ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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らしくない考え

ドッと疲れを感じ、部屋に戻ると枕元に小さな紙が置いてあった。

 

『25』

 

とだけ書かれている。

 

どこの誰が置いたものかは見当がつかないが、情報量が少ないだけにこれの指す意味は『25時』あたりだろう。

 

今日はすぐにでも眠りたい気分だが……その時間に何かあるのか、待ってみることにする。もしこちらの見当違いならそれで問題ないしな。

 

消灯は22時、そこから3時間。眠らずに過ごすにはそれなりの時間だ。

せっかくなら少し考えを整理しておくか。

 

これまでの授業内容から最終日の試験内容、そしてこの試験の本質が少しずつ見えてきた。

 

具体的に説明されたわけではないため憶測もあるが、確実に試験に絡んでくる項目はいくつかある。

 

例えば『禅』『駅伝』『スピーチ』『筆記試験』あたり。

 

最終日にこの人数が試験をすることを踏まえると、時間的にあってもあと一項目ぐらいか。

残りは掃除や料理など気になる項目もあるが、果たして試験に絡めてくるかどうか。高校生の試験というより嫁入り試験みたいになるしな……。

 

この異質な試験の攻略には多くの生徒が頭を悩ませているかもしれない。

 

だが、正攻法で勝つためにできることと言えば、グループ内の結束を高めることぐらい。

ここ数日で急に足が速くなったり、頭が良くなるわけもない。

『禅』や『スピーチ』は真面目に取り組んでいればそこまで点数に差が出ることはないだろう。

 

つまり、普通にやればグループを組んだ時点で大まかな勝敗は決まってしまったようなもの。

 

問題はこのあと。

各グループの戦力が把握できれば、どこが勝つか大抵の人間が予想できる。

自分の所属している大グループがそうであれば、嬉しく思うだろう。

だが、もしその大グループが1年Aクラスが組んだような他クラス生が圧倒的に多い構成の場合、そのまま勝つわけにはいかなくなる。

 

退学は最下位の大グループ内で、学校が提示する基準を下回った小グループのみ。

 

兼ね合いは難しいが優勝候補がいきなりそこまで落ちることはない。全力で足を引っ張るはずだ。

 

その生徒をどう説得するか、もしくはそれ込みで勝てる算段をつけられるのか、そういったところの戦略が試される試験でもある。

 

ただ、それが本来のカタチだった、ということ。

少なくともオレたちの学年はAクラスを勝たせないという布陣で、的場のグループ以外、どのグループが勝っても3クラスが得をするようになっている。

 

あとは他学年の成績如何となるが……学年の動きをある程度コントロールできる南雲ならその点はいかようにでもできるため、2年は南雲次第。

 

残る3年がどう動くかが、この試験のキーか。

 

仮にオレと南雲が手を組めば、この大グループを勝たせることは容易となるが、その場合、堀北兄が負けることになる。

オレとしてはどちらでも構わないが、その後、南雲が調子に乗るのは目に見えていて、碌なことにならない気がする。

そもそもお互い協力し合えるとは思ってもいないため、無駄な仮定ではあるが。

 

そんなことを考えていると気づけば時刻は25時を迎える。

周囲を警戒してみるが、特に変わったことはない。

それならそれで明日に備えて休もうと思ったところで、部屋と廊下の隙間から光が差し込み、点滅する。

 

非常用の懐中電灯でモールス信号か。

 

どうやら部屋から出てこいということらしい。

消灯後もトイレに向かう生徒はいるため、短時間なら部屋から出ても怪しまれることはないはず。

 

そっと部屋を抜け出す。

廊下は真っ暗だったが、人が遠ざかる気配を感じる。

そちらへ向かうと現れたのは――堀北学だった。

 

「あんたから呼び出されるのは久々だな」

 

堀北兄が現役の生徒会長時代は事あるごとに呼び出され、面倒な仕事を押し付けられたものだ。

そんなに昔の話ではないのだが――――少し懐かしく感じた。

 

「加えて生徒会の仕事以外で呼び出すのは新鮮でもある。だが、寝静まった夜中に密会する生徒は少なくない。今回の試験でもいくつか策略が動いているだろう」

 

どの学年も勝つために策を巡らせている者はいる――か。

だが、こんな夜中に悪巧みする連中は碌でもないことしか考えていないだろうな。

 

「すでに3日経過したが、この合宿は楽しめているか?」

 

「……正直なところ高校男児のノリというのはわからないことが多い」

 

「なんでもTレックスを飼っているらしいな」

 

「おい」

 

堀北兄の情報網はどうなっているんだ。

いや、それだけ噂になっているのか?

