ステンノという愛について【完結】   作:AIRUNo(旧AIRU)

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ステンノが怪文書含め好きなのですが、2次創作が少ないのと、あまり描かれないシーンを観てみたいということで自分で書いてみることにしました。


愛の始まりの終わりについて

 

 

 彼女が聖杯にかける望みはない。

 

 

 既に叶わないものと知っているから。

 

 

 遠い過去、あの島で家族と過ごした日々は二度来ない。

 だから愛おしい。

 

 

 それでも、もし彼女が望みを抱くことがあるとすれば。

 彼女が、私でなく私だけの望みを得るとすれば、それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きたとき、藤丸立香は自分の令呪が2画消えているのに気付いた。

 いつもより早く目覚めた。

 多分、布団の下が全裸である違和感のせいだ。

 

 

 

 

 (裸……?)

 

 

 

 

 更に右側には冷たくも温かい感触。

 目をやると、そこにはガラスのように透き通った紫色。

 自分と同じく布一つ纏っていない、紫髪を下ろした女神が寝息を立てていた。

 彼はようやく、微睡みから目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 昨晩、彼とステンノは一線を超えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 それは2人の関係性が縮まったためでもあり、

 別世界の自分たちと混線が起きたためでもあり、

 

あるいは

 

ただ他の職員やサーヴァントが来室せず、2人だけの時間が長く続いた偶然のせいでもあった。

 

 

 

 ステンノは、以前から彼を惑わさなくなった。

 勇者を散々に弄ぶのは彼女の趣味だったが、この少年は女神がいくら揺らしたところで心は揺れない、揺れる暇もないほど疲弊していて、それでいて覚悟が決まっていると気付いたからだ。

 ただ生きたい、自分と共にいた仲間たちの想いと記憶を引き継いでいたい。

 それは神話時代のギリシアで見られない臆病さであり、今の彼女からすれば面白みのない精神性。

 だというのに惹かれてしまうのは、誰よりもボロボロになっているというのに、相手に心配させまいと浮かべる愛想笑いが、とても見ていられなかったからだ。

 

 惑わす女神が惑わされたのなら、落ちる答えは一つだけ。

 彼の最期を見届けるべく、気まぐれながら純粋な手を差し伸べてみせるのだ。

 

 

 

「レベル100、宝具レベル5、絆レベル10……」

 

 

 

 彼女はマスターのベッドの上で自らのプロフィールを眺め、艶やかな声で口ずさむ。

 絆を数値化しようだなんて、不思議なことを考えるのね。

 パーティに選ばれた回数、戦闘の難易度から逆算して与えられた数値を当てにはしない。

 けれど、少なくともカルデアの中では一番マスターに頼られているサーヴァントの1人だと自覚する。

 

「ねえ、マスター……どうして私なのかしら。私を一番に戦闘に連れていくのは、どうして?」

 

 ベッドに腰掛けてそんなことを言った気がする。

 そう、銀の飾りを小さく揺らし、彼の側で囁いたのだ。

 そしてマスターは手で顎をさすりながら、何でだろうと考えこんでいた。

 

「同じ暗殺者のクラスなら、インドの女神様や拳法の方のほうが戦闘慣れしてるというのに」

 

「そうだね……あ、でも彼らは強い分、俺の魔力を消費しちゃうから、いつも連れて行くわけにはいかないんだ」

 

「なら同じ魔力消費の、黒髪の無頼漢や忍びの人、天狗のお師匠様はどう? 最近だと、ワルキューレの方々も召喚されたのだし」

 

「ステンノは、俺に選ばれるのが嫌なの?」

 

 言われて、女神は自分が何を呟いていたかに気付いた。

 それは彼女にとって意外な感情であり、けれど表面には出さぬよう髪を撫でて誤魔化す。

 

「そうね……人を虜にするのは嫌いじゃないけど、戦いに出てしまうと、(エウリュアレ)やメドゥーサといる時間が減ってしまうのだもの。それに……女神をそういつも簡単に使役できるなんて思われるので、釈然としないわ」

 

 そう言ったとき、マスターの顔に曇りが見えたのをステンノは見逃さなかった。

 最も一緒にいたからこそ、その些細な傷つきを何度も見てきた。

 勇者が絶望する顔ではない。

 小さく優しい少年が、誰にも知られず傷つき、そして今もまた作り笑いをしようとしている。

 そのわずかな一瞬に見せた、私だけしか知らない顔。

 

(ああ、その顔はダメ。だってそんな顔されたら……)

 

 

 

 ギュッ

 

 

 

 気づけば、マスターの頭は女神の胸にギュッと抱きしめられていた。

 マスターが驚きの声を上げるより先に、ステンノの口が動く。

 

 

「ねえ、最近は(エウリュアレ)がアステリオスの世話をしているのは知っているでしょう。私たちは、人間なんて大嫌いだけど、それでも手を差し伸べたくなるときがある。それが(エウリュアレ)にとってはアステリオスだった。そして(ステンノ)にとっては……」

