時系列としては、半終末に突入してしばらくした頃です。
「…あはぁ♥」「…も、もうダメ♥」「…叔母様ぁ…すごいよぉ…♥」
「……もうこれで終わりやな。ああ、しんどかったでぇ」
汗やら他の液体まみれで寝室の布団の上で気を失っている裸の女性3人をそのままに、そのサファイアのピアスが目立つ細目の細身の男は部屋に備え付けのシャワーで汗などを流すと、青色のスーツを着て荷物を持ちその屋敷を出た。
そして出た所で羽音がして、空から梟が降りて来て男の肩に止まった。
「ホウ。(主、敵対者の排除に成功。一部、死者が出ていますがどうしますか?)」
「警戒ご苦労さん、オウル。
ああ、そらかまへん。
今は気持ちよう部屋で寝とる女主人の彼女が、ここの代表になるさかい。
謀反人の排除は既定路線やで。死体の後片付けも彼女のシンパがするやろ」
「ホウ。(了解。彼女らは主に対してかなりの好意を寄せている模様です)
ホホウ。(あと、排除した敵対者の近くでリカが待機中です)」
鳴き声と同時に念話で話しかけてくるフクロウの姿をした自身のシキガミである【オウル】に、彼はそう答えるとそのままブラブラと周りの風景が山ばかりの屋敷の門まで歩いて行った。
彼の名前は『ブラウニキ』こと【青上鷹久(あおがみたかひさ)】。
元は関西で風俗の裏方と用心棒をしていたが、担当していた店の嬢達がメシアンだったおかげで客で来ていたガイア連合の関係者とトラブルになってガサ入れを食らった際に、能力を使って抵抗し打ち倒されて捕まり転生者である事が判明して保護された経歴の持ち主である。
その門の近くには、倒れ伏した十数人の男達をつまらなそうに蹴っている黒いツーサイドアップの髪に豊かな胸が特徴的な美少女がいた。
彼女の名前は【弓削猟果(ゆげりょうか)】。
元は地方の潰れかけた忍者系組織の家系の生まれで、『アイテム』と呼ばれる霊能チームを敵対視する連中から高額の暗殺の依頼を受けた貧乏な宗家の指令で彼らを狙った際に、事前にそのチームを支援する黒札から依頼を受けたブラウニキが彼女を捕まえて無力化し彼の子飼いになった経歴のある少女である。
制服姿の彼女は彼が来たことに気がつくと、嬉しそうに走り寄って来て彼の左腕に身体を絡めるようにして抱きついた。
「タカヒサ、こいつらてんでたいした事なかったですわ。
それなのに、またタカヒサは別の女を抱いていたんですね?」
「まあ、これも正式にガイア連合から貰った依頼やさかい。納得するんや、リョウカ。
それより、こいつらの排除ご苦労さまや。
埋め合わせは、帰ってからするさかいに堪忍や」
「リカだよ、リ、カ。その名前で呼ばないでって、言ったじゃないですか!
