【カオ転三次】『俺たち』閑話集   作:塵塚怪翁

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今回は、とある新潟の名家の生まれの女性転生者の家庭板風味のお話。

時系列としては、アメリカのクトゥルー召喚の直後の頃です。


 とある地方霊能名家の終わりの顛末

 

「お父さん、うちはもう霊能の家としては畳むから。そう思って」

 

「かすみ! なんでそんな事を言うんだ。まだ、お前が継げば……」

 

「これだけの事をやらかして続けられると思うの?」

 

「でも、わしの代で終わらせるわけにはっ!」

 

「もうこの家の決定権はわたしにあるの。諦めて」

 

 

 とある地方の小さい神社の社務所で二人の人物が言い争いをしていた。

 

 壮年の男性は、『各務原大地』と言いここの神社の神主と霊能組織としての家の当主をしていた人物で、若い少女の方は【各務原かすみ】と言い彼の長女でありガイア連合の黒札である転生者であった。

 今回のお話は、周囲も巻き込んだこの家の騒動に関するものである。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「お姉ちゃんばかりずるい! あたしもそれがいい!」

 

「そうかぁ。

 かすみ、すまないが新しいのを買ってくるからそのぬいぐるみは聡美にあげてくれ」

 

「……いいよ」

 

「やったぁ。お父さん、大好き!」

 

「そうかそうか」

 

 

 各務原かすみの妹【各務原聡美】の口癖は、小さい頃から『お姉ちゃんはずるい』であった。

 

 彼女らの母である女性は、聡美を産む代わりに産後の肥立ちが悪く命を落とした。

 だから、聡美には母の記憶がない。若かりし頃の彼女の写真と家族の話でしか知らないわけでそれだけであった。

 そうであったからこそ、父親の大地はそんな末娘を不憫に思い甘やかした自覚はあった。 

 自覚がないのは、長女である娘にどういう思いをされるかなどと彼は想像もしないでいた事だ。

 

 周囲も彼女は母を亡くし不憫で哀れだと陰で噂していたのか、聡美は自分が“可哀想な存在”だと認識してしてしまっていたようだ。

 

 ただ、大切な家族を失ったというのは今世の家族と仲良くしようとしていたかすみにとってもそうであるし、大切な愛する妻を失った大地にとっても失った悲しみは度合いの違いはあれど同じであろう。

 しかし、聡美にはそれがない。生まれて早々に母を失った彼女には、声も名前を呼んでもらったり抱き上げてもらった記憶もないのだ。

 

 それが原因で母の分まで愛情を、と父親の大地は聡美を盛大に甘やかした。

 

『お姉ちゃんはずるい。お母さんの思い出のあるお姉ちゃんはずるい』

 

 その甘やかしはいつしか歪みを生じて姉へと矛先が向かい、母とのことを持ち出してはずるいずるいと喚き叫ぶようになった。

 

 幼稚園児だったこの頃には前世の記憶が朧気にあるかすみとしても、「お前のせいで母は死んだんだ」や「生まれてこなければよかったのに」などの致命的な言葉は母が命を賭して産んだ妹に言えるわけもなかった為に我慢し、それを見ていた父も妹のためだ、お姉さんだろう?と我慢を強いるようになっていった。

 

 お姉ちゃんはぬいぐるみを多く持っていてずるい、お姉ちゃんは前にこのお菓子を食べててずるいなど、とにかく妹はとにかく姉にずるいと言い募った。その度に父親が妹を優先して渡しているのにも関わらずにだ。長じてくると服やリボンに靴にカバンと対象は変わっていったが、それは変わる事はなかった。

 

 姉は黒髪を腰まで伸ばした長身のスタイルの良い美少女に成長し、妹は童顔で庇護欲をそそるような美少女へと成長した。しかし、中学に入る頃になってもお姉ちゃんはずるいと喚き奪おうとするのは変わらなかったのだ。

 

 今は対象が自分にだけ向いているがいつそれが他人の方へ向くかも知れないのが、かすみにとってはいつも危惧している事だった。だから、彼女は身内とは言えいずれ他人にもやらかしそうな事だけは譲らなかった。

 

