ようこそ実力至上主義の生徒会へ   作:まぐまれむ

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火に油を注ぐ

「本題に入る前に一つ確認させて欲しいんだが、堀北は櫛田のこと避けてたよな?」

 

夕食の時間。

目の前に座る堀北妹は、何を考えたのか、櫛田と仲良くなるため同じグループに志願したらしい。

 

飛んで火に入る夏の虫――退学を狙う相手のところに自ら突撃する自爆特攻スタイル。

なんだかんだ堀北退学のピンチを防いできたにも関わらず、この仕打ちなのだから救われない。

もし南雲と櫛田が手を組んでいたら1発アウトだったな。橘のおまけで退学にさせられていたら冗談にもならない。

 

「……最初に敵意を示したのは櫛田さんの方よ。当時は気にもしなかったけれど、このままではダメだと私も学んだわ。彼女は優秀な生徒。学年末試験に向けて和解しておきたいの」

 

「あー……」

 

櫛田から退学、退学と言われてきたから感覚が麻痺していたが、そう言えば堀北は櫛田から退学を望まれてることを知らないのか。

あくまでなぜか自分を嫌っているクラスメイト、という認識なのだろう。

他クラスならともかく自クラスから退学を狙われる状況はイレギュラーではあるため、そこまで考えが及ばないのも仕方はないが……。

 

「しかしなぜオレが必要だと思ったんだ?流石の生徒会でもお友だちを作る手伝いはしていないぞ」

 

「くだらないことを言っても誤魔化されないわよ。彼女がこれまでいくつかの試験で陰ながら助力してくれていたことは薄々気づいていたの。もし彼女を動かせる人間がいるとしたらあなたぐらいじゃない?」

 

「消去法か。クラスのためを想った櫛田の善意かもしれないだろ」

 

「その場合、彼女ならさりげない形で成果をアピールするんじゃないかしら」

 

「……否定はできないな」

 

櫛田の原動力は、承認欲求によるところが大きい。

自主的に何かをするのであれば、それは誰かに気づいてもらう形で行わなければ櫛田としては意味がない。

何だかんだ堀北も櫛田のことを少しはわかっているようだ。

 

「これでも自分の力でできる限りやろうとしたのよ?」

 

「……一応聞かせてもらおうか」

 

「そうね、話は初日――グループ分けまで遡るわ」

 

あ、これもしかしなくても長くなるやつか?

何が起こったか把握しておくことで、後々の櫛田対応に活用できるかと思ったが……しまったな。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「それじゃグループ分けしていこうか!何か意見がある人はいるかな?」

 

合宿初日。

グループ分けが始まると、1年女子全員に声が届くような元気の良さで一之瀬さんが呼びかける。

 

「皆さんで仲良く話し合おうとしているところ申し訳ございませんが、私たちAクラスは勝つためのグループを作らせていただきます。皆さんもそうされてはいかがですか?」

 

その呼びかけに坂柳さんが反応する。

各クラス12名に他クラス1名ずつを加えた高得点を狙うグループを作る提案。

 

「いいアイディアだね、坂柳さん。異論はないよ」

 

「私も一之瀬スポンサーと同意見です」

 

思いの外、すんなりと提案を受け入れる各クラスのリーダー。

 

「えーと、清隆くんクラスの代表は堀北さんでよろしいんですよね?ちょっとご相談があります」

 

「何かしら?」

 

新しくDクラスのリーダーになったという椎名さんから手招きされる。

それにしても、とても不本意な認識。確かに綾小路くんが目立ってはいるけれど、彼のクラスという表現はどうなのだろうか。

綾小路くんはいつもいつの間にか策を打って結果を残している。そのことは評価できても、あれだけの実力を持ちながらクラスを率いてAクラスへ導こうとはしない点は褒められない。

ただ、私にはそれを責める資格があるはずもない……。気づけば彼と比べて、人望も実績も実力も……何もかも不足している。

 