考えると余計に疲れそうなので本題に入ってもらうことにする。

 

「それで、世間話をするために呼び出したんじゃないだろ」

 

「もちろんだ。……お前は今回南雲と同じ大グループだったな」

 

「ああ。どうもオレはこの手の運はないらしい。……あいつの動向が気になるのか?」

 

「いや、むしろ逆だな。今回は南雲と俺だけの勝負で引き受けた。念のために、綾小路……お前が、南雲が負けるように手を回す可能性をなくしておきたかった」

 

何かと思えば面白いことを言い出す。堀北兄は南雲との勝負にオレが介入することを懸念して呼び出したということ。

 

「そんな面倒なことをするとでも?」

 

「南雲が余計なことをしてお前に被害が出る場合は躊躇なくそうするだろう。だが、例え自衛のためでなくても、今回の試験は、南雲の大グループが勝つより、俺の大グループが勝った方がお前としても利がある」

 

的を射た指摘が飛んできた。

オレたちの小グループは10人編成である上に、Aクラスが2名入っている。

対して堀北兄の大グループの1年は平田のいる15人の小グループ。

構成はAクラスは1人でC、Dクラスが5人、Bクラスが4人と、上位クラスとの差を一番縮めることができる。どちらが勝った方が良いかは明白。

 

「南雲がどんな手を使うかわからない段階で勝算はあるのか?少なくとも2年の成績はヤツの掌の上だろ」

 

「そうだな。だが、それでも俺は負けない。この試験で為すべきことを、正面から取り組んでいく。それに南雲とは、他者を巻き込まないと約束してある」

 

「そんな約束を信じるのか?南雲だぞ?」

 

「あいつはあれで勝負事の約束は守るやつだ」

 

「どこの南雲さんの話をしているんだ?」

 

「お前がそう思うのも無理はないが、これまで姑息な手を使うことはあってもルールや約束を捻じ曲げたことはないはずだ」

 

「……そう言われると、そう…かも、な?」

 

確かに負けた時はこれまでちゃんとポイントを振り込んできたな。

勝負結果を認めないことはあってもそのあたりを誤魔化すことはしなかった。

 

だが、今回の試験に限っては、そもそも南雲はルールを捻じ曲げる必要がない。

アイツの考えたルールで進行しているのだから。

 

その点を指摘するかどうか迷ったが、真正面から南雲との勝負を受け入れるつもりの堀北兄に、オレからの助言は野暮か。

 

「……わかった、今回は見守ることにする。オレとしても何もしなくていいならそれに越したことはない。その代わり一つ聞きたいんだが、なぜ急に南雲との勝負を引き受けたんだ?」

 

「南雲が南雲の目指す学校像を見せた。それなら、俺も俺の理想とする学校の姿を見せておくべきだと感じた」

 

「それもあって正々堂々と試験を戦うつもりなのか」

 

「そういうことだ」と頷く堀北兄の顔はどこかすっきりとして、この戦いを少なからず楽しんでいるようだった。

 

「あんたはもっと堅実な戦いをするものだと思っていた」

 

「これまではそうだった。……誰かさん達の熱に当てられたのかもしれない」

 

長居をするつもりはなかったようで、そう言って堀北兄は去っていった。

 

これまでクラスのためだけに特別試験を戦ってきた男が初めてそれ以外の目的を加えて戦っている。何が堀北学をそこまで変えたのか、何を考えての行動なのか――わからないこともあるが、結果がどうなるのか観察するのも悪くないかもしれない。

 

だが、南雲を倒す自信があるということは同時に同じグループのオレも倒せると考えている、ということ。オレが全力でこの試験と向き合い戦った時、本当に学はオレを倒すことができるのか――――――。

 

