ステンノという愛について【完結】   作:AIRUNo(旧AIRU)

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ステンノとカリギュラは、第1部2章セプテムにおいて、ともに「形ある島」でマスターを苦しめ、助けたサーヴァントだったのを書き終えてから思い出しました。



Wave5 醒ます月光/終焉への愛

 

 

「ああああああああッッ!!!」

 

 マシュはずっと叫んでいた。

 足を地面が割れるほど踏ん張らせ。

 全体重、全魔力、全意識を十字を模した盾へと集中させる。

 気を抜けば弾かれる。

 一体女神トリニティーは、どれほどの魔力を人々から集め、その魂を奪ってきたのだろう。

 だから負けられない。

 そんな酷いことをする相手に、負けちゃいけない。

 その叫びは自らを奮わす咆哮であり、敵の邪悪に怒る言葉でもあった。

 顔は前を見据え、決して倒れぬ雪花の盾。

 やがて勢いは弱まり、敵の放った砲撃は霧散した。

 耐え切ったのか。

 肩で息をしながら、マシュは神殿を眺めた。

 

 

「違う、第二射来ます……!」

 

 

 もう一度盾を構えようとするが、魔力切れだ。

 腕は上がらず、身体を起こすのさえ辛く、盾の重量を支えることすらできない。

 意識は気絶と覚醒の間をさまよう。

 盾を握る手は、疲労によってまともに掴むことすらできない。

 自分以上に盾を支えてくれたカリギュラは、その四肢の血管や筋肉が千切れており、マシュが振り向くと同時に地面に倒れ伏してしまった。

 

「……」

 

 司令室の通信が来ているが、声が遠くて内容がわからない。

 多分、君だけでも逃げてくれと言っているのだろう。

 それでも、マシュは自身の残る全てをその守りにかける。

 マスターを地面に下ろし、両腕をなんとか左右に開くと、盾を背中で支えた。

 見下ろすと、盾が影となり、寝かせたマスターの顔がよく見える。

 

 昨晩、カリギュラに教わった愛は、結局のところよく分からず、疲れもあって気づけば寝てしまった。

 ただ分かったのは、カリギュラにとっての愛とは、誰かを守るという想いと似ていたこと。

 月女神は彼を愛し、彼もまた妹や甥のネロを愛した。

 それと同じ気持ちを、今の自分だって抱えている。

 

「大事な人を守るために立ち上がる力なら……私は、誰にも負けられませんッ! シールダー、マシュ・キリエライトとしてッ!!」

 

 

「魂を震わせる、良き叫びだ……!!」

 

 背後で皇帝の声がした。

 マシュの肩に手が添えられる。

 同時に彼はスキルを唱えた。

 

「マシュよ、盾の戦士よ。よくぞ耐え抜いた。お前のお陰で余の準備も整った」

 

 一度は倒れ伏したはずの男は、なぜ立ち上がっているのか。

 スキル「皇帝特権」である。

 本来持ち得ぬスキルを、皇帝が国の全てを我が物としたように、本人が主張することで一時的に獲得するもの。

 カリギュラは前生に置いて最も愛されたローマ皇帝とも呼ばれ、皇帝特権のランクはAと最高位。彼は主として3つのスキルを同時に使用できる。

 

 男は大きく息を吸いながら。マシュより前に闊歩する。

 1つ目のスキルは、真祖ロムルスが如き神性とも言える頑丈さを。

 2つ目のスキルは、偉大なる祖先ヘラクレスの屈強さと忍耐(ガッツ)を。

 同時に、光の矢を受けて傷を負いながらも、カリギュラはその魔力を自らのものとして変換し続けていた。

 

 

 宝具を、展開する。

 

 

「いくぞ、月よ、月よ……女神よ!! 我を、呪えぇッ……! 『我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)』アァッ!!」

 

 

