ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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来年の抱負

年末年始――特に大晦日と正月は古くから様々な行事が行われ、風習として現代でも形を変えて残り続けている。

 

テレビを観ても特番ばかりになっており、ニュース番組でさえ、今年一年の振り返りややり残したこと、来年の抱負などを報道していた。

 

それだけこの時期は特別なのだろう。

この学校の生活にも全くの無関係とはいかないようで、大晦日と元旦はケヤキモールをはじめ、コンビニまで休みになるという連絡が学校から来ていた。

 

ただそれ以外は変わったところはない。

というのも、一般的には正月は初詣をするらしいのだが、流石にこの生活区内に神社や寺といったものはないため、残念ながらそういったイベントを体験することは難しい。

 

毎度のことではあるが、ホワイトルームは年末年始だからと言って何か特別なイベントを行うことはなかったため、知識では知っていても、実際には全く縁のないものだった。そのため、そういった行事には少なからず興味がある。

 

ただ文化的な側面は否定はしないが、正直な感想を言ってしまえば、12月31日から1月1日になる瞬間に何かが起こるわけでもなく『新しい年が来た』なんてものは気の持ち様でしかない。

振り返りも抱負も年末年始だからと行う、というのもおかしな話。

反省、改善は次に繋げるために日々行うものだし、未来のことは常にあらゆる想定をしておく。

 

……自分でもつまらない思考をしていると思う。

そういった身を守る習慣の話ではなく、個人、あるいは大事な人たちと過ごした一年を振り返り共有することで絆を深め、来年も一緒に頑張ろうと意思を統一する機会。

きっとそういう意味合いが強いのだろう。

 

だが、新年を迎えようとしている今この瞬間、そんな考察の方が間違っているのでは?と思えるような、阿鼻叫喚の惨状が目の前で繰り広げられていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

12月30日。

コウィケも終わり、やっと冬休みらしくゆっくりとした休日を過ごしていた。

 

「ね、綾小路くん。2人の来年の抱負を考えてきたんだけど、見てくれない?」

 

「ああ」

 

昼食後、当然のようにいる櫛田からメモ帳を渡される。

受け取ったものの中身は見るまでもないな――櫛田の抱負は『堀北退学』以外考えられない。

 

表紙をめくり1ページ目を見ると

 

『綾小路くんと一緒にお出かけ』

 

と大きくそれだけが書いてある。

 

……罠か?

 

「まだ続きがあるよ?」

 

櫛田から促されて、次のページをめくる。

見開きのページどちらにも記載があった。

 

2ページ目

『ケヤキモールでお買い物』

 

3ページ目

『映画館で映画鑑賞』

 

どう見ても普通のデート計画にしか見えない。

もしかすると櫛田も退学系女子は今年で卒業し、来年は心機一転普通の女子として学校生活を送ろうと考えを改めたのかもしれない。

年末年始効果すごいな。

 

さらにページをめくる。

 

4ページ目

『こっそり映画館を抜け出し』

 

5ページ目

『夜の公園で待ち合わせ』

 

ん?映画は最後まで観ないのか。

『こっそり』と書いてあるから先に公園に行き、何かしらのサプライズでも仕掛けてくれるのかもしれないな。

 

オレもこの一年でサプライズにはだいぶうるさくなった。

櫛田、どんなサプライズなのか、見せてもらおう。

 

6ページ目

『呼び出した堀北をケヤキモールで買った縄で縛り上げ』

 

7ページ目

『自主退学を迫る』

※拒否した場合はそのまま海に投げ込む

 

とんだサプライズだった。

映画館を抜け出すのはアリバイ工作か……。

退学思考が変わっていないのはある意味安心したが――

 

「これもうただの犯罪じゃないか?」

 

「私だってそんなことしたくないよ?でもね、せっかくこんなに楽しい毎日なのに、堀北がいるだけでその気持ちが霞んでいくの。私もそろそろ我慢の限界。来年は手段を選ばないかも……だから、ね?」