それじゃあ埋め合わせは、山梨に戻ったらあそこでデートしてあそこで買い物してそれで……」
「わかった、わかった。約束や、報告したら行こか。
オウル、山梨まで転移や」
「やった!」
「ホーウ。(了解。山梨まで転移します。【トラポート】)」
彼にそう言われたオウルが鳴くと、二人と一羽の姿は虚空に揺らめくように消えた。
後にはうめき声を上げながら倒れ伏す分家の男達と、それらをリヤカーに乗せて片付け始めたここの山村の引きつった顔の本家の部下達の姿だけが残されていた。
ーーーーーーーーーー
ガイア連合の受ける依頼には所謂、「特別派遣依頼」つまり【種乞い依頼】というものがある。
元は戦後のメシア教根切りで霊的素質の枯渇した血筋だけになった地方の霊能組織が、自分らを遥かに凌駕する才能を示した連合の転生者に子どもを作ってくれと懇願したのが始まりだった。有名になるに連れて重なり多くなった懇願に音を上げた連合側がそれらを正式な依頼として受け入れるようになり、合コンのような形式や婿・嫁入りの紹介斡旋、果てはどうしようもないクズの転生者を『種馬・繁殖牝馬』として優良な相手にレンタルや譲渡するまでに至っている。
この依頼の多くはスケベな男性転生者が主に受けるもので、結婚や恋人相手ならともかく女性の転生者はシキガミもいる現状ではこの依頼はほぼ無視されるか嫌われている。また、男性転生者の中には、依頼もなしで趣味で多数の相手と同衾する者、依頼だが子どもは母親側が全て育てて認知はしない者や依頼が切っ掛けで相手と家族になる者と様々である。
最近ではガチの地方組織だけでなく、悪魔的な価値観で主神からの命令でお持ち帰り目的のメシア教に追われて日本に逃げて来た『外様の神々』や“カレピ”なガイア連合との合一を目指す『メシア教穏健派』までこの依頼を連合に出しているのが現状である。
そんな現状ではあるが依頼である以上、その依頼の内容はガイア連合側で精査されてから受注者の方に依頼が渡る。その調査は過去の資料や占いなどの魔法的なもの、現地に調査員を派遣してのものになる。
そして、ブラウニキはこの種の依頼の常連であり調査員でもあった。
山梨に戻ってその日の内に報告書を作成した彼は、着いて来たがったリカをご馳走で大人しくさせると各種の依頼を取り扱う事務所の方に向かった。夕方の事務所が閉まる頃に彼はそこに着くと、受け付けの奥にいた男性に報告書とICレコーダー簡易シキガミを提出した。
「報告に来たで、係長はん」
「書類、拝見します。……なるほど。
先方はこれで大丈夫という事ですね?」
「ああ。
ミナミィネキはん製の【豊穣の媚薬】も飲ませてヤったから、子どもも確実や。
反対派の主だった若手は皆ーんな、大人しくしたしな。
充分に飴をやった訳やし、これであそこもボクらに従順になるやろ」
「それは朗報ですね。
あそこは峠道の重要な地点でしたから、霊道の敷設にも取り掛かれます。
なにぶん、長野県と新潟県を結ぶ霊道の予備ラインとはいえあの道も重要でしたから。
今は何かと忙しい両県の代表者の手を煩わす訳にもいきませんし」
「対等に交渉できると勘違いした、ホンマに馬鹿な連中やっちゃで。
ギリギリまで粘って、高く売りつけるつもりやったんやから。
主流派の本家の母娘と娘の従姉を孕ませたんやから、これで大丈夫やとは思うけどな。
もっとも、裏で若手にある事ない事吹き込んだ爺ぃを始末できるかで今後の判断したってや」
「分かりました。では、それまであの組織は引き続き監視対象という事で。
ああ、そうそう。この間、ブラウニキに食ってかかった受付嬢の子ですが…」
書類とシキガミをしまい込んだ係長の男性は、以前、ブラウニキに「こんな依頼を受けて女性を好き放題にするなんて許せない」とヒステリーを起こした若い女性転生者の事を話題に出した。
それを、ニヤッと笑ったブラウニキは答えた。
「ああ。あの来たばかりでまだ何も理解していない娘の事やろ?
終末の事も本気にしていない素人の娘のいう事をいちいち気にしてないわ。
ただ、この種の依頼を引き受けてくれてる黒札には迷惑な話や」
「こういう依頼は、地方の不満のガス抜きのためでもあるんですけどねぇ。
まあ、前職の事務も腰掛け程度に考えているような事が透けて見えましたからね。
あの子、山梨第二支部の資料整理部署に飛ばしたんでもう忘れてください」
「まあ、ええよ。
それで、他に何か依頼はあるん?」
そうブラウニキに聞かれた係長の男性は、机から資料を取り出して彼に見せた。
「ええ。
特別派遣依頼ではありませんが、ただ単に異界を潰せばいいというものがありますよ。
聞きますか?」
「頼むわ。
そろそろガラガラドリンク飲み過ぎて、女のいるベッドに行くのはしんどいんやわ」
その返答に、内心では(俺はシキガミちゃんもまだなのにヤリチンもげろ)と考えつつ表情は冷静なまま係長は説明を始めた。
ーーーーーーーーーー
「悪魔の目撃情報が無視できない規模になっているんです。
どうか安全な場所に避難してください」
「そんなのそっちの都合だろうが!」
「そうだ! 地元の若造の分際で何様のつもりだ!」
「それが何だってんだ! せいぜい、幽霊や餓鬼くらいじゃねぇか!」
「そうだそうだ! あの程度の相手にも勝てねぇのかよ!」
「それは誤解です。
あの程度なら蹴散らせますけど、徐々に数が増えているんです。
祭神もとうにいないのに、神社の異界が成長しているんですよ」
そう言い募る真面目そうな少女を、取り囲んでいる中高年の男性や女性の複数の声が野次を飛ばしている。
そして、彼らのリーダーらしい若い男はこう答えた。
「こうして危機を煽り皆さんが退去した後に、ここの霊地をなし崩しに接収するのがガイア連合の常套手段なのです!
