【カオ転三次】『俺たち』閑話集   作:塵塚怪翁

32 / 78
今回は、とある名家の生まれの女性転生者の婚約破棄のお話。

時系列としては、アメリカのクトゥルー召喚からしばらく後の頃です。


 とある転生者と『真実の愛』の顛末

 

「恭介くん、この温室には立ち入らないでくださいと再三言ったじゃないですか!

 霊木の樒(しきみ)は、温度や水分それに明度の管理が重要なんですよっ!」

 

 

 午後の強い日差しがさす中、岡山県のとある山村に建てられた樹木栽培用の温室へ、この霊木の樒の栽培を代々行なってきた薬師家の一人娘である【薬師四季(やくししき)】は血相を変え息を切らせて走ったまま中に飛び込んだ。

 

 その薄暗い温室の中には、霊木にするために村の畑から厳選して栽培されている樒の樹木が並んでいる。

 

 その樹木の並ぶ温室の中で彼女が恭介と呼んだ若い男と取り巻きの男が4人は、走り込んで来た四季に並んで侮蔑の表情を浮かべていた。

 後ろに彼らを従えた【山本恭介(やまもときょうすけ)】は、四季に向けて叫んだ。

 

 

「黙れ、四季!

 俺のやる事にいちいち口を出しやがって!

 お前みたいな口煩い年上の女なんかとはもうたくさんだ!

 そもそも、いとこ同士で幼馴染の相手はもう嫌だ!

 お前との婚約は破棄して、お前より若い佳苗と添い遂げてやる!

 そうすれば、ここの霊木の栽培も俺の家のものになるんだ!」

 

「……はぁ?」

 

 

 長らく幼馴染で一緒に育った従弟の恭介のその正気を疑う言葉に、四季は思わず黙り言葉も出なくなってしまった。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 皆さんは『樒(しきみ)』という植物を知っているだろうか?

 

 関西から西に住む人には、神事やお祓いで使う樹木の『榊』によく似た葬儀や法事の時に供えられるいつの時期でも綺麗な葉を持つ常緑樹と言えば思い浮かぶだろう。樒は古くから仏教と深く関連があり、毒性や香りで邪気を払う力があるとされ邪気払いやお清めのために使われてきた。

 

 樒の栽培は乾燥に弱いため湿度のある場所の日陰での栽培が適していて、株元に日が当たりすぎると弱ってしまうので、程よく日当たりがよくて水はけのよい土を好んでいる。

 

 また耐暑性は普通だが耐寒性が低く、冬に土が凍るような場所での栽培にはあまり向かず、植え付けは充分暖かくなってから行なわれ、植え付け後しばらくして枝葉が生長して込み合ってくるため剪定をして全体の風通しをよくする必要があるなどの手入れのいる植物である。

 

 この霊能組織としては中途半端な、その霊木となった樒を代々栽培しては寺社に納めるのが彼らの家だった。もっともその中途半端さ故に、戦後のメシア教の弾圧からもただの栽培農家として見られて助かったという面もあった。

 

 この家の祭神にあたる存在は霊木となった樒であり、先祖が神事で使う樒を愛宕神社に納める家系だった縁から各地の寺社に納める樒栽培は家業として成り立っていた。

 

 そして彼らが今いるのは、ただの小屋の様に偽装されていた霊木を育てるための特別性の温室であった。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「聞こえなかったのか?

 お前との婚約は破棄して、ここにいる藤原佳苗と添い遂げると言ったんだ!

 親同士が勝手に決めた婚約なんか俺は気に入らなかったんだ!」

 

 

 その霊木となる樒の低木が並ぶその前で、美男子ではあるがわりとチャラい雰囲気のここの本家の血筋で地元企業の『株式会社山本農園』の後継ぎである山本恭介は、黒髪を動きやすいように纏め作業着のつなぎの上から白衣を纏った薬師四季にそう言い放つ。

 

 彼の傍らには、胸元の大きく開き豊満な胸が零れ落ちそうな高そうなワンピースを着たメリハリの効いた体型のギャルっぽい美少女がうっとりとした表情でしなだれかかっていた。この少女が彼の言う【藤原佳苗(ふじわらかなえ)】で、後ろには社の重役や村の実力者の息子である4人の彼の取り巻きが睨みを効かせていた。

 