 

「可愛く『ね?』と言われてもな……。堀北退学にして自分たちも退学になったら笑えないぞ」

 

「そのあたり綾小路くんなら上手くやってくれるでしょ。痕跡とか一切消せるんじゃない?」

 

できるかできないで言えばできるが、そもそもそんな状況にはしたくない。

 

「オレならもっと確実な手を使う。例えば――」

 

「例えば?」

 

目を輝かせてこちらの言葉を促す。

 

「……それを聞き出したかったのか?」

 

「――バレちゃったか。綾小路くんの考える作戦を教えてもらえば私でもできると思ったんだけど」

 

「最後の催促が余計だったな」

 

不自然だとは思ったが、堀北退学のアイディアをオレから入手すべく仕掛けてきた、と見ていいだろう。

 

「ま、そう簡単にはいかないわよね。別にいいよ。約束を守ってくれる気はあるんでしょ?」

 

「そうだな」

 

堀北を退学にするリスクより櫛田を利用するメリットが上回った場合、オレは堀北を退学にする。

これ自体は、本当にそうなった場合は実行しても良いと考えている。

 

「なら来年はもっと頑張らなきゃね。退学、退学ぅ♪」

 

「そうだな、楽しみにしている」

 

そう言ってノートを櫛田に返す。

それを受け取った櫛田は少しだけノートを見つめ、ゆっくりとカバンにしまった。ふぅとため息をつきテーブルの上の食器を流しに持って行く櫛田。

 

「せっかくのチャンス……もったいないことしちゃったね、綾小路くんは」

 

「ん?すまない、聞き取れなかった」

 

ボソッと呟く櫛田の言葉は、食器を洗う音にかき消され、こちらまで届かなかった。

 

「明日もどうせ暇なんでしょ。だったら一緒に年越ししない?年越しそばぐらい作ってあげる」

 

「年越しそばか……」

 

大晦日に食べるという特別なそば。

一年の締めくくりに選ばれたのは数ある料理の中で『そば』ということは、普段口にするようなものとは違った、相当質の高いものが出てくるに違いない。興味深いな。

 

「櫛田の腕を疑うわけではないが、そんな大役を任せてしまって大丈夫なのか?」

 

「大袈裟だなぁ。作ったこともあるし安心していいよ」

 

「それならお願いするか。幸いポイントはある、好きなだけ食材にこだわってくれて構わない」

 

「そうなの?じゃあ頑張っちゃおうかな。明日はスーパー閉まっちゃうし、この後買いに行くね」

 

「オレも行こうか?荷物持ちぐらいならできる」

 

普段はいつの間にか食材を買ってきて、いつの間にか作って待機しているため同行はできなかったがこれから行くということであれば話は別だ。せめて調理で役に立たない分、少しは貢献しておきたい。

 

「うーん。ありがたい申し出だけど、遠慮しとこうかな。変な噂になってもいけないし」

 

「変な噂?」

 

「私もこの学校じゃ人気者じゃない?でもね、男の影が見えるとそういうのって一気に揺らいじゃったりするの」

 

「なるほど」

 

確かに年末に男女2人で買い物をしていたら、周りから色々と勘繰られてしまってもおかしくない。

特に櫛田は顔が広い。誰にも見つからずに買い物を済ませるのは不可能だろう。

 

そういった点で考えると、オレもクリスマスに麻耶と出掛けただけで大騒ぎされたばかり。大人しくしておくことにするか。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

綾小路くんの部屋を出て、一度帰宅してからスーパーへ向かう準備をする。

 

そばを作るだけなのに、資金として5万ポイントを渡してきた……羽振り良すぎじゃない?成金なの?

いや、もちろん甲斐性がないよりはあった方がいいわけで、文句はないんだけど……一体どんなそばをご所望なんだろう。

それとも私の働きの有り難さをやっと理解して多めに渡してきた、とか?