だからこそ、私も変わらなくてはいけない。

この特別試験、配点や勝敗に他学年が関わってくることから、無理に勝ちにいくよりも、退学者を出さないことを優先して、今後のこと――学年末試験はもちろん、来年度以降のことを見据えて行動するべきかもしれない。

私にとって、その第一歩が櫛田さんとの和解だ。

 

同じ釜の飯を食うとはよく言ったもので、この合宿、同じグループになれば一週間ほど寝食を共にすることになる。

それだけの時間があれば、いくら私でも関係改善のきっかけぐらいは掴めるはず。

 

「――というわけで、私たちB、C、Dで協力をしてAクラスを追い詰める策を考えています」

 

「いいんじゃないかしら。私としてもその方が助かるわ」

 

特別試験での結果をうまく平均化し、Aクラスとの差を縮める作戦。

椎名さんが考えたのかしら。協力なんて龍園くんがリーダーだった頃には考えられなかった手ね。

いずれにせよ、これなら櫛田さんのことに集中できる。

 

「それじゃ、具体的なグループを決めていこっか。まずはクラス内で固まっていく感じで、そこからクラス毎の組み合わせを決めてく感じかな」

 

すでにグループが完成したAクラスを置いて、一之瀬さんの提案のもと、まずはクラス内で4~5人グループを作ることに。

 

「みーちゃん、私たちと一緒にグループ組もうよ」

 

櫛田さんの声が聞こえた方を見ると、彼女の後ろには井の頭さん、森さん、前園さんが控えている。

つまり、王さんの勧誘が成功してしまうと5人グループが結成されて私の入る隙がなくなってしまう。

 

「ちょっといいかしら」

 

「えっ?あ、はい」

 

突然の話しかけたことで王さんが固まってしまう。

そこまで驚かなくても良いのに、とは思うけれど、これも身から出た錆とでも言うのかしら。

 

「……あれれ、何か用かな堀北さん?」

 

「櫛田さん、申し訳ないのだけれど、あなたのグループに入れてもらえないかしら?」

 

「んんー……あ、そっか、堀北さん組んでくれる人いないんだね。グループに入れて助けてあげたいのも山々なんだけど、ごめんね、もう定員なの」

 

「そこを何とかしてもらえないかしら。幸い、まだ王さんも返事をしていないし交渉の余地はあると思うのだけれど」

 

「私も意地悪で言ってるんじゃないよ?この試験って退学する可能性もあって大変そうだし、堀北さんはもっとクラスのために勝ちを狙えそうなグループを組んだ方がいいんじゃないかな?」

 

「一理あるわね。ただ、あなたと私が組めば上位も狙えると思うのだけれど?」

 

「いやいや、私なんかじゃ無理だよ~。ほら、運動できる小野寺さんとかさ、色々器用な松下さんとか。チームワークなら佐倉さんとかもいいんじゃない?」

 

「私はあなたと組みたいと言っているのだけれど?」

 

「私は堀北さん以外と組みたいって言ってるんだよ?」

 

櫛田さんは笑顔を崩さない。が、火花が飛び散る、とはまさしくこういう状況ね。

何を言っても了承してくれそうにない櫛田さん。

ただ、こちらもこんなところで折れるわけにはいかない。

 

「わ、わ、私は別のグループでいいので、堀北さん、どうぞ」

 

「ありがとう、王さん」

 

「みーちゃん、遠慮しなくていいんだよ。堀北さんが我が儘言ってるだけなんだから」

 

「皆さんと一緒に組めないのは残念ですが、私は他のグループでも頑張れますから」

 

「そっか……でも無理はしないでね」

 

「はい」

 

こうして王さんが譲ってくれたおかげで櫛田さんと一緒のグループになることができた。

 

その後は他クラスとの組み合わせだったのだけれど、私としては櫛田さんと組めたことで最大の課題を達成したようなもの。

他クラスの知り合いなんてそもそも限られているため、動向を見守らせてもら――

 

