ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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トランプ大会

トランプの封を切り、シャッフルし始める南雲。

 

「シンプルにババ抜きで勝負っすよ。ただやるのもつまらないんで、盛り上げるために朝食当番をかけるってのはどうですか?負けた回数分、その学年が調理するって感じで」

「本来グループ全員で話し合うことだとは思うが……まあいいだろう」

 

「俺達もそれでいいよな」

 

3年の石倉が同意したことで、啓誠も1年に確認を取る。高円寺を除いて全員が頷いた。

 

「なんだ、高円寺は反対か?」

 

南雲があえて高円寺に話しかける。

 

「賛成も反対もないさ。すでに多数決の結果は出ている」

 

「お前自身はどう考えているのかを聞いている」

 

「ではお答えしよう。このやりとりに私はかけらの興味もないよ。よって賛成か反対かも考えてすらいない」

 

オレも人のことは言えないが、仮にも生徒会長の南雲に対して問題になりかねない発言をする高円寺。だが、南雲は愉快そうに笑い、突拍子もないことを言い出す。

 

「俺の生徒会に入らないか、高円寺。お前みたいな面白い奴を迎え入れたい」

 

この場にいた高円寺以外の全員が驚く。オレも新メンバーで高円寺が入ってきたら手を焼く未来しか見えない、断固拒否したいところだ。

 

「ふふっ。綾小路ボーイ&ガールだけでは人手が足りていないのかな?しかし、生憎と生徒会などに興味はないのだよ」

「そうだろうな。だが、気が変わったらいつでも声を掛けてくれ」

 

もしかしてオレへの嫌がらせのために高円寺を誘っているのか。実際、現在の生徒会1年は南雲の影響下にない状態。これからのことを考えると自分の手駒、最悪でもオレに協力的でない人物を入れるのは策として悪くない。

 

「それじゃ始めるか」

 

高円寺とのやり取りなどなかったかのように切り替える南雲。

1年からは啓誠、そして橋本が参加することになった。

 

不正がないようにとシャッフルしたトランプを3年、そして1年に回して、同様に混ぜる。

元々食事当番は各学年2回だったため、全6戦中5勝できれば得することになる。だが、南雲が無策でやってくるとは思えない。何らかの形で食事当番を押し付ける腹積もりだろう。

 

「ちなみにないとは思いますが、不正が発覚した場合はどうなりますか?」

 

「本当に不正だった場合は、そいつの学年が全部朝食当番でいいんじゃないか」

 

先輩を立てる風を装ってあえて3年の津野田に聞く。

津野田は期待通りの回答をしてくれた。

南雲がこれに少しでも反応すればそのつもりがあるということ。もしスルーしても反対しなければ不正がしにくくなる。

 

「いいんじゃないっすか。そのぐらいのリスクはないと、不正を考えるヤツが出てきてもおかしくないですし」

 

あっさり承認する南雲。これでいざという時は食事当番を2年に押し付けられるな。

 

「先輩としての威厳を見せるためにもまずは一勝したいところっすよね?」

 

「生憎俺は運が悪い。お前も知っての通り大事な試合の前に食中毒を起こすような男だぞ」

 

そういえば石倉は最近引退するまでバスケ部のキャプテンを務めていた。

つまり須藤の先輩であり、その食中毒の結果、生徒会で代わりに試合に出たこともあった。

それを聞くと確かに運はなさそうだ。いや、結果的に全国大会に出場できたと思えば運が良いのか?

 

「あれはあれで結果オーライだったじゃないっすか。この学校の仕組み上、全国大会なんて中々出ることはできないと思いますけど」

 

悲しいことに南雲も似たような発想をしていた。

 

「確かに貴重な経験ではあったが……」

 

石倉は少し苦笑いをし言葉を濁す。

晴れて出場した全国大会は初戦で大敗していた。

元々違うメンバーで地区大会を勝ち上がったのだから無理もない。

 

ただトランプの方の初戦は順調に進み、最初に石倉が上がり、桐山が続く。

 

全く触れなかったが当然の如く南雲と同じ小グループになっている桐山。

 

『あんた堀北派じゃなかったのか?』と目で訴えてみたところ

『こっちにも色々あるんだ』といった視線が返ってくる――あくまでオレがそう思っただけで、本人は全く何も考えていない可能性もあるが……。

 

もしかしたら桐山は退学覚悟で自らの成績を下げ、南雲グループの得点を落し堀北兄を勝たせる、なんて作戦だったりするのか。

先輩を慕う後輩として殊勝なことだが――桐山にそんな漢気があるだろうか。

そもそも自身を退学の危機にさらす作戦を堀北兄が喜ぶとは思えない。桐山もそれを理解していないことはないはず。

 

となると、2年Bクラスは鬼龍院の活躍もあり、何とかAクラスに食らいついている状況。南雲の傍でひっそりと逆転の目を探っているのだろう。

 

桐山のことは置いておき、ババ抜きの初戦は津野田と啓誠の一騎打ちの結果、津野田に軍配が上がった。

 

「負けました……」

 

啓誠は1度目の朝食当番が決まってしまったことで責任を感じているのか、表情が暗い。

 