 カリギュラの目が赤く光り、彼の背後に月が現れる。

 これこそは月女神に狂わされたとされるローマ皇帝の伝承が具現化したもの。

 背後より現れし月の光が彼を包み、辺り一帯にその狂気を拡散させ精神を混沌へと導く宝具である。

 そう、本来はこの宝具の効果は周囲への精神汚染であり、それ自体は直接の攻撃にも防御にもならない。

 

 しかしカリギュラ本人はその振りまく狂気を、「真なる月女神の加護」と捉えていた。

 汚れた世界に差す真なる神の恩寵だと。

 

 故に、宝具によって解き放たれる月女神の光は煌々と強く照り、女神トリニティーの放つ贋作の月光を薄めていく。

「真なる愛」は「偽の信仰」を凌駕するという概念が、その砲撃を押し留めているのだ。

 

「マシュよ、進めぇ!! 殿は、この余が引き受けるゥ!!」

 

「……ハイッ!!」

 

 カリギュラの全身は、スキル2つを使用してもなお重傷であった。

 右目は潰れ、黄金の鎧は半壊してただぶら下がっているも当然。

 目の前で交差した両腕は、肉の下の骨まで見えている。

 だがそれでも、逃げぬままに、「皇帝特権」により3つ目のスキルを獲得した。

 それは己が人生の最後であり、陳宮の得意としていたスキルでもあった。

 

「スケープゴート」

 

 砲撃の範囲が狭まり、カリギュラのみに絞られていく。

 そうして作られた小さな隙間を、マシュはマスターを連れて駆け抜けていく。

 獲物が2匹逃れた、と女神トリニティーは認識したが、それを追うことはない。

 今はただ、この頑丈なサーヴァントにのみ意識が集中し、彼が倒れるまで狙いを移すことはなかった。

 

「偽りのディアーナよ……余に、捧げてみよ……!! その愛をォォォォ!!」

 

 

 

 カリギュラの叫びは、その最期までマシュを鼓舞していた。

 

 

 ……二人は気づかなかったが。

 カリギュラの宝具は自らの愛を拡散するため、偽りの月の洗脳を弱め、覚醒を呼び覚ます。

 その月光を間近で浴びていた、眠る立香の身体もまたその影響を受けていた。

 

 

 

 

 

 □□□

 

 

 

 

「ステンノ・ヴァイオレット」

 

 

 

「……えぇ、なんでしょう」

 

 

 

 夜の砂浜。

 月に見守られながら抱き合う2人。

 何百回繰り返したその瞬間ではあるが、このタイミングで立香が声をかけるのは初めてで、ステンノは顔をあげた。

 

「君は少し意地悪だね。俺が何百回やめてくれと伝えても、こうやって夢を巻き戻してたのか」

 

「……そうよ、だって女神は気まぐれに人を弄ぶものでしょう?」

 

 動揺はしない。

 ステンノは、何かのエラーで立香がこの夢の構造に気づくことも想定していた。

 でも千回に1回のエラーなら、またリセットすれば終わる話だ。

 それを立香も知っていた。

 これは千回に1回だけのチャンスなのだと。

 

「じゃあお願いだ。この夢が君の思い通りというなら、1回だけ俺の考えた設定で夢を見させてくれるかな? それで君が納得してくれたら、この夢を終わらせて欲しい」

 

「良いわ。でも出来なかったら……ねぇ? どうなることか、分かっているのでしょう?」

 

「もちろん」

 

「それで……どんな愛の話がお好みなのかしら。鴛鴦(おしどり)の戯れるような甘い愛、夜半の月を眺めるような悲しい愛、それとも……」

 

「もっと簡単な話だよ」

 

 立香は抱きつく手を緩めて、ステンノを見た。

 満月に照らされ、互いの顔がハッキリと分かる。

 女神は、涙が枯れ果てるまで泣き続けて赤くなった目で彼を見た。

 立香は、ステンノが久しぶりに見る、何かにワクワクとしているような、屈託のない満面の笑みをしていた。

 

 

 

 

「君という愛の話について、2人で見ていきたいんだ」

 

 

 

 

 




次回更新は明後日です。
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