「あ、一之瀬さん、その組み合わせだと、少し嫌だなって思う子もいるかもしれないから、私が交代しようか?」

 

「え、いいの、櫛田さん?」

 

何食わぬ顔で自然と他のグループへ移動を試みる櫛田さん。

全く油断も隙もないわね。

 

「ダメよ!櫛田さんは今回の試験で私と組む、これだけは譲れないわ」

 

「一之瀬さん、堀北さんの言うことは気にしなくて大丈夫。ああ見えて寂しがり屋さんだから、我が儘言ってるだけなんだ」

 

「え、えーと……」

 

「移動するなら私も一緒よ」

 

「堀北さん、一之瀬さんを困らせるのはどうかと思うなぁ」

 

「それなら、最初から移動なんてしなければいいのよ。別にあなたが交代する必要はないでしょ。前園さんあたりに交代してもらいましょう」

 

「だったら私のグループに無理やり入ってきたのは堀北さんなんだし、堀北さんが移動するのが筋じゃないかな?」

 

「あなたと一緒に組む、という前提条件が崩れてしまうじゃない」

 

「そんな条件崩しちゃえばいいんだよ」

 

「あの、ふ、2人とも、落ち着いて話しあ――」

 

「「一之瀬さんは黙ってて」」

 

「そういうところは息ぴったりだね……」

 

私たちの間に入ろうとして、諦めて一歩下がっていく一之瀬さん。

さて、どうやって櫛田さんの逃亡を防ごうかしら、その手段を考えはじめた時だった。

 

「あのー、横からすみません。実は私たちもグループ構成で困っておりまして……思い切って、こういうのはどうでしょう?」

 

椎名さんが私たちの話に入って提案をしてくる。

主にDクラスでグループに入れてもらえなかった生徒たちを中心としたチームに、監督役としてリーダーの椎名さんを加え、結局孤立してしまっていた王さん、誰からも好印象の一之瀬さん、余ったAクラス生を組み合わせたグループ編成。

 

「少し他のグループの人数バランスが崩れてしまいますが、これで損をするのは私たちのクラスですし……いかがでしょうか?」

 

「私は構わないよ。それでグループ分けが完了するならそれに越したことはないし」

 

「そうね。こうしている間にもグループが決まったAクラスは戦略を立てられる。こちらも早く完了させるのは良いと思うわ」

 

一之瀬さんと私は同意する。

 

「反対ですっ!帆波ちゃんをそちらのグループへ渡すわけにはいきませんっ!」

 

「千尋ちゃん!?」

 

どこから出てきたのか、Bクラスの白波さんが現れ、一之瀬さんの腕を抱きしめ猛抗議を始めた。

 

「うーん、白波さんのことを考えると私も反対かなぁ」

 

これ幸いと櫛田さんが白波さんに便乗する。

まさかここまで拒否されるとは。理由に心当たりはあるのだけれど……その点も含めて櫛田さんと話し合う必要がある。

 

「えっとね、千尋ちゃん、気持ちは嬉しいんだけど、試験突破のためには必要なことだから」

 

「帆波ちゃんはまたそうやって1人で全部抱え込んじゃうんでしょ。だから、1人にしたくない」

 

「大丈夫だよ。私、全然抱え込んでないし、このぐらいじゃへこたれないから」

 

「でもでも……」

 

一之瀬さんは、心配そうに見つめてくる白波さんの頭をそっと撫でながら説得に入る。

 

「――わかった。でも、無理はしないでね、帆波ちゃん」

 

「もちろんだよ」

 

「話がまとまったようですね。では、このグループを結成するということで申請してきます」

 

白波さんが納得したことで椎名さんが担当の先生のもとに向かう。

しれっと櫛田さんの意見を聞かずに行ってしまった。

もっと大人しいタイプかと思っていたのだけれど、意外と行動力があるようね。

彼女と対決することになれば侮れない存在となるかもしれない。でも、おかげで今回は助かったわ。

 