皆さん! 騙されてはいけません!
ガイア連合は地方を見放した根願寺の手先です!
その手先が、目の前にいる黒札と名乗るただの一般人の集まりなのです!」
「「我々を守れー! 私有化はんたーい! 責任を全うしろー!」」
「私有化とかしません!
ここの組織では対処できないから、私がこうして来たんじゃないですか!」
「地方の人々を守る、その為のあなた方“ガイア連合”でしょう?
故郷の人々を見捨てないのはあなたの義務でしょうに。
根願寺は、『地方はガイア連合に一任している』と言っていますよ?」
「……それはっ」
ちなみに、根願寺はその辺に関しては面子のために表向きには曖昧に濁している。
黙り込む少女に、リーダーらしい男の声は続く。
「村民の皆さんに立ち退きを呼びかける前に、悪魔を撃退しなさい!
それがここの出身である貴女の義務でしょう?
それで、あなたの祖父母が眠る墓がどうなるか貴女次第でしょうが」
「……また来ます」
「「さっさと悪魔を倒せ! ここは俺達の故郷だ! 立ち退きには応じないぞ!」」
そう叫び続ける男達に背を向けて彼女は一旦、この場を去る事にした。
ーーーーーーーーーー
「……というのが、私と彼らのやり取りです。
正直、異界の奥はエネミーソナーが真っ赤になるくらい手に負えなさそうでした。
今回、来てくださってありがとうございます。えっと…」
「ボクはブラウニキで通っとるから、そう呼んでな?
こっちが相棒のオウルと、助手のリカや」
「りりり、リカ、です。……よ、よろしく」
「よろしくね。
わっ、フクロウのシキガミだなんて初めて見ました。かわいい」
『ホウ。(感謝)』
係長から話を聞いた日の数日後、彼が運転する車内でブラウニキは今回の依頼人である【樋口まどか】と顔を合わせていた。
ブラウニキは、人見知りからぎこちなく頭を下げるリカの横に座る彼女に改めて詳細を尋ねていた。
彼らがこれから向かう場所は、淡路島のある漁村であった。
そこはまどかの祖父母のいた田舎というだけでなく、瀬戸内海のヒノエ島支部と四国の大赦支部、それに大阪の関西支部を結ぶ輸送船の中継港として考えられていた候補地であった。
だが、その村が候補地から外され危険な状態になったと掲示板で知った彼女は、東京の家から祖父の家があるその漁村まで向かったそうだ。
そして、そこで彼女が目にしたのは、ガイア連合がこの港を拠点にすると知った地元の組織の人間達が見知らぬ男に扇動された姿だったそうだ。
数十人はいるだろう村人とその男が連れてきたらしい“自然保護団体”のデモをする人々、彼らは一様に『ガイアグループは自然環境を破壊する企業群』だとシュプレヒコールを上げていた。
たぶん、これが候補地から外された理由なのだろう。
先のやり取りは、扇動している男の手下に成り下がった祖父母の眠る寺の和尚が代表を務める地元の霊能組織と彼女が話し合った時の記録であった。
「そんで結局、樋口はんはおじいはん達の墓の安全だけが目的なんやね?」
「はい。今更、こっちに移すのも無理ですから、終末になるまでの間だけでも墓の周りは静かにしておきたいんです」
「樋口はんはシェルターとか大丈夫なん?」
「信じてくれるかは難しいですけど、家族と友人の数人分はなんとか」
「それなら大丈夫やな。樋口はんなら信じてくれるやろ」
「はいっ」
道中、ぎこちなく会話に加わるリカを交えて会話が弾みながら車は進む。
朝方に神戸で合流し車で数時間、海岸線の舗装はしてあるが細い道を通り抜け彼らは村の入口に近いトンネルの出口を出た。
「こりゃ、あかんわ。
樋口はん、リカと一緒にここで待機しとってくれへんか?