 大学で薬剤師や必要な資格の勉強と黒札としての覚醒訓練と連合での各種手続きで忙しく、ここ2年ほどあまり地元に帰っていなかった四季は卒業を期に地元に戻ってきた所でここの温室に呼び出され、その先で突然の婚約破棄宣言にあうという事態を前にして、目を見開いて言葉にならない表情をしていた。

 

 地元の才媛として名高い元婚約者の初めて見る呆気にとられた表情に溜飲を下げながら、恭介は嬲るような表情と口調で彼女に話しかけた。

 

 

「ん? どうした? 言いたいことがあるなら聞いてやるぞ?」

 

 

 話しかけられ、正気に戻った四季は答える。

 

 

「……恭介くん、本気なの?」

 

「もちろん本気だとも!」

 

「お父さんの一郎叔父さんは知っているんでしょうね?」

 

「……親父には後で話して理解させる。

 分家に過ぎない薬師家と岡山市の大企業の重役の家の縁組なら、誰が考えても後者を選ぶだろ?

 なにより、俺と佳苗の間には“真実の愛”がある!

 それを数代前に特別な木の世話をするやり方を見つけただけの事を恩に着せて、挙げ句に売れ残りそうな娘を押し付けようだなんて厚かましい家だな!」

 

 

 どこかの劇の主人公のように酔った糾弾のセリフを吐く彼を、佳苗と取り巻きは黙って頷いて称賛し同意している。『売れ残りそう』という言葉にピキリと青筋が立つも、深呼吸をして気分を落ち着かせて四季はもう一度彼に話しかける。

 

 

「誤解があるみたいだけど、もともと家の祖先同士で商売は本家の山本家が、木の栽培は分家の薬師家の取り決めになっていただけなのよ?

 そもそも今回の婚約だって……いえ、それよりもここに部外者の彼女を連れ込むなんて何を考えているの?

 そもそもここは、わたしみたいに父と叔父さんの許可がないと入れないはずよ?」

 

「黙れ! お前の小言なんて聞き飽きた!

 2年ぶりに戻ったと思えば、『これから結婚するのだから』といちいち上から目線で細かい事をうだうだと!

 ほら、正式にお前との婚約と結納を取り消す同意書だ。サインしろ。

 そうすれば、晴れて他人同士になって俺は佳苗と結婚できる」

 

 

 その言葉を裏付けるように、社の顧問弁護士の息子である取り巻きの一人が書類を彼女に突きつけペンと一緒に差し出しながら嘲笑した。

 

 

「手続きそのものは、父でなく家の子飼いの弁護士でも充分ですからね。

 正式に手続きの形さえ整えれば、後は藤原さんの家の力でどうとでもなります。さあ!」

 

「でも、ただの樒を霊木にするには色々と……」

 

 

 そう言って渋る彼女に、恭介はこう言い放った。

 

 

「ふん、そんな古臭い口伝に頼ったやり方などもう今の時代には合わない。

 そんなものに頼らなくても、佳苗の会社から技術者を呼べば済む事だ。

 佳苗の家の会社は、外資ともガイアグループとも取引がある大きな企業だからな!

 くだらない理由で縋るつもりだろうが、俺はお前に愛情など一切無い!

 四の五の言わずに、さっさとサインして同意しろ。

 分かっているのか?

 今この場で、俺たちが無理やりサインさせてもいいんだぞ?」

 

「…………」

 

 

 勝ち誇ったその宣言に、そこで初めてこの2年でまったく価値観の違う人に変わり果てた幼馴染だったその男を四季はまじまじと見つめた。ため息を付き諦観するような様子の四季に、恭介にしなだれ掛かりながらさも同情するような口調で佳苗が彼に話しかける。

 

 

「そんなに追い詰めては可哀想よ、恭介。

 あなたみたいに魅力的な運命の相手を失うのだから、彼女には不幸な事なのよ?

 彼女の今後が心配なら、嫁き遅れないように社内の人から誰か見繕って貰いましょうか?」

 

「それはいいな。

 頭でっかちだが、そこそこには見れる容姿だから相手も見つかるだろう。

 さすが佳苗だ。感謝しろよ、四季」

 

 

 恭介と佳苗の猿芝居のようなやり取りを眺めていた四季は、諦めたように淡々と感情のない口調でこう言った。

 

 

「分かったわ。……これでいいでしょう?

