ステンノという愛について【完結】 作:AIRUNo(旧AIRU)
長身美麗の女性、
自分はなんてダメなのか。
上姉様(ステンノ)の妨害があったとはいえ、カルデアで与えられたマスターと同行するという役割すらこなず、レイシフト装置の前に置き去りとなった。
お詫びに何か手伝おうにも、司令部の機器や魔術を扱えるわけもなく、壁の染みのように端で佇むばかり。
マスターたちは画面の向こうで魔獣と戦闘をしているが、ステンノを含めた4騎はフォーメーションを組んで立ち回っている。
むしろ自分よりも乱入してきたはずのステンノのほうが、あのパーティで上手く噛み合っている気さえする。
こうして特に役立つことがない、むしろ大きな置き物として邪魔になると卑屈になった彼女は、顔には出さないが深く落ち込みつつ部屋へ戻っていった。
「うわ、なにそんな根暗な雰囲気漂わせて……廊下にカビが生えるじゃない」
その途中、驚きの声に顔を上げると紫のコートを羽織る魔女、キャスター・メディアが顔をしかめていた。
メドゥーサとは少しばかり縁があり、友情はないが腐れ縁で繋がっているような関係だ。
「……メディア、ですか。今日も勝気な生活は変わらないようで」
「だからそんなジメジメとした声を出さないで頂戴。見てるこっちまで気分が下がってしまうのよ……というか、貴方。マスターに同行してレイシフトしてたんじゃないの?」
「……あぁ、そうですね。しかしこの通り役立たずとなり、自室で帰る途中ですがなにか?」
「はぁ、全く貴方たち姉妹はよく予想外なことを起こすものね。最近は多すぎるんじゃない?」
「最近、ですか。むしろ姉さまたちは、落ち着いていると思いますが……」
確かに姉たち2人はトラブルメーカーだが、ここ最近は大人しい。
エウリュアレは、最近は頻繁に高難易度任務へ駆り出されたり、休日はアイドルの衣装を纏いライブに参加したりと忙しい。
ステンノもまた、よくマスターの元へと向かっており、周囲に魅了と難題を振りまくことは殆どなくなった。
「何言ってるの、貴方の姉に私がこの前も難題ふっかけられたの知らないの? ほら、霊基の話」
「……?」
「だーかーら、貴方の姉のステンノに、霊基を変える術式を組むよう頼まれた話よ。それとも貴方、あんなに一緒にいて、まさかそのことを知らなかったの?」
「いえ、私は特に……まさか上姉様は、アサシンから別クラスになっていたのですか?」
「知らないわよ、私は彼女用の魔術を仕上げて、スクロールに描いて渡しただけ。その後は会っていないから」
上姉様の霊基が変わった?
でも今朝までの彼女に、別段変化はなかった。
水着を着るとクラスの変わるサーヴァントもいるらしいが、服装はいつも通りだったし、何か新たなスキルを披露された記憶もない。
そもそも、ステンノは不変なる美の女神という在り方をもつ神霊。
霊基を弄ろうにも不変である以上、大きく変わることはないはず。
「なぜ上姉様はそのようなことを……」
「さあねぇ、また気まぐれじゃないの。……時間を使いすぎたわ。貴方と立ち話する気はなかったし、私はもう行くから」
そう言ってメディアは去っていった。
多分、彼女の師匠であるキルケーからの呼び出しを受けたのだろうと、あの不機嫌っぷりから察する。
そんなことより。
(上姉様が霊基を変える魔術を貰い……そして先ほど、私の席を奪ってレイシフトされた……)
一体何を企んでいるのだろうか。
何より、ステンノの不可思議な挙動と微小特異点の出現が重なったのは偶然か。
自分の直感が、先手を打たなければと告げる。
もしステンノが帰還するまでにその謎を突き止めなければ、酷いことにあうのは自分であると。
姉の怪しい企みは、その9割がメドゥーサに返ってくるのだから間違いない。
「乗り気ではありませんが……仕方ありませんね」
メドゥーサはどこから眼鏡を取り出す。
水着霊基ではないが、衣装を変えることくらいは多くのサーヴァントが行っている。
彼女もまた、趣味の読書をしていたとき、一時期は探偵小説に影響を受けて、捜査用の服をミス・クレーンに繕ってもらったのだ。
白い手袋をし、茶色を基調とした英国紳士風の外套にミニスカート、チェック模様のニーソを吐く。
気は乗らないがシャーロキアンな鹿撃ち帽を被り。
気は進まないが虫眼鏡を携えて。
「フフン……では行きましょう、ワトソン!」
名探偵メドゥーサは、ステンノの謎を解くべく立ち上がったのだ。
(未来のわたしは、何をしているのでしょう……? ワトソンとは?)
同室にいる幼いメドゥーサ(ランサー)は、鏡の前でポーズを取る迷探偵の様子に首を傾げていた。
□□□
(まずはマスターの部屋を調べましょう。上姉様が私たち姉妹で暮らす部屋以外で、一番よくいる場所ですし)
そう判断して、メドゥーサは主人不在の部屋へ大胆にも侵入した。
探偵気分で少しテンションの高まっているため、多少の倫理観などは気にしない。
「う……」
部屋に入って最初に、霊薬をこぼしたかのような濃厚な異臭がして怯んだ。
部屋の奥には空瓶が散乱しており、ここでマスターが何かを使用したのは明白だ。
僅かに残る、空き瓶の中の薬を少し舐めてみる。
「ペロ……これは、愛の霊薬!」
実際は謎の物質βという地球外成分である。
だが、彼女の読みは当たっていて、ここには複数種類の霊薬や液体成分の薬瓶があり、愛の霊薬もその一つである。
「それにベッドから上姉様の匂いが微かにします……まさか。ベッドに腰掛けて、マスターに薬品を大量に飲ませる戯れをなさっていたのでしょうか?」
実際は立香とステンノが交わった残り香である。
しかし、何度も洗濯によって汚れは落とされたはずのため、その僅かな匂いを嗅ぎ取る嗅覚は、常日頃から姉妹の衣装を洗濯し続けてきたメドゥーサにしかできない技であった。
「あとは……サーヴァントたちからの贈り物が飾ってありますね。あ、この本は羨ましい、あとで借りれないものでしょうか」
何分、有名な芸術系サーヴァントによるオリジナル作品や、偉人による珍しい贈り物などが溢れているため、気もそぞろになりやすい。
遂には少しだけ……とページをめくってしまい、名探偵が真実に辿り着くのはまだまだ先となりそうであった。
「その瞳は逃がさない」というドヤ顔の可愛いライダーさんの礼装がイメージ元です。
ちょっとずつ謎が解けていくかもしれないし、いかないかもしれない。