アニメでは3期で予定されている部分ですので、ネタバレを気になさる方はこの話以降ご注意ください。
3学期始業式の前日。
オレはとある目的を果たす為、学校の指導室を訪れていた。
「あけましておめでとうございます。茶柱先生」
「……ああ。あけましておめでとう」
新年早々、明らかにこちらを怪しむ茶柱先生。
始業式前日に突然生徒から呼び出された状況であるため無理もない、か。
もしくは、前回オレから声を掛けた時に茶道部のためと茶柱先生のボーナスを丸ごと頂いたことが原因か。
……後者だろうな。
「そんなに警戒しなくても大した要件ではありませんよ」
「大した要件でもないのに休日に教師を呼んで欲しくはないな。だが、読めたぞ綾小路。他の生徒がいないこのタイミングで私を呼んだ理由は――」
「さすが茶柱先生ですね、そうお呼びした理由は――」
「次の特別試験の話」
「お年玉をもらいに」
「「……」」
「新年から面白い冗談だ。今年も絶好調なようで何よりだが、新学期前だ、私も暇ではない。本題に入ってくれ」
「親しい大人から頂けるものだと聞いたのですが、やはり三が日まででしたか……もっと早く声を掛けるべきでした」
お年玉という文化があることを知ったオレは、手近な大人=茶柱先生に声を掛けたのだが、どうやら失敗してしまったようだ。
正月ムードも落ち着いてしまったしな、仕方ない。
「次の特別試験で何かしらの策の準備に来たわけではないのか?無人島の時の様にポイントを預けに来たとか」
「ええ。違いますね。純粋にお年玉を期待していました」
「……綾小路、つい最近、私のボーナスを持って行ったのを忘れたのか?」
「その節は助かりました」
オレが試験対策で会いに来たと勘違いしている茶柱先生。
確かに無人島試験ではチャーナビをはじめ、事前にポイントを預けていたことで、他クラスへ意識の外からの一手を打つことができた。
次回の試験でも携帯を取り上げられる予定なので似たような手は使えるだろうが、二度も同じ策を繰り返すのはリスクがある。
龍園や坂柳あたりは勘付いていてもおかしくはないし、今度は上級生もいるからな。
使ったとしてもブラフが良いところだろう。
それに、今度の試験は性質上勝とうと思えばかなりの労力が伴う。
南雲の動きも気になるため、退学にならないくらいのそこそこでやり過ごすのが一番だ。
「私はな、当てにしていたボーナスがなくなったことで、ポチに買ってやるオモチャが減って非常に悲しい思いをしたんだ。悪いが、他に用がないなら帰らせてもらう。ポチが待っている」
「……ポチ?」
「うちで飼っている子犬だ。今が一番可愛い時期でな、やっとお手を覚えたところだ」
「犬を飼っているんですか……」
イグアナ事件で肩透かしを喰らって以来、オレは毛並みのふわふわした動物を触ってみたい欲が増している。
以前、軽井沢が子犬を見かけたことがあったと言っていたが、まさかこんな身近に飼い主がいたとは。
「なんだ、興味があるのか?そうだな、次の特別試験で好成績を残したら、見せてやってもいいぞ、なんてな」
「見るだけでなく触ることも?」
「あ、ああ。成績次第では、一緒に散歩や餌やりなどをつけてやってもいい」
「わかりました。約束しましたよ」
「……やる気になったようで結構だが、一年近く担任をしてきて未だにお前のやる気スイッチがどこにあるのか、さっぱりわからんな」
思わぬところで思わぬチャンスを得た。
動物と触れ合うのは、来年の修学旅行中に探すか、生徒会権力で無理やり連れてくるか、ぐらいしかないと考えていたからな。
こうなると話は変わってくる。
先ほどは出番なしといったが、勝つためにはいくつか戦略が必要だ。
「ちなみに、前回のコウィケの利益でどのくらい貯まりましたか?」
「およそ400万ポイントだ。Webでのチケット販売が上手くいったようだな」
『雫復活ライブ』と銘打って宣伝したステージチケット代はそれなりの収入になった。
以前、校長と契約して外部を巻き込んで商売することは可能となったが、いくつかの制約はつく。
簡単に言えば、そこで得たポイントを私的には使えず、教師である茶柱先生が管理することになっている。
