山田兄がバンドを止めたい話   作:コンソメ

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第2話

最寄り駅の東口から続く緩い坂を上っていくと、大学の敷地が見えてくるあたりで大きな十字路に差し掛かる。信号はいまだに赤のため、多くの学生が足止めを喰らっている。集団の中にあっても青年は目立っていた。青年は妹には少し劣るが、そこそこ見てくれはいいユニセックスな外見に、無口で無表情といったミステリアスな雰囲気を纏う青年がそこにはいた。ちなみに1年時はギターを背負っていたのだが今は背負っておらず、気怠そうに虚空を見つめている。

 

青年はネットで活動している時を含め、少ない頻度ではあるが顔出しをしていた。もちろん、今と雰囲気を変えて髪色やメイクなどで変装していたものの気が付く人は気が付くレベルだ。

 

だからチャンネルを消してからはマスクを着けて外出をしていた。しかし、今日に限ってマスクを家に忘れ大学に来てしまっていた青年は常に人の視線に苛まれていた。

 

「帰りたい」

 

急いで軽音サークルの部屋に駆け込む。青年は軽音サークルのメンバーではあるものの、誰とバンドを組むこともなく時折ソロで弾くだけの半分幽霊部員的な立ち位置にいた。

 

実態としては青年の正体を知っているメンバーが多いため、遠慮して誰もバンドを組みたがらなかったのである。

 

扉を開けるとそこにはアル中がいた。

 

酒瓶を抱き、机の上で寝ているアル中を見て青年はまたかと思った。ノースリーブのワンピースにジャンパーを羽織っただけの無防備な格好をした彼女。

 

彼女の周りには空の瓶が転がっており、アルコール臭がツンと鼻を刺してくる。

 

「きくりちゃん先輩、起きてください。いくら大学の警備が緩いからって学外の人間がサークル室で泥酔しているのはまずいって」

 

泥酔し横たわっているその人物は廣井きくり、とあるバンドのベース担当だ。

 

「ん?おー、なんだヒーちゃんじゃん。どうしたの?また振られた?それとも泣かせた?っていうかここ何処」

 

「このまま捨てて帰るぞこの野郎」

 

寝起きにとんでもないことを言った廣井から酒を取り上げて椅子に座らせる。

 

「何でここにいるんですか?」

 

「んー、覚えてない」

 

「知ってた」

 

日夏は少し沈黙し岩下志麻にRINEを送った。『大学に不法侵入して寝ていたので回収してください』と通報しておくとすぐに回収しに行くというメッセージが飛んでくる。

 

「………きくりちゃん先輩。友人以上だけど恋人にはしたくない異性の秘密を知ってしまった時ってどうすればいいと思いますか?」

 

「急にどうしたん?」

 

日夏はPAさんの家に泊まった時の話を身バレしない様に伝える。泊めてもらった代価として、朝食を作りそろそろお暇しようと挨拶をしに行くと部屋から声が聞こえたこと。扉が少し空いていたため好奇心に負けて少し覗くと、動画配信を行っていたこと。覗いていたことがバレたこと。

 

「普段は朝食を自分が食べ終わる瞬間までは家にいろという人なんですけど、無言で叩き出されたんですよ………その後謝ったんですけど、距離感に困ってまして」

 

「………飲もう!」

 

「え?」

 

「悩みがあるときは飲もう。腹を割って話せないなら、酒を飲ませて対話するんだ」

 

「えー」

 

「なんだぁ? 不満そうだなぁ、お姉さんがきっすしてあげよう」

 

「来るな、酒臭い」

 

近づいてくる廣井を足で止めて青年は考える。

 

「………酒を飲ませて本音を語らせる………か」

 

ありだと思う一方で問題がある。

 

「俺の方が先に潰される」

 

PAさんや廣井が強いのではなく、青年のアルコール耐性が貧弱なのだ。ジョッキ5杯でひっくり返る自信があった。

 

「じゃあ飲んで強くなろうぉ」

 

そう言って差し出される鬼殺しを、青年は黙って受け取りゆっくりと飲みだす。数時間後、回収に来た志麻が見たのは酔いつぶれている馬鹿二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた今いくつだっけ?」

 

「来月で20です」

 

「何ですでに飲酒してんのよ!」

 

「サークルの先輩に呑まされました。自主的に飲んだことは一回もないです。ロックでしょう?」

 

「飲ませたのって女の先輩でしょ?」

 

「正解です」

 

今までの回想を聞き、佐藤愛子が突っ込んだのはそこだけだった。深夜のファミレスで叫んだためかなり響いたが、青年のスマイルで店員を黙らせた。妹同様、自分の価値を知っている動きだ。

 

最も、立ち回りを教えたのは佐藤愛子本人であるため何も言えない。

 

「で、先輩はどう思いますか。酒を飲ませて解決すると思いますか?」

 

「思わないわ」

 

「バッサリっすね」

 

愛子はため息をついてジト目で青年を睨んだ。

 

「そもそも、謝罪は受け取ってもらえたんでしょ?なら、今まで通りにすればいいじゃない。何か問題でもあるわけ」

 

「………確かにそうですね。ちょっと、秘密が衝撃的すぎて判断がおかしかったです」

 

まさか、PAさんが音戯アルトだとは思わなかったのだ。20代後半の割と憧れの女性が、キャラづくりして甘い声を出すバーチャルYouTuberだと思いたくなかった。

 

「ハァ~、店員さんワインください」

 

現実を受け入れようとワインを頼み、愛子に叩かれる。

 

「あんたマジで20になったら私に連絡を入れなさい。他の女と酒飲むんじゃないわよ?」

 

佐藤愛子は目の前の後輩の性質が染まりやすい透明な液体であると知っているために、無駄な心配を抱いてた。

 

 

 

 

 

 

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