ステンノという愛について【完結】 作:AIRUNo(旧AIRU)
崩壊していく偽の月。
その内部で、立香はステンノを抱えたまま急降下していた。
「マスター!」
その窮地を救ったのは、白き天馬。
ライダーの『
「ありがとう、でも……」
崩壊する神殿の中央で、こちらを睨む女神がいる。
魔力を急激に吸い込みすぎた結果、肉体は変異し、肌は石に、全方位から卵円系の凹凸が無数に生え、円筒の冠と3つの顔を持ち、肉体は10メートルはあろう巨大な白い彫像のような姿となる。
表情は無機質となり、装飾は豊穣を表す麦のレリーフが下半身を覆う腰布にびっしりと生えた。
原始回帰、それは古代の人々が崇拝した初期の女神立像と似た姿をしていた。
「あれをどうやって倒そうか」
「私は宝具を2度使用したため、倒す余力はありません。後は残る二人にかけるべきでしょう……」
『うーん、あの胸の中央に光る宝石みたいなのが見えるかな。あれは敵の霊核が表面に浮き出しているものだ。敵も味方も消耗している以上、狙うべきはあの急所に最大火力を一撃だね。そうすれば敵は、大量の魔力を消費する霊核を制御できなくなり、崩れかけの神殿ごと自壊するだろう』
ダヴィンチの通信に、立香は同意する。
しかし作戦を練る暇もなく、女神から光線が飛ばされてきた。
「全力で回避します。マスター、上姉様を放さないで!!」
天馬は空を旋回し、光線を避けながら空高く舞い上がっていく。
ジリッと音がして、その翼が何度も光線による火傷を負いながら、馬は嘶き、主たちを護るために駆け抜ける。
「私を足蹴にするとはな、良い度胸だ……!!」
女神のいる土台付近から、大蛇の尾が土煙と共に飛び出したかと思うと、その体を締め上げた。
アヴェンジャーのメドゥーサが地底から現れ、再び攻撃を開始する。
天地両方での攻防戦。
息つく暇もないその激闘の中で、立香は瓦礫の中に潜む小さな影をみつけた。
ランサーのメドゥーサである。
敵の隙を伺い、魔眼と不死身殺しの猛威を振るう宝具をふるうべく今は隠れているのだろう。
だが果たして、敵の硬い防御にその技が届くのか。
そもそもどうやって隙を作るか。
立香は必死に考え、そして自らの手の中に一つの解決策があるのに気づいた。
「残った令呪は二画……一つはランサーの宝具使用のために使う。そしてもう一つは……」
誰かに宝具を使用させるか、それとも体力を回復させるか。
答えは定まった。
「ライダー、敵の目の前に、なるべくギリギリまで接近してくれ!!」
「……本気ですか」
「お願いだ、ライダー」
「分かりました……では行きますよ、リツカ!!」
天馬は大きく羽を広げて飛行速度を弱め、そして頭を下に向けると、急降下した。
偽物とは言え、皮肉にも重力に従った
光線の合間をかいくぐり、どんどん落ちていく。
神殿の瓦礫に身を潜めていたランサーは、立香の令呪から魔力が流れ込むのに気づく。
「令呪をもって命ずる……ランサー、宝具で敵の神核を砕け!」
声が聞こえずとも、何をすべきかが伝わってくる。
そしてマスターたちの作る隙を、決して見逃してはならないことも。
同時に、ライダーは立香に合図を送った。
「敵の正面まで、あと10秒、9,8……」
立香は最後の令呪を切る。
恐らく、これが一番大事な場面だ。
敵はいくつもの
もし因果を無視する貫通宝具があれば勝てるのだが、それはここにない。
だから。
敵の強化を解除する。
女神の顔の前の前に白馬は辿り着く。
その巨大な女神の顔はこちらを向いた。
「令呪をもって命ずる──―ステンノ、宝具を使え!!」
「覚悟はよろしいかしら……『
少女はパッチリと目を開けた。
ステンノの宝具。
それは単に男を魅了し、即死させるものではない。
物憂げな視線を刃に、蕩けるほどの囁きを毒に。
敵の守りを緩め、敵の強化を全て解除する対人宝具である。
「「「がぁぁぁ!!?」」」
女神トリニティーは、自身の作り上げた幾重もの魔術防御が次々に剝がされていくのを感じた。
馬鹿な、こんなにも格の違う相手に。
自分の抜け殻でしかないステンノに。
そんな怨嗟を叫ぶ前に、死神の、ランサーの宝具はその胸に突き刺さったのだった。
「『
□□□
特異点が修正されていく。
巨大な月の張りぼては土屑となった。
魂を奪われた人々も徐々に眠りからさめ、魔獣もどこかに姿を消していく。
それを遠くで見守る青年が一人いた。
実は、マシュたちが虚月神殿へ向かう裏で、もう一つの戦いがあった。
女神トリニティーは、マシュたちを妨害するために他の村から人々を駆り出し、物量的な壁として押し留めようとしたのだ。
「それは彼女たちの荷が重すぎる。たった一つの村の祭壇を壊すのにサーヴァント1騎が犠牲になったんだ。だから、ここはワタシが引き受けた」
女神トリニティーが立香の英霊召喚を邪魔しようとした際も、密かに彼らを守っていた。
しかし彼は、それを明かそうともしない。
「カルデアとワタシは関係がない。だから彼らは最後までワタシの活躍を知ることがないし、例え消滅しても悲しむことはないだろう」
青年は微小特異点により召喚された。サーヴァントであった。
この地に虚月神殿が生まれる寸前、大地がそれに対処すべく呼ばれた、対女神用の英霊。
神殿を容易に破壊する宝具を所持し、もし彼が表に立てばよい楽に解決したかだろう。
だが
「それで良い、この物語にワタシは不要だ。もし直接参戦していれば、以前のゴルゴーンと同じ結末にしかならない」
カルデアの連れたサーヴァントを、ステンノを見て彼は手を引くことを決めた。
これは自分が大きく介入すべき話ではないと判断したからだ。
「英雄が怪物と成り果てた女神を倒す物語ではない。愛を求めた少女に手を差し伸べる話であるべきだ」
そうして英霊は、誰にも知られず、小さく笑いながら光となって消滅した。
しかし、とつい不満を漏らす。
「それはそれとして……ライダーの彼女には宝具名をなんとかして欲しいな。
こうして、カルデアのマスターおよびサーヴァントは無事帰還した。
これが、この特異点内の全記録である。
もう少しだけ、続きます。
一度この話を忘れて、後編をプレイされてからでも読みやすいような内容になっていますのでご安心ください……
……と思ったら、まだまだ余裕がありそうですので、もう少しだけしっかり書いていきたいと思います。