この条件でも一之瀬との目標には問題がないが、抜け道はいくつか用意してあるのであまり気にはしていない。
「いざとなったら使用することになるかもしれませんのでよろしくお願いしますね」
「わかっているとは思うが、試験攻略のために使用はできないからな。あくまで生徒のためになることが前提だ――100歩譲って退学取り消しなら認められるかもしれないが、いずれにせよ400万では足りない」
「ええ。その点は大丈夫です」
もし荒稼ぎした大量のポイントを試験の攻略に使用できるのであれば、パワーバランスが大きく崩れる。
商売の権利を獲得していることが明らかに不平等となるため学校も認められない。
だが、そういったことに使わないことを前提にし、生徒会の役員のオレが、生徒のために使用することを約束したことで現在がある。
むしろ退学取り消しの都合をつけてくれるというのは、茶柱先生の温情だろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3学期が始まって間もない木曜日の朝。
オレたちを乗せたバスが高速道路を走行している。
1年から3年までの全クラスが一斉に移動し、次の特別試験の開催地を目指していた。
とは言っても、まだ一般の生徒には何も説明されていない状況。
豪華クルージングの前例があるため、この後試験があることは多くの生徒が勘付いているだろうが
それはそれ、約3時間の移動ということもあり、バスの中は友人同士での会話や本にトランプ、ゲームなど好きなものを持ち込んで、各々の時間を楽しんでいた。
座席は名前順だったため、オレの隣には『池』が座っている。
入学当初こそオレの部屋をたまり場にしたりと遊ぶこともあったが、今ではほとんど関わりがなくなった生徒の1人。
普段付き合いのある男子は、名前順だと、は行の平田、ま行の明人、や行の啓誠と、見事みんな後ろの席になっている。
通路を挟んで反対は女子の席だが、それでも気軽に話せるような相手は近くにいない。
オレがBクラスであれば隣の女子は一之瀬だったはずで、バスの中でも退屈することはなかったか。
そんなことを考えていると、池がそわそわした落ち着きのない様子で遠慮気味にこちらに声を掛けてくる。
「なぁ、綾小路。この前クリスマス……その、佐藤とのデートは結局どうなったんだよ?」
「あー、麻耶との話か」
あの日、池は櫛田が連れてきたメンバーにはいなかったが、教室で麻耶と出掛ける話は聞いていたのだろう。
年頃の高校生とは異性との話が1番気になるようだ。
ただ、池に限っては気になる理由はそれだけではないのだろうが……。
「ま、麻耶って。つ、つまり上手くいったってことだよな!?」
「そうだな、良い友達関係になれた」
「なんでだよっ!?」
思いっきりずり落ちるリアクションをする池。
バスの中でもシートベルトの着用はしておくべきだぞ。
「まあ色々あったんだ。池こそ篠原とはうまくやってるのか?」
「え!?あ、いや、まあそこそこだよ。別にアイツとなんかあるわけじゃねーし」
そういって目を泳がせながら、話を終わらせるように後ろを向き、須藤たちに話しかけ始めた。
自分のことは語るつもりはないようだ。……オレが麻耶と付き合っていたら話は違ったのだろうか。
これ以上追及するつもりもなかったため、運転席近くに立っている茶柱先生とポチの話でもして暇を潰そうかと思ったところで、その茶柱先生がマイクを手に取る。
「盛り上がっているところ悪いが、静かにしろ」
そうして茶柱先生から、バスはある山中の林間学校に向かっていること、そこで3学年合同の特別試験『混合合宿』を実施することが語られた。
20ページほどの資料も配られ、合宿の詳細が語られる。
オレも生徒会で概要の確認はできても、試験内容の詳細までは非公開情報だったため、初めて知ることがいくつもあった。
ルールを簡単にまとめると、
・1年で最低2クラスが入ったグループを全部で6つの小グループ作る
・2年、3年も同様に6グループ作っているので、各学年のグループとも組み、大グループを6つ作る
・その小グループで7泊8日の生活を行い、最終日に総合テストを行う
・そのテスト結果をもとに、順位は大グループの平均点で競われる
