ステンノという愛について【完結】 作:AIRUNo(旧AIRU)
『巨大な魔力反応……マシュ、君にも見えるかい!?」
「はい、虚月神殿が……右側が欠けていき、三日月となっていくのが確認できます」
それがただの変化でないことは理解していた。
そして同時に、女神トリニティーはサーヴァントであるなら、もしやあの月自体が何かの宝具ではと、マシュは察する。
『分析結果が出た、あの三日月の中央部に力が集まっている。そしてこの反応は何かしらの宝具であると推定され……」
「ダヴィンチちゃん……?」
「……分析したところ、エウリュアレ、アルテミスの2騎に類似するものと予測された。つまりあれは両者と同じ、女神の愛による高出力の射撃だ!!」
「!!」
マシュは固まった。
あの神殿が攻撃宝具だと分かったからではない。
街1つを覆うほどのサイズの弓より洟垂れる遠距離火力を前に、自分たちは身を防ぐ手立てがないからだ。
マシュは盾を主武器とするクラス、シールダーのデミサーヴァントである。
その見た目通り防御に特化した霊基と宝具は、例え神霊サーヴァント相手だろうと暫くの間は耐え切ってしまえるほどの頑丈さを持つ。
だが、宝具というサーヴァントの持つ奥の手の場合は別だ。
その事象は世界の理を歪め、時に防御をいくら重ねても貫き、防ぐという概念すらねじ伏せ、傷一つないにも関わらず即死することもある。
射程外へ逃げる。直前で回避する。
マスターだけでも遠くへ避難させる。
どれも不可能だろうと直感が告げる。
それにもう逃げる時間はないと、輝き始めた三日月をみて察する。
三日月の弧は回転して下を向き、マシュたちの方へ焦点が合わせられた。
来る。
光が視界を支配した。
マシュは盾を地面に突き立てる。
カリギュラもそれを察して、彼女の後ろから腕を伸ばし盾を支える。
防御に特化したデミ・サーヴァントと、月の影響で強化された狂戦士。
これがカルデアの最大防御であり、残された戦力全てである。
「宝具、展開……!!」
□□□
「まあ、なんてこと。吉原からの追手をかいくぐり、御所を警護する新選組から目をつけられて逃げるうちにマシュさんたちと離れ離れになってしまったわ。今の私はリツカさんと山中のあばら家で二人きり、これからどうなってしまうのかしら」
「お捨てさん、一々説明しなくても分かってるから、落ち着いて」
立香は、カルデアやマシュと連絡を取ろうとしたが、通信環境が悪いのか届かない。
幸いこんな山の中に、なぜか立派な家があって助かった。
長持ちしそうな漬物や干した野菜も貯蓄してあり、囲炉裏には鍋が、二階の寝床にはまだ新しい布団が残っていた。
猟師か山の管理者が用意したものの、何か理由があって使う前に放置してしまったのだろうとお捨てに言われ、立香も幕末という急変の多いご時世だしそういうものかと納得した。
二人で掃除をしつつ、外で食材を集め、山を登ってきた疲れをしばし取っていた。
が、広い居間に対して、お捨てはわざわざ立香と肩がくっつくほど近くに座ってくる。
「あの、なんでこんなに寄り添ってくるんです……」
「貴方のことが好きに決まっているでしょう、鈍くさい方ね」
「お捨てさん、からかわないで下さいよ」
「フフ、ええ嘘です。花魁の癖で、愛らしい人がいるとついからかいたくなるの。ごめんなさいね」
山中に男女が二人っきり。
過ちを犯さないことが過ちと思わせる環境。
お捨ての左腕が立香の太ももをツーっとなぞり、蛇が這う動作で股の内側へとなだれこんでいく。
滑らかな紫色の髪が立香の頭の下に垂れ、鼻から初めて嗅ぐ男の理性を溶かす甘美で退廃的な匂いがした。
悪戯っぽい仕草で、子猫の甘噛みのように唇で紐を掴むと、立香の着物が解かれ、上半身の緊張で火照った肌が露わにされる。
