントには程遠い。
だが、こちらにはこんな時に頼れる存在がいる。
「コウィケでの収益も考えれば問題ないと思いますが、いざとなれば一之瀬から借りますよ」
「うん!いくらでも言ってね」
「……だそうです」
「……お前も大概だな。だが、そういうことならいいぜ。その条件で勝負だ」
そう言って満足げに立ち去る南雲。
条件をのむといっていたが、正直一つ目の票の操作については確認しようがないため、いくらでもやりようはある、正々堂々勝負とはいかないだろう。
だが、それでもこれは初めから勝負にならないため、気にする必要はないな。
変な緊張をさせてもいけないため、メンバーにも黙っておこう。
「南雲会長はホント勝負ばっかだねー」
「巻き込んですまなかったな、一之瀬。建前上ああ言ったが、負けるつもりはないから安心して欲しい」
「え?あ、うん。もちろん、綾小路くんを応援してるし、負けるなんてあり得ないと思ってるけど、万が一の場合も大丈夫だからね!任せて」
ニコニコと話す一之瀬。頼もしいのだが、失策だったか?
「冗談だよ?いくら私でも個人的にはそんな大金動かせないし。残念だけど気軽には貸せないかな」
「それを聞いて安心した」
「できて100万ポイントまで。それ以上はちょっと時間かかるからその時、相談って感じで」
冗談とは?結局なんだかんだ言って不足分を貸してくれる未来しか見えない。
「これまでは困ってる綾小路くんを助けたいから貸してきたけど、今後は違うよ?」
オレが色々考えていることを察したのか、補足してくる。
「どう違うんだ?」
「先行投資……いや、信頼の証かな。私たちもこれからはAクラスと戦っていくことになるだろうし、その時、Cクラスの綾小路くんたちとは仲良しでいたいから」
「なるほど」
「もちろん、24億ポイントを貯める目標はあるけど、やっぱりクラスのみんなのことを考えたらAクラスになっておくに越したことはないからね」
随分としたたかになってきた。
クラス競争に興味がないオレだが、望まない形にせよ、クラスに対しても発言力がそれなりに高まっている状態。
高額のポイントを借りているうちは、一之瀬たちとの同盟を破ることはないし、対Aクラスへの協力も考えられる。
根本的な善の心は変わっていないのだろうが、それをちゃんと活かせるよう一之瀬なりに成長しようとしている。
「もし返済期間が長くなる場合は、それまで私も綾小路くんを執事にしちゃおうかな、なんちゃって」
「それは構わないが――その話、どこで聞いたんだ?」
「え、朝比奈先輩が言ってたよ。執事にしたい男子ランキング堂々の1位だって」
「それまたとんでもないランキングだな」
そういえば、ひよりと執事ごっこをする羽目になった際に、朝比奈もいたな……。
どこからどう情報が洩れるか、ましてこの狭い学校内では噂になるまでに時間はかからないということ。噂話が執事ぐらいならまだいいが――。
そんな会話をしながら会場のオレたちは巡回をしていた。
しばらくすると、長蛇の列を作っているブースが目に入る。
「なんか一際混みあってるブースがあるな。様子を伺ってみるか」
「あっ……」
何かを察した一之瀬。足を止める。
「あそこは、スルーでいいんじゃない?」
「いや、人気の秘密を知ることは今後の役に立つかもしれない」
「えーと……そうだね」
何かを諦めた様子でブースへと向かった。
そこで販売されていたのは――『私の愛する帆波ちゃん』白波の作った絵画集だ。
表紙はひまわり畑で、こちらを振り向き笑顔を向ける一之瀬の姿。
白いワンピースと麦わら帽子がよく似合っている。
夏生まれで、本人の明るさと相まって、ひまわりとも相性がいいな。
「これはすごいな、オレも後で一冊買っておこう」
「綾小路くん!?」
「ご、ご本人様登場だ!!」
「え、帆波ちゃんっ!?応援に来てくれたの、嬉しい、大好き」
購入列の生徒が一之瀬に気づき声を上げると、売り子をやっていた白波にも発見される。
「ち、千尋ちゃん、や、やっほー」
「帆波ちゃん、見て、みんなが帆波ちゃんのことを褒めてくれるの。……良ければ少しでいいから一緒に販売してくれない、かな?この喜びを共有したいの」
「え、えーと……」
「いいんじゃないか。見回りはオレの方でやっておくし、クラスメイトとの交流も大事だ」
「あ、綾小路くん!?」
「綾小路くん、良いことを言うね。私、あなたのこと誤解してたかも」
「その代わり、一冊取り置きを頼む」