 だけれども、『母親を知らない可哀想な聡美』という固定観念に囚われた父の大地は聡美が欲しがる物を惜しみなく与えるようになってしまった。かすみが持っている物であっても、後で新しいのを用意するから、とかすみに言って聡美に彼女の物を渡したりしたのである。

 

 その度に「甘やかすのはよくない」とかすみは父に言っていたのだが、彼は軽く頷くだけで深く考えている様子はかすみには見えなかった。

 

 だから、こういう事が起きたのだろう。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「お父さん、わたし山梨に修行に行くことになったから。

 ちゃんと九重さんに頭を下げて傘下にしてもらうんだよ、いいね?」

 

「ああ、知り合いの家の連中も参加するみたいだから一緒に行ってくるよ」

 

「お姉ちゃん、ずるい! あたしも山梨に行きたい!」

 

「遊びに行くんじゃなくて、霊能の修業をするんだよ。やる気あるの?」

 

「それなら行かない! でも、何か貰ってきてよお姉ちゃん。

 本部に招待されるくらいあの山梨から来た男の人に気に入られたんでしょ?」

 

「わしからも頼むよ、かすみ。優遇されるって事はそういう事なんだろう?」

 

「……はあ、分かったわよ。

 そういう関係じゃないけど、わたしもお願いしてみるわ。じゃあ、行ってくる」

 

 

 新潟魚沼に田舎ニキが赴任し支部を作った頃、その時に知り合いになった田舎ニキと彼が後援する九重家の女性に家族をよろしく頼むと頭を下げて頼み込むと、彼女は高校卒業を機会に地元の異界を自力攻略するべく新潟県で発見された転生者の一人として山梨に覚醒修行を受けるために行くことになった。

 

 そして、半年後。

 聡美がやらかした事により連絡がかすみの元にも届き、急遽修行を切り上げて彼女は山梨から新潟の地元へと飛んで帰ることになった。そして、時間は冒頭に戻る。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「わたし、さんざんあの子を甘やかすなと言ったよね?

 最低でも、他所の家に迷惑をかけるような真似だけはさせないでくれと言ったわよね?」

 

「……いや…それは、そうなんだが……」

 

 

 かすみは冷たい目で父を見ていた。

 しょげかえっているが、まったくかわいそうだとは思わなかった。

 

 彼女は薄情ではない。今までもなにかある度にその都度、父に妹のことで苦言を呈してきたのだ。

 けれども、家族のやる事と甘く考えた彼の判断によって結果、手遅れになった。

 

 

「お父さんが死後会えるかは判らないけど、向こうでお母さんに会って顔向けできるの?

 お母さんに顔向けできないような事をして、被害者ぶるような事はしないでね。

 あの子がああなったのは本人の性格もあるけど、増長させたのは紛れもなくお父さんのせいだからね」

 

「……………すまん」

 

「今さら謝られても、もう遅いのだけど」

 

 

 妹の聡美の中では、姉であるかすみは搾取して良い対象だと考えているのはかすみにも察しが付いていた。

 

 なにしろ、実際に父は口では注意をすれども、彼女の部屋から服やアクセサリーを持ち出して妹に与えていた。いくら後から新しい代わりの物を彼女へ渡していようとも、聡美はかすみから物を獲ってよい相手と認識してしまっていた。その結果、かすみがいくら常識を説いても見下して良い相手と考えてどこ吹く風と聞き流される事になっていた。

 

 

「もう、わたしも我慢の限界なんだよね。だから、この家も終わらせるつもりよ」

 

「いくらなんでも結論が飛躍しすぎてないか? それに終わらせてどうするんだ?」

 

「わたしは山梨に行くか、それとも魚沼支部に雇ってもらえるか聞いてみるわ。

 お父さんは他の家の人に土下座して雇ってもらえば?