「幸村、気にすんなよ。一回負けたぐらいたいしたことはないって」

 

そんな様子をみた橋本がフォローする。

 

「負けた奴がカードを配ってくれ」

 

「は、はい」

 

南雲からの指示に啓誠は申し訳なさそうに従う。

橋本のフォローを帳消しにするようなタイミング。

精神的に追い詰めていくつもりだろうか。

 

「今度は勝てるといいな。だが、上級生の壁はそう簡単には越えられないぜ?」

 

カードが配られ2戦目が始まる。

序盤こそペアを揃えていき手札を減らしていった一年コンビだったが橋本が上がったことを気に流れが変わり、気づけば残りは桐山と啓誠だけに。おまけにジョーカーは啓誠の手にある。

 

そして最後の一手、桐山が引いたのはジョーカーではなかった。

 

こうして1年が2連敗となる。

 

「すまない。こういう遊びは苦手だ。誰か代わってくれないか」

 

弥彦と啓誠が交代する。

 

「そろそろ一年に華を持たせてやりたいとこですね」

 

1年が2連敗したことで南雲がそんなことを言った。

だが、この発言は同情からではない。何かを企んでいるが故の誘導だろう。コイツはそういうやつだ。

 

3戦目が始まった。

 

弥彦は意外にも運がいいようであっさりとカードを揃えて上がりを決める。

それに橋本が続き、1年の勝ちが決まった。

 

「よかったな、1年。さすがAクラスコンビってところか」

 

「ありがとうございます。南雲先輩」

 

結局3戦目は南雲が最後まで残り、2年の1敗が決まった。

 

基本的にババ抜きは運の要素が強いゲーム。

だが、周囲の様子を観察し、些細な表情の変化を見逃さなければ誰がどの位置でジョーカーを持っているかもある程度見えてくる。もちろん、南雲などはその表情もブラフとして使ってくるが、全員が全員千両役者とはいかない。南雲にジョーカーを渡した者、南雲からジョーカーを引いた者がいれば、そこから読み取ることは可能だ。

 

そういった技術を駆使すれば勝率を上げることは可能。

とは言え、この展開――南雲が言った通りの結果になっていることは、ある種の挑発だろう。1年を値踏みしている。

 

「1年も初勝利出来たことだし、次は負けてもらうか」

 

そんな宣言を始めたので、そろそろこちらも動くとする。

 

「すみませんが、作戦タイムを要求します」

 

「ババ抜きで大げさだな、綾小路」

 

「南雲会長の作る朝ご飯を少しでも多く食べたいもので」

 

「そんなことになったらとびっきり美味い飯を作ってやるぜ。ま、作戦会議とやらで何が変わるかお手並み拝見だな」

 

「ありがとうございます。啓誠、石崎、ちょっといいか?」

 

南雲から許可が出たため、オレは2人を近くに呼び作戦を伝える。

 

「そんなんでなんか変わんのかよ?」

 

「ああ。少なくともイーブンにはできる」

 

「俺は清隆を信じる」

 

「先輩方、お待たせしました。橋本、弥彦、悪いがこの2人と交代してもらえるか」

 

「構わないが、勝てるんだよな」

 

「少なくともこのまま継続すれば2人は確実に負けるからな」

 

「なんだ、綾小路お前が出てくるんじゃないのか?」

 

「まだ様子見で十分ですからね」

 

「言ってくれるじゃねえか。先輩方も容赦はいらないっすよ」

 

「そうだな。どんな作戦かわからんが、不正を行うようなら厳しく対応させてもらう」

 

「まさか。ちょっとだけコツを伝授したにすぎません」

 

そうして始まった4戦目。

何事もなく中盤までゲームは進んでいく。

 

ジョーカーを持った津野田から啓誠がカードを選んでいる。

啓誠がこちらをちらっとみる。

 

俺の位置からは3年の津野田の手札が見える。

後はアイコンタクトでジョーカー以外の位置を――。

 

「ちょっと待て。幸村、そんなに綾小路の顔をみてどうしたんだ?」

 

「あ、いえ、特に何でもないです」

 

「なら、目の前のトランプだけ見ながらプレイしても問題ないよな?」

 

「……そうですね」

 

ニヤリと笑う南雲。

 

「ま、即席にしては上出来だったんじゃねえか、綾小路?」

 

南雲の発言に上級生の視線が集まる。

 

「何のことでしょう?」

 

「いや気にすんな。明確な証拠がないんじゃ、立証できないからな。さ、続けようぜ」

 

そうして再開した結果、ジョーカーは啓誠の手に渡り、そのジョーカーはさらに石崎が引くこととなる。

 

「やっべ……あっ」

 

ジョーカーを引いてしまったことをリアクションで悟られてしまう石崎。

 

「ちょっと手札シャッフルさせてください」

 

それに気づいた石崎が慌てて、せめてもと手札をぐちゃぐちゃに混ぜ始める。

 

「顔色が優れないんじゃないか幸村」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「石崎は綾小路の方を見なくて大丈夫か?」

 

「うっす」

 

南雲が愉快そうに話しながらババ抜きは続く。

 