そうして女子のグループ分けは幕を閉じ、櫛田さんとの共同生活が始まった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

一之瀬グループでなぜかみーちゃんがCクラス1人だったのは堀北のせいだったのか。

人畜無害なみーちゃんに対して酷いことをしたものだ。

ひよりがいてくれなければ、人見知りな彼女はグループで浮いてしまい上手く試験を乗り切れなかったかもしれない。

初日の夕食時間に一之瀬がぐったりしていたのも納得がいく話だった。

 

「そこからは仲良くなるためのコミュニケーションを欠かさなかったわ」

 

橘が勝ち誇ったときに見せるような自信に満ちた表情を見せる堀北。

碌なことにならない未来しか見えない。

 

「一応聞いておこうか」

 

「まずは座禅の時間ね。毎回、櫛田さんの横や後ろをキープして、姿勢のアドバイスをさせてもらったわ」

 

座禅で隣に座る堀北から小言を言われ続ける櫛田の姿を想像し、血の気が引いてく。

 

「朝食作りでは彼女の料理を褒めつつも、改善案を伝授したわ。彼女も中々の腕だったけれど、まだまだ工夫の余地はあったもの」

 

櫛田の料理にケチをつけるとは……。仮に堀北が櫛田以上の腕を持っていたとしても、櫛田からしてみれば屈辱でしかなかっただろう。

 

「運動の時間も一緒に走ったり、裸の付き合いも大事と聞いたからお風呂にも同行して――」

 

「状況の理解はできた。もうその辺でやめてくれ。心臓にも胃にも悪い」

 

「ここからが良い所なのに、もったいないわね」

 

これまで対人関係を蔑ろにしてきた弊害。人のことを言えないオレでもマズいと思うのだから、余程だろう。

先日の交流会で2人が一緒のグループになったと聞いて嫌な予感はしていたのだが、これは想像以上だな。

プライベートな時間を作ることも難しい環境で常時堀北が周りをうろつく日々。

手頃なフェンスもないこの林間学校では、ストレスは溜まる一方だろう。

学校に戻った後、反動で櫛田がどんな恐ろしい退学マシーンへと豹変するか……。この合宿から帰りたくない理由が増えてしまった。

 

「それで7日目にしてオレに頼ってきたのは――」

 

「昨日から櫛田さんから露骨に避けられてしまうようになってしまったの。この食事にも誘おうとしたのだけど、授業後ダッシュで消えて行ってしまったわ」

 

逆に良く昨日まで持った方だと櫛田を褒めたいぐらいだ。

 

「オレに櫛田を探して欲しいってことか?」

 

「いいえ。櫛田さんの出現ポイントは予測がついているの。でも、私が行っても話もしてくれないわ。だから、まずはあなたが引き留めて、そこに偶然を装って合流する作戦でいきたいの。綾小路くんがいるなら露骨に嫌な顔をすることもないでしょうし」

 

「それはどうだろうな……」

 

唯一櫛田の裏の顔を把握している人物がいたところで、遠慮するだろうか。

むしろ、ストレスマックスの櫛田が堀北へ退学してもらうとカミングアウト。

その覚悟を察したオレも腹を括って――

 

「櫛田、やるんだな、今ここで」

「うん!退学は今、ここで決める!!」

 

そのまま2人で堀北を討ち取って森へと投棄する――といった強硬手段に出る結果になってもおかしくはない。

最終試験前夜にそんな犯行をする気にはなれないな。

というより、女子生徒が1人行方不明は試験どころじゃなくなる……こんなことで台無しにされれば流石の南雲も嘆きそうだな。

 

「出現ポイントとか言っていたが、それは確かな情報なのか?」

 

「もちろんよ。ここ数日の行動パターンから言って8割は固いわね」

 