「もちろんです」
白波とwin‐winな交渉を終え、一之瀬を売り場に置きオレは巡回を続けることに。
白波のブースでは一之瀬がサインをすることで更に単価を上げた限定版を販売し始めたが、好調な売れ行きの様子。
続いて目に入ったのはひよりのブース。
客足はそこそこの様だ。
「ひより、調子はどうだ」
「あ、清隆くん。来てくださったのですね」
「ひよりの作品は気になっていたからな。一冊貰えるか?」
「……拙作ではございますが、よろしければ」
そう言って手渡してくれた本のタイトルは『無人島試験殺人事件』
表紙はどこかで見たような島のイラストにおどろおどろしくタイトルが記載されている。なかなかできがいい。
「表紙のクオリティが高いな」
「金田君にお願いしたら二つ返事で作ってくださいました」
「美術部大活躍だな……」
ざっくり中身を読んでみると、タイトルと表紙から察するように、無人島で試験を行っていた学生たちが次々と不可解な事件に巻き込まれていくストーリー。
その事件を解決するために立ち上がった探偵の女子生徒が、クールで執事な男子生徒の何気ない発言をヒントに謎に立ち向かっていくバディもののミステリー小説。
「なかなか読み応えのありそうな本だ。帰宅後じっくりと読ませてもらおうと思うが――」
ただ、最初の犠牲者が金田っぽい造形なのは、あまりの仕打ちなのではないだろうか……。
「あ、最初の犠牲者については、表紙を描く代わりに金田君のご希望でして……」
「そういうことか……あまり深堀はしない方が良さそうだな」
人には色々な趣向があるからな。ましてはここはそれが溢れる場でもある。
野暮なツッコミはしないでおこう。
「それじゃ、ひよりも楽しんでな」
「はい。ライブの時間は応援に行きますね」
ひよりとも分かれ、見回りも最終区画に入る。
「王子~、こっちです、こっち」
声を掛けられた方を見ると、そこは諸藤のブースだった。
これまた大盛況で、白波のブースにも負けず劣らずといったところ。
違いがあるとすれば、あちらは男性客がメインだったことに対して、こちらは女性客しかいないことだろう。
「お疲れ、大盛況だな」
「はい、おかげさまで。王子もぜひ一冊どうぞ」
そう言って手渡された一冊の漫画。
タイトルは――『あやひら~激熱!!サッカー編~』
オレと平田を模したと思われるキャラクター
2人で厳しいトレーニングを乗り越えて、県大会の決勝での戦いの様子が描かれている。
途中、柴田のような元気いっぱいの男子が浩介を自分のチームに勧誘してきたり、金髪でいけ好かないチャラ男先輩が宏隆に勝負を挑んできたりしつつも、2人頑張って壁を乗り越えていく王道展開。
なぜか練習中に宏隆の放ったシュートが浩介の尻を直撃したりと、よくわからないギャグ?が挟まっていたりしたが、最終的には決勝戦で、強豪校相手に負傷した浩介の肩を支えながら一緒にシュートを放って、見事ゴールする感動的な話になっている。
「漫画は詳しくないが、なかなかいいんじゃないか」
「ありがとうございます。実は先ほど平田王子にもお渡ししたんですが、大変喜ばれてました」
「平田なら喜びそうだな」
こういった友情物は好きだろう。サッカーの話だしな。
白波、ひより、諸藤に限らず、出店者と購入者、みんなが楽しそうにしている。
休憩スペースでは抹茶ラテを手にしているお客も多く、茶道部も上手くやっているようだ。
「さて、そろそろ時間か」
そうこうしているうちに、ライブの準備の時間がやってきた。
ステージ裏へ向かい、綾小路グループと合流を目指す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「みんな聴いてくれ、俺のオリジナルソング、『NAGUMO Paradise』」
オレたちの前に演奏する南雲はギターを弾きながらオリジナルソングを歌い始めた。
歌詞に目を瞑れば、バンドメンバーの演奏の腕や南雲の歌声はレベルが高い。
単純な実力勝負では、オレたちが不利だろう。
「……なんかこの次に演奏するのはハードルが下がったような、上がったような」
ステージの袖で待機して、南雲たちの様子を見ていた波瑠加がそんなことを呟く。
「会場の2年生はめっちゃ盛り上がってるな……」
「他学年はぽかんとしている気もするが」
「き、緊張するね……」
南雲のおかげで、愛里以外は非常に冷静な心境でスタンバイできている。