――あの男に限ってそれはないか。むしろ、何かを試されてるって考えた方がしっくりくる。

 

将来私が財布の紐を握った時のシュミレーション……とかだったりして。

 

って何考えてるんだか。馬鹿馬鹿しい。あ~退学退学退学。ふう。

……ここ最近では自分でも不可解な思考や行動をすることが増えた。

全部堀北が退学にならないせいだ。

 

カバンにしまったノートを取り出す。

せっかく作った来年の抱負。

 

綾小路くんは、私の気の迷いで書き込んだ続きの8ページと9ページに気づけなかったのだから、やっぱり私のすべき事はこのまま堀北退学で間違いないんだ。

今年最後のちょっとした試みは、来年の私が進む道をしっかりと示してくれた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

櫛田が買い物に出かけ、今度こそ1人の時間が訪れる。

外は昼間とは言えすっかり寒くなってきて、用がなければわざわざ外出する気にはならない。

そんな状況で食材調達に向かってくれた櫛田には頭が上がらないが、年越しそばというものはそれだけの価値がある、ということだろう。

果たして予算は5万ポイントで足りたかどうか。

 

それにしても、先ほどの抱負の件は冗談だったようだが、今の状況は歪なものだ。

こちらに依存させ、矛先を堀北からオレに向かうように誘導してきたつもりだが……。

櫛田がここまで高頻度で食事を作りに来るようになったのは計算外。

 

オレも特に害があるわけではないし、目の届く範囲にいた方が都合がいいと、そのままにしておいたことがこの状況を作り出してしまった。

 

櫛田の堀北退学にかける異様な熱量。

現在は協力的ではあるものの、本人が言っていたように我慢の限界がいつ来てもおかしくはない。一体何が櫛田をそこまで退学へ駆り立てるのか――その点に少し興味が出てくる。

 

来年の抱負ではないが、この関係を正すときは遠くない未来で必要になるだろう。

その時どうするか、選択をするのは櫛田自身だ。

 

そんなことを考えていると、携帯が振動する。

やはり5万じゃ足りなかったか?と思い確認すると送り主は――ひよりだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「――ってことで俺はリーダーを降りる。クラスの事はお前に任せるぜ、ひより」

 

俺はひよりを呼び出し、カラオケの一室で話を進める。

 

「それでよろしいんですか?」

 

「ああ。このままじゃ俺たちのクラスは崩壊する。俺が責任取ったってことにすれば、時任たちも少しは大人しくなるだろうよ」

 

「……わかりました。お引き受けします」

 

意外なことに、ひよりはこの提案をすんなり受け入れた。

こちらの話を予想していたかのような落ち着きよう。

それを抜きにしても、元々クラスの争いに興味がないこいつにとって、クラスリーダーも同様だと思っていたが……。

 

「ひよりの指示に従うよう石崎たちには伝えておく。あとはお前の好きにすればいい」

 

ひよりがどんなクラスを目指すのか、それはどうでもいいことだ。

所詮は綾小路を倒す算段がつくまでの時間稼ぎ。うまく持ち直せば儲けもの程度の期待。

 

「かしこまりました。ただ、もしAクラスを目指すのであれば、龍園くんなしでは実現しないでしょう。そのことはお忘れなく」

 

純真な笑みをこちらに向けるひより。

情けや励ましのつもりか?それともコイツには、いずれ俺すら兵隊として使う未来が見えているのか?