コイツのストーキング力を見誤っていた。

兄貴への執念がこんな才能を開花させていたとは、流石の学も思わないだろう。

無駄足になる可能性を理由に辞退する作戦は無理か。

 

「オレが協力するメリットは?」

 

「あら、櫛田さんの時は良くて私の時は手伝ってくれないの?薄情なのね、綾小路くん」

 

あの時のことをまだ許していないわよ?と言わんばかりの表情で睨みを利かせてくる堀北。

オレに利益がないことを主張する作戦もとん挫する。

この協力を拒否するのはお前のためでもあるんだがな……。

 

「ダメもとだからな?」

 

「ええ。今は藁にも縋りたい状況なの」

 

「藁くらいにしか思っていないならやめにしないか?」

 

「あら、藁だって束ねれば家を作ることだってできるのよ?」

 

「それ、オオカミにあっけなく吹き飛ばされるヤツだな……」

 

「ネガティブなことばかり言ってないで、さっさと移動するわよ。時間もないわ」

 

時間がないのは堀北の長い語りが原因だろ、とツッコむ気力もなくなっていた。

この後の惨劇をどう回避したものか……。

 

堀北に引っ張られて渋々食堂をあとにする。

 

食堂のある本棟から女子の使用している分棟へと続く道の途中、少し離れた物陰に2人で身を隠す。

 

「そろそろよ」

 

声を潜めた堀北の囁きが耳をくすぐる。

この状況を誰かに見られただけでも色々アウトになる可能性が高い。

早く来てくれ櫛田……いや、来ない方が楽なんだが……。

一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちが膨れ上がってきた時だった。

友人に囲まれて、分棟へと向かおうとする櫛田が現れた。

 

「……おい、他の生徒も一緒なんだが?」

 

「櫛田さんの人望なら当然ね。さ、早く行って取り巻きから彼女を引き離して頂戴」

 

「どんどん事態が悪い方向に向かっている気がするのはオレだけか?」

 

「ええ。あなただけよ」

 

全くブレない堀北。この自信はどこから来るんだ……。

このままスルーした場合、堀北から何をされるかわからない。ここで罵詈雑言を浴びせられ騒がれた結果、2人で密会していたと櫛田たちに発見された方が面倒。

それならまだ櫛田と上手く話を進めた方がマシか。

オレは意を決して櫛田たちの前に出ていく。

 

「あれ?綾小路くん?どうしたのこんなところで……」

 

こちらに気づくと不思議そうな顔で尋ねてくる。

位置的にも男子生徒がこの通路を使うことはないからな。

あるとすれば、女子の誰かを待つ時ぐらいだろう。

 

「少し、櫛田と話をしたいと思ったんだが……邪魔だったか?」

 

「えっ、そうなの。何かな?」

 

「ここじゃちょっとな。少し移動してもいいか?」

 

堀北は櫛田との一対一の対話を望んでいるからな。

取り巻きを離しつつ、その後、誰にも邪魔されない校舎裏に誘導する必要がある。

 

「「「キャー」」」と櫛田の取り巻きの生徒から黄色い声が上がる。

 

「もちろん、いいよ!ごめんね、みんな先に行ってくれるかな」

 

うんうんと頷き取り巻きの女子たちがオレと櫛田を交互にチラチラと見ながら去っていった。

 

「悪いな、せっかくの交流時間に」

 

「全然だよ。みんなとはいつでもお話できるしね」

 

ストレスマックスかと思ったが、機嫌がいいのかニコニコしている櫛田。

距離を詰めてオレの横にピタッとついて一緒に歩き出す。二人三脚を思い出すな。

ただ櫛田に限ってはその表情や態度は表面上だけの可能性もあるため、気は抜けない。

 

「それでこんな人気のないところまで連れ込んで……何の話かな?」

 