 

 

 ふと、たまに見る夢の景色を思い出す。

 2人がガッコウのドウキュウセイで、2人で勉強して、遊んで、時に危険な場面にあって切り抜けるような、そんな幼稚なラブロマンス。

 サーヴァントは夢を見ないと聞いたけれど、ならあれはどこか別の世界の自分でも垣間見たのだろうか。だとしたら

 

「あんなの女神である私には程遠いと思っていたけれど…案外…悪くないのかもしれません……」

 

 言葉を端折って、そうマスターに言ってみる。

 彼は胸の中で頷く。彼もまた同じ夢を見ていた。

 それがくすぐったのは、彼が動いたからか、胸の奥が高く跳ねたからか。

 

 分からないけれど、彼と彼女は互いに目を合わせた。

 言葉は要らない。なら、この唇は何をするべきか。

 全てはあまりに自然と、2人の境界を溶かしていく。

 そしてそのまま、指を重ね、肌を合わせ、2人は白地のシーツの上で、流れるままに愛を歌った。

 

 

 

「フフッ、リツカ。好きよ……えぇ、本当に」

 

 

 ベッドの中で、裸の2人。

 ステンノはマスターに抱きつき、彼に頬擦りしながら愛を囁いた。

 弾んだ愛らしい声は、愛する彼だけに送られる甘い音色。

 

「偽りの愛を語る楽しさには慣れていたけど、こうやって好きという気持ちを素直に出すのも、心地良いわ。ねぇ、リツカ?」

 

 そう言ってステンノはまた彼の上唇を(ついば)んでみせた。

 リツカはその頭を優しく撫でて、白く柔らかな女神の身体の感触を楽しむ。

 その汗で蒸れたシーツからは、彼女に染み付いた爽やかな海の匂いがした。

 

 それは青年にしては初めての不思議な感覚だった。

 男である以上性欲もあれば、女性の身体に興味もある。

 けれどステンノと繋がったときというのは、興奮しているはずなのに劣情が一切なくなり、世界が2人の交わす喜びで満ちていた。

 ステンノもまた、いつもの上品ながら相手を試すような口調が消えて、自分の中の愛情を相手に目一杯伝えることに夢中となっていた。

 その名残が、今もこうして、驚くほど可愛らしい笑みと共に言葉で表れている。

 

「はぁ、アナタとずっとこうしていたい……」

 

「俺もだよ。君とこうしていたい……」

 

 余りにも甘くありきたりな愛の妄言。

 それは戯言と知りつつ、この瞬間は心からの願いであった。

 そうして彼らは蕩けるような睦言を楽しんだ後、そのままどちらともなしに眠りについた。

 

 その後、立香は目覚めて今に至る。

 脇ですやすやと眠るステンノに和みつつ、昨晩は3画あった令呪の使い道を思い出そうとしていた。

 

(今は1画だけしかないけど、これは昨日全部使って、夜に一画分回復したからだ。夜の7時は……何もしてない、8時もシャワーを浴びて、皆と談笑して別れて……ステンノが部屋に来たのは9時だっけ)

 

 頭の中で言葉を並べて冷静に時系列を分析しようとするが、どうも手がかりはない。

 そんなことより、このまま皆の起きる時間になり、部屋に誰か来ても困ると、立香はそっと脇の少女を起こさぬようベッドから降りて片付けを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──-ということがあったのよ、私」

 

 

 

 ここはゴルゴーン三姉妹の部屋。

 妹たちにいつもの如く命令を与え、部屋には姉2人が残っている。

 双子で容姿も本質も似通ったはずの2人だが、現在一方は無表情、一方は背景に花を撒き散らすほど浮かれた表情である。

 

「ねえ、(ステンノ)。それだと周りにバレてしまうわ」

 

「あら、(エウリュアレ)、まだ跡が残っていたかしら。それとも、匂い? お風呂とラベンダーの香水で誤魔化せると思ったのだけど」

 

「違うわ、その緩みきった顔よ。ちょっといつもの人間を弄ぶような女神の微笑をしてみなさいよ」

 

「いいけれど……コホン、『女神の微笑(スマイルオブザステンノ)』」

 

「ダメね、全然ダメ。それだと満面の笑みよ私」

 

 溜め息をつくエウリュアレ。

 疲れて部屋に帰ってきた途端、姉の見たことのない姿に驚き震え上がるメドゥーサたち。

 

 そして偶然は、一つが何かが起きるから偶然なのではない。

 いくつもの要素が同時に重なるからこそ、偶然

 なのだ。

 ここに今、2人の間に3つの試練が生まれていた。

 

 その一つの始まりはあまりにもありきたりな愛の話。

 ステンノも立香誰も知らない中、その女神の身体で、小さな命が宿ろうとしていた。

 

 

 

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