 

「クク、いまんとこ興味ねえ話だ。ま、クラスメイトとして邪魔をするつもりもない」

「そうですか」

 

淡々とした返事がくる。

普段から感情の読みにくい所はあるが――結局、質問の意図を掴ませない得体の知れなさ。

 

「もしかするともしかするかもしれねえな……」

 

そんな俺のつぶやきにきょとんとした顔をするひより。

 

この世で『暴力』は絶対の力だ。

石崎達はもちろん、アルベルトでさえ、俺の暴力に屈した。

そうして他者を支配してきた俺にとって、そこに疑問を持つことはなかった。

だが、その考えをもとにするなら綾小路のやつが、その絶対って存在になる。それを素直に認めるのは――理屈じゃなく、ただただ気に食わない。

 

クク、まさか俺自身が絶対の力を覆えすための方法を考えるはめになるとは……わかんねえもんだ。

何としても、アイツの澄ました顔が歪む様な敗北と屈辱を味わわせる。

柄じゃねえが来年のステキな抱負ってやつだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ひよりから連絡をもらい、ケヤキモールのカフェで待ち合わせをすることになった。

少し早めに到着したため、窓際の席でコーヒーを片手に外を眺めていると程なくしてひよりがやってくる。

 

「急にお呼びしてすみません。どうしても清隆くんにお話ししたいことがありまして」

 

「気にしなくていい、特に予定があったわけでもないしな」

 

ひよりはいつもより真剣な表情。これは今回は本の話、というオチではないのだろう。

 

「今度の新刊について………お話したいのも山々ですが、その前に――」

 

当たらずも遠からずの予想だった。周囲を見渡し確認するひより。

幸い年末の昼過ぎということもあり、カフェはそこまで混んでおらず、こちらの声が聞こえる範囲に人はいない。

 

「龍園くんから正式にクラスのリーダーを任されました」

 

「おめでとう……と言っていいのか?」

 

「ふふふ、どうなんでしょう?――ただ、引き受けたからには現状より良いクラスにしていきたいと思います」

 

「そうか。ひよりなら龍園とは違ったクラスにできる、と思うぞ」

 

だが、それだけの話なら、わざわざオレを呼び出さないだろう。

じっとひよりを見つめ、続きを話すのを待つが言葉を詰まらせている。

少し間が空いたのち、重くなっている口が開いた。

 

「その――龍園くんは、Aクラスを目指すことに興味がなくなっているとおっしゃっていました」

 

「ああ」

 

「でも彼の目は死んでいません。むしろ、以前よりも活力に満ちているように感じました」

 

ゆっくりと整理するように話すひより。

 

「恐らく龍園くんは……清隆くんを倒すための準備をしているんじゃないかと思うんです」

 

「なるほど」

 

「でも、私個人としてはもちろん、クラスとしても清隆くんとは仲良くしたいんです」

 

少ないピースを当てはめて、その結論に至ったのだろう。龍園の狙いがオレになったことに気づき、ひよりの中で葛藤が生まれている。

 

「龍園くんは私たちのクラスの貴重な戦力。ですが、綾小路くんと敵対しようとしています。……私たちがAクラスに上がるためのピースは同時に邪魔になるピースでもあります。困りましたね」

 

言葉通り悩んでいるのだろうが、微笑んでいるひより。

オレの身を案じた、というだけではないのだろう。

 

「それをオレに伝えたのはどうしてだ?」

 

「お友だちに危険を知らせるのは当然……という理由もありますが――」

 

ここで今日初めてひよりと目が合う。

 

「清隆くんにお願いがあるからです」

 

「お願い?」

 

「龍園くんが何かしても恐らく清隆くんには勝てません。ただ、彼を止めようとしても、私では話すら聞いてもらえないでしょう。結果、清隆くんに挑んで倒される。そうなった時、その被害は龍園くんだけでは留まらなくなっていく、そんな気がします」

 

「……過大評価かもしれないぞ?」

 

「これでも低い見積りのつもりですよ?」

 

これまで一緒に過ごしてきた中で、ひより自身もオレの実力を、これまで見せてきた範囲を元に予測している様子。

その結果、リアルケイドロでの一件を直接見ていなくとも、龍園では勝てないと判断しているようだ。はぐらかしてもいいが、ひより相手ではあまり意味がないかもしれない。

 

「確かに降りかかる火の粉は払わせてもらう。その際、向こうの出方次第では手を抜けない可能性もある」

 