場合によっては、先に脱出しい」
「ブラウニキさんはどうするんです!?」
「ボクは中に行って調べてくる。そういうのは、得意なん」
彼女の話に聞いていたその村は、既に変わり果てていた。
小さな漁港のあるその辺鄙な村は村中の家屋に木の根がびっしりと絡まっている状態で、村中の人々の姿がどこにも見られなかった。
「リカ、この場に残って樋口はんの護衛をするんや。
ボク一人なら忍び込むのは何とかなるやろうし」
「ねえ、タカヒサ。同行するのオウルだけで大丈夫ですか?」
『ホウ。(問題はありません)』
「今までもそうしてきたやろ?
しっかり、護衛が出来たら帰ってから可愛がってやるさかい。
お利口にしているんやで?」
「……う、うん。わわ、わかった」
「死亡フラグを立てていないで、頼みますよ?」
「はっは。じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」
双眼鏡であらかたの地形を把握し、オウルを肩に乗せた彼は彼女らに言い含めると移動を開始した。
ーーーーーーーーーー
その異界の中心では、五階建てのビルに匹敵する大きさの大樹となったレベル27になる【妖樹スクーグスロー】がそびえ立っていた。
周囲はその樹から伸びた根が地面を覆い、あちらこちらに数十の人間だった物の残骸が転がっていた。
樹の幹の中心部には裸身の上半身を晒した胸の大きい美少女が目を閉じて眠るように鎮座しており、その前ではその少女を慈しむような視線で見る若い男が立っていた。
その男は優しく問いかけるように、その少女に向かって話しかけかけていた。
「もう少しで目が覚めるんだね、照美。
この村にいた人間と連れて来た馬鹿な連中はすべて君の糧となったよ。
目が覚めたら村の外にも根を伸ばして、君はこの島に咲き誇る大樹になるだろうね。
ああ、楽しみだ」
「…………」
「病気だった君を、あの医者どもは治療費が足りないからと見捨てた。
衰弱しそのまま死んだ君の身体を燃やそうとする馬鹿な連中も始末し、手に入れた『救いの樹』で君を生まれ変わらせた。
そうだね。あの“黒人の神父”は怪しかったけど、君はもう少しで元気になれるんだ。
早く目覚めておくれ」
「…………」
「いんや、彼女が見る夢はより多くの人間の血を啜って大きくなる事だけやで」
「誰だ!?」
その声に男が振り返るとそこに立っていた幽鬼ガキの姿が歪み、手に持った写真をフラフラと振っているブラウニキの姿が現れた。
その写真は、ブラウニキの固有スキル【ソートグラフィ】で作り出されたものである。
その効果は近くで眠る対象の夢の情景を映し出す写真を短時間の間、その手に創り出す事出来るもので、それにより相手の心象を推し量る事ができるスキルであった。今、写し出した光景には、島中に根を張り巡らし島の全ての人間の生き血をすする彼女の夢が写し出されていた。
ブラウニキはもう一方の片手に持っていた小さな箱をカバンにしまうと、ニヤッと笑いながら答えた。
「説明ご苦労さん。ガイア連合の者や。
お前さんが追い返した女の子の助けに応じて来たセイギノミカタやで」
「こんな場所まで入り込めるはずが!?
根に触れれば敵かどうか彼女が感知するはずだっ!」
「うちにはな、【ディスガイズグッズ】ちゅう悪魔に化けて異界の中を進める便利なものがあるんや。
あと、一応聞いておくで。
そこにあるソレ、始末するけど邪魔はせえへんよな?」
「俺の妹をまた殺そうと言うつもりかっ、きさまぁ!!
