ステンノという愛について【完結】 作:AIRUNo(旧AIRU)
立香が目を覚ますと、授業を知らせるチャイムがなった。
ガヤガヤとしていた教室が静まり、教卓の講師が語り始める。
なんだか頭がフラフラとして、今が何の教科か分からない。
「大丈夫?」
長机の横に座る女性が声をかけてきた。
なんだか見覚えのある顔、だけど思い出せない。
「あれ……君は、誰?」
「寝ぼけてるのかしら……私はステンノ。ステンノ・ヴァイオレットよ」
そうだ、彼女はステンノ。
自分とは大学のゼミ仲間。
たまたま顔を合わせることが多く、二日に一度はランチをして、週に一度くらい歓楽(レジャー)に出かけるくらいの友達だ。
「調子が悪いの?」
「うん、なんだか頭がぼんやりとする……」
「そう……なら」
彼女はそっと囁いた。
「私も退屈していたところだし……一緒に授業、抜け出しちゃいましょうか♪」
□□□
「ガアアアッ!!!」
雄叫びと共に、分厚い拳が振るわれた。
次の瞬間、ステンノは飛び退き、その地面がひび割れた。
「あら……失敗しちゃった」
ステンノの宝具を受け、マスターは地面に倒れ伏したま。
その間にカリギュラが割って入り、中腰の戦闘体制のまま、歯をギリリと食い縛ってステンノを睨んだ。
「獰猛な方は嫌いよ……既に月の女神に魅了され切っている貴方には、私の魅了も聴きにくそう」
偽物とはいえ、既に月が出ている状態からか。
彼の戦闘力は常時より高まっており、同時にスキル「在りし日の栄光」を使えば精神干渉系の抵抗が強まる。
理性の大半がないバーサーカーだが、下手にステンノが動けば、それより先にその女神の神核を砕いてしまうだろう。
今彼が動かないのは、背後にいるマスターをステンノ以外の敵が現れた際、襲われぬよう庇っているからでしかない。
「流石は偉大な皇帝様……狂ってしまってもローマを守ろうとしたように、自分のマスターの危機に遠くから駆けつけてくるなんて」
「捧げよ、その命ぃ!!」
「ダメよ……女神は人から捧げ物を受けることはあっても、捧げることしないのだから」
そういってステンノは遠ざかる。
マスターを庇っているカリギュラは深追いせず、じっと睨んでいた。
「マスター!!」
後から駆けつけたマシュたちにより、マスターは診断を受ける。
創傷なし、バイタルサインに異常なし。
ただし何か精神的な影響を受けたのか、昏倒から目覚めない。
「カリギュラ殿の叫び声を聞き駆けつけましたが……この地面に残る拳の跡はカリギュラ殿の。そして真新しい小さなサンダルの跡が向こうへと続いていますな」
着いて早々、陳宮の分析力が冴え渡る。
そしてあたりをぐるりと見渡し、人差し指を立てた。
「この靴跡の特徴に当てはまり、かつ騒ぎがあっても未だマスターの元へ来ないサーヴァントが一騎おりますな……何が起きたかは自明でありましょう」
「そんな……でも」
「ええマシュ殿、確かに。あの煙たい軍師めに言わせれば、わいだあにっと。何故そうしたのかが、分からない状態です。ともあれかくもあれ今は、マスターを安全な場所へ避難させましょう」
「そう、ですね。では、先ほど見た村の方はどうでしょう? あそこなら、ベッドを貸して頂けるかも」
ぴくりと、軍師の眉が動いた。
「あの村は……いえ、そうですね。私が同行すれば、問題はないか」
「陳宮さん?」
「いえ、では行きましょう。私がマスターを抱えていきます。それと念のためにこちらを」
陳宮が差し出したのは八卦の模様が描かれた、対魔術用の護符だった。
村は彼らのいる場所から少し斜面降りたところ。
虚月神殿により近づいたところにある。
サーヴァントの能力を持つ彼らは鮮やかに滑り落ちることで、すぐ目的地へと辿り着く。
尖端を鋭くした木の柵の向こうには、石積みの家が並んでいた。
早速入り口らしき場所に立つ門番に、マシュは早る気持ちを抑えつつファーストコンタクトを試みる。
「すみません、突然なのですが仲間が倒れしまっていて、中で治療を受けさせては貰えないでしょうか?」
「……」
槍を持つ門番らしき男性は、反応がない。
目も遠くを見ており、呼吸はするがただ立っているだけである。
「やはりですか。マシュ殿、行きましょう」
「え、でも……」
「今の我らに、彼を正気に戻す方法はありません。それに彼以外にも、恐らく村の者は皆、こういう状態でしょう」
陳宮の予想は当たった。
村の住民は、生活を営んでいるように見えながら、目は虚で、会話もない。
店の前でただ立ち尽くしていたり、何もない食卓を前にただ座っていたりする。
マシュは、村のいたるところに三角形の模様が描かれていることに気付いた。
奥へ進むと、ベッドはあるが無人の一軒家があった。
陳宮は鍵を解除して、遠慮なく中へと入る。
「丁度良いですね、この家を少し借りましょう」
「陳宮さん、これはどういう?」
「マスターと同じですよ。皆、何者かによって魔術にかかって意識をどこかに飛ばされています」
「捧げられし……命」
「カリギュラ帝の仰る通りですな。逆に、我々はそこに近づかなければ害はないと見立てました」
(……?)
