ステンノという愛について【完結】   作:AIRUNo(旧AIRU)

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前回の鹿狩帽を見たナーサリーライムの反応は、鏡の国のアリスで鹿が登場するシーンからです。


Wave4 駆ける道、欠ける夢

 

 

「……戦闘開始、カリギュラさんお願いします!」

 

「 ロォオマァァァ……ッッ!!」

 

 夜が明けた早朝、マシュとカリギュラは神殿へと突き進む。

 ダヴィンチたちは、昨晩より遥かに連携の取れた2人に驚いた。

 襲いかかるは、女神トリニティーにより生み出された魔獣や魂のない人々。

 眠るマスターを背負った上で布できつく縛り、マシュが防御をメインに、カリギュラが攻撃をメインにした戦いを繰り広げる。

 一方でカリギュラが囲まれる前にマシュが周囲の敵を引き剥がし、防御が手薄となる前にカリギュラはマスターの近くまで下がり、そして軍勢から大きく離れる。

 

『5時の方向、あの一軒家に向かって。6時から大型エネミー1体来るから注意だ。2時の方向、高さ10mの崖。飛び降りて!』

 

 ダヴィンチたちも情報を飛ばし、エネミーの群れが少ないポイント、地形が複雑や急で追っ手を引きやがしやすい場所など、いくつものプランその場で練り、最適なルートを指示していく。

 

「ロオォマァ、ネロォォ、アグリッピナアアアアアア!!」

 

「虚月神殿、その地面との接触点が確認できました! 下にギリシャ式の宮殿のようなものが見えます!」

 

『了解、魔力反応としてもそこが本殿で間違いない。そのまま向かえば、あと3時間もせずに到着だ。でも駄目だと判断したらすぐに撤退してね!』

 

「ダヴィンチちゃん、了解です!」

 

 

 最後の戦いは、刻々と迫っていた。

 カルデアに有効な決定打が欠けたまま。

 

 

 

 □□□

 

 

 

「……外が騒がしいけれど、貴方は出向かなくていいのかしら」

 

 

 虚月神殿の内部にある玉座、いや神座。

 目覚めたばかりのステンノはそこに座る女神トリニティーに尋ねた。

 

「なぜ私が動く必要があるの?」

「生贄がわざわざ出向いてくれてるのですよ?」

「……口を開けて、頬張るのみです」

 

「そう、随分と慢心するのね。私には関係ないから、どうでも良いけれど」

 

 ステンノは興味なさげに立ち去ろうとする。

 どうせか弱い自分が加わったところで、まともな戦力にはならない。

 トリニティーが負ければ、この神殿も終わり。

 ステンノ自身がまだ洗脳されていない村を回って魂を集めるという協力手段もあるが、生来面倒くさがりな彼女がそんなことをするはずもなかった。

 

「それで良いの、(ステンノ)は邪魔をしないで」

「それが契約ですもの、ねぇ?」

「……精々男と(しとね)でよがってなさい」

 

 ステンノは、一つ報告をしようとしていたのだが、その言葉を聞いて取りやめた。

 日々魔力を蓄えて傲慢になっている女神は、一度自ら支配したはずの村が、祭壇を破壊されて弱まっていることを知らない。

 

 それも一つではない。

 幾つもが今日に入ってから次々と破壊されている。

 

 確かにカルデア一行もまた、近隣の村の祭壇を強化されたカリギュラの怪力で破壊してはいる。

 が、まるでそれの乗じるように、もう1人あるいは1集団が、近隣の村の魔術を解除しているのだ。

 灯台下暗し、より世界へ向け神殿の領域を拡大することに意識がいっている女神トリニティーは、まだ気にすらしていないようだが。

 

 どちらが勝とうが、ステンノには興味ない。

 部屋に戻ってベッドに腰掛け、横になる。

 虚月神殿には周囲の村や町から吸い出した人々の魂が神殿の栄養となるべく集まっている。

 だが1つ、藤丸立香だけは別の目的で魂を取り出され、その管理権はステンノにあった。

 

 メドゥーサは自己封印(ブレーカー)暗黒神殿(ゴルゴーン)という目隠しを用いて石化の魔眼の力を普段は封印している。

 この封印は1つの結界であり、それを利用して他者に「夢」という形で自身の領域に引き摺り込み、吸血行為を行うこともあったという。

 ステンノもまた、元来のものか、サーヴァントとなった際に妹の能力を押収したかは不明だが、それに準じた魔術を使っていた。

 

 目を瞑り、頭につけたヘッドドレスを目元まで下げる。

 これにより、虚月神殿に接続して魔力供給を受けつつ、自身の生み出す夢の世界へマスターを引き摺り込んでいた。

 

 それは、ただ吸血および吸精行為をするためではない。

 夢での影響は現実の精神へも影響する。

 ステンノはここでマスターと深く結ばれ、心のそこから自身に溺れさせることで、目覚めてからも一生離れられぬほどの愛を2人の間に生み出そうとしていた。

 

「好きよ、リツカ……いいえ、嘘です。私を振り払った貴方が嫌い……いいえ、それも嘘です。好き……嫌い……ですから私は、どんな貴方でも……」

 

 

 ステンノは再び夢の世界へと落ちていった。

 

 本人すらも知らぬ間に、一滴の涙を垂らしながら。

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、(ステンノ)の態度も気になるわ」

「何かを黙っていたような、いけない態度」

「……気に食わないですが、気にかかる」

 

 神座の女神は立ち上がる。

 神殿までカルデアが辿り着くことはないだろう。

 あったとしても自身の結界の中核であるここでなら、1秒とかからず敵を灰に出来るだろう。

 けれど、連中は勝算もなしに神殿へ来るだろうか。

 かつてゴルゴーンが、ただの陳腐な人間を前に、神により授かった道具を使われて敗退したのを知らぬわけではない。

 武器を使うと折角蓄えた魔力を使ってしまうのだけが億劫だが

 

「「「……カルデアを恐れはしないが、早めに叩き潰すか」」」

 

 女神の威権を人々に知らしめる良い機会だ。

 

 そうして彼女はまず武器を作る。

 虚月神殿の球体形がゆっくりと姿を変えていく

 偽物であれ満月が上から欠けていき、そこに現れるのは三日月。

 女神トリニティーの持つクラスが一つは、アーチャー。

 三相一体の女神は、月の満ち欠けも三相とみなし化身の一つとしていた。

 故に世界最大の弓こそ、彼女の武器である。

 下弦の月。その矢はカルデアに向かって番えられようとしていた。

 




次回はノリで描いたら過激になったので、少し表現を抑えつつ。
今回まで穏やかでしたが、次回からバトルやステンノの愛憎劇も激しくなっていきます。
7章後編までの暇つぶしになれば幸いです。
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