そんな事はさせないぞぉ!」
「あんさんの意見はどうでもいいんだわ。
邪魔せんでも、一緒に死んでもらうで! 来い、ペルソナ!」
そう言って手の中の写真を握りつぶすと、彼の背後に紫色の肌のコウモリの翼と二本の角に悪魔の尾を持った長身の偉丈夫の姿をしたペルソナ【悪魔インキュバス】が現れた。そのままブラウニキは、カバンから取り出した手投げ弾を放り投げた。
すると、それは床を転がると周辺一帯に燃え盛る炎をぶち撒けた。
「どうや、【A12焼夷弾】の味は?
妖樹やから火炎が弱点やろうし、ボクのペルソナは火炎無効や。
なかなか胸も大きくてソソる美少女で勿体ないんやけど、よく効くやろ?」
『キィヤアアァアアァァァァッ!!』
「ああ、照美っ、てるみぃ! ああああっ!」
炎に巻かれて倒れ伏して燃えていく男を他所に、弱点の火炎に燃やされたスクーグスローは目を開けて絶叫した。
その絶叫に応じて、多数の小型の少女の裸身が先の方に生えた木の根である【妖樹ジュボッコ】が召喚された。
「悪いなぁ、この炎はしばらく燃え続けるんやで?
おおっと、先に数を減らすとしますか。
【デビルスマイル】、続けて【亡者の嘆き】や!」
『『キッイィィィッ!』』
燃えながらこちらに殺到しようとしたジュボッコの群れの半数がインキュバスの笑みを見た途端、恐怖に凍りつき動けなくなった。
次いで、動けなくなった彼女らは地面の影から生えてきた無数の黒い人の手によって影の中に引きずり込まれて消えてしまった。
これは、彼のペルソナが得意とするザコ敵を掃討するスキルのコンボである。
なお、これの事がバレてタルタロスに引きずられて行ってから、ブラウニキはハム子ネキの事が大の苦手となっている。
『キィヤアァァッ!!』
『『キィィィ!』』
『ホーウ(注意、範囲攻撃が来ます。【スクカジャ】)』
「うおっとっ!」
オウルの警告の直後にスクーグスローが叫びと供に【アローレイン】で枝を槍のように頭上から降り注がせ、残ったジュボッコ達は彼を捕まえるべく片腕を木の根のようにして伸ばした【巻き付き】攻撃を放ってくる。それらを完全に躱し続けてはいられなかったブラウニキは、いくつか攻撃が当たり怪我を負った。
それらを何とかするべく、ブラウニキはカバンからまた別の手投げ弾を取り出して彼女らの方に放った。
「あたたた。こら、あかん。
これでどうや、【スモークノイズ】や」
『キィアァ?』
『『キィィ?』』
放り投げた手投げ弾が炸裂し、彼女らの周囲を不可思議な煙が覆った。
その煙に視界や感覚を遮られて、彼女らは一時的に彼を見失った。
これは【フォッグブレス】というスキルを参考に開発された煙幕手榴弾で、敵全体の命中率と回避率を大きく下げる効果のある特注の高価なアイテムである。
戸惑っている彼女らに向けて、ブラウニキが火炎の渦を放った。
「さあ、残りも燃えてしまおかっ!【マハラギオン】!」
『キィヤアアァァッ!!』
『『キッイィィィィッ!』』
その魔法の火炎で燃え尽きるジュボッコの群れと苦し紛れに放たれる枝の【アローレイン】を避けつつ、ブラウニキは本命のスクーグスローの本体である少女の身体の下に走り寄る。反射的に放たれたスクーグスローの枝の槍に肩を抉られながら走り、カバンから取り出したガラス玉のようなものを彼女の顔面に投げた。
『キィイッ!』
「ダークゾーンも晴らす【光玉】の光や。眩しいやろ。
ほな、これで終いや。【アギラオ】」
顔面で激しく輝いた光で視界が白くなり両目を抑える彼女の顔面に、インキュバスの右手が当てられ火炎魔法が放たれた。
そして、その炎がトドメとなって幹全体に火が回って燃え盛り、彼女の身体自体も火に包まれた。
『アッアアアアッ!!