「……」

 

「おい、どうした南雲」

 

「いえ、何でもないっす」

 

変化が起こったのは、石倉、南雲、啓誠の3人が残った時だった。

 

残りの手札は、石倉、南雲が2枚、啓誠が3枚。啓誠のカードを南雲が引く。

 

南雲は揃わない。

 

南雲のカードを石倉が引き、ペアが揃い、残り一枚。

それを啓誠が引いて、石倉は上がったものの、啓誠もペアが揃ったため、ラスト一枚。

 

南雲が先ほど啓誠から引いたであろうジョーカーを引かなければ啓誠の勝ちとなる。

 

「こっちを貰います……やった、あがりです!」

 

啓誠は二分の一の確率で勝利をもぎ取った。

リベンジを果たした啓誠に、先ほどまでの落ち込んだ表情はなくなっていた。

 

南雲――というより、上級生全員がグルになっていたことはわかっていた。

数戦観戦していたが、全員がジョーカーの位置を把握していた、そんな動きだった。ここからでは見えないが、最初に南雲がカードをシャッフルした際に何かしらのマーキングを施したのだろう。

 

そのため啓誠にはこちらがアイコンタクトでジョーカーを避けようとしている演技をしてもらい、わざと見つかることで注目をオレに集めた。

その間に石崎が傍に避けてあった使用していないもう一枚のジョーカーを回収。

久々に使ったが、ミスディレクションの応用だな。先ほどバスケの話が出たことで思い出した。

 

啓誠が石崎にジョーカーだとわかるように引かせたのち、カードを混ぜるふりをしてさっと入れ替えを行った。

石崎ならこういった不正を躊躇いなく実行できると考えての配役だったが、上手く役割を全うしてくれた。

龍園のもとでアウトローな戦いを続けてきた経験が活きている。

この役割が逆であれば、啓誠はゲームとは言えこっそりカードを盗むことにしり込みしてしまい悟られた可能性がある。

 

「味な真似をしてくれるな」

 

「何のことでしょう?」

 

「いや、お互い証拠がない状況だからな。次はお前が来いよ、綾小路」

 

「もちろんです」

 

石崎と交代しオレが入る。

状況は2年と1年が2敗ずつ。

 

「次こそ1年には負けてもらうぜ」

 

「南雲会長、それって負けフラグって言うらしいですよ」

 

「俺が負け知らずなのは知ってるだろ?今日は運勢もそこそこ良かったしな」

 

そんな軽口を交わしながら、先ほど負けた南雲がカードをシャッフルし配りはじめる。

手札を確認すると見事ジョーカーがある。南雲が配ったんだ、これぐらいはできるだろう。

 

そして手元に来たことでわかったが、先ほど入れ替えたにもかかわらず、こちらのカードにも軽く傷がつけられてすでにマーキング済み。このままずっとオレからジョーカーを引かずに残す作戦だろう。

 

それならこちらもやることはひとつ。

 

「さて、綾小路から引くわけだがどれにする……か?」

 

「どうしました南雲会長。オレのカードになんかついてますか?」

 

「いや、なんでもねーよ」

 

手札全てにジョーカーと同じような傷をつけておいた。

これで南雲にはどれが本当のジョーカーか判別できない。

 

何度かの順番で遂にジョーカーは南雲の下に渡る。

 

桐山、津野田、啓誠と上がっていく中、再びジョーカーが手元に来る。見ればジョーカーに新しい傷がついていた。

 

それならまた同じように対応するまで。

 

互いに譲らず、その繰り返しとなる――。

 

「……なあ、南雲。流石にこれじゃ、続行は馬鹿馬鹿しいぞ」

 

「そうっすね」

 

石倉が指摘する頃には、カードは傷だらけ、明らかに何かしらの不正を働いているのが露見している。

 

「はぁ、仕方ない。消灯時間も近いですし、この勝負はノーカンってことにしましょう」

 

「落としどころとしては、それが妥当だろうな。一年もよく気づいて対応した。同じ大グループとして頼もしい限りだ」

 

「次があるなら普通の交流会を希望しますよ」

 

「それもそうだな」

 

結局、この勝負はなかったことになり、朝食当番は各学年2回ずつのままとなった。

しれっと自分たちの不正をあやふやにしたのは上級生の経験がなせる技だろう。

 

「んじゃ、明日からもよろしくな」

 

そういって上級生は一年の部屋をあとにする。

 

「清隆、助かった。よく先輩たちが不正してることに気づいたな」

 

「大したことじゃない。南雲がフェアに戦うなんて思えなかっただけだ」

 

「あのすかした生徒会長ざまーねえな」

 

「ただ、なんかどっと疲れたな。明日から早速当番だし早く寝ようぜ」

 

「だな」

 

各々勝利(?)の余韻に浸ることなく、布団に潜り込む。

程よい緊張感からの解放で、全員すぐに眠りにつけた様子。微かに寝息が聞こえてくる。そういう意味では南雲の行動もプラスに働いたな。

 

そんなことを考えながらオレもゆっくりと夢の中に誘われていった。

 




まさか、トランプだけで一話使ってしまうとは……。
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