何の話だと思ってるんだ?と聞き返したくなるほど、艶やかな表情の櫛田。

堀北の企みとは口が裂けても言えない空気になっていく。

 

「その……グループ分けの話を耳にしてな。少し心配になったんだ」

 

「……そっちの話?」

 

「どっちの話だと思ったんだ」

 

「なんでもない。まぁ確かに、夕食時間はハーレム小路くんだったもんね、女子の情報も把握できたよね、私には全然会いに来てくれなかったのにね」

 

とても棘のある言い方だが、あの状況を見ていたのであれば否定はできない。

 

「でも心配してきてくれたんだったら水に流してあげようかな、うんうん」

 

「それはありがたいな……」

 

「じゃ、アイツの愚痴に付き合ってくれるってことでいいんだよね?はぁぁ、ホントこの合宿中マジでうざかったんだから」

 

先ほどまでの雰囲気とは打って変わってブラックな櫛田さんが登場する。

想像通りかなりのストレスを抱えている様子。

前向きに考えるなら、ここで少し発散させておけば帰宅後少しはマシになるかもしれない。

 

「ああ。何でも話してく――」

 

「あら、櫛田さん偶然ね」

 

これ以上ないほどの間の悪さで登場する堀北。

 

「綾小路くん、どういうことかな?」

 

こんなところで偶然会う確率なんて皆無に等しい。

当然オレの関与が疑われる。

 

だがここで、実は堀北に協力してました、なんてことがバレたら……少なくとも櫛田の味噌汁を飲むことは二度と叶わなくなるな。

 

「逃げるぞ、櫛田」

 

「「えっ!?」」

 

櫛田を抱きかかえ一目散に走り去る。

まさかオレが櫛田を連れて逃げ出すとは考えていなかった堀北は反応が遅れる。

 

「すまない。堀北のストーキング力を侮っていた。オレが尾行されていたのかもしれない」

 

「え、あ、うん、そうだよね。綾小路くんが裏切るわけないもんね」

 

「ああ。退学、退学」

 

「うん。退学、退学」

 

無理矢理感は否めない強硬手段だったが、何とか疑いは晴れたようだ。

本棟に戻ったところで櫛田を降ろす。

 

「櫛田は他のルートから分棟に向かってくれ。オレはここで堀北を食い止める」

 

「……ありがとう。帰ったらさっきの続き、シようね」

 

ドキッとするような言葉のチョイス、これが堀北への愚痴の続きでなければ、だが。

そういって櫛田は人気の多い方へ向かい、群衆へ紛れていく。

 

「ちょっとどういうつもり?」

 

程なくして堀北が追い付いてきた。

こちらはこちらでご機嫌斜め。

 

「櫛田と話してみて、今、堀北と接触させるのは逆効果だと判断した」

 

「どういうことかしら?」

 

「それがわからないようじゃ、一生櫛田とは仲良くできないだろうな」

 

「……」

 

思うところがあったのか、じっと口をつぐむ堀北。

 

「押してダメなら引いてみろ、って言葉もある。明日は試験だろ、そっちに集中すべきじゃないか?」

 

「……そうね。焦って少し空回りしていたのかもしれないわ」

 

堀北は俯き、分棟の方へ歩き始める。

堀北には悪いが、今のアイツが櫛田に何かをしたところでマイナスにしかならない。

オレの帰宅後の身の安全のためにも大人しくしておいてもらおう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

そんな騒動があり、やっとのことで就寝時間。

この硬いベットが安らぎに感じるのだから、オレも疲れがたまっているな、早く寝よう。

 

「このグループも明日までかと思うとちょっと寂しいな」

 

「橋本、お前そんなキャラかよ?」

 

「そういうなって、石崎。……なんだか寝付けなくてよ。せっかくなら眠くなるまで少し話そうぜ。合宿ならではの話、まだしてないだろ」

 

消灯後しばらくして橋本がポツリとつぶやいた。

合宿ならではの話とは何だろうか?