…………アア…、…コレデラクニナレルカナ…ゴメンネ…オニイチャン……』
「堪忍やで。ゆっくり眠りぃや」
「ホウ。(警告。異界の崩壊を確認。主、脱出を推奨)」
「ああ、もう。しんみりともしてられへんな。走るで、オウル!」
燃え尽きようとしているスクーグスローを見つつしんみりとしていたブラウニキに、雰囲気を無視したオウルが警告をした。
そしてブラウニキはマッカやフォルマを拾えるだけ拾うと、脱出のために入り口に向けて走り出した。
ーーーーーーーーーー
それから、数日後。
オウルの【トラポート】で山梨支部に帰還後、報告書とまどかを係長に預けて『怪我の療養』と称して自宅でリカとイロイロしていたブラウニキのもとにその後のことを報告するとの連絡が入った。
しぶしぶ服装を整えて、事務所に赴き接客室に入ると係長が楽しそうな笑みを浮かべて座っていた。
嫌な予感がしつつも椅子に座ったブラウニキに、彼はあの後の事を語りだした。
あの村の異界の消失と村の家屋に張っていた根も全て消失したのが確認され、表向き、生き残りもいないために『カルト宗教による集団失踪』として処理されたそうだ。
また、彼がどのようにしてこんな事が出来る様になったのかは定かではないらしい。
樋口まどかは祖父母の墓の無事を確認し、改めて綺麗に掃除したあとで感謝の言葉と共に彼にメッセージを残したらしい。
「メッセージ?」
「ああ、ぷふっ。え、ええと、
『依頼の件では感謝しています。ありがとうございました。
だけど、話ではとてもスケベだと聞いていたのですが、私を誘わなかったのはどうしてですか?
私だって少しは自信があったのに、少しはいいなぁとか思っていたのに何も無いんですか?
そういう事ならこっちにも考えがありますからね、バーーカ』
だそうだ。アハハハ」
「いや、彼女も同じ黒札やろ?
そういう子を誘うのは、同じ俺らとしてはなんか違うやないか。なぁ?」
慌てるブラウニキに笑いながら、係長は次の言葉を添えた。
「知らんな。彼女のたっての希望もあったからな。
スペシャルゲストに来てもらっているぞ」
「誰やん、それ…」
「じゃあーーん、それは私でーす!」
「げえぇ、ハム子ネキ!?」
バーンと扉を開けて入って来たのは、茶髪をポニーテールにした学生服の少女『ハム子ネキ』であった。
ペルソナ使いの黒札から、『妖怪・地獄のタルタロス誘い』と称される彼女である。
「いやぁ、まどかちゃんからこの話を聞いてよかったわぁ。
イナバニキくらい、あなた捕まらないんだもの。助かったわ」
「や、やめろぉ。おのれ、係長。謀りやがったんか!?」
「ハッハッ。さて、何のことやら。
最近、終末が近いから鍛え直したいと言っていたじゃないか、なぁ?」
「あっ、テメ。このやろう!」
「なら、ちょうどいいじゃない。アイギスも待たせているからさ。
さあ、タルタロスに行こうじゃないかっ!」
「あああっ、引っ張るのは止めーや。レベル差の力強さで抵抗できん!
