ステンノという愛について【完結】   作:AIRUNo(旧AIRU)

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愛の始まりの始まり

 

 

 

 

 

 昔々、遠い昔。

 

 

 

 三人の女神がおりました。

 

 

 

 愛されるために生まれた女神たちは、愛されるに相応しい理想の女性の姿を取っていました。

 

 けれど一番下の妹だけ、理想の姿から成長してしまい、どんどん大きくなっていきます。

 彼女はいつまでも可愛いままの二人の姉をうらやんでいました。

 

 一方で姉たちもまた、永遠に同じ姿のままの自分たちより、成長することのできる妹を羨んでいました。

 

 そんなことは絶対に、最期の最期まで誰にも口にはしなかったのですけれど。

 

 

 

 □□□

 

 

 

 

 遠い遠い月日の後。

 

 

 

 三人の女神は再会しました。

 

 

 

 長い月日を得てあった三人は、生前と少し違うものになっていました。

 末の妹は、成長したいくつもの姿で姉たちと再会しました。

 二番目の姉は、弟のような存在と出会い、日々お世話をしていくうちに、心にも変化がみられてきました。

 けれど一番上の姉だけは、相変わらず理想の女性の姿のままでした。

 ですから、一番上の姉はこう思いました。

 

 

「私も何か、新しい姿になれるのではないかしら」

 

 

 そう、ここにいるサーヴァントたちは、生前の一側面を模して召喚されながら、生前の自分に囚われることなく新たな自分になろうとするものが大勢います。

 折角なら、私も変わってみようかしらと女神は気まぐれに思いました。

 

 しかし、そうは言っても自分を変えるのは中々難しい。

 多くの人間や大冒険をしてきた経験豊富な英霊なら、あれをしたい、こんな人間になりたいと夢も多く持てるでしょう。

 でも、島の中で穏やかに姉妹三人暮らしていただけの女神には、自分を変えるほどの夢がありませんでした。

 何度いろいろなことに挑戦しても、気づけば男を手玉に取り弄ぶだけのいつもの女神になってしまっています。

 

 そこで、変わることに成功した2番目の姉を見るうちに思い至りました。

 無理に行動して自分を変えようとするから難しい。

 自分の内面を変えれば、自然と行動も変わり、新たな自分に成長できるのではないか。

 

 

 

 

 

 

「そういうわけよ、マスター。私を……成長させてみせて♪」

 

 

 

 

 

 朝3時に突然起こされた立香は、話の半分も理解できなかった。

 あぁ、うん、そうだね、と曖昧な相槌を打ってはみせたが、眠っていた自分の上に乗っかって来たステンノに対して、どう反応すべきか迷っている。

 あいかわらず天使のような笑みを浮かべているので、立香も困りながら笑ってみたら、冷たい悪魔のような目つきで返された。

 

「そうはいっても、俺に何ができるかなぁ」

 

 彼女にシミュレーターを使って、いろんな体験をさせるとか? 

 いや、そもそも人理修復をずっと手伝ってくれた上で、更に成長を求めているのだ。

 取ってつけたような体験なんて焼け石に水。

 もう少し、大胆な発想を持たなくては。

 

「因みに……何もしないで日の出を迎えたら、私は泣きながらマスターの部屋を飛び出していくわ。そんな姿をマシュや他のサーヴァントに見られると、困るのは貴方のほうでしょう?」

 

(朝帰りを人質に取られるとは思わなかった……頭を働かせないと)

 

 サーヴァントは、基本的に召喚時の姿のまま成長しない存在であるはずだ。

 聖杯戦争の報酬である聖杯の力を借りて受肉すれば成長できるという話も聞くけど、カルデアに保管された聖杯にそこまでの力はない。

 いや、イベントなどのたびに聖杯によって別の姿になるサーヴァントたちがいたな。

 

「霊基を変える、とかはどうだろう」

 

 霊基とは、サーヴァントが現界するにあたって魔力でできた身体を維持するための中枢であり、英霊やクラスによって異なる。

 同じ英霊であってもクラスや召喚条件が異なれば霊基が異なり、例えばメドゥーサは、少女の姿をしたランサー、怪物の側面が強調されたアヴェンジャー、その中間にあたるライダークラスの姿があるし、オルタ化すれば同一クラスでも性格や見た目が変化すると推測される。

 つまり、霊基が変わりさえすれば今の自分とは異なる、つまり成長と言えなくもないということだろうか。

 

「……ようやくそこに辿り着いたのですね」

 

 ステンノは既に、その結論に達していたらしい。

 じゃあ今の自分が悩んでいた時間は何だったのだろうか。

 女神の戯れか。なら仕方ない。

 

「もしかして、俺に霊基を調節できるサーヴァントたちを紹介してほしいってこと?」

 

 確かに、夏やクリスマスになると水着霊基と称してサーヴァントたちの霊基を別のものに変えてしまう現象が頻発する。

 原因は色々だが、魔術を使えるサーヴァントたちの助けによるものが多い。

 

「じゃあスカサハ師匠やメディアの元に行こうか。そしたらきっと解決案が……」

 

「でもね、マスター。私は理想の淑女を体現した女神。ただ、それだけの存在。単に霊基を変えるくらいでは、在り方は大きく変わらないと思うのだけど……折角変わるのなら、もっと大胆に自分を変えてみたいと思うが自然ではなくて?」

 

「うーん、そういうものかなぁ」

 

