ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

98 / 172
対抗策の人々

深夜25時。

オレは炊事場で、呼び出した人物を待ちながら南雲の策に対して思考を巡らせる。

 

紐解いてみれば策自体は単純なもの。

堀北学を狙うと見せかけて、裏で橘を退学させる手筈を整えていた。

 

橘はこの6日間、小グループ内で孤立していたのだろう。

学に相談できる機会も限られている上、南雲の宣戦布告で頼りにくい状況も作られていた。結果、誰にも頼ることができず、日に日に追い詰められて限界が近づいていたのが先ほどの姿。

 

決して用心していなかったわけではないのだろうが、南雲のこの試験に対する準備は学たちと違いすぎる。

  

南雲は今回の試験で、2年はBクラス以外、3年はAクラス以外をコントロールできる状況。

組み分けをアイツの想定通りに完了させた時点で、逆転する手段は限られてくる。

 

肝心の退学に追い込む仕組みは(推測も含まれるが)、橘の大グループが最下位になるように調整して、小グループのテスト結果の平均を学校の基準以下にする、ある意味正攻法だ。

誰もが思いつきそうな策だが、実行は不可能だと鼻で笑うような難易度。

前提として都合よく退学にしたい生徒のグループが最下位になるはずがないからな。

 

だが南雲はそれをやってのけようとしている。

女子グループの組み分けを調整して、支配下にある2、3年で試験結果をコントロールする完全な出来レース状態。

 

あとは責任者が、難癖をつけて橘のせいで成績が振るわなかったことにすればいい。

そうして橘を道連れで退学にする計画。

 

予め3年Bクラス――橘の小グループの責任者のクラスには2000万ポイントを渡して、救済ができる状態にしておく。

一方の橘だが、学がポイントを使って救済することは橘本人以外には簡単に予想できる。

 

その結果、3年Aクラスはマイナス400クラスポイント&マイナス2000万プライベートポイントが確定。

対して、3年Bクラスはマイナス400クラスポイントにはなるが、プライベートポイントは失わない。

 

クラスポイントの差は詰まらないが、Aクラスの財源を削る意味で悪い話ではない。

C、Dクラスにしても上位2クラスが勝手にポイントを落としてくれるのだから、願ったり叶ったり。

 

そうして南雲は、Aクラス以外の3年生を抱き込んでこの試験に挑んでいた。

試験のルールにどこまで南雲の手が入ったかわからないが、道連れ制度、男女の交流機会の少なさ、グループ編成の自由度などは、この展開へ持ち込むために南雲が作り上げたとみていい。

 

ここまでして実質南雲には何の得もないのだから、理解に苦しむ戦略ではある。

むしろ、これまでの信頼を失って――失うほどの信頼はないかもしれないが――2000万プライベートポイントも支払うというのは傍から見たらデメリットだらけ。

そこまでして成し遂げられることと言えば、学への嫌がらせ、ぐらいなもの。

学自身、南雲と向き合おうとしていただけに、本当に無駄に近い行動に思えてならない。

 

南雲ならそんな戦略に価値を見出しそうではあるが……あるいは他に何か狙いがあるのか?

 

「綾小路、こんな時間に呼び出して何の用だ?」

 

南雲の考えを探っていると逆転のカギを握る待ち人がやってきた。

 

「遅くにすみません、石倉先輩。こんな時間でなくては話せないような内容でして、先輩にもその方が都合がいいと思います」

 

3年Bクラスの石倉。

オレたちの大グループの3年で責任者も務めている。

 

「それでその内容ってのを早く聞かせてくれよ。睡眠不足はパフォーマンスを下げる」

 

「では、単刀直入に申し上げます。オレはこの試験であなたを退学にすることにしました」

 

「はぁ?」

 

突然の申告に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする石倉。

 

「1年の小グループは退学ラインを切らないギリギリの低い点数をとります。そして、3年Bクラス以外の先輩方には退学ラインを切るように説得済みです」

 

「冗談なら帰らせてもらう」

 

「冗談だと思われるならそれで構いません。ただ、その場合は3年Bクラスから2人退学者を出すことになりますよね?」

 

「……」

 

呆れた表情をしてこちらの話を真に受けていなかった石倉だったが、核心を突く言葉に押し黙る。やっと聞く耳を持ったところで、こちらは淡々と話を進めさせてもらう。

 

「救済にはひとり300クラスポイントと2000万プライベートポイントが必要。それとは別に2人退学者を出したペナルティで200クラスポイントが引かれます。そんな負債を背負って残り数か月でAクラスを倒せるんですか?」

 

「……どこまで知っている?」

 

「少なくとも石倉先輩よりも情報は持っていますよ。プライベートポイントはどうにかなっても、600クラスポイントは払えませんよね?AどころかCクラス転落ですから。となると、確実にどちらかは退学ですか。卒業前に戦力ダウンですね」

 

わかりきっている情報をあえて口にする。相手は自分の置かれている状況を嫌でも再認識し、勝手にこちらが全てを知っているのではないかと不安になりはじめる。

 

「何が目的だ。俺に何をさせたい?」

 