嫌やぁぁっ! ああああっ!」
「リカちゃんの方には、急用で出掛けたってちゃんと知らせておいてやるからな」
「おどれ、憶えておけやぁ! あああああっ!」
こうして、ブラウニキはハム子ネキにタルタロス攻略へと引っ張られて行ったそうな。
どっとはらい。
後書きと設定解説
・主人公
名前:ブラウニキ(青上鷹久・あおがみたかひさ)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・28歳
職業:ガイア連合地方派遣調査員
ステータス:レベル24・マジック型(魔・速)
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:ペルソナ(悪魔インキュバス)
アイテム習熟(消費アイテムの効果を強化する)
蛇の道は蛇(裏社会の情報を得る技術)
異文化交流(異文化の相手への交渉会話術)
隠密行動(姿を隠して情報を得る技術)
誘惑(異性相手に有効な交渉術)
装備:サバイバルベスト(ガイア連合製霊装)
サバイバルナイフ(ガイア連合製霊装)
呪殺無効のタリスマン
サファイアのピアス(精神無効付与)
アイテム各種
詳細:
元は風俗店の店員と用心棒を生業にしていた施設出身の転生者
細目で体格は普通の細マッチョな顔はそれなりの容姿な男性
高校卒業後、女体が好きで覚醒しアルバイトから裏の業界に入った
担当していた店の風俗嬢にいたメシア教徒絡みの騒動で連合に保護された
前世は中年で病死するまで縁がなく独身で過ごしたサラリーマン
ガイア連合では調査依頼と種乞い依頼を中心に熟している
服装やコーデが青い物ばかりでピアスもそうなのが通称の由来
女性の中では、特にトラウマのあるハムコネキは一番苦手
【ペルソナ:悪魔インキュバス】
レベル24 耐性:火炎無効・破魔弱点・呪殺無効
スキル:アギラオ(敵単体・中威力の火炎属性攻撃)
マハラギオン(敵全体・中威力の火炎属性攻撃)
スリープソング(敵全体・中確率で睡眠を付与する)
デビルスマイル(敵全体・中確率で恐怖を付与する)
淀んだ吐息(敵単体・状態異常の付着率が上昇する)
吸魔(敵単体・小威力の万能属性MP吸収)
亡者の嘆き(敵全体・恐怖状態の敵を即死させる)
ソートグラフィ(誰かの夢を写真の形で念写し具現化させる)
詳細:
欧州各地に伝承を残すサキュバスと対になる男性の夢魔
眠っている女性の夢に入り込み、子どもを身籠らせるという
インクブスとも呼ばれ、ラテン語で「上に乗る者」という意味をもつ
前世から持つ女性への不信と女体好きを受け入れてペルソナに覚醒した
蝙蝠の羽を持つ紫肌の悪魔の姿で股間に尖った長い筒を着けている
従来の小型の姿でなく長身のマッチョな二つの角の生えた彼の姿に近い
・関係者
名前:オウル
性別:男性
識別:フクロウ型のシキガミ
ステータス:レベル21
耐性:物理耐性・破魔耐性・呪殺無効
スキル:トラポート(味方全体・最後に登録した座標へ帰還する)
スクカジャ(味方全体・命中、回避率を1段階上昇する)
アナライズ(名前・レベル・耐性が判る)
エネミーソナー(周囲の悪魔の敵対反応を検知する)
警戒(敵の先制攻撃率と奇襲成功率を低下する)
飛行(翼で飛行できる。小柄な人物なら運搬可能)
シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):食事、念話、思考感知
詳細:
オスの茶色の梟の姿をしているブラウニキの専用シキガミ
戦闘面での補助を目的にスキル構成している
冷静で無口な性格のため鳴き声もあまり出さない
名前:弓削猟果(ゆげりょうか)
性別:女性
識別:異能者・16歳
職業:高校生/ガイア連合山梨支部所属員
ステータス:レベル11
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:毒針(敵単体・小威力の銃属性攻撃。
低確率で毒付与)
八百万針(敵全体・小威力の銃属性攻撃)
雷光撃ち
(銃属性攻撃の命中率と威力が上昇する)
トラッキング(マッパー)
潜伏(敵に攻撃されにくくなる)
装備:仕込み改造モデルガン(呪殺弾。ガイア連合製霊装)
G・ウォッチ(呪殺無効。ガイア連合製霊装)
ボディスーツ型下着(ガイア連合製霊装防具)