「それは仕方がないことと思います。ただ、可能な限りで構わないのですが……退学を迫るような形はなるべく避けて頂けないでしょうか」

 

「その提案をオレが受けるメリットは?」

 

Aクラスを目指すのであれば、ひよりの言うとおり龍園を欠くことはできないだろう。

オレは誰かさんの様に退学狂ではないため、必要がなければ退学へ追い込もうとは思わないが、少しひよりを試してみることにした。

 

「清隆くんにとっては造作もないこと、だとは思いますが、確かに見返りもなしにお願いするのも図々しい――親しき中にも礼儀あり、ということですね。それでしたら、わた……」

 

「わた?」

 

「……私たちのクラスは全面的に清隆くんに協力する、というのはいかがですか?龍園くんが無事で私がクラスリーダーであるうちは、いかなる場合でも敵対行動はとらないと約束いたします」

 

「その結果、特別試験での勝利を逃してもか?」

 

ひよりの提案はこの学校の制度を考えると降伏宣言のようなもの。それをクラス全員が認めるとは思えない。

 

「優先順位の問題です。私のクラスは、今は上のクラスを目指す段階ではありません。特別試験の勝利よりも結束を高める時期ですから。……もし、信用できないようでしたら、その担保に、リーダーとなった私が来年から清隆くんのお側に控えさせていただいても構いません。むしろ、そうなさるのがよろしいかと思います」

 

こちらへと椅子を引き、少し寄ってきて、前のめりになりながら強くそう主張する。

自らを人質に差し出すほどの決意。

『今は』という発言からも、戦いを放棄しているわけではないようだ。

そうなると、ひよりの狙いは――

 

「いや、そこまでする必要はない。ひよりを信用していないわけではなく……南雲との契約はどうするつもりだ?」

 

少し残念そうな表情をするひより。南雲との件は触れるべきではなかっただろうか。

 

「その話もご存じでしたか。現在の借金は200万ポイントだそうです。当面はそれを返して行くことが目標でしょうか。ただ、あくまでも契約したのは龍園くん。そのあたりは上手くやれると思います」

 

契約詳細は不明だが、南雲もあの龍園がリーダーを降りることになるとは思わなかっただろう。そこに付け入る隙があるのかもしれない。

 

当初の目的であった『平穏な学生生活を送る』こと。

現在一之瀬クラスとの関係は良好。その上、ひよりのクラスとも和平を結べるなら、かなりその状態に近づく。生徒会に入ったことが巡り巡ってそんな機会に繋がるとは思ってもみなかった。まあそれと同じくらい厄介ごとにも遭遇はしているが……。

 

「そういうことなら、ひよりのお願いはできる限り守らせてもらう」

 

「はいっ!」

 

「ただ、ひとつ確認させてもらうが……その話はあくまでオレとの約束ってことか?」

 

「ええ。それで問題ございませんよね?」

 

「問題ないな」

 

ひよりはオレがクラス争いに興味がないことに気づいている。

特に隠していたわけではないが、ひよりには伝えたことはなかった話。

だが、それがわかっているからこそ、一度もオレの『クラス』に協力する、とは言っていない。それは、オレさえ押さえておけば他は問題ないという発想で、オレが自分のクラスのためにひよりたちを利用することはないという計算。

 

ひよりが率いるクラスが、他クラスとどんな戦いをしていくのか――来年の楽しみがひとつ増えた。

 

「では、堅苦しい話はここまでですね。清隆くんは明日のご予定はございますか?」

 

「予定というほどではないが、年越しそばを食べる、ぐらいだな」

 

「それでしたら、茶道部のみんなでお茶でもしながら来年の展望でもお話しませんか?」

 

調べたところ、年越しそばを食べるタイミングは大晦日中ならいつでもいいらしい。

それなら茶道部と過ごす時間もあるか。収入源の1つとして来年以降も上手く運用していきたいため、悪い機会でもない。

 

「そうだな、そうするか」

 