 

「なんだよ、恋バナか何かでもすんのか?」

 

似たような疑問を抱いたのか、石崎が尋ねる。

なるほど。こういった場ではそういった話をするものらしいな。

他人の恋愛話も恋愛を学習する上で参考になるだろう。

オレも参加させてもらうか。

 

「馬鹿だな、石崎。男が集まってんなら猥談に決まってんだろ」

 

……よし、巻き込まれないよう寝たふりでやり過ごそう。

 

「おぉっ!テンション上がんぜ」

 

「俺はパスさせてもらうからな。そういった話には疎い」

 

いいぞ、啓誠。

そのままこの話題を終わらせてくれ。

 

「真面目ぶんなよ、幸村。お前だってエロいなって思ってる女子とかいんだろ」

 

「い、いや……そんな風に学友をみることは――」

 

「いやいや、それはないぜ。あの雫ちゃんと一緒にいて何も思わないとかあるか?もう一人の長谷部って女子も色々ヤバいしよ」

 

「2人が女性として魅力を持っていることは否定しないが……」

 

啓誠が押されている。学問の話であれば強気に出れる啓誠も、この手の話題じゃ不利か。

少しぐらい助け船を出すことにする。

 

「愛里も波瑠加もただの友達だ。オレたちはそういった目では見てない」

 

「お前は良いよな、綾小路。夕飯の度に女子に囲まれてよ。よりどりみどりってわけだ」

 

「チクショー。イチモツがデカいやつは心の余裕が違うってか」

 

「なるほど、清隆の妙に達観して落ち着きのある態度は、そこの自信から来ていたのか……」

 

偏差値が駄々下りの会話をしてるぞ?

しかも啓誠まで変な方向で納得している始末。

この感じ、須藤に池、山内がオレの部屋に入り浸っていた時を思い出すな。

 

「なあ、綾小路。女関係の武勇伝の一つや二つ聞かせてくれよー。あるんだろー」

 

「I want to hear」

 

「そんなものは――」

 

……なくもないのか?これまで幾度も修羅場を乗り越えてきた気がする。

あれらを武勇伝と言えるかどうかの判断は今のオレにはできないな。

歳を重ねていった時、オレもいつか後進へ自慢げに話すようになるのだろうか。

 

「なんだよ、出し渋るのか?」

 

「そう言われてもな……」

 

何と答えるのが正解なのか。

 

「ハッハッハ、随分と愉快な話をしているじゃないか」

 

「げ、高円寺。なんだよ、急に」

 

「たまには君たちのくだらない話に加わるのも面白いかもしれないと思ってねえ。もちろん、私の話は参考にならないだろうが、チルドレンが恐竜にドリームを持つのは仕方のないことさ。チェリーボーイたちにリアルを教えてあげようじゃないか」

 

「高円寺の◯◯ボーイ呼びが正しく使われてる、だと!?」

 

「言い返せないのが悔しいが……興味はあるんだよな、ぜひ聞かせてくれよ」

 

「そうだねえ。まずはイタリアで出会ったヴィーナスの話から始めようか」

 

本人にそんな意図はないだろうが、高円寺に助けられる日が来るとはな。

くだらない会話が盛り上がり始めたことで、オレは目蓋を閉じることにした。

 

25時ごろ、誰かが部屋を出ていく気配がして目が覚める。

一瞬、後を追うべきかどうか悩んだが、連日深夜に密会を続けたこともあって睡魔に抗える気がしない。

どうして25時に誰も彼も動きたがるのか。

今日ぐらいはゆっくり睡眠を取ることにした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「龍園さん、そういうことで俺らの小グループはわざと手を抜いて点数を下げる方針ッス」

 

「クク、なるほどな。石崎、お前は気づかれないうちに早く部屋に戻れ」

 

「うっす」

 

「ってことらしいぜ、生徒会長さんよ」

 