やるな、南雲。
「大丈夫だ、愛里。昨日のリハーサルの段階で、見違えるほど可愛いダンスになっていた。良い機会だと思って自信を持って挑戦して欲しい」
これまで自分を変えるために研鑽してきた愛里が、大勢の場に出る機会。
自己肯定感が薄い愛里にとって、ここでの成功は良い成長へのきっかけになるだろう。
そのためにも後悔のないように歌って踊ってもらわなくてはならない。
「きよぽんの言う通り。みんなでここまで頑張ってきたんだし、きっと大丈夫」
「う、うん。頑張れる気がしてきた!」
いつの間にか南雲の演奏は終わり、オレたちの番が回ってくる。
「円陣組も!掛け声はきよぽんね」
5人で肩を組み円になる。
丁度いい、橘たちとの特訓の成果を見せる時が来た。
「サイコーにロックに決めようぜ、ベイビー」
「何それ、きよぽん」
一斉に笑いが起きる。
おかしいな、彼らはこれでロックに盛り上がっていたのだが……。
「あの清隆が身体を張ってリラックスさせてくれたんだ、俺たちも全力で頑張るぞ!」
「「「オー」」」
結局、明人が締めることになった。
慣れないことはするものではないな。
そうして一人ずつステージへと上がっていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「えー、私たちは、友だち同士で組んだバンドです。精一杯演奏するので楽しんでくれたら嬉しいですっ!」
愛里が挨拶を済ませると大きな拍手に包まれる。
客席を見ていると、うちの学校にこんな生徒いたか?と疑問を抱いている様子の生徒が多いようだ。
アイドル姿の愛里は、しっかりと胸を張って表情も明るい。
誰も普段の佐倉愛理とは結び付かない――というより、普段から目立たないようにしているため、そもそもどれだけの生徒が愛里を認知していたか……。
だが、それもさっきまでの話。これからは、また違った世界が愛里にも見えてくるだろう。
「それでは聴いてください『カーストルーム』」
全員が目を合わせ、演奏がスタートする。
愛里と波瑠加の歌声とオレたちの演奏が合わさって音楽を奏でる。
間奏では、ギターやドラムにも見せ場が来る。
明人も啓誠も懸命に演奏していた。
結局オレはあの日の特訓で、バンドマンのキーボード担当の人に引いてもらって、それを再現していた。
リハーサルでは、なんかそれっぽくなったよね!と評価をもらっていたが……。
本当にこれでいいのだろうか。
2人の可愛いダンスに声援が飛ぶ。
団扇やサイリウムが振られて、会場の熱が上がっていくのを肌で感じる。
あっという間に曲のAパートが終わった。
歌いながら笑顔で踊る2人の姿、運動が苦手にもかかわらず汗をかきながらドラムを叩く啓誠、普段クール寄りの明人も今はギターで熱い音を奏でていた。
声援を送ってくれるギャラリーたち。
よくみれば、ロックンロールなバンドマンの人たちも来てくれている。
ふと、ひよりに聞いた筆が乗ったときの話を聞いた時を思い出す。
なるほど、これがそういう感覚なのかもしれないな。
オレは気づけば演奏のコピーをやめていた。
後で振り返ってみると、生まれて初めて自分の思うように演奏した体験だったといえる。
そうして5人の音が溶け合ってゆき――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでは結果発表です。ステージ出演団体で、会場の投票が一番多かったのは――」
全てのステージ発表が終わり、投票結果がアナウンスされる。
南雲との賭けを知らないメンバーは、結果よりやり切ったことに意味があると言っていたものの、やはりどれだけの人に響いたかは気になる様子。
まさに固唾を飲んでステージのスクリーンを見つめていた。
「会場票140票で1位は『チーム南雲』、2位は96票で『綾小路グループ』、3位は……」
アナウンスと共に、スクリーンに数字が発表される。
「あ~、2位かぁ。惜しかったね」
「まあ健闘した方じゃないか」
波瑠加と明人が称え合うように感想を漏らす。
南雲はというと勝ち誇った様子でこちらを見ている。
なるほど、どう動いたかはわからないがチケット購入した2年生の大半はやはり南雲へ投票したようだ。
だが、勝ち誇るのは早計というもの。
「続いて、Web視聴者からの投票結果を発表します」
「なんだと?」
「1位は――2525票で『綾小路グループ』です。2位は『高円寺&葛城ペア』の1129票……よって、優勝は『綾小路グループ』」