 それに、あの子はもうどうしようもないし」

 

 

 既に済んでしまった話である。

 聡美はやらかした事によりここには居られなくなり、中学を卒業と同時に九州の地獄湯支部に送られてそこで厳しい契約の元で働いて更生と弁済をする事になっていた。呈のいい厄介払いであった。

 

 聡美のやらかしは少し前に遡る。

 

 かすみが修行でいない中、父の大地は黒札となった娘のかすみの伝手と言うかコネを使い、他の家よりも早く自分と聡美の分の簡易量産型のデモニカと退魔武器のレンタルを受け取っていた。そして、聡美を正式な後継者とするべく内心は言わないまま九重家の代表である九重静に聡美の婿入り相手の斡旋をお願いしていた。

 

 九重静としても地域の統制のための婚姻は推奨できるものであるし、かすみから直にお願いされている事もあり見合い相手を見繕うことにした。

 

 選ばれたのは、ガイア連合に点数を稼ぎたい新潟県内でも五指に入る大きな神社の次男だった。

 

 しかし、それに不満を爆発させたのは聡美であった。

 

『お姉ちゃんはずるい。

 山梨の本部に行って同じ黒札の人の恋人が作れるのはずるい。

 あたしだってあんな地元の男じゃなく、黒札の強い男の人がいい』

 

 そんな理由で彼女は家の中で喚き散らしていた。

 ただ、父である大地にもそれを覆すような事は出来ず、代わりに機嫌を取るために彼女の望むアクセサリーを群馬のミナミィネキの管理異界のある支部から取り寄せていた。

 

 事件が起きたのは見合いの当日だった。

 

 お互いの親と見届人の九重静に見合い相手の男と聡美が勢ぞろいして、歓談のあとに二人きりになるその時であった。その場を離れようとする九重静の様子を、業務の間をぬって見に来た田舎ニキが現れた。

 

 

「あなたが黒札の田舎ニキさんですか~?

 あたし、各務原聡美って言います♡ 少しお話しませんか~♡」

 

 

 黒札の田舎ニキが現れた事に気がついた聡美は、目の前の男よりいい男が来たと隠し持っていた魅了の効果のあるブレスレットを身につけると周囲を無視し彼に駆け寄り【誘惑】し始めた。

 

『ちょっとくらいズルをしたって、お父さんがお姉ちゃんに言って何とかしてくれる』

 

 彼女自身は、そんな軽い考えだったのだろう。

 

 もちろん、黒札へのハニトラ行為に当たるこの行ないは周囲の怒りを買った。

 

 彼女は田舎ニキ自身に取り押さえられて拘禁され、面子を潰された九重家と見合い相手の家は各務原家に文句と賠償を求める事になった。さらに、傘下に入る際に禁じた行為を娘が行なった事で父親の大地も管理不行き届きで今まで貸し与えられていた一切合切を取り上げられる事になっていた。

 

 全ては、地元で切羽詰まることなく生活していた大地が傘下に入る際の契約を軽く考え、甘やかしていた聡美に充分に言い含めておかなかった事が原因である。

 

 そして山梨にいたかすみの元に連絡が届き、文字通り転移術者によって飛んで帰ったのが事の顛末である。

 

 

「田舎ニキさんはわたしの顔を立ててくれたの。

 情に流されない裁定を下す事を条件にね。

 聡美は賠償費用の全額を自身で働いて返させることにしたわ。

 山梨で阿紫花さんて人にお願いして、彼の支部で働かせて貰える事にしたわ」

 

「そんな。かすみ、わしたちは家族だろう? なあ、何とか出来ないのか?」

 

「無理。もうこの家にはわたしも我慢するのは止める事にしたの。

 ガイア連合に喧嘩を売るような真似をしたと、今後のことを考えて祭神様だって本霊の元に帰る決断をしたのよ」

 

 

 ここの神社の祭神も地元の山神や産土神ではなく、遠くから分祀の分祀されて来た力の弱い神であった。だからこそ、祭神はもう無理だと諦めて廃社する事を決めていた。

 血の気が完全に引いた大地はかすみの両肩を掴むと叫んだ。

 

 

「なんでそんな事をわしに相談もなしに決めたっ!?