「勘違いしないでいただきたいのですが、これは取引ではありません。決定事項を伝えただけです。あなたがどう行動しようが、あなたの退学は決まりました。あえて助言するのであれば、ダメージを減らすためにもう一人の方を退学にしないように働きかけるべきではないでしょうか?」

 

「……フフッ、ハハハハッ。面白い一年がいたもんだ。見事なハッタリだぞ。だがな、そんな見せかけの脅しを俺が信じるわけがないだろう。それにもう一人、なんてのも身に覚えがない」

 

腐っても3年間この学校で生き抜いてきただけはある、か。

高圧的に脅しをかけても、こちらの話を簡単には信じない。

いや、表面上だけでも信じていない様に振る舞うことができている。

だが、それも織り込み済み。

 

「石倉先輩。悪いことは言いません。綾小路の言うことは本当です」

 

「桐山、なんでここに?」

 

「もちろん、桐山先輩にも協力してもらっているからです」

 

校舎の陰から桐山が姿を現す。

話に説得力を持たせるため桐山に声を掛けておいた。

簡単に状況を説明したところ、ノータイムで協力を引き受けてくれた。さすが堀北派。

 

「俺も試験では可能な限り低い点数をとって、間違いなくこの大グループを最下位に落とします。それで堀北先輩が勝って、橘先輩が救われるのならリスクは受け入れます」

 

南雲の近くにいる存在――桐山が現れたことで、オレが南雲の策を看破していてもおかしくはなくなる。つまりオレの話した内容に現実味が増し始める。

 

生徒会の2人が堀北元会長、橘元書記を助けるために、南雲にバレないよう水面下で行動しているのだと、石倉はそう感じただろう。

 

「お前たちがどう喚こうと、この話が真実かどうかは他の3年に確認すれば済む話だ」

 

「それで納得なさるならどうぞ。ただ、これから罠に嵌めようとしている相手に本当のことを話すかはわかりませんが」

 

「石倉先輩、あなたに恨みがあるわけではありません。できれば退学者が出る展開には俺もしたくはないんです。何が一番か考えてくださいませんか」

 

「いいや、俺がそうであるように他の3年がお前たちの話を易々と鵜呑みにしたとは思えん。生徒会長と副会長どっちを信じるか?と問われたら、実績も権力もある生徒会長の方だ」

 

中々折れない石倉。

だが、それは悪手だ。とことん追い詰める口実ができたようなもの。

 

「では、はっきりと申し上げますが、これも南雲の策の一環ですよ?」

 

「どういう意味だ?」

 

「妙だとは思わなかったんですか。あれだけ堀北学との直接対決を望んできた男が、あなた方を利用して橘先輩を狙うことを」

 

「それは……堀北への宣戦布告とかそんなところだろ」

 

「違いますね。南雲はこの展開を見越していた。この時期までクラス争いが続いているのは南雲にとってただただ迷惑なんですよ。そうですよね、学年で争ってるうちは、いつまでも自分との勝負に向き合ってもらえないんですから」

 

「……」

 

「だから南雲は3年Bクラスと協力するフリをして逆にトドメを刺す計画を立てた。あとはこの通りです。オレたちがあえて告げているのは、石倉先輩のためでもあるんですよ?」

 

「いや、それはおかしい。堀北は今回南雲と向き合っているんだろ」

 

「時間軸の問題ですね。南雲も今回の勝負で堀北学がその気になるとは思ってもみなかった。そこで策を実施するかは悩んだかもしれません。ただ、それでも実施したのは、オレたちがここでこうしていることとも関係しています」

 

「話が見えてこないな」

 

「つまり、この場に堀北学が来ていないのはオレたちが独自に動いているからではなく、最初から堀北学の命令で陰で動いているからです。だから、他の3年生の説得も容易でした」

 

「……今回の試験、蓋を開けてみれば堀北との一騎討ちじゃないことに気づいたから、策を実行して俺たちを消すことにしたと?とんだとばっちりじゃねえか!俺たちを生徒会のいざこざに巻き込むんじゃねえよ」

 

「南雲の甘言に乗ったのはあなた方ですし、気の毒に思ったからこそ、退学者が出ない方法を好む学は助け舟を出したんです。わかってくださいましたか?」

 

「……クソッ。お前たちの話は理解した。だがな、おいそれと決断できることでもない」

 

「それはそうですね。幸い試験まではまだ時間があります。賢明な判断をされると祈ってますよ」

 

顔面蒼白の石倉は重い足取りで、されど長居はしたくないと言わんばかりの勢いで立ち去った。

 

「綾小路、今日ほどお前が味方で良かったと思ったことはない。よくもまあ口が回るもんだ。普段とのギャップにも驚いたが……一体何手先まで読んでいるんだ。石倉先輩もバスケ部の主将を務めただけあって、それなりの実力者のはずなんだがな……」

 

「大した事でもないですよ。オレも先輩たちのために必死だっただけです」

 

「今のお前を見たら堀北先輩も誇らしく思うだろう。それでこれから俺たちはどうする?」

 

