ステンノという愛について【完結】   作:AIRUNo(旧AIRU)

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ステンノのあまり書かれない側面を書きたいということで、ちょっと前置き長くなっています。前編イチャラブが好きな人とかはごめんなさい。


xxに手が届くということ

 

 ステンノと立香が愛し合ってから1ヶ月後。

 

 それは丁度、キャスター「紫式部」が子供向けの読み聞かせを行なっている最中のことであった。

 敷かれた絨毯で円となって座るのは、はジャック、ナーサリーライム、バニヤンといった子供型のサーヴァントたち。

 その後ろで、かの有名作家の音読を聞きたいと、エリセや天草四郎、アンデルセンが椅子に座る(そして当然ながら清少納言がそれを後方彼氏面で眺めている)

 

 そして、未亡人の艶やかな語りを聞くべく訪れたユリウス・カエサルと、彼に連れられた寡黙なバーサーカーが1人。

 紫髪の短髪に筋肉質な身体。

 ウール製の服に黄金の耳飾り、何より目立つのは赤い瞳。

 賢帝なれど月女神に狂わされたローマ皇帝、カリギュラである。

 もし彼が他のバーサーカーのように突如叫ぶのならば、すぐにでも退出されていただろう。

 だが意外にも、彼は静かに目をつむり、その声に聞き入っていた。

 服装も

 

「それで、今日のお話はなんなのかしら! 御伽話(フェアリーテイル)? 神話(ミソロジー)? それとも私達(ナーサリー)?」

「開拓のお話?」

「解体のお話?」

「か、怪談のお話……? わ、私は怖くないけれど、夏の霊基に着替えてこようかしら……」

 

「ウフフ、では早速今日の絵本を紹介しましょう。今日の絵本の題名は……」

 

 そのとき、カエサルの横にいたバーサーカーがスッと出口へと向かった。

 おや、と彼の後ろ姿を見たが、まるで誰かに呼ばれたかのようにすぐさま去っていく。

 

(おや、あやつは何か勘付いたか。となれば……また事件かな。それとも暴れる前に自ら出て行ったか)

 

 カエサルはそう察しつつ、司令から正式な呼び出し放送があるまでは一時の安らぎを楽しむことにして、遠目から絵本のタイトルを見る。

 

 

 この話のタイトルは

 

 

 Papa, Please Get the Moon for Me

 

 

 手の届かないはずのものが、自分の手の中にやってきてしまう話。

 

 

 □□□

 

 

 

「君たちにはこれから、お月をとりに行って欲しい」

 

 

 同時刻、司令室に呼ばれた立香たちに、ダヴィンチが告げた。

 沈黙の後、マシュが疑問を投げかけた。

 

「え、ええとそれは、月の写真を撮るというお話ですか? でしたら夜になるまで待たないと」

 

「いいや、写真じゃなくて『取る』だとも。いや、取り除くといったほうがいいかな。ともかくこれを見てほしい。先程微小特異点らしきものが観測されてね。映像を録ってみたんだけど……」

 

 そうして見せられたのは、とある海辺の写真。

 リゾートの広告のような美しさの自然が映るが、何よりも大きな違和感は。

 丘の上に巨大な土の球体がそびえていることだ。

 

「さて、この球体にご注目だ。直径は120m、成分は見ての通り土が主体。だが魔力反応が確認され、内部構造は不明。そして表面の模様を解析した結果だが……」

 

「月の海と一致したということですね。つまりこれは、月のミニチュアだと!」

 

「さっすがマシュ、正解だ。さて、この偽の月が確認されたのは、地図で言えばこの地点。一見有名な場所ではないから分からないかもだけど……」

 

「あれ、ここって……」

 

 立香は、写真と地図からどこか似た風景を思い出していた。

 

「虚月館の近く……ですか」

 

「おお、大正解だよ! よく分かったね!」

 

「ハハハ、なんか懐かしい感じがして……」

 

 それと最近ステンノと色々あったことで、この場所を思い出す機会が増えていたお陰でもある。

 虚月館……あれは確か2017年、この場所にある屋敷で連続殺人事件が発生した。

 そこに居合わせた人物と、2018年の立香の意識がなぜか繋がり、連続殺人事件に巻き込まれながら謎を解き明かすことになったのだ。

 ホームズやアーチャーの手を借りつつ、無事に謎を解き明かし、事件は無事終焉へと向かった……はずだった。

 

「でも、虚月館らしき建物は見当たりませんよね?」

 

