ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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嘘と真実の割合

「来たか、綾小路」

 

南雲がいつものニヤつき顔で登場する。

 

「メモの相手は南雲先輩でしたか」

 

来たか、と言った以上、オレを呼び出したのは南雲だろうが、それがブラフでオレと堀北兄の密会を邪魔するために間に入ってきた可能性もなくはない。

 

「すまねえな、こんな時間じゃないと可愛い後輩としゃべる時間も取れないほど忙しいのさ」

 

「オレの優先度はオリーブオイル以下ですか?」

 

「そう言うな。軽い冗談さ。それにオリーブオイルは身体に良いんだぜ?」

 

こんな深夜に腹の探り合いは面倒でしかない。

どうせオレが桐山と話したことも把握しているだろうから、こちらからあえて接触したことを匂わせて反応を見る。

南雲も当然こちらがそれぐらいは読んでいると考えているのか、表面上は特に何の変化も見せなかった。

 

南雲も南雲で『25時』を指定したことから、オレと堀北学が昨日接触したことは把握していると暗に言っているようなもの。

 

なまじお互いの手口を把握してるだけに、出会った当初と比べ随分とやりづらくなった。

 

「それで何の御用ですか?」

 

「大した話じゃない。綾小路がこの試験をどう過ごすつもりなのか、考えを聞きたかっただけさ」

 

「随分と遠回しな聞き方ですね。面倒なのではっきりと『勝負の邪魔はするな』とおっしゃってくださいよ」

 

「ハッ、お願いして聞いてくれるタマじゃねえだろ」

 

「条件次第ですけどね。ただ、今回はお二人の協力も邪魔もするつもりはありません。こちらに害があるなら別ですが、何もない限りは試験で良い成績を取れるように頑張るだけですよ」

 

「恐ろしいほど似合わないセリフだな」

 

「生徒会長なら可愛い後輩を信じるぐらいの度量を見せてくださいませんか」

 

「軽い冗談だといっただろ。後輩で可愛いのは帆波ぐらいだ」

 

可愛い後輩の部分も冗談の範囲だったか。

まあ南雲から可愛いと思われるのは背筋がぞっとするので願い下げだが。

 

「俺はこの試験で誰もが驚くような堀北先輩を陥れる策を実行するつもりだ。堀北先輩にも、お前にもオレの狙いがわかるとは思ってないさ。だがな、俺としても変な茶々を入れられたくはない。言いたいことはわかるよな?」

 

邪魔をするならオレを攻撃する準備がある、ということだろう。

 

「こちらの方針は先ほど伝えたとおりです。――ただ、ひとつだけお節介を言うのであれば、余計なことはせずアンタは学と正々堂々戦うべきだ」

 

「説教は無駄だぜ、綾小路。俺は何と言われようと俺の道を行く。ま、それが正々堂々と勝負するって策かもしれないけどな」

 

「そういうことでしたらオレから言うことはありませんね」

 

「ま、そうだろうな。悪かったな、夜中に呼び出して」

 

「トランプ持ってこられるよりはマシでしたね」

 

「ったく、可愛くねえ後輩だぜ」

 

そう言いながら立ち去っていく南雲。

話した内容はともかく、目的は牽制だろう。

こっちの行動は筒抜けだ、とでも言いたげな態度だった。

 

暗い廊下を進む南雲のうしろ姿がそろそろ見えなくなりそうなところで急に立ち止まった。

そして少しの間の後、振り返らずにこちらに問いかけてくる。

 

「なあ、綾小路。同じ嘘つき同士、参考までに意見を聞きたいんだが」

 

「とても心外な評価ですね」

 

「嘘をつくときは真実を混ぜるのがバレないコツだなんて言われてるが、お前は何対何が丁度いいと思う?」

 

「突拍子もない質問ですね。素直に答えるとでも?その答えも嘘かもしれませんよ」

 

「構わないさ。お前がどう答えたか、は紛れもない真実だからな」

 

「嘘を信じさせたいのなら、その嘘以外は真実で固めた方が確率は上がりそうですが」

 

「つまり、真実が9で嘘が1か」

 

こんな問答で何を得たいのか、もしくは全く意味のない話なのか。

 

「俺は、真実なんてものは一つだけでいいと思ってるのさ。大事なのはそのひとつ。その他は嘘で固めてしまっても、その真実を貫くことが大事なんじゃないかってな」

 

「オレの意見と正反対ってことですね」

 

「それもどうだかな。――つまらねえ話をした。寝坊の減点で負けちまったら流石にシャレにならねーからな。お前も早く寝ろよ」

 

