ステンノという愛について【完結】   作:AIRUNo(旧AIRU)

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 立香たちが岩陰で休んでいる同時刻。

 

 遠くでマスター不在のままエネミーを倒していたサーヴァントたちも休憩をとっていた。

 殆ど倒し尽くされた大ヤドカリは、再び発生するまで時間がある。

 そこで、海に潜り魚を獲る者、浜辺でバカンスを楽しむ者など、サーヴァントたちはそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。

 

 アステリオスと小さなメドゥーサが浜辺で遊び、それを後方でエウリュアレが眺めている。

 聳え立つ砂の城はほとんど一軒家の大きさで、流木や貝殻で飾り付けをするメドゥーサが中に入ると一層巨大に見える。

 

 私(ステンノ)はどうしているかしら……

 

 エウリュアレは幼い彼らを見守りながら、そんな疑問が脳をよぎる。

 マスターを揶揄っている、それは当たり前だとして。

 今朝から陽気な様子であった女神の片割れは、満面の笑みで、時折恋する乙女のように顔を朱に染めながら身支度をしていた。

 

(バッグに変な備品も詰めていたから、また何か企んでいるのではったけれど……)

 

 

 そんな物思いに耽りながら青空を眺めていると、日差しが眩しくエウリュアレは顔をしかめた。

 と、視界を降ろしたときに、砂遊びをしていた二人が興奮気味に近づいてくる。

 

「えうりゅあれ、みて、みて! おしろが、かんせいした!」

 

「下姉様、ぜひ中の部屋も見てください。とても涼しいですし、アステリオスと綺麗に飾ったんですよ」

 

「……しょうがないわね、丁度暑くなってきた頃だし。でも半端な城じゃだめよ。私が入るに相応しいか、厳しくチェックするんだから」

 

 二人に手を引かれながら、エウリュアレはツンとした態度ながら頬を緩ませる。

 

 私(ステンノ)のことは気にしたところで、きっとその問題は自分たちに解決できない。

 

 

 それをできるのは、マスターだけなのだから。

 

 

 

 

 □□□

 

 

「この洞窟の奥に隠した宝物を見つけてみせて? そうすれば、この素材を全部貴方に差し上げましょう。ついでに、宝物の中身も貰っていいわ」

 

「分かった。それと、同行者は呼んでいい?」

 

「あら、先ほど通信を切ったのは何のためか、忘れましたの?」

 

「あれは、ステンノが二人きりになりたいって話で……」

 

「ちゃあんと覚えてらしたのね。全く、とぼけてみせるなんて意地悪なマスター」

 

「……」

 

「安心なさって。怪我をしないよう、私もついていきますから」

 

 それは助っ人としてでなく、後方で愉悦するためだからなので、きっと助けにはならないだろう。

 この先に何が待つか分からない洞窟を一人で進めというのか。

 

(……!)

 

 視界に映った岩陰のほうで、紫のシルエットが浮かぶ。

 あれは姉の無理難題に答えて、疲労困憊なはずのメドゥーサだ。

 頼りになる助っ人が来てくれた、と立香は喜ぶ。

 メドゥーサも肩で息をしながらも、微笑みながらこちらに向かってジェスチャーを送っている。

 

 

『グッドラック(親指を立てる)』

 

 

 

 そのまま彼女は、バタリと倒れた。

 だめだ、助け舟がどこにもない。

 本当に駄目だと思ったら、口惜しくはあるが安全を取って引き返そう。

 立香は覚悟を決めて、洞窟の奥へ進んだ。

 

 

 

(何も出ませんように、何も出ませんように……)

 

 

 祈りながら恐る恐る洞窟を歩いていく。

 ステンノが貸してくれたライトを頼りに歩いていく。

 

(何で真夏の浜辺にライトの荷物を持っているのか不思議だったが、このためだったのか)

 

 気づかなくていい伏線を回収したところで、気は晴れない。

 いざとなればサーヴァントの影を召喚させて戦えるけど、ステンノのことだ。それくらいは予想して試練を作っているのだろう。

 

 ひたり

 

「キャー!?」

 

 と頭上から垂れた水滴が肩に触れて、立香は声を上げてしまう。

 ただの服ではなく魔術の組み込まれた礼装とはいえ、見た目水着姿のままなので洞窟の冷えた空気が一層肌に染み入る。

 一方後方にいるステンノは、いつものネグリジェやゴスロリドレスより着込んだ格好で、立香の腕を抱え込んでいる。

 こんな状況でもなければ、絶世の美女神とまるで恋人気分を味わえたであろう。

 残念ながらここにいる加虐的な女神は、立夏の震える手を、指で包み込んで味わっている。

 

 立香は振り向かずとも、女神が邪悪な笑みで楽しんでいることが分かった。

 

 

 

 ~30分後~

 

 

 

「なにも……なかった?」

 

 怯えながら歩くと、道は1キロもなかった。

 洞窟の最奥にある横穴をくぐると、丁度小さな部屋のような窪みがあった。

 そこで、拍子抜けした立香はその場にへたり込んだ。

 奥には明かりの灯ったランタンに照らされたテントと、壁に貼られた「おめでとう!」の紙。

 

 ここに辿り着くまで予想してた、エネミーや罠の登場も、迷路のように入り組んだ道も何もなく、ただ真っ直ぐ歩くと、奥に辿り着いてしまった。

 立香が振り向くと、ライトで照らされた女神微笑みがそこにはあった。

 

「そうね、でもドキドキしたでしょう?」

 

「……」

 

 疲れのあまり、何も反応できない。

 あんなにライトを周囲に振って警戒したり、おそるおそる足を踏み出し、幽かな音に怯えながらもせめて恰好はつけようとステンノを庇ったりして進んだ気苦労は、何だったのか。