 こんな事をしてどうなるか、わたしはもう知らないけどね」

 

「やっとか、随分粘ったな。

 まあいい。これで親父のやつを納得させるだけだな。

 ああ、そうだ。ここに残るか出ていくか好きな方を選べよ、四季」

 

「わざわざ大学まで出て何やらしていたみたいですけど、手に職があるならどこでも困らないでしょうね。

 貴女にも運命の相手が訪れると思うわ、薬師さん?」

 

「頭がいいだけの女性など男からは避けられるのがオチでしょうがね」

 

「「「アハハハハハ」」」

 

 

 侮蔑を隠す事もしなくなった恭介と佳苗、嘲笑う取り巻き達をちらりと見ると、四季は黙って振り返ると踵を返しそのまま温室から出て行くのだった。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「お父さん、恭介くんとの婚約は解消になるわ。

 数日後にやるはずだった結納も中止ね。

 そのうち、山本の叔父さんから連絡が来ると思うわ」

 

「……何を言っているんだ、四季?」

 

 

 温室から退出後四季は、家に戻りちょうど仕事から帰ってきていた父の【薬師延利(やくしのぶとし)】に温室であった出来事を淡々と説明した。最初は何を言っているのかと冗談だと考えていた彼は詳しく聞いた所で、これが洒落や冗談ではないと理解し居間の椅子にガックリと座り込んでしまった。

 

 そして頭を抱えた彼は、呻くように娘にわび始めた。

 

 

「恭介くんがここまで愚かになっているとはついぞ思わなかった。

 わざわざ向こうから戻って来てもらってこんな事になるとは……。

 本当にすまない、四季」

 

「お父さん、樒の木を霊木にする口伝の内容は誰かに話した?」

 

「いや、話していないが? 温室で他に何かあったのか?」

 

「わたしが行った時、“温室の扉が開けたままになっていた”の。

 もうあそこの樒はただの木に戻るわ」

 

 

 四季の言葉にさらにガックリとする父親の延利。

 

 

「一郎のやつ、息子の教育はどうしていたんだ?

 温室に出入りするのは私がいる時だけにしろ、木が駄目になるぞと言っておいたはずなのに。

 ……どうしてこうなったのか」

 

「わたしも大学に行く前までは、事あるごとに言い聞かせていたんだけどね。

 あの様子だと、口煩い小言にしか理解していなかったみたい」

 

「あいつが信用している会社の役員や村の有力者の子どもを傍に付けていたんだがな。

 追従する腰巾着ばかりのようだし、これはダメかもしれん」

 

 

 項垂れていた頭を上げ延利は四季に尋ねた。

 

 

「それで四季はこれからどうしたい?」

 

「もともとアレと結婚して、故郷のここを盛り立てる予定だったのが潰れたからね。

 このままここにいてアレ等と数十年も顔を合わせるのは苦痛よ、お父さん」

 

「一郎のやつもこの体たらくなら、遅かれ早かれここにいてもダメだろうな。

 霊木の仕込みもまた一からやり直しになるし、四季だって馬鹿につける薬は調合できないだろう?」

 

「じゃあ、別の場所に行く?」

 

「……別の場所?」

 

 

 父親の嘆きにそう軽く答える四季。驚く父親にガイア連合のブラックカードを見せて、ニッコリと笑って言葉を続けた。

 

 

「これを持っているとガイア連合ではいろいろと便宜を図って貰えるんだよ、お父さん。

 それにわたし、樒の精油を使って向こうで作ったアイテムが売れてそこそこ収入があるの」

 

「樒の精油を使ったアイテム?」

 

「そう。【鎮静抹香】と名前をつけたわ」

 

 

 『鎮静抹香』は、山梨滞在時に薬師四季が霊木の樒の精油を加工し作成した火をつける抹香型の霊薬である。その独特の芳香の効果から敵を寄せ付けないエストマの効果があり、特に妖鬼、邪鬼、屍鬼、悪霊、幽鬼、外道はこの匂いを激しく嫌い効果が増す傾向がある。また、【鎮静アロマ】の亜種にあたるようでペルソナパレス内でも効果が出たアイテムであった。

 

 

「でもこれを作るには、お父さんの育てた霊木の樒が一番合うのよ。

 そもそも樒って生産地としては九州や四国、それに東海地方が生産量が多いでしょ?