 祭神様もわしたちを見捨てるのかっ!?」

 

「もう、うち以外の親戚は伝手を辿って他の家に移り始めているわ。

 魚沼支部の連絡網を通じてうちを閉じるのは宣言済みよ。

 それに言ったでしょう。我慢するのは止めたの。

 わたしだって黒札よ。

 他の場所ならともかく、身内の決定くらいは任せてもらえるわ」

 

「この親不孝者!」

 

 

 激昂し右手を振り上げた父親に悲しげにかすみは告げる。

 

 

「【パララアイ】」

 

「……が、ぐ。う…ごけ……」

 

「しばらくの間、動かないでいてね。お父さん」

 

 

 スキルで父親の動きを封じると、彼女はスマホで連絡をした。

 そうこうするうちにガイア系の引越会社がトラックに乗ってやって来た。

 

 

「まいど、ガイア引っ越し運送です」

 

「それじゃ手はず通りに。

 わたしの持ち物は山梨の家に、妹のものは地獄湯支部に送ってください」

 

「分かりましたー」

 

 

 父親を緊縛させ続け待つこと2時間、全ての荷物を運び出した運送会社のトラックが走り去ると、かすみは仏壇にあった母親の写真と位牌を手に取ると父親に告げた。

 

 

「お母さんの菩提はわたしが弔うから、お父さんは今後の自分の事だけ考えてね。

 お父さんの口座と家屋の所有権はそのままだからそれで何とかして」

 

「…ま、待て。……待ってくれ、かすみ。

 …それだけは…それだけは…持って行かないでくれ」

 

「嫌。お母さんの位牌を任せるなんて出来るわけないじゃない。

 お母さんのお骨も、こっちで用意したお墓に移すから。

 お父さん、物心ついてから今までずっと我慢させてくれてありがとう。

 後腐れなく見捨てられるわ。

 ……ああ、それと。今後、わたしに連絡しようとするのは禁止だから。それじゃ」

 

 

 そう言うと各務原かすみは、這いつくばって動けないままの父親をその場に置き生家を出ていくと二度と戻ることはなかった。

 




後書きと設定解説

・主人公

名前:各務原かすみ(かがみはらかすみ)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・19歳
職業:ガイア連合所属黒札
ステータス:レベル14・スピード型(速・魔)
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:サイ(敵単体・小威力の念動属性攻撃)
    マハサイ(敵全体・小威力の念動属性攻撃)
    パララアイ(敵単体・中確率で緊縛を付与する)
    一分の魔脈(最大MPが10%上昇する)
装備:ケブラーベスト(霊装防具)
   呪殺無効のタリスマン
   精神耐性の指輪
詳細:
 四千七百以上も神社のある新潟県のとある神社の家の生まれの転生者
 長い黒髪と優しげな印象の容貌のスタイルの良い美女
 家の長女で父と妹がいるが母親は妹出産時に他界している
 前世は普通に生きて普通に結婚し子どもが成人後に病死した女性
 メガテンの知識がありガイア連合が地元に来てからやっと参加できた
 家の全てを妹優先にする父のために旅費などの金銭が無かったのが理由
 父が妹を溺愛して全てにおいて優先する事を冷めた目で見ている

・関係者

名前:各務原大地(かがみはらだいち)
性別:男性
識別:異能者・53歳
職業:新潟県のある神社の神主
ステータス:レベル3
耐性:破魔無効
スキル:霊視・根回し
詳細:
 新潟県のとある小さな神社の神主をしている凡庸な男性
 長女が黒札となったことで身の丈に合わない金銭に恵まれた
 母親の記憶のない次女の聡美を溺愛し甘やかしている

名前:各務原聡美(かがみはらさとみ)
性別:女性
識別:異能者・16歳
職業:巫女
ステータス:レベル4
耐性:破魔無効
スキル:見鬼(アナライズ)
    ハマ(敵単体・低確率で即死を付与する)
    誘惑(異性に効果的な交渉術)
詳細:
 新潟県のとある小さな神社の生まれである美少女
 茶色の髪を肩まで伸ばした小柄で庇護感をそそる容姿
 姉が黒札となったことが自分でない事を激しく嫉妬している
 甘やかされて育ち我が儘で即物的な欲求の強い性格
 母親の記憶はないがその事自体はどうでもよく考えている
 ただ、その事でいい目を見ている事に姉に優越感がある

田舎ニキ:
名無しのレイさん著「【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち」より出典

地獄湯支部:
本家様AAスレまとめ「外伝 とある転生者&とある現地霊能力者()」より出典


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