今度こそ南雲は闇の中へ消えていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

5日目。

午前中の4時間は、最終日に走る駅伝のコースを下見がてら実際に走る時間に充てられた。

 

往復18kmコースを辿って時間までに帰還すればいいため、登りの多い折り返し地点までは歩いて体力を温存し、後半から下りを利用して走り切る作戦を実行している。

 

「実際は駅伝だし楽勝だな」

 

「元気なのはお前らだけだろ……」

 

「お前、葛城を尊敬してんだったら一緒に筋トレぐらいしとけよな」

 

「そ、それは……」

 

ぐいぐいと先に歩いていく石崎とアルベルトに、バテ気味の弥彦が苦言を投げつけたところ、大きく打ち返された。

 

「俺たちもちょっと疲れてきた。少しは後ろのことも考えて進んでくれよ」

 

Bクラスの面々もあまり運動は得意でないのだろう。坂道を登り切ったところで、額に汗をかき、呼吸も少し荒くなっている。

 

「しゃーねーな。最終日は足引っ張んなよ」

 

ペースダウンする石崎。

ガサツなところはあるが、折れるところは折れる。同じ不良のジャンルでも須藤とは系統が違うのだろう。能力はともかく、石崎の方が空気は読める印象で龍園が傍に置いていたのも頷ける。

 

仮に今のが須藤であれば、遅い奴らが悪いと弥彦たちのケツを叩いてでも進ませただろう。

ただ、その須藤も体育祭以降成長をみせているので、もうそんな対応はしないかもしれないが……。

 

「この坂道の攻略も勝因に関わってきそうだな」

 

啓誠は冷静にコースの分析をしていた。

身体能力の総合力、そして10人である利点を考えると、戦略次第ではこのグループは上位を狙える可能性も十分ある。そんな様子を見ていた橋本が話しかける。

 

「なんか意外だな、幸村はてっきり運動が苦手なタイプかと思ってたんだが」

 

「ん?これでもうちのクラスでは下から数えた方が早いぐらい運動はできない。その分、勉強面で貢献しようとしているところだ」

 

「そうは見えないけどなぁ。ま、同じグループとは言え、クラスの手の内は易々と話せないわな」

 

そんな会話を続けながらしばらく進んだところで、後ろから黙ってついてきていた高円寺の気配が遠のいたため後ろを振り向くと、道を逸れ、森の中に入っていく場面を目撃してしまう。

 

「……」

 

どう考えても厄介ごとでしかないため、放っておくかどうか悩ましいが、ルートを逸れたことで減点になる可能性もある。

 

「すまない、高円寺が森に入っていくのが見えた。ダメもとだが、連れ戻しに行ってくる」

 

近くにいた啓誠と橋本に離脱することを伝える。

 

「アイツ何やってんだ、ホントに……」

 

「体育祭の時はとんだチート野郎を抱えててずりぃと思ってたんだが、お前たちのクラスも苦労してんだなってことが身に沁みてわかったぜ」

 

「清隆なら大丈夫だとは思うが、気を付けてな」

 

「無理だと判断したら放置して早めに切り上げて来いよ」

 

「ああ」

 

高円寺が森に入っていった場所へ戻り、その先へと進む。

無人島のように試験用に整備された場所ではない為、道が舗装されているわけでもなければ、獣道すらない、本当の山道。

 

草木の踏まれた様子など、微かな痕跡を頼りに高円寺を追いかける。

 

ロッククライミングやパルクール技術を取得させたホワイトルームでも、流石に山道で長時間走る科目はなかった。というより、基本的に施設から出ることはないため、山道を歩く経験など積めるはずがない。

 

ある程度覚悟はしていたが、そういった経験のある高円寺を追いかけるのは手がかかる。何が目的で森に入ったんだ……野生に帰りたかったのだろうか。

それならそれでいい気もするが、高円寺を野に放つのは生態系を変えかねない危険な行為だろう。

こんなのどかな大自然の中で外来種のTレックスを暴れさせるわけにはいかない。

 

仕方がないため、少しずつペースを上げていくと、やっと高円寺の姿を捉えることができた。

 

「おい、高円寺」

 

「おやおや、綾小路ボーイじゃないか。こんなところまで追ってくるとは物好きだねえ」

 

「こんなところで何をしてるんだ。勝手な行動で連帯責任になるかもしれない」

 

「君がそんなことを気にするようには思えないよ。私はただイノシシの姿が見えたんでねえ、触れ合うために追っているのさ」

 

「イノシシ?触れ合う?」

 