 

 しかし、これはこれで用意周到な罠でもあった。

 ステンノに無理難題を押し付けられて、洞窟へ飛び込むことは、特異点でも幕間(にちじょう)でも今まで何度もあった。

 だがそのすべてにおいて、必ず一回は戦闘(バトル)が生じるのがお約束だった。

 だからこそ、立香の警戒が最大限になるのも仕方のないことであった。

 

 

「……それにしても、メドゥーサったら、もう少し派手な飾りつけにできなかったのかしら」

 

(貝殻採集だけじゃなく、このテントもメドゥーサがやっていたのか)

 

 本当にお疲れ様、と心の中で同情を送った。

 それはそれとして、洞窟に入る前にサムズアップをするくらいなら、ここが安全なことを伝えて欲しかった。

 

「はぁ、歩き疲れてしまったわ。一休みましょう」

 

 ステンノはテントの中に力の抜けた立香を引っ張りこみ、中に置かれたクッションの上に座る。

 

「ねえ、マスター。私が身一つしかないマスターに無理難題を出すと思った?」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「出すに決まっているでしょう? 私のこと、マスターはよく知っているなら承知していますでしょうに」

 

 何もかもがステンノの手のひらの上。

 立香も疲れて横になった。

 床は絨毯が敷かれているおかげで平らで柔らかく、小さなテーブルには飲み物が置かれている。

 危険がないと分かれば、この冷涼で済んだ空気も暗がりも心地よく、案外快適だ。

 天井に吊り下げられたランタンも、秘密基地のようでちょっと楽しい。

 

「……立香、そろそろ夏が来てしまうわ」

 

 

 ステンノの声のトーンが変わった。

 立香は身を起こしながら彼女を見ると、そこに微笑は消えていた。

 

「夏になると、貴方は毎年特異点に言って、霊基を水着に代えた方々と遊んで、冒険してるでしょう」

 

「そうだね」

 

「……」

 

「……?」

 

 黙ってしまったステンノに、立香は考えを巡らせる。

 わざわざステンノが普段と衣装を変え、この洞窟の奥まで来させた理由はなんなのか。

 

(そうか)

 

 毎年、夏になると特異点の問題解決や、現地での素材集めに忙しくなり、特定の特異点有利(イベントとっこう)なサーヴァントたちとしか時間を取らなくなる。

 あるいは、任務周回が得意なサーヴァントたちと絆を上げていく。

 

 それはつまり、そのどちらでもないステンノにとって、夏は毎年立香と会う機会の減る季節だということになってしまっているということだった。

 

 立香の表情の変化に、ステンノは頷く。

 

「少し前までなら、ポッドを使って毎日一緒に模擬訓練をしにきてくれたでしょう。けれど、オーストラリアに良い訓練場ができてから、私をまた呼ばなくなってしまった」

 

 ぎくりと、立香は冷や汗を垂らした。

 獲得できる経験値の多さに釣られて、新たなスポットでヴリトラと戦うほうが効率が良いと喜んでしまっていた、数日前の自分が恥ずかしい。

 

「それに、ドラゴン島でしたっけ。この前の特異点にも私はほんの少しだけお邪魔したのを、立香は知っていて?」

 

「覚えてるよ。けど……ごめん、あの時もステンノに時間を取れなくって」

 

 彼女のいた場所は、決して稼ぎの良い周回地点ではなかった。

 だから最後の1週間は、彼女がいると知りながらも、足を運ぶことはなかった。

 

 やっと会えたと思って、けれどほんの少しの時間しかステンノのほうを見なかった。

 特異点が解決してしまった今は、もうしばらく会えないだろう。

 

 ステンノは、毎年のことではあったものの、直前まで立香と毎日顔を合わせていた。

 けれど夏を前にそのすべての機会が失われたことで、いつも以上に不安に襲われたのだろう。

 更に夏の特異点のために貝殻を集めている立香を見て、彼女は最後の機会とばかりに今日この浜辺にまでついてきたのだ。

 

 しかしそれを、ステンノは決して口にはしなかった。口に出せなかった。

 その理由がわかった今、立香は彼女を抱きしめていた。

 

「ごめん、ステンノ」

 

「何を謝っているのでしょう。貴方は当然のことをしただけよ。より効率のいい場所に行き、特異点での問題解決を効率よくこなそうとしただけ」

 

「それでも、ステンノを傷つけた、だから謝らせて」

 

「嫌です、だってそんなことされたら、私……まるで面倒な女みたいじゃない」

 

「違うよ。ステンノはいつだって、怖いし悪戯好きだし人をからかってばかりで、だけど家族想いで優繊細で、最後にはこうして一緒にいてくれる、優しい女神だよ」

 

「……リツカ」

 

 洞窟の奥は、水滴の音しか響かない。

 輝く日の光も、夏の温度も、波の音も聞こえない。

 

「ねえリツカ、なぜ私がこの洞窟の奥に来させたか、分かる?」

 

「海が遠くなって、夏から離れた気分になれるかな。しばらく二人が会えなくなる季節を、忘れられるみたいで」

 

「それもあるけど……もっと簡単」

 

 ステンノは振り向きながら、バイザーを外し、立香の首元に手を回すと、触れ合いそうなほどまで顔を近づけた。

 

「女神のこんな姿、海なんかに見られたくはないもの」

 

 

 そういって、ステンノは微笑んだ。

 リツカの目には、頬の赤らみも、目元の潤みも、小さな唇の笑みも全部が本物に見えた。

 

 

 2人は誰も見る者のいない洞窟の奥底。

 夏の始まる狭間の中。

 

 

 心の憂いを埋めるように、抱きしめ合うのだった。

 

 

 

 

 




この後、おまけでちょっとHなシーンを追加予定。
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