改造学生服(ガイア連合製霊装)
詳細:
ブラウニキが子飼いにしている現地民の美少女
地方の潰れかけた忍者系組織の家系の生まれ
依頼のトラブル解決で来た彼に保護されてスカウトされた
ぼっち気質にとてもコンプレックスがある加虐性癖な性格
実家の借金の返済という表向きの目的で一緒にいる
何故か生理的に爆発物が嫌いでアレルギーがある
容姿は『とある科学の超電磁砲』の「弓箭猟虎」
名前:樋口まどか
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・18歳
職業:高校生
ステータス:レベル10
耐性:破魔無効
スキル:ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)
マハブフ(敵全体・小威力の氷結属性攻撃)
氷結ブースター(氷結属性攻撃の威力が上昇する)
装備:ケブラージャケット(ガイア連合製防具霊装)
COMP(アナライズ、エネミーソナー)
回復アイテム各種
詳細:
半終末後にガイア連合に参加した女性転生者で今回の依頼者
ボブカットの左目の泣きぼくろが特徴的なクールな容姿の美少女
東京にいる間に祖父母の家がある村が危機になったと知らされた
急いで準備して祖父の家に向かうも状況は悪化していた
自分では手に負えないと判断し依頼を出して助けを求めた
名前:イナバニキ
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)
詳細:
長距離トラポート持ちのペルソナ使いの転生者
ブロウタスさん著「ガイア連合武器密輸課職員の日常」様より出典
・アイテム
【ガラガラドリンク】
ガイア系製薬会社サトミタダシが売り出している医薬品ドリンク
傷薬以上、魔石以下のHP回復量になるHP回復薬
見た目は瓶詰めの栄養ドリンクにしか見えない
【豊穣の媚薬】
排卵誘発剤を含んだ成分の女性用に調薬された媚薬
女性が気持ちよく子どもを作れるのを目的に開発された
制作者は性的に有名な山梨のとある女性技術者
【ディスガイズグッズ】
悪魔も騙せる姿に変装できる道具がセットになったもの
付属手引書の通りにしないと効果が出ない
使用すると、一定時間、敵との遭遇率が下がる
【スモークノイズ】
チャフも含まれた悪魔の感覚を狂わせる煙幕手榴弾
DSJのとあるボスが使用した物を再現した
「フォッグブレス」などのスキルを参考に開発された
暫くの間、範囲内の命中・回避率を2段階下げる効果がある
【A12焼夷弾】
投げることで周辺一帯を火の海にする焼夷手榴弾
DSJのとあるボスが使用した物を再現した
暫くの間、敵味方全体に小威力の火炎属性ダメージを与え続ける
【光玉】
掲げて使うと周囲を明るく照らす魔法の玉
主にダークゾーンを無効化する為に使用する
・敵対者
【活動家の男】
レベル6 耐性:破魔無効
スキル:ムド(敵単体・低確率で即死付与)
交渉術・執り成し・洗脳
詳細:
妖樹ジュボッコを手に入れていたダークサマナー
元は雇われの煽動家で活動家としてあちこちに雇われていた
目的のために縋る対象に異界で見つけた樹霊に魅了され狂った
病死した妹の蘇生を目的に今回の騒動を起こした
本名、菱屋明彦
【妖樹スクーグスロー】(ボス)
レベル27 耐性:火炎弱点・衝撃耐性・破魔無効・呪殺無効
スキル:アローレイン(敵全体・中威力の銃属性攻撃)
巻き付き(敵単体・小威力の物理攻撃。
低確率で緊縛付与)
吸血(敵単体・小威力の万能属性HP吸収)
眷属召喚(小型の妖樹を多数生み出す)
詳細:
全裸の少女が背中に生えた樹木と一体になっている悪魔
人間の血を大量に吸った樹木がなる怪異が変異したもの
人間の少女の死体に埋め込まれて一体になりこの姿になった
この個体は活動家の男によって持ち込まれたもの
少女の蘇生が目的だったが悪魔となり暴れ始めた
生前の本名は、菱屋照美
【妖樹ジュボッコ】
レベル10 耐性:火炎弱点・衝撃耐性
スキル:巻き付き(敵単体・小威力の物理攻撃。
低確率で緊縛付与)
吸血(敵単体・小威力の万能属性HP吸収)
詳細:
妖樹スクーグスローによって喚び出された根の一部
小型のスクーグスローに似た姿をしている
読んでくださった方がいるならありがとうございます。