・最下位の大グループにはペナルティがあり、小グループの平均が学校の基準を下回った場合、小グループの『責任者』が退学。また責任者は正当な理由があれば、小グループからひとり退学の道連れにできる
・責任者は小グループから選任し、退学のリスクはあるものの責任者のクラスの報酬は2倍貰える
報酬については、人数が増えれば倍率が増え、クラスが増えれば、2倍、3倍となり、
小グループの人数は10~15人までであるため、一番報酬がもらえるパターンとしてはクラスメイト12名に他クラスそれぞれ1名を加えた15人グループで、リーダーを務める場合。
12名分の報酬はクラスポイントだけでも300ポイントを超える。
ただし、退学者が出た場合、ペナルティとしてクラスポイントは1人につき100マイナス。
退学は2000万プライベートポイントと300クラスポイントを払うことで取り消すことができるが、ペナルティが消えるわけではない為、救おうと思えば『400クラスポイント』が必要となる。
現時点で、ひよりのクラスから退学者が出た場合、クラスポイント不足でいくらプライベートポイントがあっても救えないことが確定している。
ただ、例え払えるとしても『400クラスポイント』は多大な額。
クラス順位が容易に逆転してしまうため、どの学年にとっても簡単に救済は選べない。
「携帯は一週間使用禁止。降車時に回収させてもらう。その他、個別に持ち込んだ日用品、遊具などは持ち込み自由だが、食料品は持ち込み禁止だ」
「先生、質問がありますっ!男女別ってことですが、具体的にはどのくらいバラバラなんですか?」
携帯の回収に悲鳴が上がる中、池が元気よく質問を投げかける。
先ほどの話題と言い、女子との交流が気になっている様子。
「林間学校は2棟あり、本棟を男子、分棟を女子が使う。1日1時間だけ本棟の食堂で男女合同の夕食があるが、その他はバラバラで交流の機会はないだろうな。これで満足したか?」
「うすっ!」
1日1時間とは言え、女子と話せることがわかって喜ぶ池。
何となくクラス全体を見渡してみたが、池以外にも喜んでいる生徒は多そうだった。
「他に質問がなければ終わるぞ」
茶柱先生はくだらない質問しか出てこないと判断し、早めに切り上げることにしたようだ。クラスでの戦略を話し合う時間を少しでも作る配慮だろう。
オレは一之瀬とひよりにチャットを送る。
「先生、マイクをお借りします」
そう言ってマイクを持つ平田。
試験の整理と時間があれば戦略を相談するようだ。
平田へもチャットを送っておく。
今回の試験、グループ分けが最初の鬼門だろうが、現状Aクラス以外と共闘している状態であるため、Aクラスの出方次第とは言え大した問題にはならない。
『何か考えはないの?』
『特にないな』
そんなチャットが堀北から飛んできたが適当に流しておく。
集団での協力が必須なこの試験。堀北はどう乗り越えるのだろうか。
「男女別の試験、女子のリーダーは堀北さん、お願いできるかな?」
「ええ、構わないわ」
そんなことを考えていると、堀北が女子グループをまとめることが決まった。
クラスからも特に異論は出ない。
体育祭以来、プライベートな付き合いはともかく、試験に対する堀北のクラス内での信頼度は高くなっている。
勉強会だけでなく、スズーズブートキャンプも定期的に実施して、参加率の高さからも、それは伺える。
色々あったが、櫛田曰く、ブラコンというあざとい弱点が公になり、人間味が出てたことが親近感に繋がったんじゃないかと、以前我が家の枕を叩きつけながら分析していたことがあった。
弱点がメリットになる、そんな不思議な状況。
あえて見せたわけではないだろうが、結果オーライということ。
確かに、あのブラコン姿を見て、堀北が血も涙もない冷徹な人間だと思うことはないだろう。ただ、別の恐怖を感じる人間がいてもおかしくはなさそうだが……。
まだその片鱗を味わった人間が少ないのかもしれないな。
だが、今回は他クラスの女子も絡んでくる状況。
堀北の成長を測るにも丁度いいかもしれない。
ただ、ポチの件もある。オレも傍観するつもりはない。
そうしてバスは高速を降り、目的地の林間学校へと近づいていくのだった。