「……は?」
南雲も理解が追い付いていない様子。
「え、え、ホントに!?」
愛里たちは別の意味で驚いている。
今回のステージは、Web配信もしていて、当然そちらからも投票を受け付けている。
そして事前の予約数は5000を超えていた。
というのも、愛里が久しぶりにブログを更新して告知したところ、反響が大きく、アイドルの雫ファンが視聴を決めていたからだ。
変に緊張させてもいけないと、具体的な視聴予約数などは実行委員しか知らない情報。
他言しないようにと委員会で決めていたが、噂で出回っていなかったようで安心した。
狭い学校内での投票では、南雲には勝てないかもしれないが、ここを出てしまえば話は別だ。外の世界では比べるまでもなく愛里の方が知名度が高い。
対戦相手としてオレしか見ていなかった時点で、この勝負は勝ちが確定していた。
オレにとっては鴨が葱を背負って来てくれたようなものだ。
南雲の敗因は、まさに井の中の蛙だったことだな。
表彰を受け、綾小路グループは盛大な祝福のなか、ステージ発表は幕を閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「王子、おめでとうございます。平田王子が演奏しないのは残念でしたが、王子を客席から見守る姿もまたアリでした」
「ああ。ありがとう」
ライブ終了後、オレは再び諸藤のブースを訪れていた。
理由はひとつ。
「ところで、あの団扇だが――」
「あ、いかがでしたか?」
「やはり諸藤の制作だったか」
団扇に記載された『清隆』のフォントに見覚えがあった。
「はい、綾小路ファンクラブ入会特典として配布したんです!大人気で、もう会員が50名を突破してますよ、王子!」
「うん?」
「生徒会長の人に聞いたら、歴代の生徒会にはファンクラブがあるって話だったので、私の方で王子のファンクラブを作ってみました。本を売る傍らで会員募集もできて効率的でしたよ」
南雲……。
色々置いておいても情報元が怪しすぎる。実在してそうだし、オレへの罠の可能性もある。
今度、橘に聞いてみよう。堀北学ファンクラブがあれば、取り仕切っているのは橘の他にはいないだろうしな。
「これが会員カードと会報です。会費も取るのでクオリティにもこだわりました」
「……」
「もちろん、活動資金の他は、王子へのポイントになりますので、それで平田王子にプレゼントでも買ってあげてくださいね」
「……」
「あ、会員ナンバー1番はもちろん平田王子にしておきました。とても喜んでましたよ」
だから平田も団扇を持っていたのか。
ノーと言える勇気は大事だぞ。
「さっそく活躍した王子の写真を会員のみなさんに送りますので、はい、ポーズ」
携帯でオレの写真を撮る諸藤。
このファンクラブ、今からなかったことにできないだろうか……。
割とこの学校、人権に関して適当な部分があるよな。いや、高校生ってこんなもんなのか?
「ちなみに会費はいくらになるんだ?」
「月2,000ポイントです。会費の半分は王子に送金しますよ」
50人を超えた、ということだから毎月何もしなくても5万ポイント入ってくるのか。
悪い話ではないかもしれない。
ポイントは少しでも多く欲しいところだが……。
諸藤本人に悪意はなく、会員たちも純粋にオレを応援してくれているのかもしれない。
――非常に断りづらい。ぬか喜びさせてしまった面々の落ち込む姿が目に浮かぶ。
ファンクラブの運営自体も、今回のコウィケでの諸藤の手腕は確認できており、おかしなことにはならないだろう。
リスクを色々考慮してみても、断るより受け入れた方が気が楽だな。
「わかった。だが、今後何かするときは相談してからにしてくれ」
「はい!」
それはそれは気持ちの良い返事をする諸藤。
今回コウィケを通して、強く思い知ることとなったが、好きなものに対する人の持つパワーはオレの想定を上回ることがある。
そういった意味で、オレもまだまだ井の中の蛙だったのかもしれない。
好きなものにかける情熱が生み出す力。
オレには知識欲はあっても、そういった情熱に基づいているわけではなく、単なる好奇心。
今日参加した生徒たちの情熱を、オレもいつか理解し、注ぐことができるようになるのだろうか。注げるものを見つけられるだろうか。
大盛況の中、無事に終了したコウィケの後片付けをしながら、そんなことを考えていた。