私が国境付近の警備から戻ってから数刻の事。
エルシアが起きたと聞いて、私は急いで医務室へと向かった。エルシアが気を失った後の事を話す為でもあったが、個人的には自分を慕ってくれており、何度か手合わせをして育てた優秀かつ信頼における騎士だからだ。
しかし…巨躯なせいで他の兵士達から恐怖心と威圧感を与えてしまっていた私に対してよくフレンドリーに接してくれるものだ。エルシアを除いて私を恐れぬものは、他の強き騎士と我が主、アルトリス聖国国王であるコード…テイルズ陛下だけだ。
「エルシアは?」
「こ、こちらです騎士長…」
医務室へ着いた私は看護師にエルシアの元へと案内された。既に起きてはいたものの…
「酷い顔つきだな…どんな気分だ」
「察して下さいよ…」
最悪な気分だったようだな…
「着いたばかりで医師から何も聞かされて無いが、身体は大丈夫なのか?」
「ええ…まぁ…身体には異常は無いみたいで…強い疲労状態に近いって言われました…恐らく他の兵士の皆さんも…」
「起きてるのはお前だけだが…」
「多分私にされたのが弱かったから…あっ!そうだ!あの後どうなったんです!?てかどうして私…ここに…?てかアンダルシアさんは国境付近の警備にいたはずじゃ…」
こういう少し冷静をかいてしまう癖さえ治してくれればな…
「落ち着けエルシア。順を追って説明するが…少しややこしくてな…まだ立てるのは…」
「いいえ…大丈夫です。ちょっとフラつきますけど、歩く分だったらいけます」
「なら着いてきてくれ。話すよりも見る方が早い…」
「?」
ああ…今エルシアの頭に疑問符が浮かぶのが見えた気がするな…。とりあえずエルシアはベッドから立ち上がってフラつきながらも私に着いていった。
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連れてきたのはアルトリス聖国の陛下が暮らす城の地下の独房、それも最奥という危険指定された存在が送られる場所だった。このあたりは、微妙な均衡で保たれた平和の影響か、運よく今まで危険な存在が現れなかったのか、ここには今まで誰も送られた者は居なかった。今日までは……
「ここ…来たの初めてです…」
「安心しろ。私もだ。ここまで来る道中は何度が来たことはあるがな」
「なんでここに…?」
「すぐ分かる」
と、私は最奥の牢の扉の前までエルシアを連れてきた。
「一体誰が…え……」
扉の小さな鉄格子を覗いて、エルシアは驚いた。まぁ驚くのも無理はないな………
「おや、意外と早く目覚めましたね」
そこに居たのは自分を襲撃した当の本人なのだったからな…
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「レイ……エルピス…」
私はその名を口ずさんだ。
「おや、覚えてくれてたんですね。はい。レイ…エルピスです。レイでもエルピスでも好きな方で呼んでください。私としては…レイの方で呼んで欲しいなぁ……なんちゃって……」
なんと呑気な…
「とりあえず…レイ…なんで貴女がここに…」
「そうですね…私から説明するのもいいんですが…そちらの…」
「アンダルシア…オクテストだ」
「では…そちらのアンダルシアさんからも話したそうな様子ですし、まずはそちらからで」
「むう…」
小さな格子越しから見える情報だけでこちらの様子を察した…しかもアンダルシアさんの顔はあまり見えないはずなのに…魔術を使った感じもないのにどうしてアンダルシアさんの考えが読めたんだろうか…完全に相手のペースに乗せられてしまってる私達…
向こうのペースに乗せられてしまってる私達。
果たして彼女は一体…何者なのだろうか…
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「こいつのペースに乗せられるのは癪だが…話すとしようか」
悪態をつきながらもアンダルシアさんは説明をし始めた。
「まず何故かここで寝ていたかなのだが、簡潔に説明するとな…お前が倒れた後、城に連れて来たのは他でもないこいつなのだ」
え?
「しかも兵士複数人を同時に複数回往復してな」
は?
「そしてその後自分からここに捕まっているということなんだが…」
「ちょっ…!ちょっと待ってください!色々と訳わかんないんですけど…!私を一人で、しかも兵士の人達も一人で全員城まで連れて来たって何なんですか!?で、自分から捕まったって…」
「私もだ…この女がお前を連れてきたと連絡が入ってすぐ戻って私が帰ってきた時に丁度近衛兵達が囲んでいてな…」
アンダルシアさんも困惑していた…
「この方が他の兵士の方たちと雰囲気が違って見えたので、この方がこの城で高い地位にいる方と判断させてもらい交渉させてもらいました。で、少しでもそちらの警戒心を解いてもらう為にあえて捕まることにした訳です。はい」
「…という事だ」
だから余裕があったのか…。無理矢理捕まったんじゃなくて自分からあえて捕まる事で交渉に持ち込むことが出来る。自らの優位性をある程度確保出来る。
そして実際戦ったから分かる事だけど…多分やろうと思えば城に…国に被害をもたらすことだって出来る力を持っている。けど彼女は望んでいなさそうだ。そこは安心出来そうな点だ。
「ここからが本題だ。貴様は一体何者だ?どこから来て何が目的なのだ?あの光の輪はなんだ、そしてお前のその力は何なのだ?」
「質問が多いお方ですね…そういうのは一つずつ丁寧に…と言いたいところですが…理解の及ぶ事やら…うーん…そもそも言語が異なってた時点で文明のレベルに差があるようにも思える…から…信じてもらえるかな…うーん…どうだろう…」
何やらブツブツと言い始めた…。
「では改めまして自己紹介から。私の名前は…先程も言いましたけどレイ…エルピス。私の国の秘密組織が極秘で進めていた『対終末平和維持計画【エルピス計画】』によって生まれた改造人間です。その初号体……それが私です」
改造人間…聞き慣れない言葉が出てきた…
「エルピス計画…知らんなそんなものは。聞いたことも無い。それで貴様は何処の国の人間だ?」
「すみません。計画の関係上所属国は喋れないようにプログラムされてまして…」
「プログラムだと?まるでルファの科学で使う言葉だな…」
「喋れないって…でもこうやって喋って…」
「『あいうえお』」
「へ?」
突然意味不明な事を言い出したレイ。
「『あいうえお』です。あの…そちらからはなんと聞こえましたか?」
「うむ…『あいうえお』と聞こえたが…」
「ああ…やっぱり…機能稼働してるみたいですね…私は国の名前を言ったつもりなんですけど、言語プログラムの影響で別の言葉にすり替えられてしまうみたいなんです」
「どこに所属しているか分からないようにって事?」
「そんな感じです」
機密漏洩に厳しいんだ…。でもなんで『あいうえお』なんだろうか…。何か意味があるのかな…?
「あるゲームでもこんな機密漏洩対策の仕方がありましたね…休暇の時にやりこんでましたけど…あれは面白いゲームだったなぁ…続編がないのが残念…」
ゲーム…?続編…?
「では次に目的は…現状は特にありませんね」
「何?」
「そもそも私は何処かの国からやって来たわけではないのです」
他所の国から来たわけじゃない…?よく分からない…あんなに強かったら何処かで噂にはなるくらいなのに…
「信じられるかどうか分からないのですが…」
「何が言いたい?」
「私は…この『世界』の人間ではありません。別の時空…パラレルワールド…別の…『異次元の世界』から来た人間なんです」