……らしくないな。それこそ堀北兄の熱に当てられたのか、無駄なことを考えていた。

堀北兄の見積もりは、オレがこれまで通り、そこそこの力を出してそれなりの成績を残す動きを想定したものだろう。

テストでいくら満点を取ったとしてもクラス単位では大きな差が開かないように、ワンマンプレーではこの試験の結果を左右するほどの脅威にはならない。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

――ということが男子の方ではあったらしいんだけど、それを綾小路くんから教えてもらったのは、当然合宿終了後なわけで……。

女子は女子でなかなか大変だったんだよ、とその点は綾小路くんにもしっかり伝えておきたい。

 

「一之瀬スポンサー、一緒のグループですね。よろしくお願いします」

 

「こちらこそだよ。椎名さんとも一度ゆっくりお話ししてみたいって思ってたんだ」

 

「そうでしたか。それは光栄です」

 

合宿初日の就寝前、同じグループとなった椎名さんから声を掛けられる。

この日は紆余曲折ありながら、とっても大変だったグループ分けを完了させた。

 

私のグループは

 

Aクラス 元土肥さん、六角さん

Bクラス 私

Cクラス 王さん

Dクラス 椎名さん、藪さん、山下さん、真鍋さん、木下さん、西野さん、諸藤さん

 

の11人。

 

Aクラスが12人、他クラス各1人ずつの15人グループを作ると主張した結果、バスで移動中に届いた綾小路くんの提案に沿って、なるべくAクラス以外を平等に配置するパターンの作戦となった。

 

ただ、それが問題で……普通なら、3クラスで5人、5人、4人の14人の中にAクラス1名を配置するのがセオリーなんだろうけど、女子はそう簡単にはいかない。

あの子とは組めない、このグループは嫌だなどなど、各々の好き嫌いを遠慮なくぶつけてくる。

まぁ一番手がかかったのは絶対一緒がいいと言って私の腕から離れようとしなかった千尋ちゃんの説得だったのだけれど……。

 

その結果、はじき出されてしまった人たちの集まりに、数合わせで私や王さん、椎名さんが加わりグループが完成した。

 

最初からみんなで仲良く、なんてことは無理だとわかっていたけど、共闘関係もある中でここまでもつれるとは……。

 

ただ、大グループの方は3年の責任者の先輩方が集まってササっと決めてしまったので、拍子抜けしてしまった。大グループの先輩はよく知らない人たちばかりだったけれど、橘先輩がいて「一緒に頑張りましょう」と元気よく声を掛けてくれたのがせめてもの救い。

 

私たちの小グループは、学力が学年でも上位の椎名さん、王さん、私。陸上部で足の速い木下さん、と最低限の戦力は整っている。少なくとも退学者を出すレベルではないはず。

 

だけど、関係性がうす……い、かと思ったら、椎名さんと王さんは言うまでもなく、そこに真鍋さんたち4人を加えた6人は綾小路くん経由で仲良しだし、Aクラスの2人は仲良し……木下さんと西野さんは一匹オオカミ系だとしても同じクラスの人が多い状況。

 

あれれ?一番浮いてるのって私だったりするのかな。

この試験を戦い抜くためには最低限の関係の構築は必要だから、私もうかうかしていられない。

 

「ねえねえ、一之瀬さんってさ、彼氏いたことあるの?」

 

Aクラスの六角さんが私にそんな質問を投げかけてくる。

関係の構築を、とは思っていたけど、初日で恋バナは早すぎじゃないかな??

 

「いやぁ……恥ずかしながら恋愛経験ないんだよね」

 

「えー!?そうなの。超モテそうなのに……あ、もしかして理想が高い感じ?」

 

「そんなことはないと思うんだけど……どうなんだろ」

 

ふとある男子のことを考える。うーん、彼を基準にすると理想が高い系に入るのかも?