 立香は過去の記憶を元に、サーヴァントが大胆に変わった例を思い出す。

 例えば、ヘンリー・ジキルは宝具「密やかなる罪の遊戯(デンジャラス・ゲーム)」によってハイドとなり、クラスと同時に性格も大きく変わる。

 ジャンヌ・ダルク・オルタはサンタを志す際に若返りの霊薬によって、もはや元の面影さえないサンタ・リリィとなった。

 他にもオルタ化、神性の弱体化や強化、分裂からサーヴァント・ユニバース時空の話まで、いくつか例を挙げてみる。

 

「まあ、そんなに色々とあるのね……折角ですし、全部やりましょう♪」

 

「全部!?」

 

「ええ、全部ですがなにか。マスターも当然協力してくれるでしょう?」

 

 強欲であり、後先考えないのが女神様らしい。

 ここでNOと言えば、魅了によって意志を奪われてYesと答える羽目になるのを、経験を積んだマスターは承知していた。

 

 だから仕方なく、深夜であるにも関わらず準備を始めた。

 倉庫にある、サーヴァントの霊基が変わる要因となりそうな霊薬をかき集め、部屋に運び込む。

 立香は愛の霊薬がやたら多いと感じつつ、どれがどの薬品かを正確に把握しているわけではないのでとりあえず手当たり次第持ち寄った。

 その間、ステンノは眠るメディアの部屋に突撃し、交渉(きょうはく)して霊基変化のための魔術を用意してもらう。

 

「ジキル、ごめん……こんな時間に頼み事をしちゃって」

 

「いいさ。丁度眠れない夜だったんだ、僕でよければ手伝うよ」

 

 立香を手伝うのは、彼よりやや年上の、金髪緑眼に眼鏡をした穏やかな青年。

 宝具を貸してほしい、という頼みに驚くと同時に危険だと断りを入れられつつ、こうして手伝いをしてくれることになった。

 なぜそんな薬があるのかは、ちょっとした幕間の話ゆえに省略する。

 

「それに、その女神様によって何か起きたとき、近くに対応できるサーヴァントがいたほうがいいだろう? 霊薬を使わせる代わりに僕が見張るという条件さえつけておけば、最悪の事態は避けられるはずだ」

 

「ありがとう」

 

「それにしても……マスターとは大変だね。主従の関係を結んだ以上、性悪な女神の頼みにも答えなくてはならない。僕が言えたことではないけれど、悪の誘いは断固拒否するに限る。だから君も、度を超す所業であるのなら、例え身内であっても屹然として対応するべきだ」

 

「うん、でもね、ジキル。俺は嬉しいんだよ。初めて会ったときに、召喚に応じてくれたとはいえ、姉妹以外には心を閉ざしていたステンノがさ、彼女なりに成長しようとしているし、そのためにマスターである俺を頼ってくれるようになった。だから俺も、答えてあげたいんだよ」

 

「……そうか、君はそういうマスターだったな。うん、わかってくれているなら、それで良いさ」

 

 さて、準備がは整った。

 スクロールが開かれ、刻まれた魔術式が輝きだす。

 傍らには様々な(若返り、愛、謎の物体γ、……)を調合した液体。

 それを入れる容器どうみても聖杯なのだが、管理しているものが持ち出された形跡はないし、立香も首を傾げつつ、使い終わったら返してくれればいいやと渋々了承した。

 朝早くから時間制限を科せられた思考では、とにかく早く終わることを目的としていた。

 

 詠唱をすると、術式の描かれた模様が床下に広がり、ステンノを中心に円を作る。

 空になった霊薬の瓶が振動で崩れ落ち、バチバチと雷光が迸る。

 仰々しい光景に、自分は何かやらかしたのではないかと、立香はようやく不安になった。

 けれど横にはジキルがいる。

 彼もまたキャスタークラスではないが魔術に詳しい分、何かあれば対応してくれる。

 ステンノが暴れだしても、宝具である霊薬でハイドに変身して貰えば押さえつけられるだろうし、何より自分にはサーヴァントを制御する令呪が三画残っている。

 

 なんとかなる。

 

 そう、女神相手に錯覚し、油断したのがいけなかった。

 立香は、次の瞬間にそう思った。

 そうだ。ステンノが悪戯をするとき、常に目の前のような笑みを浮かべていたではないか。

 

 

 

 

 

「それじゃあ最後に……こうしましょう」

 

 

 

 

 

 

 ドクンと心臓が高鳴る。

 あ、と声を出したがもう遅い。

 女神の声は脳を揺らし、思考を奪っていく。

 マスター!! と心配するジキルの声も遠のいた。

 彼もまた、ステンノのスキルにより魅了され、動けなくなっているのだろう。

 

「貴方からは宝具の霊薬を頂きましょう」

 

 ステンノはジキルの懐から、それを取り出す。

 立香は、自分のものではなくなった肉体を、後ろから俯瞰する感覚に陥っていた。

 

「マスター、貴方は私に令呪を使って、こう命じなさい……」

 

 立香の耳元で囁かれる言葉が、立香の意識には聞こえない。

 ただ主導権を失われた肉体が、鼓膜を揺らした音をそのまま口で再現していくだけだ。

 

 

 

 

 

 

『ステンノ、愛される女神から、愛する者へと変われ』

 

 

 

 

 

 

 令呪が一度に3画消える。

 魔術の光が一層、強くなる。

 立香の部屋全体が白くなり、振動が頂点に達する。

 

 

 

 そして立香が目覚めたとき。

 夢は目覚めれば忘れるように。

 彼はその記憶を全て忘れ、何事もない朝を迎えていた。

 

 

 

 

 

 ステンノがどういう存在になり果てたのかも知らずに。

 

 

 

 

 




本当はジキルの登場する幕間で出たあるエピソードも巻き込みたかったのですが、読んでない人からすれば唐突なのかなと思いやめました。

次回は探偵の謎解きです。
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