マシュは疑問を浮かべたが、今は後回し。
陳宮は村の奥へと進んでいく。
「ともかくまずは、マスターにかかった幻惑が解除できないか試しましょう」
□□□
「リツカ、これはどうかしら」
「すごく綺麗だ、良いと思う!」
立香とステンノは学校を抜け出し、ショッピングへ出かけていた。
そこで新しくできたファッション店に入り、服を試着し見せていた。
黒いデニムシャツにジーンズ、頭にサングラスを乗せたのカジュアルスタイル。
美しい脚を引き立てるミニスカと、スレンダーさが際立つ黒いキャミソール。
お淑やかに肩掛けのカーディガンと長めのスカートに手持ちのバッグ。
季節外れだがセーラー調のワンピース、アイドル風の衣装さえも。
全てを着こなし、少女チックにも大人の女性にもなっていく。
たった1人でのファッションショーだが、素体の魅力がどれをきても引き出され、立香は1日中見ても飽きないと思った。
「それにしても貴方、『綺麗』『美しい』というばかり……他に感想はないの?」
「ごめん、あまり女の子の服に詳しくなくて……」
「それもそうね……じゃあ逆にしましょう。私が貴方の服を見繕ってあげる。それならどう?」
「それはなんか恥ずかしいな」
「何言ってるの……」
と、へそ出しファッションの彼女が言う。
「貴方が前に服はセンスがないから持っているのは少ない、制服が楽で良かったなんて言ってるの、聞いちゃったんだから」
「いや、あれは……」
と言って、ふと言葉が詰まる。
そういえば、いつも制服を着ていた気がするけど、どうしてだろう。
うちの大学は私服で、今日もラフなTシャツだというのに。
「ほら、言い返せないのなら大人しく、私の言う通りになさい。私の横を歩いていても恥ずかしくない格好にさせてあげるんだから」
そうやってグイグイと試着室の奥に押されてしまい、彼は抵抗を諦めた。
ふと下を見ると、彼女が試着を終えた服が雑に散らかっている。
仕方ないなと畳んでいると、カーテンが少し開き、中からステンノが手に服を持って入ってきた。
「ほら、これはどう……? 貴方の黒髪に合って、中々良いと思うけど」
そう言って立香の胸に服を当ててサイズを確かめる。
個室では必然的に密着するため、服越しにあたりそうな胸にドギマギとする。
「ほら、変な格好しないで……肩幅とかシルエットが大事なんだから」
「いやその、あんまり異性に密着されると恥ずかしいというか……」
「え……って、やだ。なに意識させてるの、もう!!」
そんなことをしながら、いくつか服を着て、彼女に見せてみる。
段々とステンノの方が楽しくなったのか、次々と服が運びこまれてきて忙しい。
そんな折、彼女が手に持っている男モノのシャツを見て、ふと脳裏に映像が浮かぶ。
それは、ステンノが男モノのYシャツを着ていた姿。
(あれ……でも、そんなの見たことあったっけ)
彼女と自分とは大学のゼミ仲間。
たまたま顔を合わせることが多く、二日に一度はランチをして、週に一度くらい歓楽(レジャー)に出かけるくらいの友達だ。
そんな恋人でしか見ないような光景はありえない。
頭に疑問を浮かべたが、ステンノが嬉しそうに次の服を押し付けてきて、それも掻き消えた。
辛かった大学を勝手に抜け出して、久しぶりに思いっきり羽を伸ばせているのだ。
こういうのも、悪くはない。
けれどなんだか切ないのは、単に授業を抜け出たせいだけだろうか。
次話以降に性的なシーンあるかもですが、大丈夫そうなら読まれやすいようR-15にしてみたいと思います。アウトそうなら教えてね。