「はい、楽しみにしていますね」

 

その後は、今年読んだ中で一番面白かった本や来年の新刊で楽しみにしている本などの話題に。

そこには先ほどまでとは違い、いつものひよりがいた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

帰りに本屋に寄っていくというひよりと別れて、寮への道を歩いていると後ろから声を掛けられた。

 

「あ!綾小路くん、ちょっといい?」

 

足を止めて振り返ると、そこにいたのは一之瀬のクラスメイト、小橋だった。

これまで無人島試験をはじめ、一之瀬クラスとの交流の中で話すことはあったが、一対一で会話するのは初めてだ。

 

「どうしたんだ?」

 

「実はね、明日、クラスのみんなで神崎君と柴田君の復帰祝いを兼ねてカウントダウンパーティーをするんだけど、よかったら綾小路くんもどうかな?」

 

「2人とも元気になったんだな。だが、クラスのイベントによそ者のオレが参加するというのは――」

 

「帆波ちゃんから聞いたんだけど、2人を助けてくれたのは他でもない綾小路くんでしょ。そのお礼もしたくてさ」

 

「あれはイベントクリアのために行っただけで、お礼をされるほどのことでもない」

 

ついさっき、茶道部との約束をしたばかり。やんわりと断りを入れようとするが、小橋も簡単には引き下がらない様子。

 

「そんなことないって。ね、ね、どうかな?」

 

「いや、遠慮さ――」

 

「お願い!ここで会ったのも何かの縁だと思ってさ、ね?」

 

やんわりがダメならきっぱり断ろうとすると、それを察した小橋が両手を合わせて祈るように嘆願してくる。非情に断りづらい。

 

「私の責任……ってことだよね?」

 

「ん?」

 

「年末だし仕方ないよね……。私の誘い方が悪かったから、綾小路くんに来てもらえなかったって、クラスのみんなに謝らなきゃ。ごめんね、みんな。私が不甲斐ないばっかりに……」

 

虚空を見つめ今にも泣きださんとする小橋。

 

「……何時からの予定だ?」

 

こちらの問いに、表情が180度変わる小橋。

 

「え、来てくれるの!?やった、ありがとう!時間は21時からだよ。場所は帆波ちゃんが体育館を借りてくれたから、そこで!」

 

「……思ったより規模が大きそうだな」

 

ちょっとした会なら顔を出すだけで済むと思ったのだが……。一之瀬も体育館を貸切るなんて生徒会の権力を気軽に使いすぎじゃないか?恐らくだが、門限の問題も許可を取ったのだろう……。

 

「ダメかな?」

 

「いや、ダメってことはないが……」

 

「なら大丈夫だよね?よかった。待ってるから、必ず来てね!」

 

満足したのか小橋は小走りで去っていく。

 

「参ったな」

 

一之瀬クラスの思わぬ伏兵。結局、参加の方向で押し切られてしまった。

仮に昼は櫛田と年越しそばを食べるとして、その後茶道部と過ごし、夜からは一之瀬クラスとカウントダウンパーティーか。

 

かなり慌ただしい年越しになりそうだ。

 

櫛田とひよりにスケジュールの相談をしておく必要が出てきたため、携帯を取り出すと、綾小路グループのチャットに波瑠加からメッセージが届いていた。

 

『明日はみんなで集まって年越ししない?』

 

『いいね』

 

『オレも賛成だ』

 

『構わないが、門限はどうするつもりだ?』

 

『ゆきむーは相変わらず固いよね。ただ、それで減点になったりしたらマズいか……』

 

『みんなで年越ししたかったなぁ……』

 

そんな会話が繰り広げられている。

 

『きよぽん、なんか方法知らない?』

 

知らない、と返事をして他クラスと年越しをしていたことが発覚したらグループでの居場所がなくなるかもしれない。

 

『ひとつだけ手があるぞ』

 

オレはそう提案するしか解決する方法を思いつかなかった。

 

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