石崎が校舎へ戻ったことを確認し、龍園が声を掛けてくる。

目立たない物陰に身を潜めて様子を伺っていたが、気づいていたか、あるいはハッタリか。ま、どっちでも構いはしない。

 

「よく俺が来ているとわかったな。褒めてやろうか?」

 

「ハッ、いらねえよ。言うだけタダだからな。本当にいやがったとは信用されてないようでガッカリだぜ」

 

「情報は通す人数が増えるほど湾曲するからな。なるべく早いフェーズで聞くことにしてんのサ」

 

ついでに言えば、一つの情報だけを鵜呑みにもしない。

今の話は、こちらの手駒にしてある弥彦から聞いたものと一致する。

綾小路の方針の情報に間違いはないと見ていい。

 

「用心深いこった。だが、石崎の言う通り、綾小路の野郎は前会長を勝たせたいんだろうよ。クク、現役の会長さんは余程人望がないんだろうな」

 

「どうだかな」

 

「ま、これで今回の命令は完了だろ。俺も帰らせてもらうぜ。明日を楽しみにしといてやるよ」

 

そう言って龍園は不敵に笑いながら校舎へと足を進める。

 

これまで集めた情報から考えて、綾小路のヤツは俺が橘先輩を退学へ落とす為の策を見抜いたようだ。

 

だが、それもいくつか想定していたシナリオのひとつにすぎない。

アイツが関わってきた時点でこのぐらいは見抜く可能性は十分にあった。

 

だが、見抜かれたところで綾小路にとって後の祭り。橘先輩の退学を防ぐ手は限られてくる。

 

1つは綾小路がやろうとしているように、石倉たち3年Bクラスを脅す方法。

もう1つは、橘先輩の大グループを最下位にしない方法。

 

前者はそうなった時のための対策は考えてある。

明日の朝、石倉たちへは追加の指示を出せばいい。

後者は実行不可能だ。

 

綾小路は勘違いしているだろうが、椎名ひよりはすでにこちらの駒だ。

龍園がリーダー交代を申し出た時に、それを許可する代わりに新リーダーである椎名にも龍園たち同様、逆らえば退学になる契約を結んだ。

契約が続行する限り、1年Dクラスはこちらの手駒。

椎名と綾小路は茶道部経由で交友があるため油断はできないが、今回に限ってはターゲットが綾小路ではなく、椎名にとっては赤の他人。

退学のリスクを負ってまで助ける理由がない。

 

結果、ここまでは俺の指示に従い、綾小路の小グループの情報を同室のDクラス生に報告するよう手配し、女子グループはDクラスを中心としたメンバーで揃え、そこに帆波を入れたグループを作らせた。

帆波を入れることで綾小路への牽制にもなる。あいつはまた帆波が狙われるかもしれないと気が気でなかっただろう。

そしてその小グループは俺の用意した2、3年と大グループを組んだことで、全学年で明日の試験の成績を落す手筈が整った。

確実にあの大グループは最下位になる。

 

信じていた仲間から裏切られ敗北する。

その経験は、綾小路に人間関係への疑心のタネを植え付け、今後誰を信用していいのかわからなくなる。

力を伸ばしているアイツの勢いもここまでだな。

 

……結局こうなっちまったか。

俺に逆らったらどうなるのか、思い知ってもらうしかないよな。

アイツらは救おうとして救えないどころか犠牲者を増やす選択をしちまった。

 

大事な人間が苦しみ、失敗する様をみて、あの完璧な男――堀北学はどんな表情を見せてくれるのか。

 

試験結果の発表時間が楽しみでならない。

同時にこんなにも楽しい時間が明日で終わってしまうことに、一抹の寂しさも感じる。

 

「ああ、本当に――」

 

本当に勝負ってのは、どうしてこうも生を実感させてくれるのか。

 

曇って月も星も見えない真っ暗な空を仰ぎ、合宿最後の夜は幕を閉じてゆく。

 

 

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