「その通り、見てここ。月が地面と接しているところ。ここに本来は虚月館があるはずだったんだ」

 

「うわ、もしかしてあの屋敷はペシャンコになっちゃったということですか?」

 

「と、いうのも微妙なんだよね。何しろこの映像が映しているのは、『紀元3世紀』の虚月館がある場所なんだ」

 

「……?」

 

「ま、そんな顔になるよねー。というわけで、スライドで説明しよう。まず、君の知る虚月館が建ったのは、1970年代。それ以前は、貴族のもっと大きな別荘だった。更に中世まで遡るとキリスト教の教会があって、もっと遡れば旧時代の宗教の神殿があったそうなんだ。つまりあそこは、元々地脈の上に立つ神殿で、その跡地が脈々と受け継がれていたわけなんだよ」

 

 様々な時代の建物の記録が映るが、確かに全て同じ場所だ。

 ということは、偶々別の時代で同じ場所に縁があったということか。

 

「さて、この場所に君たちを派遣したいんだが、まだ機器がメンテナンス中でね。すぐに特異点化する兆候もないし、事前調査が万全に終わるのも待ちたいから、出撃は3日後にしたいと思う。それまで各自、準備を整えておいてくれたまえ!」

 

 こうして一同は解散となった。

 

 

 □□□

 

 

 今回の話はすぐにカルデア中に広まり、様々な声が上がった。

 

「なぁ、アルテミス。お前は行かなくていいのか? 月の女神なんだし、お前が行けば偽物の月なんて恐れをなして火星まで吹っ飛ぶんじゃねえの。あとなんで俺は首を絞められ続けてるの……アッ意識ガ、ゴフ」

 

「そうねぇ……確かに同じギリシャっぽい匂いはするんだけど、今回はパスね。なんか私が出向いたら、もっとややこしくなる気がするし……今のダーリンみたいに、こっそりカルデアに残って浮気をしちゃうような気もするし。ってダーリン聞いてる?」(ブンブンとクマの人形の首を振る)

 

「しかし、今回は誰がマスターに同行するんだろうか。あの巨大な重量物を切るだけならば、このバルムンクでも容易だが、わざわざ月を模した魔術物体ともなれば、それだけはあるまい」

 

「ジークフリート、俺も同意見だ。いっそ、俺が邪竜となって空へ運んでしまうか。キングプロテアの怪力で宇宙まで投げてもらうというのもありかもしれない」

 

 皆が自分の意見や推測を交わす中、マスターは個室の扉を三度叩いた。

 鍵が開かれ、中へ入ると、紫のツインテールをした女神が1人。

 

「エウリュアレ、君1人? ステンノは……いないのか。どこにいるか知らない?」

 

「知ってるに決まってるじゃない。(ステンノ)(エウリュアレ)なんだから」

 

 その美しくも無愛想な声から、今日は随分機嫌が悪いことを立香は悟った。

 気分屋な彼女ではあるけど、多分数日はこうやって怒っていたのだろうと想像にたやすい。

 

「全く、誰も彼も浮かれてばかり! そりゃまあ、生まれた瞬間に完成された女神なはずの私たちが、カルデアだとまだまだ変化していくのは面白いと思うわよ」

 

 ゴルゴン三姉妹は、メドゥーサを除いて不老不死。

 心身が老いることもなければ、成長することもない、永遠にか弱いままの存在だった。

 それがサーヴァントになったことで、レベルアップによる強化はもちろん、霊基再臨といった姿の変化、あるいは多くに人や英霊と関わることによる心の変化が起きている。

 

「でも、気に食わなーい! なんで(ステンノ)があんなことに……」

 

「ああ、そうか。ステンノを心配してるんだね。でも大丈夫。俺も悪いけど、あれは……」

 

 そう言いかけたときに、司令部から館内放送が入った。

 事件調査に進展が見られたため、夕食後に集まるようにと言われる。

 終了後、改めてエウリュアレを見たが、もうツンとぢした顔でそっぽを向き、話す気はないと態度示す。

 

 仕方ないので、退散する。

 そして廊下へでたとき、閉まる扉の奥から最後にこう言われた。

 

「でもね、女神に恋する人間なんて、最後にどうなるか知っておきなさい」

 

 

 ステンノは一足先に立香の部屋にいた。

 ベッドの中で横になり、ぼうっとしているようだったが、目が合うと飛び起きた。

 

「きゃあ……じゃ、じゃなくて、どうしたのリツカ。まるで不思議なものでも見るような目をしているわ。私が美しいのは分かるけど、毎回そんな目をされては心臓に悪いわ。仮にもマスターなら、少しは慣れなさい」

