ステンノという愛について【完結】 作:AIRUNo(旧AIRU)
「呂将軍、出撃!」
「■■■■■────ー!」
陳宮の合図と共に現れたのは三国志最強の一角こと呂布奉先……を模した絡繰り兵である。
それでも弱兵相手に引けをとることなく、村民を戦闘不能にしていく。
陳宮の奥の手が一つである。
「すごい、これで戦力差は埋まりました!」
「マシュ殿、喜ばれるのはまだ尚早にございます。我々はあの祭壇を破壊する術を考えねばならないのですから」
そう、敵を追い払うのは前提条件。
彼らが目指すのは、奥の祭壇の破壊。
あれを壊さない限り住民は解放されず、彼らの魂を糧に成長するトリニティーを止められないだろう。
しかし特殊耐性でもついているのだろう、ただの石積みでないために、サーヴァントであっても傷をつけるのが精々。
もっと破壊力のある一撃が必要だ。
それにこれは戦力を埋めたのではない。
陳宮自身の魔力を前借りして回しているのみである。だがそれでも決定打にはならない。
陳宮は深く目を瞑った。
(……致し方なし)
「マシュ殿! 後は頼みましたぞ! 貴方はカリギュラ殿と合流後、虚月神殿を目指されよ」
「陳宮さん……!?」
大胆不敵、薄ら笑いすら浮かべて、陳宮は大声を上げた。
「ではこれより、我が奇策を披露致しましょう」
そう言って手元から巻かれていた竹簡を紐解き、場に魔術を張り巡らせる。
パチンと音がした。
「まずは1つ」
マシュを襲っていた敵が、全員ピタリと動きを止めたかと思うと、陳宮へと向きをかえてきた。
敵の意識をズラすスキル「スケープゴート」である。
「次いで1つ」
防御を捨てたことで、村民に襲われダメージが入る。
同時にその機体へ魔力を送る陳宮にも、限界が近づいてきた。
「これでも足りぬとは……では」
太い竹簡の一束を取り出すと、大きく展開する。
魔力の高まり。マシュは悟った。
宝具だ。
「陳宮さん!!」
「実に合理的な判断です。マシュ殿とその盾に宿る召喚サークルと、一介の軍師1人。どちらを生かすか天秤にかけるなど、動作もないこと……マシュ殿、行きなされよ」
マシュは彼の宝具を知っている。
対象を一時的に超強化することで、カルデア内でも上位の破壊力を繰り出すもの。
だがそれは、代償として暴れた後に霊基はボロボロとなり消滅する。
つまり生贄となるサーヴァントが必要だ。
けれど、陳宮の目を見て、マシュもまたその覚悟を知った。
「はい、陳宮さんもご無事で!」
マシュは立ち去る。
その言葉に軍師は苦笑した。
「初戦を前にまず主が病に倒れ、軍師が力尽きる。いやはや、常の戦とは全くの事態ですな。しかし、この波乱こそが戦の醍醐味にて」
マシュと自らの防御強化がかけられた状態の中、村人の群れが蟻の如く彼に掴み掛かり丸くなっていく。
「軍師自らすらも囮とする、奇策冷血を以て終わらせましょう」
「『
マシュがカリギュラと共にマスターを連れて村から離れたとき、村の中央で大きな音と共に爆発が起きた。
(陳宮さん……)
だが、振り返りはしない。
彼の繋いだ道を閉ざさぬためにも、マシュたちは虚月神殿へと急いだのだった。
□□□
「……今、大きく揺れなかった?」
立香はステンノに尋ねた。
横に座る彼女はキョトンとする。
「そう……? 気づかなかったわ」
彼女は薄いベールのような服をするすると脱ぎ、音を立てて床に落とした。
立香はベッドに腰掛け、窓の外に輝く海と満月を見ていた。
右手を胸に置き、高まる心臓の鼓動を落ち着かせる。
ここはどこかのホテルの寝室、だったと思う。
海岸の出来事から、記憶が飛んでいる。
気づけばここにいて、シャワーで潮の匂いを落とし、ここで彼女が浴びる水音を聞いていた。
(今、自分は幸せの絶頂にいるはずだ)
立香はそう思っていた。
デートをして、恋人となり、愛を確かめ合う。
誰もが憧れるラブロマンスの一歩。
だというのに、幸福より緊張が優っている。
視界の端に、髪を下ろした少女のシルエットが映る。
立香はまだ振り向けないでいた。
少女は白絹のような肌を晒したまま、ベッドに上がり、立香の背中に抱きついた。
柔らかく細い腕が首から肩にかけて絡まる。
右耳に息が触れ、そっと囁かれた。
「リツカ……好き、大好きよ」
男なら誰でも蕩けてしまうほど、蜜のように甘い響き。
更に彼女は枝垂れかかり、より強く、滑らかな二つの胸から腹の中央の感触が背中に伝わる。
だというのに、立香は汗を流すばかりで動けない。
胸を手で抑えたまま、振り向かない。
最後の最後まで、躊躇している。
それはステンノを抱きしめることではない。
ここが現実でないと、認めることを躊躇しているのだ。
「……ダメなんだ、ステンノ」
「緊張しているの? ……私もよ」
「俺は、抜け出さなきゃいけないんだ」
心臓の熱さではない。
右手に宿る令呪の跡が、火傷のように熱く身を焦がす。
陳宮の膨大な魔力消費を、マスターもまた感じていた。
立香に平凡な大学生活なんてなかった。
つまらない授業から抜け出すこともなかった。
10代のうちにカルデアへ来て、人理のために戦う彼にはそんなものはなく、だからこそ憧れてしまっていた。
「それでも大学とは違うんだ。自分にしかできない大事な任務を、俺は投げ出すことはできなかったんだ……!!」
「リツカ、こちらを向いて……顔を見させて」
シャワーを浴びたはずの身体から、果実のようにかぐわしい匂いが漂ってくる。
その指先は立香の胸の中央をなぞり、吐息はますます濃くなる。
水滴が滲み、2人の肌を行き交い、シーツを湿らせる。
蛇のように思考を絡め取るその魔性に、立香は語りかける。
「ステンノ、俺たちは現実に帰らなくちゃ。皆が待ってるんだ。それに……」
君は、人間を愛したことなんて、一度もなかっただろう?
立香は振り向いた。
ステンノは悲しそうに笑っていた。
「だから……愛してみたかったのに」
ステンノはマスターへ体重をかけ、ベッドへ倒れさせる。
そして彼の腰へと座り、自身の裸体を晒すのも構わず、じっとその身体を眺めた。
「傷だらけの肉体、未熟な心……そして、今の私を前にしてその表情。私、貴方が気に入ってるの。契ってもいいほどに……」
「それが君の目的か」
「マスター、私ようやく変われたのよ……。昔の愛される女神から、誰かを愛せる女神へと」
立香の身体は動かない。
おそらくステンノがスキルを使っているせいだ。
昔の彼女なら、優雅でないこと、自ら必死になることを決してしなかっただろう。
だが、マスターに幻夢を看破され、突き放されてもまだ、彼を手に入れた証を求めようとしている。
「お願い……私に愛させて……」
そうして、彼女は小さな口を精一杯に開き、その牙と舌を以てマスターの首筋に噛みついたのだった。
ステンノを取り巻く謎を抱えて、前半終了。
まだまだ様子のおかしいステンノ様は一体どうなるのか。
今日はおまけの1話分更新します。
R18表現は、要望あれば別枠でちゃんと書くかも…