 ここに拘る必要はないわ」

 

「……しかし、ここには母さんの墓が」

 

「それも、大丈夫。

 地元と折り合いが悪くなって夜逃げする羽目になる黒カード持ちって結構いるみたい。

 だから、その際に夜逃げを手伝ってくれる運送業者がガイア連合にはあるわ」

 

「もしかして、墓の方も移設してくれるのか?」

 

「ええ、そうよ。

 山梨で知り合った『各務原かすみ』って子から業者の人を紹介されているわ」

 

「……そうか」

 

 

 そこまで聞いた延利は立ち上がると、四季に声を掛けた。

 

 

「一郎とは幼馴染の友人で従兄弟だし上手くやれていたんだがな。

 四季をこういう風に扱うのなら、未練はもう無いな。

 そんな頭に花が咲いたような男に四季をやろうと考えた私が馬鹿だった。

 すぐに資料を纏めるから連絡してくれ、四季」

 

「うん、分かった。

 アレがそろそろ叔父さんに話をしているだろうから時間のとの勝負になるね」

 

「それではさっさと動くぞ、四季」

 

 

 延利の宣言に四季は頷き、傍で待機していた家人たちも各々の役割を果たすべく即座に行動に移った。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 温室での騒動から数日後。

 

 連日、大学の講義を適当にサボりつつ佳苗と取り巻きを連れて遊び回っていた恭介は、父である【山本一郎】から呼び出しを受けて一人だけで山本農園の社屋にある会議室に来ていた。

 

 

「なんか変だな? 俺に用があるなら家の方でいいじゃないか」

 

 

 恭介がブラブラと遅れて来たその場所には、父親の一郎と取り巻き達の父親に霊能組織としての主だった幹部達も一同に雁首を揃えていた。そのいやに物々しい雰囲気と顔ぶれに小首を傾げながら、恭介は一番奥の上座に座る父親から声を掛けられた。

 

 

「遅いぞ。やっと来たのか」

 

「親父、何のようだ?」

 

「……分からないのか?」

 

「は? ええと、ああ!」

 

 

 渋面の父親達に視線が行き、ふと呼び出された理由を思いつき喜色満面で恭介は報告をし始めた。

 

 

「佳苗との婚約の件だな!

 報告すんのが遅れたが、さすがは親父、耳が早え。

 俺は藤原佳苗との真実の愛に従って、彼女を将来の伴侶とすることを決めたんだ!」

 

 

 その途端、室内の空気が厭世的な嫌な雰囲気に淀んだ。

 

 

「……本当なんだな。

 それでは、薬師四季との婚約を破棄して彼女にここを出ていくように促したのも本当なのか?」

 

「……うん、まあ。

 ちょっと語弊はあるし、はっきりとじゃないがそれらしい事を言ったのは事実だ」

 

 

 呻くような父親の問いかけに、居心地が悪そうに答える恭介。

 その恭介の答えに一郎は側にいた顧問弁護士の方に視線を向け、その視線を受けた彼は鎮痛な表情で頷き答えた。

 

 

「はい。

 昨日確認した所、薬師家の内部はもぬけの殻になっていました。

 村を出ていく不審なトラックが、その日の未明に目撃されているのでそれじゃないかと」

 

「他にはあるか?」

 

「念のため彼らが関係していた場所を調べたら、霊木の樒に関する資料が社の金庫から消えていました。

 それと薬師家の墓所にも何者かが踏み入った形跡があり、墓石の下ががらんどうでした」

 

「……すでに手遅れか……」

 

「……はい。うちは霊能組織としては終わりです。

 ……あの馬鹿息子が……」

 

 

 慚愧に堪えない表情の一郎の嘆きに、同じように懊悩した表情の顧問弁護士は答える。

 その様子に、さすがに周囲の空気がおかしいのに気づいた恭介は恐る恐る父親に声を掛けた。

 

 

「……あの親父?」

 

「喜べ、恭介。儂たち一同は、お前の薬師四季との婚約破棄を認めてやる。

 そして同時に、『藤原コンサルティング』から来ていた買収話も不可能になった」

 

「……え? 買収って、それにその名前の会社は?」

 

「お前が付き合って“いた”女性の名字と同じだな」

 

「……は? ……え?」

 

 

 恭介の困惑しているその様子に、当人以外の全員が氷よりも冷たい目で見据える。

 

 

「今回のお前の経緯をそちらの方に確認し、薬師家の一同がいなくなった事を伝えたら手を引くと言ってきた。

 それに、お前との関係もこれまでだと若い女性の声で連絡があったぞ」

 

「……は? ……なっ!?」

 

 

 その事に気づいた恭介はスマホを取り出すと、震える指で佳苗の携帯番号にかけた。

 しかし、帰ってくる答えは『お客様のご都合により、通話のお取り扱いができません』のアナウンスのみで、自宅の番号は『現在、この番号は使用されていません』のアナウンスが返って来るだけであった。

 

 愕然として青い顔で震える恭介に、父親の一郎は告げる。

 

 

「人生経験の高い代償になったな、恭介。

 お前と仲間の5人は今の大学を中退しろ。

 それから、うちの樒の栽培部門で平社員で入社して働いてもらう。

 それと、霊能に関する事は忘れろ。うちは終わりだ」

 

「なんで!? 何でなんだよ、親父!」

 

「何でだと?