彼女もまた、身をくねらして服を徐々に着崩し、立香はその布と汗の滴る肌の隙間から目がそらせない。
「お捨てさん……」
なんとか声を出した、立香の唇を、彼女は頭を上げて唇でふさいだ。
柔らかな感触の後、ちゅっと静かに離れる音がして、二人は互いの目を見合わせた。
囲炉裏の炎が映り、その透明な水晶の瞳は、美しく銀色にも、妖艶な紫にも、獲物を捕らえた蛇の黄金の色にもなった。
頬は目に見えて赤く、眉は少し困ったように下がりながら、人を酔わせる息が口から漏れる。
「リツカ、これは一夜の夢だと思いなさい……闇の中で孤独と不安に費えるだけの少女が、一人の青年に助けられて光を見てしまった。だから、一度きりでいいから、その光に寄り添っていたいと思う、そんな些細な願いを、叶えさせて」
「ダメだ。お捨てさん」
「……なぜ?」
立香は答えた。
「だって俺たちは、人理を救わなきゃいけないんだ。ステンノ、君とここで一夜の夢に溺れてしまえば、俺は現実に帰れなくなってしまう」
「……そう。なら、また次ね」
興奮した顔つきがスゥっと消え、白磁で覆ったような冷たい無表情となる。
そして彼女は口の牙を舌で舐めると、抵抗する暇も与えず立香の首筋に嚙みついた。
□□□
夏休みに田舎へ帰った立香は、神出鬼没な年上の少女と出会う。
幽霊のように透き通った肌、ミステリアスな雰囲気、人を誑かすような言葉遣い。
立香は彼女に惹かれ、二人の距離は縮まり、そして夏も終わりに近づいた頃。
「ダメだ、ステンノ」
「……次ね」
□□□
高校生の立香と角でぶつかった少女は、同じクラスの転校生ステンノ。
あっという間に学校で一番人気の美少女に上り詰めたが、立香だけには態度が冷たい。
いがみ合う二人だったが、いくつもの出来事を超えて仲が深まり…
「ダメだ」
いがみ合う貴族の間で一目ぼれをしてしまった、ステンノとリツカ。
二人は家のしきたりを破ってでも結ばれようと、努力して……
「ダメだ」
とある聖杯戦争で、立香の危機に召喚されたアサシン。
彼女は真名を明かさず、二人は生き残りを懸けた戦いを共に駆けぬけるうちに……
「ダメなんだよ、ステンノ」
幼馴染。先輩。後輩。同級生。兄妹。姉弟。家族。
仲間。友達。身内。師弟。親子。家来。主従。上司。部下。同期。
ライバル。好敵手。味方。友好。敵。恋人。婚約者。夫婦。愛人。不倫相手。
この関係、あの関係。その時代、あの設定。この物語。そのラブロマンス。
変えて、繰り返し、変えて、繰り返し。
あれは上手くいきかけた。途中までよかった。
積み重ねていこう。でも重ね合わせるとダメだった。
そうして結局、行きついたのは。
あの館。あの海岸。私はジュリエット・ヴァイオレット。
私はこの場所でだけ、彼から抱きしめられた。
なら、ずっとこの場所にいよう。
この幸せな瞬間を繰り返そう。
例え最後の結末が上手くいかなくても、その結末が来る前に戻れば幸せなままだ。
分かっている。
彼の人理がために闘おうとする思いは、既に魂の根っこにまで染みわたっている。
だからいくらやり直そうと、彼は私より人理を選んで、立ち去ろうとしてしまう。
ステンノは初めて知った。
人に愛されていた女神だが、その実。
人を愛するとは、どんなに難しいことなのかを。
何百回目の夜の岸辺で、彼の腕に抱かれながら。
その反復の中で藤丸もまた、途切れ途切れに夢を見る。
千切れた過去の記憶、誰かの願い。
そこには自分と横にいる二人の姉妹が岸辺で空を見上げていた。
月光砲と書くと源為朝っぽいなと思いつつ、オリオン(♀)の使う射撃宝具の巨大バージョンなイメージです。
あと、UAが1万人超えていました。ありがとうございます!
自分の考えるステンノの魅力が、多くの方に届けられているようで嬉しいです。