「あとは、予定通り試験の成績を調整するぐらいですね」

 

「それで本当に上手くいくのか?3年の先輩の説得はまだなんだろ?」

 

「それにはお答えできません。桐山先輩が裏切るとは思いませんが、事実を知らない方が打てる策も多いですから」

 

「お前がそう言うならそれに従うことにする。今更お前の実力を疑う必要もないからな。悔しいが俺は橘先輩の危機にも気づけなかった……」

 

「気になさる必要はないですよ。オレもたまたま女子生徒との交流で気になっただけですから」

 

「そうか?では俺もこれ以上部屋を空けるのは怪しまれるだろうからな、戻らせてもらう」

 

「ええ」

 

尊敬する先輩の力になれたことが嬉しいのだろう。

石倉とは違い、桐山は上機嫌で帰っていった。

 

先日南雲は真実と嘘の割合、なんてことを言っていたか。

オレに言わせれば、そんなことを気にすること自体がずれている。

あらゆる手段を使い、真実も嘘も、どれを信じさせるさせるかコントロールすればいいだけの話。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「そういうわけで、みんなには申し訳ないがこの小グループはテストの点をなるべく抑えさせてもらう」

 

7日目の朝。

明日は終日試験でグループでの行動は今日が最後となる。

オレは朝の掃除に向かう前に南雲の関連の話は伏せつつ、グループメンバーに方針を伝えることにした。

 

「ま、高得点獲れって言われるよりは気楽でいいな」

 

責任者の石崎も特に反対はないようだ。

退学にはならないよう上手く調整すると説明はしたものの、クラスポイントだけではなく、プライベートポイントまで減少するため、不満が出ることも覚悟していたのだが……。

 

「清隆の言うことも一理ある。このメンバーで勝つよりも15人グループが勝った方がメリットが大きい」

 

啓誠は濁してるが、得点の倍率だけでなくAクラスの人数面でもオレたちが勝つと旨味が少なくなってしまう。

逆に負けるなら少人数編成のこのグループが一番ダメージが少ない。Aクラスが2人いるのもポイントだな。

 

その方針をBクラスが否定するわけもなく、Aクラスの2人はというと――

 

「俺らとしても的場グループが勝つ確率が上がんなら文句はねえさ。綾小路を抑えられたと前向きにとらえるぜ」

 

と、それらしいことを言ってはいるが、先日の密会のこともあり、橋本がこちらの動きを否定することはない。

弥彦も特に問題ないのか、橋本の話に合わせて黙って頷いた。

 

後は南雲の出方に合わせてこちらが微調整するだけ……南雲の最終目的が何なのか、ギリギリまで見極めが必要だろう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

最終日の授業もつつがなく進んでいく。

どの授業も明日の試験へ向けたまとめであったため、特段変わったこともない。

 

そうしてあっという間に夕食時間となる。

 

今回はファンクラブの交流会もないため、ゆっくりした時間を過ごせそうだ。

 

……と思っていた5分前の自分に今日は夕食を抜きにしてでも食堂には寄るな、と伝えたい。

 

「ちょっと聞いているのかしら、綾小路くん?」

 

「すまん、5分前の自分と交信できないか試していたところだ」

 

「全く何を言っているのかしら?合宿の空気にあてられおかしくなってしまったのね。確かに兄さんと距離の近いこの合宿は刺激が強くて危険そのものとも言えるわ」

 

「そうだな、じゃ明日は頑張ってくれ」

 

「待ちなさい。まだ話は終わってないわ」

 

適当に同意してさっさと立ち去ろうとしたが、そのささやかな願いは叶わない。

 

5分前、食事のトレーを持って席を探していたところで後ろから肩を掴まれた。

何事かと振り向けば、堀北妹がジトっとした目つきでこちらを睨み突っ立っている。

 

「席を探しているんでしょ?だったらここが空いているわ」

 

「……遠慮させ――」

 

「私とは食事できないとでも言うのかしら。そうね、副会長様は生徒会の方々と食べたいということね。向こうに南雲生徒会長が居たから呼んでくるわ」

 

「喜んでご一緒させてください」

 

渋々堀北妹の前に座る。

この感じもなんだか久しぶりだな。

それにしても南雲を引き合いに出してくるとは、オレの嫌がることばかり達者になってきた。

 

「それで何の用だ?試験に関してなら今更どうしようもないぞ」

 

「あなた、また勝手に色々動いていたようね……。それについては帰ってからしっかりと聞かせてもらうとして――」

 

帰ったらしっかりと聞かせないといけないのか。

オレもこのまま森に消えて野生になるか……。

 

「今回は別件よ。……櫛田さんとの仲をあなたに取り持って欲しいの」

 

「何の冗談だ?」

 

「いえ、本気よ。彼女に対抗するにはあなたが必要だと判断したわ」

 

入学当時、櫛田から堀北と友達になりたいからと協力し酷い目にあった。

まさか、その時と逆になろうとは……。

 

そこからオレは、堀北と櫛田の合宿での日々を聞かされることになる。

なぜか一緒のグループになっていたこの2人の数日間を――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。