 簡単だ。樒を霊木にして納めるのが不可能になったからだ。

 ……お前のお陰でな」

 

「坊っちゃん」

 

 

 喚く恭介に顧問弁護士の男は冷たい声で話しかける。

 すでにその場いる者達は射殺さんとするような苛烈な視線か、見たくもないとそっぽを向くかのどちらかになっていた。

 

 

「樒を霊木にして由緒ある寺社に納めるのが我々の家業で、霊能組織としての所以だと言うのはご存知ですね?」

 

「もちろんだ。

 だから、古臭い口伝なんかに頼らず佳苗の会社の技術者に……」

 

「それで女に騙されて、その口伝の方法を盗まれかけていましたよね?

 うちの樒の霊木化技術は、口伝で薬師家の後継者のみに伝えられていたのです。

 そこで社長は父娘だけになった従兄弟のご家庭を案じて、四季さんと坊っちゃんの婚約の話を薬師家の延利さんと進めていたんです」

 

「そんな事、俺は知らされてはいない!」

 

 

 どんどんと、恭介に注がれる顧問弁護士の視線が冷たくなっていく。

 

 

「それはそうでしょう。

 結婚後、向こうの薬師家の人も混じえて話す事になっていたんですから。

 その様子だと、彼女がガイア連合のブラックカード持ちなのも気づかなかったんでしょうね。

 これでガイアグループからの巨額の投資も消えましたよ、坊っちゃん」

 

「……あいつがブラックカード持ち?」

 

「それらしい事は彼女も言っていたのでしょうが、聞き流していましたね?」

 

「あ、ああああっ!」

 

 

 さすがに恭介も、日本最大のコングロマリットとなるガイアグループで最大の便宜が図ってもらえるブラックカードの事は噂で聞いていた。生涯の伴侶になるはずの佳苗に去られ、自分が振った四季はとんでもなく好条件の相手で、自分の行動で家の最大の強みであった技術者の一家がいなくなった。

 

 それに気がついた時、谷底に突き落とされたような精神的なダメージに恭介は膝から崩れ落ち号泣し始めたのだった。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 その後、山本家は霊木の樒を納められないのが分かると取引先をどんどんと失い、ガイアグループに睨まれないように大人しくする間もなくただの樒栽培の農家としても没落し会社を畳んだという。

 

 岡山県を離れた薬師家はと言うと、神樹を祭神に掲げる四国の大赦支部に渡りそこで樒の霊木の栽培と『鎮静抹香』の生産で大赦支部の新しい生産農家になったという事である。

 

 樒の花言葉は「猛毒」「甘い誘惑」「援助」であるという。

 

 文字通り、この花の専門家である彼女を裏切った相手には猛毒を、味方した相手には援助を与えるという事になった。

 みなさんもくれぐれも甘い誘惑にはご用心を。

 




後書きと設定解説


・主人公

名前:薬師四季(やくししき)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・23歳
職業:漢方薬・生薬認定薬剤師/毒物劇物取扱責任者
ステータス:レベル11・マジック型(魔・運)
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:薬師仏笑(敵全体・中確率で魔封を付与する)
    ディアムリタ
    (味方単体・HPを中回復し、状態異常を回復する)
    リカーム
    (味方単体・瀕死及び即死状態をHP50%で蘇生する)
    アイテム作成(自分の専門のアイテムの作成技術)
    薬草師(傷薬やディス系の霊薬作成の技術)
    調薬知識(漢方と西洋の調薬に関する知識) 
装備:耐爆白衣(火炎耐性と衝撃耐性が付与された霊装)
   呪殺無効のタリスマン
   精強のピアス(睡眠・混乱・魔封・魅了耐性を付与)
   防毒マスク(毒無効を付与した霊装)
   スマホ型COMP(アナライズ、エネミーソナー)
詳細:
 岡山県で代々樒(しきみ)栽培で会社経営する山間の家で生まれた転生者
 ショートヘアとぽってりした唇が特徴的なおとなしい容姿の美女
 真面目だが無口で、親しい人間以外と積極的に関わりたがらない性格
 霊能の家としては寺社に霊的効果のある樒の霊木や抹香を納めていた
 戦後のメシア教からはただの栽培農家を装って難を逃れている
 彼女の家は分家筋の薬剤や精油関連の技師系の家系だった
 前世も薬剤師だった女性で結婚後に普通に壮年期に病死した
 今世の親とは仲が良く婚約も家の事として黙って了承していた
 メガテンの知識は無かったので合流したのはつい最近になる
 地元にガイア系企業の買収が及んできて転生者捜索に引っかかった
 霊能技師としては道返玉や反魂香を安定して量産できる腕前の持ち主
 専用シキガミはまだ貯金中で買えていない
 容姿は「ラブライブ」の「若菜四季」に似ている

