ステンノという愛について【完結】   作:AIRUNo(旧AIRU)

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タイムリーな短編を思いついたので、投稿。
時間軸とかはパラレルで。



ステンノ・ビフォア・サマー2024(短編)


 

 波打ち際の浜辺。

 立香にとって、ここは魔術素材の回収用によく訪れる海岸ではあるものの、日差しと砂浜の先に広がる青い水面は、ついつい任務を忘れて遊びたくなる誘惑によくかられる。

 

「ではなぜ、遊びにいかないのですか?」

 

 

「夏は毎年、サーヴァントたちが新たな霊基で登場するから、それを見越して魔術素材を蓄えておく必要があるんだ。特に水着になって登場した場合、この浜辺に落ちている貝殻を何十個も用意しておかないと、再臨やスキルも育たなくて」

 

 マスターは海を前にしゃがみこみ、潮干狩りのように砂を掘りながら「追憶の貝殻」という長年生きたことにより魔力を帯びた巻貝の破片を探していた。

 海パンにパーカーを羽織り、汗を垂らしながら熱心に素材を探す彼は、背後から近づく影に気付かない。

 

 

「マスター、こっちを見て」

 

「え……ってうわあ!?」

 

 立香が振り向いたとき、冷たいものが頬に当たり声をあげる。

 思わず後ろに飛び上がると、ステンノが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 バイザーをつけ、黒に紫の線が入ったスポーツウェアと短いスカート。今、立香の顔に当てたのはスポーツドリンクの入ったボトルだ。

 

「熱心なマスター……貝殻を探すのも大事ですけど、長く作業をするのでしたら、水分補給もしないと」

 

「あ、ありがとう」

 

 別に脅かす必要はなかったのではと思いつつ、立香は手渡された飲み物の封を開け、ゴクゴクと喉を鳴らして飲むと生き返った感覚がした。

 ステンノもまた大きな保冷バッグを取り出し、喉を潤す。

 冷めた目元、白い肌にバイザーの影が透け、小さな喉がコクコクと波打つ。

 立香はつい、女神の横顔に見惚れた。

 

「……あら、どうしました?」

 

「い、いや、ステンノの恰好って部活のマネージャーみたいで似合っているなって」

 

「ええ、それはそう……今の私はマスターのマネージャー。張り切りぎないよう、体調管理をしてあげていますから」

 

「ありがとう。ところで、今貝殻はいくつ集まった?」

 

 別の浜辺ではサーヴァントたちが巨大ヤドカリを相手に闘って素材を集めてくれている。立香とステンノはその間に、敵のいない安全な海岸で少しでも素材を増やそうと、こうして砂を漁っているのだ。

 

「そうね、2時間浜辺を漁った成果は……12個です」

 

「労力に見合わなすぎる!」

 

 バタリ、と立香は浜に背中から倒れ込んだ。

 暑さの中、遊びたい気持ちも押し殺して作業したが、例年の消費量から考えて全然足りない。

 

「まあマスター、諦めてしまうのですか?」

 

「きゅ、休憩……」

 

 立香は波のほうへ近づき、身体に打ちつける水で身体を冷やそうとする。

 

「残念……もっと足掻く、いえ頑張る姿をみられると思っていたのに」

 

「すみません、もう集中力が……」

 

「でも、確かに私も変わり映えのないマスターの作業を見るのも飽きていた頃だったし、丁度良かった♪」

 

 ステンノは立香の耳元に顔を近づけると、そっと囁く。

 

「マスター……いえ、立香。もっと楽しいこと、したくはなくて?」

 

「た、楽しいこと?」

 

 ステンノの艶やかな吐息がくすぐったい。

 顔にかかる紫の髪から、うっとりするような甘い香りが漂ってくる。

 

「今ここに、追憶の貝殻が40個あります」

 

 ガバッと立香は起き上がる。

 みると、ステンノが開いた保冷バッグの中には大量の貝殻が入っていた。

 

「いつの間に、こんな」

 

「マスターが必死に砂を弄ってる間に、駄妹が海に潜って取ってきました」

 

「本当にいつの間に!?」

 

 見ると、海岸に打ちあがっていた青緑の海藻に紛れて、良く見知った紫色の髪のシルエットが混ざって打ち上げられていた。

 ライダークラスのメドゥーサだ。

 彼女は宝具の天馬を含め、海神にまつわる話があるから水中での作業が案外得意なのかもしれない。

 

「でも、これをただで立香に差し上げるのは、女神として今一つ物足りません。なので……」

 

 立香は目の前の女神が、満面の笑みを浮かべた瞬間に全てを察した。

 

「私の出したお題に答えられたら、授けることにしましょう。ちなみにできなかったら、貝殻を再び海にばらまきます」

 

「……ッ!!?」

 

 遠くに打ちあがっていた紫のシルエットが、びくんと跳ね上がるのを立香は見た。2時間分頑張った成果をゼロにされるかもしれないという驚愕のせいだろう。

 

(メドゥーサの努力を無駄にしないためにも、負けられない……!)

 

「分かった。受けて立つよ」

 

「流石はマスター、嬉しいわ!」

 

 バイザーの下で、魅了の魔術が宿る目をキラキラと輝かせるステンノ。

 どう考えても無理難題を押し付ける気満々なのに

 この喜んだ表情はどうしてこんなに純粋無垢で美しくものにみえてしまうのだろうか。

 

 数時間後の自分が、メドゥーサの隣で同じようにワカメまみれで打ちあがってないことを望みながら、立香はステンノの口から次に何の言葉が飛び出すのかを覚悟した。

 

 




衣装設定はエイプリルフールのが可愛かったので流用しました。
もう少し続く。
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