随分と思いがけない理由だった。

だが、もしかしてモフれるチャンスなんじゃないか。

ここまでの距離と残りのコースの距離を計算してみても昼までの帰還ならまだ時間に余裕はある。

ここでモフってしまえば、無理にポチと接触する必要もなくなり、試験も適当に過ごせるようになるため、悪い話ではない。

 

「高円寺、イノシシはどっちに行ったんだ。早く捕獲するぞ」

 

「おやおやおや、綾小路ボーイ、キミも野生動物の美しさに気づいたようだねえ。ついてきたまえ」

 

こうして高円寺先導のもと、イノシシ捕獲作戦がスタートした――――。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「綾小路、高円寺、お前たちで最後だ。他の一年よりもだいぶ遅かったが何をしていたんだ?」

 

折り返し地点では点呼のため茶柱先生が待機していた。

見かけたのはバス以来だったため、主に女子側の監督をしているのだろう。

 

「気にするほどのことじゃないよティーチャー。野生との触れ合いを楽しんでいただけさ」

 

「野生?まあいい。確認のため、クラスと名前を申告するように」

 

「1年Cクラスの綾小路清隆」

 

「私の名前は高円寺六助だよ。担任なのに、お役所仕事とは悲しいねえ」

 

「無駄口を叩く暇があるなら早く出発することだ、昼食まで残り40分だぞ」

 

「オレは茶柱先生に確認したいことがある。先に行っててくれ」

 

「ゴールまで綾小路ボーイと競ってみるのも一興だと思っていたのだが、君のTレックスが荒ぶっているなら止めはしないさ。エンジョイプレイング!ハッハッハー」

 

「おい」

 

歯が光りそうなスマイルで直球の下ネタを放り込んで走り出す高円寺。

アイツの中でオレはどんな趣向の持ち主だと思われているのか……。

 

「随分と仲良くなったようだな。合宿効果か?」

 

「全て否定させていただきます」

 

幸い高円寺の言ったことの意味は伝わっていないようだ。

茶柱先生も腐っても担任、高円寺の発言を深く考えるだけ無駄だということがわかっているのだろう。わからないことが幸せなこともある。

 

「それでわざわざ残ってどうした。試験攻略に関することか?」

 

「ええ。重要な確認事項が出てきまして」

 

「ほう。聞かせてもらおう」

 

「ポチの毛並みはモフモフですよね?」

 

「……」

 

先ほどのイノシシ捕獲作戦は成功し、高円寺と2人でイノシシを追い詰め、撫でることに成功したのだが……滅茶苦茶、毛が硬かった。モフモフと言うよりゴワゴワと言った感じ。うり坊でもいれば違ったのだろうが、立派に育ったイノシシの毛は身を守るためのものだけあって、撫でて癒されるようなものではなかった……。

 

動物だからといって皆モフモフとは限らない。

当たり前のことを体験してみて初めて実感した。

そのため、もしポチがヘアレス・ドックのように毛のない犬種だった場合、前提条件が覆る。

 

「……」

 

無言のままこちらをじっと見つめる茶柱先生。

まさか、毛が無い、の、か?

 

「嫌な間を取るのは止めてください。重要なことなんです」

 

「私にはあまりにもくだらない話に思えたのだが……安心しろ、ポチはモフモフだ」

 

「信じていましたよ、茶柱先生」

 

こんな試験中でなければ、握手を交わしたいところだった。

 

「飼い犬の毛並みで決まる信頼ほど軽いものはなさそうだな」

 

「そうでもありません、おかげで試験へのやる気が出ましたよ」

 

「そんなことでやる気になるなら、写真でも見るか?試験中はシッターに預けているが、毎日写真を送ってもらっている」

 

「ぜひ」

 

茶柱先生が端末を操作し、いくつもの写真を見せてくる。うるっとした瞳の子犬がこちらを見ていたり、お昼寝をしていたり、元気に走り回っていたり――。

 

犬種はどうやら柴犬のようだ。写真を見る限りモフモフ具合も問題ない。

 

「どうだ、可愛かっただろう」

 

「ええ。会うのが楽しみになりました」

 

「……時に綾小路。昼まで残り20分を切っているが大丈夫なのか?」

 

「……」

 

少しポチの写真を見過ぎたか……。

キロ3分のペースで走ったとしても残り9キロ――27分かかる計算。

本番前にそのペースで走るのも無駄に疲れるだけだろう。

 

結局、そこそこのペースで走ることを選んだ結果、昼食時間の中盤でゴールすることになった。

走り終えたばかりですぐには食欲もわかず、食事を抜くことに……。

ただ、悪くはない午前中ではあったな。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

昼を抜いていたため、夕食が待ち遠しくなった。夕食時間になるなり、食堂へと急ぐ。

 