【鎮静抹香】
薬師四季が霊木の樒の精油を加工し作成した火をつける抹香型の霊薬
その独特の芳香の効果から敵を寄せ付けないエストマの効果がある
特に妖鬼、邪鬼、屍鬼、悪霊、幽鬼、外道はこの匂いを激しく嫌い効果が増す
また、「鎮静アロマ」の亜種にあたりペルソナパレス内でも効果が出た

・関係者

名前:薬師延利(やくしのぶとし)
性別:男性
識別:異能者・52歳
職業:地元企業の役員
ステータス:レベル3
スキル:結界術
    農業知識(主に樒の栽培に関するもの)
    禁断の知識(樒の霊木化に関する口伝知識)
詳細:
 薬師四季の実の父で熟練の樹木栽培農家である壮年の男性
 早くに妻を亡くし男手一人で娘の四季を育てた真面目で善良な男性
 家が所有する霊木としての樒の扱い方が秘伝である血筋
 その方法は先祖が薬師如来から授かったという根拠不明な記録もある
 娘の宗家の跡取り息子との婚約は不承不承ながら折れて許可を出した
 亡き妻と忘れ形見の娘が世の中で一番大切な父親でもある

名前:山本一郎(やまもといちろう)
性別:男性
識別:一般人・56歳
職業:株式会社「山本農園」社長
詳細:
 地元企業「山本農園」の社長で山本恭介の父親
 霊能組織としての家の当主でもあり薬師延利の従兄弟
 延利と同じ様に昔に連れ合いを亡くしている
 実直な性格で今回の婚約も姪の四季の今後を案じた善意の産物
 息子の暴走により全てを失った

・敵対者

名前:山本恭介(やまもときょうすけ)
性別:男性
識別:異能者・19歳
職業:大学生
ステータス:レベル5
耐性:破魔無効
スキル:口説き落とし、根回し、財力
詳細:
 岡山県の山間の村で樒栽培を管理販売する家の跡取り息子
 顔と容姿は良いが典型的な名家のお坊っちゃまで思慮が浅い性格
 いつも役員や村の有力者の息子の取り巻きを連れてつるんでいる
 家は地元の霊能組織宗家と村一番の大きさを誇る会社の創業家の家柄
 企業の名前は「株式会社山本農園」で村の産物の売買が主な業務
 代々山本家が商売を担い薬師家が栽培と加工を担う間柄だった
 山本家と分家の薬師家の婚約は両方を纏めるための家同士の取り決めだった
 藤原佳苗との「真実の愛」でそれをぶち壊した張本人


名前:藤原佳苗(ふじわらかなえ)
性別:女性
識別:異能者・17歳
職業:高校生
ステータス:レベル3
耐性:破魔無効
スキル:ハマ(敵単体・低確率で即死を付与する)
    誘惑、財力
詳細:
 欧米の外資系企業に買収された岡山市の企業の社長の娘
 ファッション雑誌のモデルをするほどの豊満で派手な容姿の美少女
 生活も派手で浪費癖はあるが男性にはその面を見せない強かな性格
 外資の社員から勧められて入信し熱心なメシア教徒になったらしい
 「真実の愛」でいろいろぶち壊した張本人その2

・樒(しきみ)について

樒は関西では仏事や神事で飾られたり線香や抹香の原料になる植物
強い毒性を持ち果実は法律で劇物に指定されている程の毒を持つ
果実は毒性から牛馬の皮膚寄生虫駆除のための塗布薬や殺虫剤に使われる
木材としては細工物、傘の柄、数珠、樽などに使われる
法事の焼香に使われる抹香はこの樒の樹皮と葉を乾燥して粉末にしたもの


もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。