少なくともBクラスの男子に友達以上の感情を抱いたことはないわけで……って何考えてるんだろ。

 

「じゃあさ、今好きな人は?」

 

「ええええぇええぇ」

 

丁度その人のことを考えていたタイミングだったので、激しく動揺してしまう。

 

「あ、それは私も気になりますね」

 

椎名さんと王さんも会話に加わる。

 

「私は解釈違いの予感がするのでもう寝ますね」

 

「リ、リカ!?」

 

諸藤さんの宣言に真鍋さんたちが驚きつつも、彼女たちも早めに休むことにしたようだ。

あの4人とは干支試験の時に綾小路くんを取り合って(?)以来、少し距離を置かれている気がする。

 

「さっきのリアクションは間違いなくいるってことだよねー!噂じゃ綾小路くんとよく一緒に居るって聞くけど……」

 

「それは…生徒会だからね」

 

思わぬ指摘に、なんだか綾小路くんが適当に物事を誤魔化すときみたいな返事になってしまった。

普段しないような会話に、すごくドキドキしている。

麻子ちゃんたちは私の好きな人が誰か、なんて特に聞いてこないから……あれ?なんでだろう、Bクラスの女子のみんなだって、恋バナ好きなはずなのに。

 

「ふーん、ホントにそれだけなの?一之瀬さんなら綾小路くんとお似合いだと思うけどなー」

 

「わわわ、えっと、なんというか、深い関係にならないというか、綾小路くんにその気がないというか、恋愛に興味とかないのかも?いや、興味はありそうだけどどこか冷めてるというか……」

 

クリスマスイブの事を思い出す。

あの後、通販でボクシンググローブを買っちゃったのは私だけの秘密だ。

なんでもケヤキモールのジムにサンドバックがおいてあるらしいので、合宿から戻ったら見学に行こうと思ってたり……でもちょっと恥ずかしいなと尻込みしている。

 

「一之瀬スポンサーのおっしゃることはよくわかります。綾小路くんはもっと恋愛小説を読むべきですね」

 

なぜか椎名さんから賛同をもらえた。茶道部でも色々あったのだろうか――いや、綾小路くんのことだ、ない方がおかしいかもしれない。

 

チクッと胸を刺す痛み。

 

この気持ちはなんだろう?なんて誤魔化すつもりはない。

 

あのクリスマスの日。

綾小路くんが告白されると理解した時、心の奥底から全身に後悔の念が押し寄せてきた。

なんで私は行動に移さなかったのか、ずっと自分を責め続けた。諭してくれた橘先輩に泣きついてしまう醜態を晒したクリスマス。

 

綾小路くんが告白を断ったと聞いて、佐藤さんには申し訳ないけれど、安心してまた涙を流した。

 

みんなは私を完璧な善人だなんて言うけれど、そんなことは絶対ないよ。

好きな相手のことだけで、こんなにも心が揺さぶられるなんて思いもしなかった。

 

だから、後悔しないように、これまで以上に何事にも全力疾走。

速度を緩めたら、彼は待ってくれない。きっとすぐに見えなくなってしまうから。

 

「でもそっか~。一之瀬さんは綾小路くんと何ともないし、綾小路くんは別に誰とも付き合ってないんだねー」

 

六角さんは恋バナ好きなのだろう。ニコニコしながら話を続けていた。

 

「黙って聞いていましたがもう我慢できません。王子にはもう決まった相手がいるんですからっ!いいですか、みなさん――」

 

ベットで布団に潜っていた諸藤さんが恋バナに加わる、と言うより参戦する。

 

……このグループ、ホントに大丈夫だよね?

 

そんな不安はあったものの、いざ合宿が始まると特に問題もなく課題に取り組んでいく。

 

一つわかったのは椎名さんに調理担当は任せちゃいけないってことぐらい。

 

そして休日の日曜日。

3日間の疲れを癒しつつ、クラスのみんなで情報共有という名のおしゃべりをしたりして過ごす。

 

そして待ちに待った夕飯の時間。

昨日はBクラスのみんなに囲まれて出遅れた結果、すでに椎名さんたちと仲良く話していた綾小路くん。

 

今日は事前にクラスの女子とたくさん話しておいたから大丈夫。

彼の隣をゲットすべく食堂を見渡す。

 

……………少し奥の席に綾小路くんの姿を確認できたのだけど、あれはどういうことかな?

 

そこにはたくさんの女子生徒、しかも上級生に囲まれながら食事をしている綾小路くんがいた。

 

よし、帰ったらジムに通おう。

この時、固く決心した。

 

 

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