 

 いつも通りのゆったりとした口調で諭してくるが、耳元まで真っ赤になっている。

 それに格好も、立香のクローゼットにある白いYシャツをボタンまで留めて着込んでおり、何をしていたかは明白である。

 ブカブカの袖から白い指先がちょこんと覗き、露わな柔らかそうな太ももの付け根に、立香が以前つけた接吻の染みがチラつく。

 

 幸い、(鍵が必要にも関わらず)彼の部屋に勝手に侵入するような親密すぎるサーヴァントたちは、それぞれ任務などをぎっしり与えることで寄らないようにしているが、自分以外の誰かに見られたらどうなっていたことかと、立香は溜め息をつきたくなる。

 

「でも可愛いから、小言は後でいっか」

 

「か、可愛いって……いいえ。リツカ、訂正なさい? 私は美の女神です……ですから可愛いのではなく、賞賛するなら美しいと、あっ」

 

 立香は女神に抱きつき、そのまま布団に倒れた。

 ドクンドクンと速い鼓動が彼女から聞こえる。

 耳元にある彼女の口からは、声にならない悲鳴が聞こえる。

 それでいて、指先はギュッと立香の背中を掴んでいた。

 3分後、なんとか声を出せたステンノはなんとか取り繕う。

 

「あ、あなた……女神に対してそう簡単に抱きつくものではありません。もし今、誰かが部屋に入ってきたらどう言い訳するつもりの? はやる気持ちは分からないでもないけれど、もう少し落ち着いた行動をなさい」

 

 風鈴のような聞くものを静かに癒す声。

 加えて、立香は女神からするラベンダーと海岸線の混じったような匂いに癒されていた。

 

「ステンノ、今日は夕食まで時間があるんだ。それまで一緒にいても「はい!」」

 

 頭がお花畑な彼女の頭をなでながら、立香は考える。

 普段、この距離にまで女神に近づくと、彼女の振りまく権能である「魅力」にやられてしまうはず。

 だというのに自分はまだ冷静な思考を保てているということは、彼女が意図的に権能を弱めているから、あるいは。

 

(女神の神核が弱まっている?)

 

 それは、彼女を撫でる手にある令呪が減っていることと関係あるのだろうか。

 彼はそのことを疑問に思ったまま、誰にも言い出せずにいた。

 先ほどもエウリュアレに言いかけて、けれどもう一度話そうとはしなかった。

 

 もし彼女を医務室に連れて行き検査させたとき、今のステンノが自分に向ける愛が神核が弱まったことと関係していたとなればどうなるか。

 体調が万全に回復したとき、今の彼女から元の人間を決して愛さないという女神へ戻ってしまったら……

 

『大好きです……いいえ、嘘です』

 

 いつか微笑みながら言われた言葉が脳に響く。

 立香は、例え偽物の愛であったとしても、それをまだ手放せずにいた。

 

「フフ、リツカ。好きよ……えぇ、大好き」

 

 当の本人は、とても幸せそうにしながら立香の服をいつのまにか脱がし、キスマークをつけ、肌の温もりを楽しんでいた。

 

 □□□

 

 

 数時間後。

 特異点修復のメンバーが発表される。

 立香、マシュの他に同行サーヴァントは3人。

 敵はどのようなものか分からぬ以上、最初は極力魔力コストを抑え、状況に合わせてマシュの盾を召喚サークルとして追加召喚することにした。選出されたのは

 

 バーサーカー、聡明と狂気のローマ皇帝カリギュラ。

 ライダー、ゴルゴンの末妹にして白馬の騎手メドゥーサ。

 そして。

 

「では、行きましょう。マスター。なに、どのような敵であれ、私が軍師として策を授けてみせましょう」

 

 キャスター、中華三国時代の超軍師、陳宮。

 周囲からは味方を自爆させがちと評判は悪いが、その智慧の頭脳は英霊としてある以上確かに素晴らしいものがある。

 

 

 しかし立香は言わずとも感じていた。

 当初の計画は、始まった瞬間に崩れ去ると。

 

 

 単純な御伽話(フェアリーテイル)ですら、結末は予想外なことばかりなのだから。

 




なんか長そうなイベントストーリーみたいな雰囲気出してますが、そんな深掘りするつもりとかステンノを無視して横道逸れるつもりないのでご安心ください(本編っぽい雰囲気出したかった)。
全てはステンノ様のため…
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