「あのさぁ、自分語りしたいならホント早く消えろよ。
これは家族の話なんだよ!」
職業が棋士であり、年収も一般のサラリーマンよりも高く将来性もある経歴が見栄ばかりを気にする誠二郎の気に障ったのか、苛立つように吠える。
「いいえ」
零はその怒りの声を前にしても頭は冷静で、誠二郎に対しての殺意に似た激情すらも飲み込んで言葉を挟む。
「僕はあかりさんと結婚を考えております」
それは驚くほどするりと飛び出した言葉だった。
ずっともがいて足掻いて、求めてもやもやとして心の中に押し隠してきた感情の正体を言葉に出して気づいた。
あかりさんに泣いて欲しくない。
穏やかに笑っていてほしい。
「だから、他人事なんかじゃないんです!」
でも、それだけじゃなかったんだ。
彼女の笑顔を隣で見ていたい。
誰かの隣で笑うのではなく自分が一番近くで見ていたいのだとようやく気づいたからこそ出た言葉。
これはその決意の表れだった。
「え?」
「え?」
「え?」
「というわけで、僕は動きませんので。
話し合いの度に上がり込みますから」
川本家の全員から驚きの声が上がるが、無理やり言葉を続ける。
「おねいちゃん!?桐山くんと付き合ってたの!?」
「あ、あかり!?あんたまさか!?」
「あかり、こいつと付き合ってたのか!?
許さんぞこんな男と!」
ひなた、美咲、誠二郎までもがあかりに詰め寄るが、アワアワと言葉が出せないでいる。
「き、桐山くんどういう……私たち……」
付き合ってないと言おうとしたところであかりは発言の意図に気づき、美咲と一瞬のアイコンタクトをする。
こくりとお互いに頷き、真意はともかくここはその意図に乗ろうと決める。
「な、内緒にしてたのよ。
今度もっとちゃんとしたタイミングで言おうと思ってたの」
声が震えているが、あかりは零に目線を合わせてこれでいいのよね?と言わんばかりに顔を真っ赤に染めて合図する。
「僕はあかりさんを愛しております。
貴方が彼女の害になるなら僕は絶対に許しません」
まだ告白すらしてないのになぜあかりが肯定するのかが理解出来ていない零であるが、彼の明晰な頭脳は今後川本家の問題に関われるなら乗っておこうと、あかりに頷きをかえしていた。
当然ながらお互いの認識は全く違うが、奇跡的に噛み合っていた。
「きゃー!きゃー!」
ヒナタは突然の姉の恋愛事情に言葉がないほどに興奮して叫ぶ。
いつから!?いつから付き合ってたのと、あかりに詰め寄る勢いであり、もはや先程までのシリアス展開はどうなったのだと言わんばかりであった。
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これ以上は話にならないと判断したのか誠二郎はまた来ると言い残して川本家を退散していた。
もう二度と来るなというのは全員の共通の思いだろうが、川本家の面々からしてみたら今はそれどころではなかった。
「あかり、桐山少年、誠二郎さんもいなくなったことだし、さっきのことちゃんと聞かせてもらうわよ」
美咲はため息を吐き出すかのように言葉を出す。
「桐山くん、突然のことであんなお芝居させちゃってごめんなさいね。
まさかあんなこと言い出すなんて思わなかったわ」
ふふふと、思い出し笑いをするように穏やかに微笑むあかりの頬は少し赤い。
「あかりさん、あれはお芝居なんかじゃありません。
本気です。僕は貴女が好きです。
僕と結婚を前提で付き合ってください」
「え?え、え?
冗談よね……?」
零の迷いのない真っ直ぐな瞳に見つめられ、あかりの顔はどんどんと赤く染められていく。
「あ、青いわー……。
まさかあかりの方とは……」
美咲は思わずつぶやく。
以前にあかりに対してひなたが好きなのではないかと懸念していたが、ひなたではなくあかりの方だとは思ってもいなかった。
そして、不器用で実直な言葉に何も言えなくなってしまう。
ひなたであれば早すぎると口出しをしてたかもしれないが、相手はあかりならば何も言うべきではないと判断していた。
そもそもとして、あかりの男っ気のなさに一番心配していたのは美咲なのだ。
冷静に考えれば桐山零という男は真面目で、将来性もあり、収入良し、勤勉、努力家、川本家と仲良く信頼もされている。
これ以上の物件はいるのだろうかと思うほどに願ってもない有望株であった。
「か、考えさせてください」
まっすぐと目をそらすことのない零の視線から逃れるように顔を逸らし、それしか言葉を返すことが出来ない。
あかりの脳内はぐるぐるといろいろな事が渦巻き、思考はオーバーフローしている。
まさか、桐山くんが好きなのはひなじゃなく私だったなんて。
でも、わたし4つも年上だし。
桐山くん学生だけど、収入はあるしいいのかしら。
でもでも……と、ぐるぐるぐるぐると思考だけが空回り続けていた。
「あかりさんを困らせるつもりはありません。
結婚を考えているとは言いましたが、急がせず時間をかけて説得させていただきますので!」
キッパリと、的はずれな零らしい発言に真っ赤な顔をしたあかりは花が咲いたような笑顔を浮かべるのであった。
基本的には10巻までは同じ流れで、ひなちゃんへの想いはあくまでも尊敬とか恩人で惹かれたのはあかりさんと思ってくれたらと。
このルートだとスミスさんとか先生とかにめちゃくちゃ恨まれますが、幸せ税です
続かない。