ステンノという愛について【完結】 作:AIRUNo(旧AIRU)
西暦2017年、2月。
7つの特異点の修復から2ヶ月。
亜種特異点、新宿から帰還から6日後。
「フフ、来ていらしたのね……マスター。なんだか恥ずかしいわ」
「申し訳ありません、マスター。申し訳ありません……」
「すまない、マスター……」
新宿を模した夜の街。
十字路に整列し這いつくばる人の山。
頭をぺこぺこと何度も下げて謝る長い髪の少女、ランサークラスのメドゥーサ。
本人は目を逸らしつつ、髪から伸びる蛇たちは分かりやすくしょんぼりとうなだれている、アベンジャークラスのメドゥーサ。
その奥に黄金の椅子に座るのが、いつもの如く悪巧みの女神ことステンノである。
宝具レベルも上がり、半年前には新たなスキルや絆レベル上限の解放もされ、更に使いやすくなったサーヴァントである。
そんな彼女が勝手にシュミレーターを起動し、男性型エネミーを次々に魅了させ愛の奴隷にすると、この前の記録を取ったばかりの新宿を再現した空間で、夜の女神帝国を築いていた。
邪魔するものは問答無用で排除しながら。
原因を、マスターは承知していた。
以前まではアサシンクラスが必要となれば彼女を頼っていたが、今年の1月から全く連れて行かなくなったためである。
それはウルクで縁を結んだアサシンクラス最強と言っても過言でない、「山の翁」をカルデアで召喚できたことと深く関係する。
「確かにあの方は随分とお強いわ……そしてか弱い私は身の程を弁えて、大人しくカルデアから応援していた方がいいものね。ねぇ、マスター……?」
「ステンノ……」
そうして暇と苛立ちを持て余した彼女は、このような有様を作っていた。
なぜ新宿を再現したのかといえば、多分当てつけだと、立香は推測した。
立香は、しまった……と、ステンノの混沌・悪属性を体現したような微笑を見て思う。
ステンノを放置したのは悪かった。
加えて、去年ライダークラス以外のメドゥーサたちと縁を紡いで召喚できたと喜んでたけど、それは実質ステンノの命令に従うものを増やしてしまうことでもあった。
何人かのサーヴァントが占拠をやめるよう説得しにいったが、彼女たちのスキルでスタンし続けられて太刀打ちできない。
敵対とまではいかないため、彼女らを強制的に消滅させるのも避けたい。
そして対話できるのは。
実質、立香だけとなった。
「ごめん、ステンノ。もっと早く君にちゃんと感謝を言わなくちゃいけなかった。特異点修復を今まで支えてくれてありがとうって」
「えぇ、別にいいのよ。私、別に人間からどう思われようと気にしてませんから……」
「亜種特異点を終えてからも、忙しいからと後回しにしちゃって、本当にごめんなさい」
「いいえ、いいえマスター……貴方は何も悪くないのでしょう? 7つの特異点を巡り、去年の
当てつけだが、真実でもある。
2016年、1月。
それはついに特異点を7つ修復し終え、終局特異点、冠位時間神殿ソロモンから戻った立香は、特異点に関する書類を仕上げながらもしばらく現地での戦いはなく、休めるはずだった。
ところが、戦いを終えた先に、亜種特異点を観測、滅んだはずの魔神柱の反応を感知する。
そのため、役割を終えたはずのマスターは、山の翁を始めとする新たな戦力を召喚し、まだ終わらぬ戦いへと明け暮れていた。
本当は1人1人、サーヴァントへ感謝を告げてカルデアから退去してもらうはずだった。
しかし予定が変わり、ただの一般人だった立香は、今年もまたカルデアから元の世界に帰ることはできない。
ステンノは、その事実を最初興味も持たなかった。
お気に入りの人間が足掻く姿をまだまだ見れるのは心地良いし、束の間の夢であろうと、三姉妹で日々が続くのは楽しい。
そう、彼女は戦いが続くことを好ましくさえ思った。
反対に同じ顔でもエウリュアレは臆病なところがあるので、あの人間が死んでしまわないか心配していた。
「あの冒険の日々を乗り越えた方なら、きっとこれからも大丈夫よ」
そうステンノは諭したけれど。
ある晩、顔をしばらく合わせなかったマスターの姿を彼女は見た。
大事な人を失い、それでも新たな戦いを、この先も延々と引き伸ばされる彼が、たった1人でいる姿。
ああ、なんて吐きそうなほど醜い顔をするのだろう。
ステンノ自身、なぜ自分がただの人間相手に機嫌を損ねているのか、明確な答えがなかった。
女神の気まぐれ、と人は呼ぶが、これもまた気まぐれゆえからか。
それでも決して、
「仕方ない……ならマスター。この試練をいつものように乗り越えてみせて? 妹2人と蟻たちを見事倒せたら、褒美を与えましょう」
「褒美はいらないから、大人しくシュミレーターから出てくれると嬉しいんだけど……」
「因みにここを占拠しようと言い出したのメドゥーサたちだけど、そんなに叱らないであげてね……私は止めようとしたのだけど、こんな椅子に無理やり座らせらてしまって」
「「ね、姉様!?」」
「どうしたの駄妹たち。ほら、大人しく貴方たちの全力をマスターに見せつけてあげなさい」
「皆、ごめん……やっぱり戦闘だ。お願い!!」
マスターの合図と共に、控えていたサーヴァントたちが前に出てくる。
その困りながらも覚悟を決めた顔に、ステンノはゾクゾクとする。
ステンノは、今だけは、その顔を横で見られるサーヴァントたちが羨ましくなった。
……それでいてものぐさな彼女は、2人が倒されると早々に白旗を振り、部屋へと戻っていってしまった。
因みにメドゥーサたちは、戦う前からステンノたちに散々吸血をされており殆ど力を出せず、それでも健闘をし切って倒れた後に「愚かな妹たち……後でしつけが必要ね」と言われ震え上がったという。
そしてマスターも、なるべく彼女を任務に参加させようと反省したのだった。
だがその後悔は、忘れた頃に襲いかかる。
同人誌やTwitterと違って文字数を気にしない分、導入をしっかり書けてしまいますね。
次も出来上がっていますので、早めに投稿します。