席を確保して食事を始めていると――。

 

「王子、今日は席を確保してくださったんですね。皆さーん、こちらで~す」

 

すっかり忘れていたが今日はファンクラブの1年との交流か。

昨日、上級生からおおよそ必要な情報は得ていたため、この時間はそれほど重要ではない。

そして、他学年ならまだしも、同学年の女子に囲まれての食事はなんだか落ち着かない。

 

しかし、1年のファンクラブということは平田もいるのではないだろうか。

そうであれば、この時間も過ごしやすくなりそうだ。

 

「諸藤、平田もいるのか?」

 

「ンンン”ー。……すみません、ちょっと刺激が強すぎて、取り乱しました。やっぱり平田王子のことが気になりますよね、ですよね」

 

「あ、ああ」

 

「安心してください。王子同士は水入らずがいいかと思って、明日個別に声を掛けてあります。試験も終盤、二人だけの時間を楽しんでくださいね」

 

違う違う、そうじゃない。

満足げな顔をしているところ悪いが、それでは意味がないんだ、諸藤。

 

悲しいミスマッチに打ちひしがれていると続々と女子生徒が集まってくる。

 

「ファンクラブ通してじゃないと会えないなんて、きよぽんも偉くなったもんだねー」

 

「ひ、久しぶり、だね。清隆くん」

 

「波瑠加、愛里……」

 

「え、あ、気にした?ごめん、ごめん、冗談だって」

 

平田が今日来ないことを残念に思っていたオレの様子を自分の発言のせいだと波瑠加が勘違いしてしまう。

 

「いや、見知った顔がいて安心したところだ。今日はよく来てくれた」

 

同性の平田ほどではないにしても、綾小路グループの面々がいるのであれば少しは気も楽になる。

 

「あ、あの、綾小路くん、は、初めましてっ!」

 

「Aクラスの六角か。ファンクラブに入ってくれてるんだってな、ありがとう」

 

六角とは初対面だったので、しっかりと社交辞令を伝える。

正月に橘に会った際にファンクラブなんてものが本当に存在するのか確認したところ、生徒会役員限定で実在していることがわかったため、この状況を受け入れるしかなかった。

 

「普通は後輩ができる2年生から作られるものなのですが……とにかく、応援してくれる生徒の皆さんは大事にしなくてはいけませんよ」とのことだった。

 

ファンクラブ会員は、一之瀬やひよりなどよく話す面々の他に、六角のようになぜかこれまで接点のなかった生徒も多数入会しているため、この場で話すのは新鮮なものがある。

 

「わ、わわわ、私の事ご存じなんですかー!?」

 

「生徒会だからな。全生徒の名前と顔、おおまかな情報は頭に入っている」

 

「う、嬉しいです。ありがとうございます」

 

そういって手を差し出されたので、握手し返す。

だが、それは間違いだった。

 

「あっ!六角さんずるい。私も~」

 

急遽、握手会が始まることに……ファンとの交流はなかなか難しいな。

今度、堀北兄がファンに対してどう接していたか聞いてみよう。

 

その後は、この合宿についての話題を中心に聞き手に回り、情報収集に努めた。

1年女子の詳しいグループ構成も判明したことで、帰宅後に面倒ごとに巻き込まれる可能性が高いことも分かる。なぜ、あの2人が一緒のグループになっているのか……。

 

夕食の時間もわずかとなり交流会は終了となる。

交流会に、一之瀬がやってくることはなかった。南雲の批判は控えるようにと忠告をできなかったことは気がかりだが……。

試験中ということもあり、クラスで戦略を立てるため欠席の会員もいる。

ひよりもいなかったのはそのためだろう、退学の可能性もある試験で不安を募らせる生徒は多い。その分、各リーダーは大忙しなのだろう。

 

男子も女子もおおよその勝敗が見えてきた現状。

打つ手を間違えれば、こちらにも被害が及ぶ可能性もある。

 

オレはどう動いたものか。

自分のクラスを勝たせるだけなら、グループ分けの時点で概ね成功している。

あとは、各々の動きに合わせて手を打てばいい。

後の先を取る形で策としては問題ないだろう。

 

部屋に戻りながらそんなことを考えていたが、ここ最近の寝不足と昼食抜きで夕飯を食べたこともあり、睡魔が襲ってくる。

 

明日は再び朝食作りで早起きしなくてはならない。

念のためベットにメモが置いていないか確認した後、今日は早めに休ませてもらうことにした。

 

 

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